球磨川禊VSルルーシュ   作:stein0630

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地下倉庫の扉には、鍵が掛かっていなかった。

 

「わざとだな」

 

ルルーシュは短く言った。

 

教師が見つけたという追加名簿は、段ボール箱に三つ。どれも行政局の封緘テープが貼られていたが、剥がされた痕はない。つまり、最初から開けられる形で置かれていた。

 

見つかる前提で。

 

「趣味が悪いわね」

 

ミレイが鼻で笑う。

 

「見せしめにしては回りくどいし、隠し場所にしては雑」

 

「“偶然見つかった”という体裁が欲しかったんでしょう」

 

ルルーシュは一枚ずつ名簿をめくった。

 

学園生徒。卒業生。非常勤講師。用務員。事務員。区分記号は同じだ。C、D、E。分類基準は書かれていない。だが、記号の横に小さく欄外注記がある。

 

――再適応対象

――監督継続推奨

――移管優先度高

 

「生徒自治実験だと?」

 

ルルーシュは乾いた笑いすら出なかった。

 

「自治の名を借りた、選別と収容の予備実験か」

 

『予備実験って言うと、ちょっと優しく聞こえるね』

 

倉庫の壁にもたれながら、球磨川が言った。

 

『こういうのはさ、だいたい“前からやってたことを、もっと雑に広げます”っていう予告みたいなものだろ』

 

「お前は知っていたのか」

 

『全部じゃないよ』

 

球磨川は肩をすくめる。

 

『でも、学園だけで終わる話じゃないだろうなとは思ってた。だって選別って、一回始めると対象が足りなくなるからね。落とす人間がいなくなったら、次は落とす基準のほうを増やすんだ』

 

ミレイが名簿をひったくるように見た。

 

「教員まで入ってるの、笑えないんだけど」

 

「笑うな」

 

「笑ってないわよ」

 

だがその声音には、いつもの軽さが薄い。

 

ルルーシュはすぐに整理に入った。感情で止まっている暇はない。

 

「ニーナ。名簿の紙質、印字、整理番号、全部記録しろ。行政局本体の正式文書か、それとも現場用の仮資料かを見分けたい」

 

「分かった」

 

「リヴァルは校内のどこまで漏れてるか再確認。特に教職員側だ。名簿に自分の名前があると知れば、隠蔽より先に自己保身へ走る可能性がある」

 

「う、うん」

 

「シャーリーは保健棟周辺の生徒を捌いてくれ。ここへ近づけるな。見せる情報と見せない情報を分ける」

 

「了解」

 

ミレイが、そこでわざとらしく手を挙げた。

 

「私は?」

 

「教師側の空気を読んでください。誰が行政局と繋がっているか、誰が怯えて黙るか、誰が学園側につくか」

 

「随分と便利に使うわね」

 

「先輩ほど適任はいません」

 

「そういうところだけ可愛げあるのよね」

 

全員が動く。

 

倉庫の中に残ったのは、ルルーシュと球磨川だけだった。

 

数秒、沈黙が落ちる。

 

段ボールの匂い。紙の乾いた音。外ではまだざわめきが続いている。止まったのは移送だけで、騒ぎそのものは止まっていない。

 

『で』

 

球磨川が先に口を開いた。

 

『ここからどうするの、王様』

 

「その呼び方はやめろ」

 

『じゃあ生徒会長』

 

「どのみち気に障る」

 

『贅沢だなあ』

 

球磨川は箱の縁に腰掛けた。

 

『でも、きみの顔がさっきより面白くなってきたのは本当だよ。学園の制度遊びだと思ってたら、思ったより外まで繋がってた。そこで初めて“消すべきもの”の大きさが変わった、って顔してる』

 

ルルーシュは名簿から目を離さない。

 

「消す?」

 

『うん。きみ、得意だろ。邪魔な制度を、最初からなかったことにするの』

 

静かな言い方だった。

 

そこに確信はない。断定もない。だが、皮膚一枚の下まで届く含みがある。

 

ルルーシュはようやく顔を上げた。

 

「それはどういう意味だ」

 

『そのままの意味だよ』

 

球磨川は、ひどく穏やかに笑っている。

 

