遅筆ですが、これからも頑張って書いていきます。
「あの……
「そんな他人行儀じゃなくても。『九楼先輩』で全然良いからな」
去年の群青中、部活に参加できる部員は最小で2人にまで減っていた。
助っ人込みで試合に出られるギリギリの人数だったが、3年生の引退、チームに失望した選手や不慮の事故による離脱。
バラバラになりかけていたチームを辛うじて繋いでくれたのは当時の3年生とOB、
受験勉強の気晴らし、という名目で練習に付き合ってくれたり、時には九楼が学校に来ては稽古をつけてくれた。
九楼に質問したのは、部員が3人になった時。
「あ、すみません。九楼先輩は……その。3年生の時に決勝まで行ったんですよね。こういう訊き方は失礼かもしれませんが……どうやって決勝まで上がることが出来たんですか?」
「あー……もしかして、チームの事を引きずってるのか? 人数に関してはどうにもできない部分があるんだし、そんなに気負わなくてもいいんだぞ?」
「そんなことは……いえ。確かに、そうかもしれません。先輩たちから引き継いだバトンを、少しでも良い形で次に繋げたいんです。だから、少しでも強いチームになる方法を知りたいんです」
九楼は少し息を吐いたのち、目頭を押さえて天を仰いだ。
「え、あ、あの。どうしたんですか?」
「……気にすんな、ちょっと目にゴミが入っただけだから。いやぁ、雨楽は頑張ってんだよなホント。どうにかなんねーのかなぁマジで。で、強さの秘訣の話だよな。いざ言われると難しいな。どうやって、つってもなぁ……チームもクセの強いやつらばっかでバラバラだったし、まとまってたってわけじゃないんだろうな」
でもさ、と九楼が続ける。
「バラバラだったのがかえって良かったんじゃねぇかな。全員、考えるものは違えど勝ちてぇって気持ちだけは一緒だったし。理由って言うと、それなのかもな。……我ながらふわっとしすぎてダメだな~コレ!」
ま、言葉では伝わらない事なんて山ほどあるしな。
絶対に負けられないってチームで戦えば、きっと分かるだろうさ。
かっかっか、と九楼が笑う。
何だかその姿は羨ましく見えた。
◇
「おう、キャプテン。今日は何だか気合入ってるって風の噂で聞いたぜ?」
昼休みを迎え、生徒たちが昼食をとる時間帯。
雨楽と
その手には売店で売っている焼きそばパンが握られている。
「……え。それって、誰から……?」
「岩田のやつ。『何かすごい事を決心した顔に見えましたね、あれは!』とかって、元気そうに話してくれたぜ」
「そっか、視線を感じると思ったらどおりで……」
「でだ、
「いや、それは……」
「らいうん*1、今朝は病院の検診があるからこれないってなかったっけ?」
黒雲は相変わらず眉間にしわを寄せながら笑う。
「ま、今のは冗談だ。ったく、病院の空気は苦手で……ってそんな事はどうでもいーわ。それで? 企んでいるとやらの話、結局どうなるんだ?」
「あ、もしかしてさ! 『試合に出られるかも』ってやつ!?」
「は? おい、マジか!? 出られんのか!?」
巳波の発言に反応した黒雲が立ち上がって、熱のこもった視線を雨楽に向ける。
「……うん、そうなんだけど。色々と事情もあるから。皆の意思はちゃんと聞いておきたくて」
雨楽なりに迷った上での返答だった。
連合チームなら試合に出ることは出来るが、危険な賭けではある。
連合を組む相手は暴力事件を起こしたチームで、地方大会で負けると部が消滅するというならなおさらだ。
反対するメンバーもいるかもしれない。
「なるほど、そういう言い淀みかたをするって事はワケありか。で?? キャプテンは?」
「え?」
「え? じゃねぇだろ。このチームの舵を取ってんのはあんただぜ、キャプテン」
「……私は」
そんなの、言われるまでもなく決まっている。
出たい。
試合に出たい、快晴君と一緒にプレーしたい、彼を助けたい。
それに。
『チームがバラバラだったからじゃねぇかな』
あの日、九楼さんが言っていた強さの秘密を知ることが出来ることが出来るかもしれない。
黒雲が鋭い視線を雨楽に向ける。
一呼吸おいて、にやりと口角を上げた。
