私の知ってる超かぐや姫!がなんかおかしいんだけど質問ある? 作:天空ラスク
────今は昔……
「ヤオヨロー! みんなー! 今夜も集まってるかーい?」
何に使われるのかよく分からない小道具やぬいぐるみが辺り一面に散らばった部屋、その中央に置かれたちゃぶ台の上に薄明かりを放つパソコンが置いてある。
────ではなく。
「今日もみんなと逢えるの楽しみにしてたんだ〜!」
その正面に向かい合い座る人物は心の底から嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、喜びの鼓動のリズムにのって左右に揺れていた。
────ずーっと未来!……でもなく。
「この時間になるのをほんとにほんとにずううううううっと待ってたんだよー!」
明星のように輝く瞳をカメラに近づける姿はどこか幼い子供のようでもあった。
だがその存在が子供ではないことをちゃぶ台の上に置かれた結露を身にまとったソレが伝えている。
────むかしむかしでもずっと未来でも、少し未来でもない。
────どこにだっている普通の……
「さあさあ! 今宵はこの大量の唐揚げとハイボールで優勝していくどーー!」
────酒飲み配信者ありけり。
いまは令和、
その作品こそが、超かぐや姫!。
ざっくり解説するならば七色に光るゲーミング電柱の中から赤子を拾ってしまった苦学生の
その超かぐや姫!に登場するメインキャラクターが3人いるのだが、そのうちの一人に超人気配信者【
長い白髪、透き通る海に似た青い瞳、静かな夜空のように優しく響く歌声、浦島太郎に登場する乙姫を思わせる衣装と髪型、メンダコのぬいぐるみのようなマスコットをいつも連れている浮世離れした雰囲気の8000歳(という設定)の配信者であり【ツクヨミ】の創設者の美少女AIだ。
さて、場面は代わりてここに少雛海琴なむ輩ありけり。
その風貌は長い白髪、透き通る海に似た青い瞳、静かな夜空のように優しく響く歌声、浦島太郎に登場する乙姫を思わせる髪型、体型がまるで見えないだるだるの黒ティーシャツにその辺で買ったショートパンツ、メンダコのぬいぐるみをいつも机に置いている浮世離れした雰囲気の8000歳(という設定)の酒飲み配信者だ。
そう、キャラ被りここに極まれり!なのである!(スゴイ=シツレイ)。
まあ、髪型と話し方と年齢は映画を見てから寄せたのだが。それ以外は元からである。
そんな超人気作品の超人気キャラそっくりの配信者が居ると知れ渡り、いと気になりて寄りて見るに、
「枝豆を一つ一つ、プチプチって取り出す瞬間。指に伝わるこの感触。たまらないよね〜〜♡」
視聴者は皆チベットスナギツネ顔になりけり。
「うはー! やっぱりこの一杯が最高! 何杯でも呑めちゃうよ〜」
・コイツ何杯呑むんだよ
・こいつにヤッチョ顔とボディと声与えるとか神は何してんだよ
・逆だろ。顔と体と声やったから残り全部酒カスにされたんだろ
・これじゃ月見ヤチヨじゃなくて酒寄ヤチヨだろ
・こいつ酒に寄っていくだろ
・しれっと彩葉と苗字同じになってるのウケる……コイツとお揃いか
・不満か?リアルヤッチョだぞ?