『きみって、ちゃんと“勝ち方”を選ぶじゃないか。手札が一枚しかないふりをして、実際はもっと別のところから盤面をひっくり返せるのに、それをあんまり見せない』

 

「……妄想もそこまで行くと病気だな」

 

『そうかもね』

 

否定しない。

 

『でも、病人の勘って結構当たるんだぜ? 特に、説明のつかない整い方を見るときは』

 

ルルーシュは沈黙した。

 

ここで否定を重ねるのは下策だ。球磨川は嘘の有無ではなく、言い淀みや不自然な必死さから輪郭を取る。

 

だから、逆に一つだけ本音を混ぜる。

 

「……たとえ、そういう手段があったとしても」

 

『うん』

 

「それを使えば全部解決する、という話ではない」

 

球磨川がわずかに目を細める。

 

踏み込ませた。だが同時に、自分からも一歩だけ踏み出した。

 

「制度の一部を止めることと、制度が生まれる土壌を潰すことは違う。末端の指揮系統を乱せても、上流が無傷なら別の顔で再起する。目の前の群衆を従わせても、その従ったという事実が次の支配の材料になる」

 

『へえ』

 

球磨川は本当に少しだけ感心したように言った。

 

『いいね。ちゃんと万能感がない』

 

「あるわけがない」

 

『あるよ、普通は。力がある側って、大抵すぐそうなる』

 

ルルーシュは冷ややかに返す。

 

「お前の理屈なら、力がない側はすぐ被害者ぶることになるな」

 

『あはは。なるなる』

 

球磨川は楽しそうだ。

 

『僕なんて特にそうだし』

 

「自覚があるなら治せ」

 

『嫌だよ。せっかくの個性だもん』

 

言いながらも、その目は笑っていない。

 

ルルーシュはそこで、ようやく本題を切り出した。

 

「お前は何がしたい」

 

『大きい質問だなあ』

 

「小さくしてやろうか。今日、この場で、お前は何を勝ちに設定している」

 

球磨川は少し考えるふりをした。

 

『三つくらいあるかな』

 

「言ってみろ」

 

『一つ。今日の移送が止まること』

 

「半分は達成した」

 

『うん。でも半分だ』

 

球磨川は指を一本立てる。

 

『二つ。選ばれる側が、“守ってもらうために黙る”以外の選択肢を持つこと』

 

「面倒な言い方だな」

 

『だって“抵抗すること”って言っちゃうと安っぽいだろ。別に暴れろって言いたいわけじゃないし』

 

二本目の指。

 

『三つ目。きみが、綺麗な側にいながら綺麗な勝ち方を諦めること』

 

ルルーシュの視線が冷たくなる。

 

「それがお前の本命か」

 

『多分ね』

 

球磨川は、あっさり認めた。

 

『だってさ。制度なんて壊れて当然なんだよ。悪い制度は悪いし、偉い人間はたいてい趣味が悪いし。でも、その悪いものを止めようとする側まで、ずっと“自分は正しい手で勝てる”って思ってると、結局また別の制度が生まれるだけだろ』

 

「だから私に汚れろと?」

 

『違うよ』

 

球磨川は首を振った。

 

『汚れてることを認めろって言ってるだけ』

 

ルルーシュは数秒、彼を見た。

 

この男は、政治をしない。統治もしない。勝った後の形をまともに維持する気も薄い。だから責任を持たない。その代わり、責任を持とうとする人間の欺瞞だけは異様な嗅覚で見つけ出す。

 

最悪だ。

 

そして最悪である以上、こちらも利用し方を選ばなければならない。

 

「なら、お前にも答えろ」

 

『うん?』

 

「お前は、自分が壊す側にいることを認めるのか」

 

球磨川は、一瞬だけ黙った。

 

笑みはそのままだ。だが、まばたきの間だけ、どこか別の温度が混じった。

 

『認めるよ』

 

珍しく、迷いのない声音だった。

 

『だって僕、だいたいそういう役だから』

 

ルルーシュは、その言い方にわずかな違和感を覚えた。役。性質ではなく、役割として言った。

 

だが追及する前に、倉庫の外からミレイの声が飛んだ。

 

「ルルーシュ! 教師会議室、押さえたわ! でも来なさい、ちょっと面倒!」

 