「腹は決まってるらしいな。ま、どういう話になるにしろ、俺は試合に出場できるならそれがベストだな。……キャプテン、去年の俺は自分の失態で戦う事が出来なかった。あの日の事を後悔はしていないがな。だが、サッカーに関しては違う。この2年分の悔しさを、何としても今年晴らしてみせるつもりだ。そういうわけで、よほどの事じゃねぇ限り俺は協力するつもりだぜ。で、巳波は?」
「じゅんっちが出たいってんなら出るに決まってんじゃん! 何たってアタシら、ズッ友だかんね!!」
ふんすふんす、と言わんばかりに巳波は指でグッドサインをとる。
彼女はいつだって雨楽の味方でいてくれる。
ずっと言われ続けているはずなのに、「ズッ友」と呼ばれる度に雨楽の胸は熱い鼓動を響かせていた。
「……だとよ。3年はとりあえずお前の味方だ。やってやろうぜ、キャプテン」
「二人とも。……うん、ありがとう。じゃあ私、部の皆にも声をかけてくるから」
弁当を片付け、背中を押されるような軽いステップで雨楽は教室を去っていく。
「あ、もちろん
「お、マジか? そりゃありがてぇな」
◇
同時刻、屋上にて。
「う~ん、う~~~~ん……」
一人の少女がうなりながら空を眺めていた。
時折、紺色のショートボブの髪を何度かいじりながら、空にある何かを探している。
「太陽を見るのは目に毒ですよ、
呆れるようにもう一人、淑やかさを帯びた金髪の少女が声を上げる。
「違いますね、
「……それは、一体どういった違いなので?」
「先日、私は普段の日課で星を見ておりました! 月、火星、水星、木星の位置……金星の位置は雲に隠れて残念ながら見えませんでしたが……それらを観測した結果、何とお告げがあったのです! 『今日こそが変革、そして試練の一日である』、と! それを今一度確かめるために私はこうして金星を探しているのです!」
「なるほど、大変な事というのは占いの事でしたか。……それをはじめにわたくしに言ってくだされば良かったのでは?」
「まぁそう言わず! 紅宮さんも占って差し上げましょうか?」
「結構です。占いの類は苦手なもので」
「むむ、それではラッキーアイテムも持ってきましたから! はい、手を出してください!」
促されるままに紅宮が手を差し出すと、星見がその手に何かをそっと置く。
「……これは、
「紅宮さんのラッキーアイテムは『赤と黒の混じったもの』です! 手持ちがないため、達磨は小さいバージョンですが……まぁ、効果は言わずもがなです! 合格祈願にでも使えますよ!」
「わたくし、受験をするにしても3年近くは先ですよ」
「なんとぉ!」
そんな折、屋上からがちゃりと音がする。
「星見さん、いる……??」
雨楽がそっと顔を覗かせると、星見は分かりやすく目を輝かせた。
「あっ、キャプテン! 丁度いいところに!」
「え、え??」
星見が雨楽の両手を包み込むようにぎゅっと握る。
その面持ちはいつの間にか真剣なものに変わっていた。
「いいですか。今日のキャプテンは、
「え……」
「星見先輩、少々言葉が足りないのではないですか?」
「えぇ……」
「そうでした! これはうっかり! 最悪なのは今日の雨楽先輩の運勢です!!」
「えぇぇ……」
「ですがご安心を! 今日の運勢1位、ラッキーアイテムのレーズンパンを美味しくいただいた私、
「あの、今日はチームにとって大事な話をしに来たんだけど……」
「え、敵ですか!? 敵がいるってことですか!? 私の占星術パワーでひれ伏させて見せましょうか!?」
「……要は、チームが試合に出場できるアテが出来たという事でしょうか?」
落ち着いた方の少女、
1年生ながら落ち着き払った態度に、雨楽はいつも助けられている。
たまに、どちらが先輩なのか分からないくらいには。
「うん。詳しい事は放課後に皆を集めて話をしたいから、来てほしいな。場所は今から教えておくね」
「……まさか、チームにとっての波乱という事でしょうか!? 何という事でしょう、占いがその通りだなんて! そ、それだと雨楽先輩も、『嵐の中の出航』という事に……」