今日の晩酌配信も大賑わい。映画を見てから集まった視聴者達はエモみを求めてきたのにチベスナにされた叛意と、でもヤッチョに似てんだよなコイツ……と義理チョコくらいの愛を込めてコメントを顔面に叩きつけてきます。
「こらー? 神々のみんなー? コメント見えてるよー?」
・見せてんだよバカ
・見んなよバカ
・見ろよバカ
・
「最後の人は後でステージ裏に来てねー?」
そんなこんなで呑気に配信をしている海琴なのでありました。
「それじゃあ! そろそろお便りコーナーに参ろうぞ〜!」
・お前まともに答えたこと無えだろ
・もう俺ヤッチョの演技なのか素なのか分かんねえよ
・なんで俺こんなのに釣られてしまったんだ……
「おっ! キミ、いい質問だね〜! それじゃ、私がどうやって君たちを私の配信に集めたのか、教えてしんぜよ〜!」
そう言って海琴は立ち上がるとすぐ真後ろの押し入れの扉を壁ドンもかくやな音を鳴らして勢いよく開いた。
綺麗な白髪が楽しそうな鼻歌に乗るようにゆらゆらと海藻のように揺れる。ガサゴソと漁る音と背中しか映っていない配信はこの世に何本あるだろうか。いやない。
「あ! あったよ! ジャンジャジャーン! コレぞ! 少雛家の家宝!」
ドカンッと勢いよくちゃぶ台の上に置かれたそれは、古びた槌だった。かつては豪華絢爛な装飾が施されていただろうそれは一体幾星霜の年月を越えたのか、全体的に色褪せ薄汚くなってしまっている。
「打出の小槌! これを振りながらなんか楽にお金稼げるようになれー! って願ってたら配信者になることを思いついたの!」
・ア ホ ク サ
・ア レ ク サ
・サ ケ ク サ
・最終的に酒カスにされるいつもの流れいつも草w
・草にw生やすんじゃねえもぐぞ
海琴当人的には割と重大発表的な出来事だったのだが何故か(いつも)馬鹿にされ挙句の果てに酒カス扱いされている。これには海琴も遺憾の意である。
「こらー! ほんとなんだよー? だって配信者になって3ヶ月くらいであの映画の効果でいっぱい人が来てくれるようになったんだからさー」
私、怒ってます!と言わんばかりに頬を膨らませる姿は何も知らなければ胸を初恋の魔弾に撃ち抜かれるだろうが、ここにいる視聴者達はみなチベスナ顔経験者だ。
・ほぼヤッチョ効果じゃねえか
・酒とヤチヨに土下座しろ
・ヤチヨ「あはは……ちょっと君にはツクヨミに来て欲しくないかな」
・↑ヤチヨでもギリ言わない……いやコイツには言ってもいいか
「辛辣! およよ〜。みんなが完全に疑ってて、私とても悲しみにクレオパトラですのよ〜」
見た目美少女が泣いてようが、ちゃぶ台上の唐揚げが今なお進行形でモサモサ食べられているので視聴者は心をチベスナにして追い討ちをかけられるのである。
・そこまで言うならなんかやってみーよ
「おっ! その手があった! よ〜し、早速やってみよー!」
口内の唐揚げを飲み込み一段落ついた頃にふと目にした画面に表示されたコメントを読み、打出の小槌(仮)を手に取った。
「んー。何がいっかな、何がいっかな、やっぱりお酒〜?」
・カスがよ
・酒をつけろよデコ助野郎
・酒春日よ
・せめて視聴者の平和とか彩葉の食生活の改善とか願っとけ
・何回見ても粉と水のパンケーキはさすがにヤバイよな
胸元に打出の小槌(仮)を抱えゆらゆらと左右に揺れる可愛い子にも視聴者は辛辣である。しょうがないね、酒カスだもの。
「ヨシ! なんも思いつかなかったからそれでいこう! 小槌よ小槌よ小槌さん! 酒寄彩葉の食生活を何とかして……あ、でも彩葉のパンケーキなら食べてみたいかも?」
ノリノリで打出の小槌(仮)を振り出すがイマイチ願い事が決まりきらず、あれもこれもと願いが付け足されていく。
「かぐやちゃんとの出会いも見てみたいしー、ツクヨミも行ってみたいしー、コラボライブも卒業ライブも見たいしー、KASSENもやりたーい! でも雑な二次創作みたいに急に現れて不審者扱いされるのもヤダー!」
・欲の化身か?
・酒でも呑んで落ち着けよ
・呑んでんだよ!今も振りながら!
・名誉酒カス名乗っていいぞお前
幸せそうににへらと笑みを浮かべながらブンブンと打出の小槌(仮)を振りまくる。別に視聴者のみんなに願いを叶える瞬間を見せたかったわけでは無く、ただ酒が回って気分が良いだけである。
そんな事をやっているから打出の小槌(仮)がほのかに光を放つ瞬間を見逃すのである。
ドンッ! と海琴の背後から重量物の落下音が響いた。さすがに驚き垂直に飛び上がり、ビシッ! と気を付けまでしてしまった。ちゃぶ台上のハイボールさんも心配そうにゆらゆら揺れている……あ、倒れた。
・何事!?
・なんかエグい音鳴ったぞ!
・隠してた酒樽が割れたか!?
・とうとう密造酒が見つかったか!?