ルルーシュは即座に名簿を抱え、倉庫を出た。

 

球磨川もついてくる。

 

「来るな」

 

『失礼だなあ。同伴者だよ』

 

「誰の」

 

『不穏分子代表候補の』

 

「立候補制にした覚えはない」

 

『だって推薦制だろ? じゃあ自薦でも他薦でも似たようなもんじゃないか』

 

教師会議室の前には、既に数人の教員が集まっていた。顔色は悪い。怒っている者もいる。怯えている者もいる。名簿に自分の名前がなかった教員ほど、「事態の沈静化」を口にしたがる空気が見える。

 

中へ入ると、昨日の行政局の女ではなく、学園長代理がいた。五十代半ば。普段は温厚さを制服のように着込んでいる男だが、今はその布地が薄い。

 

「ルルーシュ君、これはいったいどういうことだ」

 

「こちらが聞きたい」

 

ルルーシュは名簿を机へ置いた。

 

「この学園は、いつから教職員まで行政局へ分類提出する場所になった?」

 

代理は目を逸らした。

 

「提出という言い方は語弊がある」

 

「では何だ」

 

「協力だ」

 

『うわあ』

 

球磨川が、会議室の空気をまるで他人事みたいに撫でた。

 

『一番嫌いな言い換えだ』

 

「君は誰だね」

 

『球磨川禊。多分、今一番ここにいてほしくないタイプの生徒です』

 

「部外者は――」

 

「違う」

 

ルルーシュが遮った。

 

「彼は対象候補だ。部外者ではない」

 

学園長代理の眉がひくつく。

 

つまり会議から排除しにくい。球磨川をここに入れたのは、もちろん意図的だ。厄介だが、必要な厄介さでもある。

 

「説明してもらおう」

 

ルルーシュは座らずに言った。

 

「この名簿への教職員情報提供は、どの範囲で、いつから、誰の承認で行われた」

 

代理は苦い顔をした。

 

「正式承認ではない。試験区指定に先立つ、予備的な照会だ」

 

「誰が応じた」

 

「私と、一部の担当教員だ」

 

「理由は」

 

「学園を守るためだ」

 

球磨川が吹き出した。

 

『いいねえ』

 

「何がおかしい!」

 

代理が声を荒げる。

 

球磨川は、にこにこしたまま答えた。

 

『だって“守るために売った”って、すごく完成度の高い言い訳じゃないか。裏切りって、いつもそうやって立派な言葉着るんだよね』

 

「黙れ!」

 

『嫌だよ。だって今の、すごく大事なところだろ』

 

ルルーシュは球磨川を制さず、代理だけを見る。

 

「守るために、誰を切った」

 

「切ったわけではない!」

 

「なら、なぜ教職員の名前がある」

 

「……行政局は、強硬だった」

 

「答えになっていない」

 

代理の額に汗が滲む。

 

「拒めば、もっと広い介入を招く。だから限定的な情報提供で学園の裁量を残そうとした。それだけだ」

 

「限定的?」

 

ルルーシュは名簿を一枚、机へ叩きつけた。

 

「卒業生まで含めてか?」

 

代理が言葉に詰まる。

 

ミレイが低く言った。

 

「へえ。そこは聞いてなかった顔するんだ」

 

会議室が冷える。

 

ルルーシュは、そこで核心へ踏み込んだ。

 

「つまりお前は、自分が差し出した情報がどこまで使われるかも確認せず、“協力”したわけだ」

 

「違う、私は――」

 

「違わない」

 

『うん、違わないね』

 

球磨川があっさり重ねる。

 

『こういうのって、一番面白いのはさ。“悪いことをした自覚がない善人”が中心にいるとこだよ』

 

「君は人を侮辱しすぎる」

 

代理が睨む。

 

球磨川はきょとんとした顔で首を傾げた。

 

『え? 侮辱じゃないよ。褒めてもないけど』

 

そして、そのまま淡々と続けた。

 

『だって本当に悪い人は、売るとき売るって分かってるし。自分の得のためにやってるって自覚もある。でも先生みたいな人は違う。学園のため、生徒のため、波風を立てないためって思いながら、気付いたら他人の名前を並べた紙を渡してる』

 