「ちょっと静かにしていていただけませんか、星見先輩?」
「うっ……何かちょっと寒気が……ともかく! 私はただキャプテンを心配しているだけです!!」
「あはは……ごめんね、頼りないキャプテンで」
「いえいえそんな事はありませんよキャプテン! キャプテンはこのサッカー部の中でチームを包み込む太陽、いやはや一等星ですから!!」
2年生ながら今年に入部した星見ルナという子の事を、実は雨楽はまだ良く知らない。
ちょっぴり不思議な子だけれど、それでも占星術を語る時の目の輝きとサッカー部に突如入部するという独特の行動力にはいつも驚かされる。
奥手な自分にとって、そのエネルギッシュな姿を見るのは勇気が出る。
改めて、後輩のために何かがしたいと雨楽は思った。
◇
放課後。教室の中にサッカー部員が座っていた。
この7人が、今の群青中サッカー部の部員だ。
すぅ、と息を吸い込む。
皆の前で話をするのは、まだちょっと緊張する。
「みんな、集まってくれてありがとう。今日皆に集まってもらったのは他でもない、今年のFF出場についての話です」
1年、2年がわずかに表情を曇らせる。
当たり前といえば当たり前の話だ。
今の人数では出場できないという事は、皆もよく分かっているはずだ。
「実は、試合に出場できるかもしれないんだ」
「えっ、マジっすか!?」
岩田が立ち上がって驚嘆の声を上げる。
まぁ落ち着け、と隣に座る黒雲が制した。
「うん。といっても、これは皆の気持ち次第の話でもあるから。ちゃんと、皆にも伝えておきたくて今日の場を設けました。知っての通りだけど、今の群青中には出場できるだけの人数がいません。そこでつい先日、連合チームの話を持ち掛けられました」
「連合チーム……すっごい面白そう! それでそれで? じゅんっち、相手はどこなの?」
「相手は……相手は、
教室内にざわりと、一気に声が広がる。
「新たな波乱……やはり占いの効果は正しかったようですね、紅宮さん!」
「いや、ですから私は占いの類はあまり好きではないと……」
「……なるほどな。合点がいった。そりゃ、言い渋るわけだ」
「えっ、ちょっと、どうしたんすか!? 星彩学園はそりゃ、近くなんで知ってるっすけど……もしかして、滅茶苦茶ガラの悪い学校なんですか!?」
「あぁ、岩田は中学からサッカーを始めたから知らねぇのもわけはねぇ。星彩学園は俺たちがまだ1年だった時、暴力事件があってな。その年まではFF本戦に出場してた名門だったが、それ以来部員が離れて試合が出来てねぇ。つっても関わってたとされているのは俺らの上の世代だ。今どうなってるかは正直……俺もよく分かってねぇ」
「はぁ? 暴力なんて最低じゃないっすか! そんな相手と組んでも大丈夫なんすか、キャプテン!」
「今いる世代は暴力を振るってはいないよ。……当時、殴られたって言われている人はいるけど」
「口ではそういう事、どうとでも言えますからね。新参者の身で悪いっすけど、ショージキそういう奴は信用ならねぇっす!」
「確かに……いきなり信じろというのは、私としても正直難しいと思います」
紅宮が同調する。
岩田の鋭い視線がこちらを射抜くように向けられている。
厳しい道だって事、分かっていなかったわけじゃないでしょ。
震える左腕を右手でぎゅっと握しめる。
覚悟はしていたつもりだけど、それでもちょっと揺らいでしまうくらいには私は臆病だ。
それでも。
あの日、傘をさしてくれたあなたに。私に合羽を預けて、笑顔をくれたあなたに。
少しでも近づきたい。
「で? キャプテン? あんたの意見はどうなんだ??」
試すような笑みで、黒雲がこちらに問いかける。
彼らしい
「……幼馴染が星彩学園にいるの。付き合いが長いからどういう人か、良く知ってる。―――私は、彼が『殴っていない』というのなら、それを信じる。そして……今すぐは無理だろうけど、皆にも信用できるって思ってほしい」
しん、と教室が静寂に包み込まれる。
今こそ、畳みかけるべき時。
こんなことが個人の意見でしかない事なんて、よく分かってるよ。
チームの皆が不安になる事だって、知ってるよ。
