通りすがりの猫好きという者です。
普段は自分で書いたり、他の方の募集でキャラクターを送らせていただいております。
久しぶりに読者参加型の小説を書きます。
参加していただけると嬉しいです。
雨のピッチを一人の選手が走る。
その女性は泥で汚れたユニフォームを気にも留めなず、長いくせっ毛の髪をなびかせて一人。また一人と相手選手を躱していく。
後半30分。得点は1対1。
おそらくこれが、この試合最後のプレー。
「来い!」
キーパーが腕を構えて、力強く叫ぶ。
にやり、と選手が口角を上げた。
「あ……!」
右隣で幼馴染が声を漏らす。
選手がボールを高く蹴り上げ、自身も宙を舞う。
瞬間、轟くような雷鳴が響いた。
「ひっ!?」
左隣でまた別の幼馴染が怯えた声を上げながら肩にしがみついてきた。
俺はそんな事も気にならないほど、この一瞬を目に焼き付けようとしていた。
その人は青いイナズマを背に、獰猛に笑っていた。
「『ストーム・オーダー』!!」
鋭い空中ボレーがサッカーボールを貫く。
いつしか
「ぐっ、おおおおおおぉぉぉ!!」
キーパーが渾身の雄たけびを上げながら、シュートを両手で受け止める。
それでもシュートの勢いは一向に弱まらない。
威力に押されたキーパーの足がじり、じりとゴールラインを挟んで後ずさりしていく。
……決まれ。
「ッ!! 決まれぇぇぇ!!!」
気づけば俺は身を乗り出して叫んでいた。
ズドォン、と重い音が響く。
シュートはキーパーを吹き飛ばし、ゴールネットを引きちぎらんかの勢いでゴールに突き刺さっていた。
一瞬の静寂、ホイッスルの音がピッチに
そして呆気にとられたスタジアムが時間を取り戻すかのような地響きに包まれた。
「ふ―――。あー、疲れ……痛っつぁ!?」
「
「天波良ァ!」
天波良と呼ばれる選手に飛びつくチームメイトたち。
この瞬間、山口の名門・
「……すごい」
これが、サッカー。
これが、星彩学園。
「あっ、あの野郎逃げやがった!」
「速っ!? さっき疲れたって言ってなかったかあいつ!?」
「……
「え」
観客のざわめきと、幼馴染の指摘で放心していた俺はようやく気が付いた。
いつの間にか、もみくちゃにされていたはずの
ピッチと、観客席。
遠いはずなのに、手を伸ばせば届きそうだと錯覚しそうなほどの距離を挟んで、選手は
「よう。見てたか、坊主」
あの日の事は、今でも思い出せる。
天候、やや雨。
スコア、星彩学園 2 - 1
初めてサッカーの試合を生で見たこと。
幼馴染3人で、飛び交う必殺技の嵐に見惚れていたこと。
ただの不審者にしか見えなかった
そして、誰よりも速く駆け、誰よりも強く輝いて見えた人がいたこと。
◇
「やっぱりこの映像は何度見ても胸が熱くなるな。学校にこれが残ってて良かった」
傷だらけのDVDをレコーダーから取り出して俺、
「……うん。誰か来ねぇかな」
あの試合から7年の時が流れた。
整頓され、
ぽつんと一人分のカバンだけを残して、がらんと空いたロッカー。
この孤独な部室が星彩学園サッカー部の現状そのままである。
まさしく
一昨年の秋。上級生が起こしたトラブルを皮切りにして、この部活はバラバラになった。
当時のサッカー部の同級生の半数以上が部活を辞めるか転校。
ビラ配り、路上パフォーマンス、部活紹介。
可能な限り行った勧誘活動で入部してくれた生徒もいるものの、部員数は助っ人も含めて両手で数えられるほどしかいない。
つまるところ、試合ができない。
今は来たる新入部員のために部室の鍵を開け、来訪者を待っている最中である。
今が5月中旬だから……今月に入ってからか。そこから新顔は来ていない。