代理の顔が赤くなる。

 

『そういう人が一番便利なんだよね。本人だけが自分を裏切り者だと思ってないから』

 

「黙れと言っているだろう!」

 

代理が机を叩いた。

 

その瞬間、会議室の空気が変わった。

 

怒鳴ったのは失敗だ。

 

自分の道徳的優位が削れた。

 

ルルーシュはそこを逃さない。

 

「この場で確認する」

 

彼は教師たちを見渡した。

 

「学園側は、教職員および生徒情報の追加提供を全面停止する。異論はあるか」

 

すぐには声が出ない。

 

出ないのは、同意ではなく、まだ代理の顔色を見ているからだ。

 

球磨川が、わざとらしく机の上の名簿をぺらりと捲った。

 

『どうせ今黙っててもさ、次に名前が載るの自分かもしれないのにね』

 

数人の教員が顔を上げた。

 

今だ、とルルーシュは判断する。

 

「この名簿には教員も含まれている。行政局は“協力者”と“対象”を区別していない。情報提供は、身を守る行為ではなく、自分の順番を後ろへずらしているだけだ」

 

ざわめき。

 

「だが順番は尽きる」

 

ルルーシュの声は静かだ。

 

「選別は、一度始まれば対象を増やすことでしか維持できないからだ」

 

球磨川が、小さく拍手した。

 

『いいね。やっと制度の悪口じゃなくて、制度の性質の話になった』

 

「黙ってろ」

 

『はーい』

 

だがその返事は、全く黙る気のない声音だった。

 

学園長代理が苦しげに言う。

 

「では、どうしろと言うんだ。全面対決か? 学園にそんな力があるとでも?」

 

ルルーシュは即答した。

 

「あるかどうかではない。あるように見せる」

 

代理が眉を寄せる。

 

「見せる?」

 

「行政局は、静かに運ぶとき強い。だが、説明を強いられ、記録を取られ、外部の目が増えるほど鈍る。なら学園全体を、静かに運べない場所へ変える」

 

ミレイが口元を上げた。

 

「なるほど。お行儀の悪い学園運営ね」

 

「平時ではありませんから」

 

「賛成」

 

ルルーシュは続けた。

 

「本日以後、対象候補の個別呼び出しを禁止する。教員の同伴がなければ移動しない。校内掲示は全て複写保存。保護者連絡は学園側主導で行う。さらに――」

 

彼は一拍置いた。

 

「評議会を前倒しで開催する」

 

会議室がざわつく。

 

代理が思わず聞き返した。

 

「今この状況でか?」

 

「今この状況だからだ。制度の外から抵抗すると、向こうは“不穏分子の妨害”として処理できる。なら制度の内側から、制度の顔を奪う」

 

「危険すぎる」

 

「承知の上です」

 

『へえ』

 

球磨川が、少しだけ愉快そうに言った。

 

『やるじゃないか、生徒会長。評議会を人質にするんだ』

 

「人質ではない」

 

『じゃあ盾?』

 

「舞台だ」

 

ルルーシュは言い切る。

 

「向こうが学園自治実験を掲げた以上、その看板ごと使う。公開の場で、代表選定の基準と移管条項の説明を求める。逃げれば自治の建前が死ぬ。答えれば制度の醜さが露出する」

 

ミレイが笑う。

 

「やっぱり詐欺師向いてるわよ、あんた」

 

『うん、僕もそう思う』

 

球磨川が素直に同意した。

 

ルルーシュは彼を一瞥した。

 

「だが、お前にも役目がある」

 

『へえ。とうとう使う気になった?』

 

「最初から使う気はあった。使い方を決めかねていただけだ」

 

『正直でよろしい』

 

「評議会で、お前は行政局の推薦代表として出ろ」

 

会議室の何人かが息を呑む。

 

球磨川は、少しだけ目を丸くした。

 

『僕を? ひどいなあ。絶対揉めるぜ?』

 

「知っている」

 

『きみの盤面、ぐちゃぐちゃになるよ』

 

「お前を外で好き勝手に喋らせるよりは、盤上に置いたほうがまだ読める」

 

球磨川は数秒黙り、それからゆっくり笑った。

 

『あはは』

 