泣きたくなりそうな苦しさが身を蝕むけれど、それでも前に進みたいから。
「私は、このチャンスを受けるべきだと思う! 皆、不安があるのはその通りだと思うよ。だけど、目の前に試合に出場できるチャンスがあるのなら戦ってみたいって、私は思ってる! 皆、朝練に来て、時には日が暮れるまでずっと練習して、頑張ってきたのはここで終わるためじゃないよ。何よりこの刺激はこれからの皆にとって、大きな成長の道しるべになってくれる! だから、お願いします! 私と、
「へへ……キャプテンがそこまで言うんじゃ仕方ねぇよな。星彩学園の要注意人物は俺がしっかり見張っとくとして、俺は乗ったぜ。その話」
「アタシもアタシも!! 連合チームって、なんかカッコいい響きじゃん!? こんなんやるしかないっしょ! そうだよね、じゅんっち!」
「まぁ、キャプテンがそこまで仰るのであれば、私も。不安はありますが、大会に出られるのであればその方法も捨てたものではないですわよね」
「挑戦と来れば受けるのが道理! それに、苦難の道の先にはお宝ありと相場が決まっています!!」
次々と賛成の声が上がっていく。
一方で岩田と火威は手を上げず俯いたままだ。
「……俺はどんだけ言われても、暴力をする奴を信用できねぇっす」
「うん、岩田君の気持ちを無かったことにはしないよ。それでも、一緒に練習に参加することから始めてみることはできないかな? 顔を合わせることで、分かることもあると思うんだ。それから決めるのでも、遅く無いんじゃないかな?」
「…………まぁ、それなら。けど俺、まだぜんっぜん信用はしないっすからね!」
ほっ、と安堵の息が漏れる。
しかしすぐに、一人の手が上がる。
ここまで無言を貫いていた、火威だった。
「俺は反対です。暴力事件を起こしたところと『連合チーム』?? はっ、ありえないですよ! 黒雲先輩、普段冷静なあなたまで賛成するとは思いませんでしたよ。第一、今からでも助っ人が集まれば試合は出来るじゃないですか! わざわざ他のチームとまで組む必要なんて、これっぽちもない!!」
「蓮君」
「試合に出るだけだったら、助っ人でも出来る。それで十分じゃないんですか!?」
「……その方法でも大会には出られるよ。事実、去年の私たちは助っ人で人数を揃えて、出場することが出来た」
「だったら―――!!」
火威が立ち上がる。
けれど、ここは譲れない。
―――譲りたく、ない。
「それでも私たちは勝てなかった。それに、来てくれる皆だってそれぞれの事情を持ってる。助っ人を呼ぶことにだって限界がある。何より―――『
「は―――」
「九楼先輩が言ってくれた、強いチームの秘訣。それは皆が勝つことに全力を捧げられるチームのこと。私は今回の連合チームなら、全員が勝ちを目指すチームとして戦えると思う。試合の中で、もっともっと強くなれると思う!! 私は、みんなで全国に行きたい!!」
「何で……何でですか!! 何で……!!」
火威は額を抑え、怒りに震えた声で呟く。
そして一呼吸終えて、踵を返した。
「……帰ります。一旦、頭を冷やしたいので」
「待って、蓮君! 話を―――」
「悪いですけど、今はあなたと話したくないです。……俺は絶対、認めませんから」
火威がこちらを見る。強い拒絶の意がありありと見て取れた。
がたん、と力強くドアが閉められる。
全身の力が抜けるような感覚に、思わず頭が垂れた。
「……じゅんっち」
しっかりしろ、私。
キャプテンとして、笑顔じゃないと。
「ごめんね、皆。蓮君にはもう一度掛け合ってみる。それじゃ、練習始めようか」
精いっぱいの思いで出した笑みは、やっぱり少しぎこちなく、弱弱しく思えた。
というわけで、群青中パートは一旦終わりです。
まさかこっちがギクシャクするとは思ってなかった()
次回は星彩学園パートです。
引き続き、キャラクター募集やってます!
ライバル校募集 長問第三中
OB募集
ライバル校募集、まだまだやっております!!
というかこのままこないと本当にまずいので……助けると思って、是非!
あと、こちらもご協力いただければと思います!
掛け合い募集
連携技募集