幽霊部員もいるし、協力的な部員も用事でいない今日のような日は特に辛い。
試合に出れるとなれば部活にも顔を出してくれるだろうが……また新しい勧誘方法を考えないと。
とはいえ部室を施錠するだけの状態も心許なく、一人で独占できるこのレコーダーで気を紛らわせるのもそろそろ限界が来ていた。
この映像も今日になって3周目を終えたところだ。
なんとなしに暇つぶしになればという思いでチャンネルを回してみる。
『今年も
ちょうどテレビではサッカーの特集をしていた。
フットボールフロンティア。
サッカーをする中学生なら誰もが憧れる夢舞台だ。
あのピッチに立った時の熱気は、今でも脳裏に焼き付いている。
もう一度、今度こそ。あの舞台で優勝をしたい。
その感情は試合すら出来ない今でもずっと心を燃やし続けている。
それにしても、横浜荒谷か。
どこに取材するかと言ったらここが一番なんだろうけど。
……タイミングが良いんだか悪いんだか。
『横浜荒谷中といえば、まず話題に上がるのは
『どうも、よろしくお願いします』
眼鏡をかけた好青年、出真雷翔がぺこりと頭を下げる。
雷翔のやつ、受け答えまで上手くなりやがって。
1年の時はカメラがあるってだけでガチガチになってたのに、これが慣れというやつか。
去年は優勝チームの司令塔として大立ち回りを演じ、中学サッカー界でその名を知らない者はいないほどだ。
この一年で随分と差をつけられたものだ。
あの時は同じピッチで一緒に戦ったのになぁ。
『ずばり、出真選手の思う横浜荒谷の強さと言えば! どういったところでしょうか!?』
『そうですね……攻撃の面で頼れる選手が多いところでしょうか。僕の仕事はあくまでもボールを前線に運ぶことですから。ボールをパスしてしっかり決めてくれる選手が揃っていること。そういったところが去年結果を出せた理由だと思います』
『今年は王者として臨むFFですが、その意気込みをお願いします!』
『平常心で行こうとチーム全体では意識しています。ですが、個人的には負けたくない選手がいるので。僕個人としては燃えてます。ちょっと去年は対戦する機会がなかったんですけど、今年は対戦を心待ちにしています』
『ありがとうございます! 出真選手は1年時には星彩学園でプレーし、FFにも出場したという事で―――』
ブツッ!
ん、テレビが切れたな?
これもかなり年季が入ってるし、寿命かな……。
親指の感覚に気が付く。
無意識に電源ボタンに手が届いていた。
……そうか。押したのは俺か。
この部活に入ったことも、残ったことも後悔することはない。
サッカー部を離れた彼らを責めようとは思わない。
『悪い。お前の力には……なれそうにない』
『お前なら私の最も嫌いなものを知っているだろう。私はお前を尊重する。だからお前が私を尊重してくれるつもりなら……頼む。これ以上は、苦い思い出を残してここを去りたくない』
何で今になって、あいつらの辛そうな顔を思い出すんだろう。
そもそも寂しさをごまかすために映像を見ていたんだった。
…………。
……………………。
……よし、こういう時はとにかく部員勧誘だ!
体を動かせば大抵の悩みなんて気にならない!
ちょっと一人だと考えこんでしまうだけだ。
サッカーをしている間は悩みとか色々と吹き飛ばせるし。
そうと決まったら、と。
サッカーボールよし! スパイクよし! 設置用のミニゴールもある! ビラだって、まだ100枚はある!
部室の鍵を確認し、よれよれでかさついた張り紙を準備する。
『
ようこそ星彩学園サッカー部へ!
ご用のある方は3年A組の嵐巻快晴へ!
初心者でも大歓迎!