その笑いは、今までで一番球磨川らしかった。愉快で、皮肉で、少しだけ残酷で、なにより嬉しそうだった。

 

『いいねえ、それ。最高に失礼だ』

 

「受けるのか」

 

『受けるよ』

 

即答だった。

 

『だってさ、生徒会長。きみ今、“問題児を排除する”んじゃなくて、“問題児ごと制度に押し込む”って言ったんだぜ? そんなの断るわけないだろ』

 

「そうか」

 

『うん。だから約束してあげる』

 

球磨川は、会議室の全員がいる前で、やけに優しい声を出した。

 

『僕、ちゃんとこの評議会を壊してあげるよ』

 

教師たちの背筋が凍る。

 

だがルルーシュだけは、表情を変えなかった。

 

「期待している」

 

ミレイが、呆れたように笑う。

 

「終わってるわ、この学園」

 

「これからです」

 

ルルーシュがそう言った瞬間、会議室の扉がノックもなく開いた。

 

昨日の行政局の女が入ってくる。今度は一人ではない。背後に、軍服ではないが軍人の匂いを消しきれていない男を連れている。三十代後半。無駄のない姿勢。階級章は外しているが、ただの文官ではない。

 

空気が変わる。

 

本命だ、とルルーシュは直感した。

 

男は会議室を一瞥し、最後にルルーシュへ視線を止めた。

 

「初めまして、生徒会長」

 

声は穏やかだ。だからこそ危ない。

 

「行政局監査官、ロイド・バルフォア補佐官付の臨時調整官、ヴァイスです」

 

偽名かもしれない。だが問題はそこではない。

 

「本日の移送保留について、再協議に来ました」

 

ミレイが低く呟く。

 

「早いわね」

 

『そりゃそうだろうね』

 

球磨川が楽しげに言う。

 

『だって向こうからしたら、“一回止まった理由”のほうが怖いんだから』

 

ヴァイスと名乗った男の視線が、そこで初めて球磨川へ向いた。

 

そして、ほんのわずかに笑う。

 

「なるほど。君か」

 

球磨川の笑みが、そこで一瞬だけ止まった。

 

今度はルルーシュも見逃さなかった。

 

初めてだ。

 

球磨川禊が、相手を見てから一拍遅れた。ほんの僅かだが、明確に。

 

『へえ』

 

球磨川はすぐに笑みを戻した。

 

『僕を知ってるんだ』

 

「少しだけ」

 

ヴァイスは静かに答える。

 

「君のような生徒は、分類表の外にいるので」

 

その一言で、会議室の温度がさらに下がった。

 

分類表の外。

 

それは排除ではない。もっと厄介な意味だ。計測不能。既存の尺度で扱えない。つまり、最初から別枠で見られている。

 

球磨川は笑っている。

 

だが、その笑顔の奥で、何かがわずかに軋んだのを、ルルーシュだけは見た。

 

そしてルルーシュは理解する。

 

この男には、この男なりの“踏まれたくない地雷”がある。

 

なら――使える。

 

「再協議、ですか」

 

ルルーシュはヴァイスへ向き直る。

 

「ちょうどいい。こちらも、評議会の前倒し開催を決めたところだ」

 

ヴァイスが目を細める。

 

「評議会を?」

 

「ええ。自治実験を掲げる以上、公開の場で話しましょう。代表選定基準、移管条項、教職員名簿の混入、そのすべてを」

 

男は黙ってルルーシュを見た。

 

『あーあ』

 

球磨川が、妙に楽しそうに呟く。

 

『始まっちゃった』

 

ヴァイスは、その声を聞いても視線を逸らさなかった。

 

「いいでしょう」

 

その返答は予想より早い。

 

「ただし、条件があります」

 

ルルーシュの目が細まる。

 

「何だ」

 

ヴァイスは、ゆっくりと会議室を見渡したあと、最後に球磨川へ視線を落とした。

 

「球磨川禊君にも、必ず出席してもらう」

 

数人が息を呑む。

 

ルルーシュは無言で相手を観察する。誘導か、確認か、あるいは挑発か。

 

球磨川は、笑ったままだ。

 

『やだなあ』

 

そう言う声だけが、少しだけ乾いていた。

 

『まるで僕が主役みたいじゃないか』

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