』
大丈夫だ。今年こそ必ず出場できる。
きっと、大丈夫だ。
◇
勧誘活動を終えるころには既に夕焼けがあたりを包んでいた。
部員がいない時、グラウンドが使えない時に行く場所は決まっている。
学校から河川敷を抜け、近くの公園へ。
そこから雑木林へと入り、右へ大体1000歩と前へ大体1500歩。
斜面を上がって、リボンのついた竹を目印に進んでいく。
ゲームに登場するバグ技のような道を進んでいくと、手作りのゴールとちょっとだけ整備されたグラウンドがある。
ゴールは一個しかないし、グラウンドと呼ぶには落ち葉が多すぎるけど、それでも場所の広さは特訓に十分だ。
まぁ作ったの俺じゃないし。
ここはいわゆる秘密基地、俺と天波良唯風が初めて出会った場所だ。
無論、秘密基地なのだからここの事は誰にも話していない。
『喋らないよな? 男だったら約束事は守れるよな? ん?』
……とは天波良の弁だが、どうして思い出の中でもあの人は煽ってくるんだろうか。
あの人はもう来なくなったから、今は俺が独占している。
運動する場所としての質は低いが、俺がたまに整備していなかったらもっと酷いことになっているだろう。
それにしても今日は落ち葉が少ない。掃除はしやすいけど、特訓はやりづらいな。
天波良はFWだからゴールをよく使っていたが、俺はあまりゴールを使わない。
特訓の内容はいたってシンプル。
ひたすら地面に向かって足を振る、ただそれだけ。
キックの勢いで風を吹かせ、落ち葉を飛ばす。
調子が良い時は落ち葉で彩られた竜巻が見れる。
100回ほど素振りをすると、大体ここら辺は綺麗になる。
でも今日はやけにグラウンドが片付いているので、50回くらいであたりは綺麗になってしまった。
そうしたらいよいよボールを置いて、シュートの練習をする。
シュートは……あんまり得意じゃない。
飛ばすこと自体は得意だけど、実戦でゴールを狙うと結構な確率で枠外に飛んで行ってしまうからだ。
ふと、がさりと音がした。
雑木林という事もあって、たまにここに野生の動物が来ることがある。
鹿とか、猪とか……。突進してきたときはボールをぶつければ逃げ帰ってくれるけど、グラウンドが荒れるから嫌なんだよな。
一応、確認しておくか。
ん? なんか光って―――
「痛っつぁ!?」
反射する間もなく、飛んできた何かがおでこを打ち付けた。
「何なんだ一体?」
ぶつかった何かが地面に転がる。
いちごミルクのペットボトルだった。
その表面には「飲め!!」と汚い字で書かれた紙が貼りつけられている。
『
『そんな目で訴えてもやらんぞクソガキ』
『いらない。お腹いっぱいだし、それあんまり好きじゃない』
『……やっぱ欲しいって言え坊主』
……まさか。
「ッ!! 待てよ!!」
代わり映えもしない雑木林の中を音を頼りに進んでいく。
くそっ、足元が草で邪魔だ走りづらい!
「待てよ!! 待てって!!」
音が遠くなっていく。
何で逃げるんだよ。
何で、いなくなろうとするんだよ。
走って走って、気が付けば公園に戻ってきていた。
もう子供たちの笑い声と遊具のきしむ音しか聞こえない。
「くそっ、どこに行きやがった!」
天波良が中学を卒業するとき、この場所で俺と彼女は一つの約束を交わした。
天波良唯風の事を探そうとしない。
こっちはずっとそれを守ってきたんだ! 7年も!
なのに、何だよ!
……こんな時に、急に現れたりなんかするなよ。約束なのに、破りたくなっちまうだろうが。
服を弱い力で引っ張られる感覚がする。
振り向くと、小学生くらいの男の子が服の裾を引っ張っていた。
「ねぇ、おにいちゃん」
「……なんだ?」
「あのね。これ、かみのながいおんなのひとから。ここからだれかがでてきたら、あげてって」
そういって男の子は紙コップのいちごミルクを手渡してきた。
…………俺、別にいちごミルクなんて好きじゃないって言ったよな。
しかも2本とか、あんたぐらいしか飲まねーよ。
「おにいちゃん、ないてるの?」
「……ばかやろう。こんな事で男が泣くかよ」
あぁくそ。逃げるのか慰めるのかどっちかにしろよ。
◇
理事長室は星彩学園の3階、学園の中でも最も入り口から遠いところに設置してある。
授業が終わり、部室に向かおうと思っていた俺は担任から呼び出しを食らっていた。
「失礼します」
「おぉ、来たか嵐巻君。まぁ、座りたまえ」
奥の椅子に座っていた理事長・
顔に皺は入っているが、それでも50代にしては若々しく体系もスリム。
柔らかい口調から生徒に好かれている優しい人だ。
「あの、話ってなんでしょうか。早く部活に行きたいんですけど……」
「あぁ、そのことなんだけどね。……時に嵐巻君、星彩学園サッカー部が部員不足で活動できなくなって既に1年が経ったね」
「う。そうですけど……今年こそは出ます! 絶対に!!」
「本当に出場できるのかね?」
理事長の視線が鋭く光る。
その眼光に気圧され、俺はつい目を逸らしてしまった。
様子を見ていた理事長は一瞬深く目を瞑り、眉間に手を寄せると、重い口調で話し始めた。
「君が部員集めに努力してきたことは知ってるよ。誰よりもサッカー部に向ける思いが強い事もね。けれど。もう、潮時なんじゃないか?」
「……は?」
「言い方が回りくどかったかな? ならもっと端的に言おうか。私は星彩学園サッカー部を廃部させようと思っている」
「……いや、いやいやいやいや。冗談きついですよ! まだFFまで1ヶ月以上あるじゃないですか!」
「なら聞くが、4月から今日までにかけて何人の新入生が部室に入ってきた?」
「!」
「1ヶ月経った。新しい部員が入ってきても試合に出るには人数が到底届かない。君にとって中学最後の夏だ。試合に出られずに、それで君は満足なのかね?」
何かを言わなければいけないのに、次の言葉が出ない。
「君の言うとおりだ。時間はある。……君には実績があるから、他の学校にも推薦しておくよ。君がこのまま引退することの方が私にとっては忍びないのだ。君は十分頑張ったよ。もう、十分ではないか。報われてもいいのではないのかね?」
理事長はもう、サッカー部を諦めている。
この人の言う事は正しいのかもしれない。
結果を出せていない自分が、一体何を言い返せる?
けれど、それじゃあ今の部員はどうなる?
この学校でもう一度FFに出る夢は叶わないのか?
…………俺は。一体何をすれば―――。
「ちょっと待ったぁ―――!!」
閉じていた理事長室の扉が力強く開かれる音がした。
扉を開けた人物の長い髪が揺れる。
寝癖のついた銀のくせっ毛。
眠たげのようで熱を帯びた瞳。
間違いない。
あの日憧れた選手・天波良唯風は息を荒げながらそこに立っていた。
なぜジャージ姿なのかは分からないけど。
「……唯風姉ぇ?」
「天波良君か。今は大事な話の途中だったんだがね。悪いが後で……」
「待った。いや、ホントにちょっと待って……げほ、げほ! ……あー、やっぱり走っておいてよかった」
天波良が理事長の言葉を塞ぐようにせき込む。
少しして落ち着いたのか、天波良が深く息を吸い込んだ。
「大体の話は
「……そうですか。全く、あの方も余計な事をする。元監督としてのせめてもの義理、というわけですか」
「あの狸爺はどうでもいい。そんな事より理事長。まだこいつの意思は聞いてないよな」
「まぁ、そうですが」
「ならちょうどいいな」
天波良がこっちを向く。
「おい、坊主。お前がまだここで戦いたいと言うのなら、私が何とかしてやる。だから答えろ。お前はどうしたい」
天波良の瞳がまっすぐとこちらを捉える。
本心を問いているのだと、直感的に分かった。
「……やりたいよ」
「聞こえん。もっと大きな声で言え!」
「サッカーやりたい」
「もっとはっきり言え!」
「サッカーやりたい!!―――もう一度この学校で、このチームでFFに出場して、今度こそ優勝したいッ!!」
天波良の口角がにやりと上がる。
「だよな。おい理事長、あんたの言い分はこうだろ? サッカー部は試合に出られない、実績の残せない部活をこのまま残しておくわけにはいかない。だったら、
「君は話を聞いていたのだろう? このチームは試合に出られない。それは一つ目の条件から成り立たない」
「あぁ、そうだ。だったらやることは一つだろ。連合チームを作る。私がこいつらを指導して、FF本戦に連れていく。それなら文句ないだろう?」
5月、春と夏の境目。
忘れ去られかけていた学校で、小さな嵐が吹こうとしていた。
募集ページはこちら
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=339105&uid=223726
時系列が分かりづらいと思うのでいったんここで整理を
序文(天波良が中学3年のころ) 7年前(円堂世代の2年前)
↓
原作無印
↓
嵐巻3年(原作から5年後、今ここ)
こんな感じです。
分かりづらくて申し訳ない。
本文でもあるように、女性選手OKです。
次話は半分くらいは既に書いているので、早めに投稿できるように頑張ります