「作ってないよ!? ほんとに何ごとー!?」
視聴者への少しシャレにならないボケを捌いてから音の発生源を見た。
そこに、七色に輝くゲーミングダンボールありけり。
パッと振り返った時に思った一言である。しかし本当に輝くダンボールがあるのだ。当然、酒樽でも密造酒でも無い。そもそも最近は電化製品も買ってないのであんなパーリナイッ!な箱が来るわけないのだ。
「えーっと……ちょっと後に置いとこっか! 今はお酒呑まなきゃだし!」
・それどころじゃねえだろ
・さっさと明智光秀
・なんかテープ剥がれてるぞ
気にしない。気にしない。あんな怪しげなダンボール見るのも怖い。今まで何度か打出の小槌(仮)を振ったことはあるがあんな物理的におかしなことが起こったことは今まで無かったのだ。だからテープがひとりでに剥がれようが気にしないことにした。ダンボールの上部に竹のような持ち手がいつの間にか生えてようが、どこか和を思わせる音楽と共に箱が観音開きしていこうが、
「ムリ! 無理無理無理無理無理!」
思わずダンボールを塞ぐように座り込む。絶対に今までの人生をひっくり返すような何かが入ってる。そんな予感がしたから思わず腰を下ろし塞いだが、『そんなのは知らん!』とばかりに強引に開いていき小さなお尻がどかされていく。
「ちょっ!? なんかこの展開見た事あるよー!?」
・おつかれ、オムツいるか?
・哺乳瓶に甘酒入れんなよ
・皆赤ちゃん入ってる前提で考えてんのウケル
ダンボールはとうとう強引に開ききり、海琴の腰はフローリングの上に落とされた。だが七色ゲーミングはまだ収まっていなかった。
『はよ見ろ』と言われてるような気がした。
「ねえ、みんな〜……」
・見てらっしゃい
・行ってらっしゃい
・へいらっしゃい
・はよ見ろ
およよ〜ん……。
誰も心配してくれてないコメントに内心半泣きになった。何かが飛び出てきた時のために掃除機のノズルを握りしめ何時でも振りかぶれるように構える。携帯のバイブレーションのようにプルプル震えながら恐る恐る箱の中を覗き込んだ。
「これは………?」
初雪を思わせる大量の梱包材に溺れるように、マットな質感の黒いプラスチックが見えた。
「なんかいっぱい入ってたね! ねえみんな、どれから見てみるー?」
あれからしばらくして、箱の中に入っていた物がちゃぶ台上に並べられた。とても先程まで晩酌配信していた部屋に似つかわしくない何処か近未来感を思わせるデザインのそれらを前に視聴者達(ゲーミングダンボール効果で少し増えた)も興奮を隠せない。
・手袋モドキにスニーカーらしきものにマスクのような何かにガッチガチメカバイザーか
・全部黒っぽいな。でもなんかツクヨミっぽい装飾されてんね
・波模様に色んな海の生き物、アクセントに星。鳥居の中に満月のマークがロゴっぽくプリントされてる。波模様が青白く光ってんのオシャレだ
・めっちゃ欲しいんだけどどこで売ってる?西竹屋?
・で、これなんなん?
「何なんだろうね。……とりあえず、付けてみよっか?」
メイドイン打出の小槌(仮?)の器具はさすがに視聴者も何に使うのか知らなかった。何名か博識な視聴者もいたようだがどのメーカーも発売していないデザインの商品だということしか分からなかった。
あ、そいや〜。
気の抜ける掛け声と共にバイザーが頭に装着される。どうやら目と耳を覆って後頭部で繋がるデザインになっているようだ。謎にUSBの差し込み口があったためカメラにも接続している。
「んー、何にも映ってないね? 普通に部屋の中が見える」
・ほなダイヤル弄らなあかんか
・ダイヤルはよはよ
・ノシノシバンバン
「りょー! まずは1のメモリに合わせるねー!」
操作ミスをしないように一度バイザーを外すと、こめかみについたダイヤルを1のメモリに合わせる。後はつけるだけなのだが、
・は????
・おい夢かこれ
・幽霊かなにかかな?
・めっちゃ寝てるやん
・すごく……見覚えがあります
何やらコメントが騒がしかった。一体何が映っているのか、そわそわしながらも驚きの光景を視聴者と一緒に味わいたかったので目を閉じながらバイザーを装着した。
クワァッ!
カチッと後頭部で接続音が鳴ると同時に両目をそんな感じに見開き、
「────────はい?」
視界に広がるのは狭いボロアパートのような室内。小さなちゃぶ台と薄汚いキッチン、ミッッッッシリ詰め込まれた予定表が壁に貼られ棚の上に自分に似た少女の神棚アクリルスタンドが置いてある。
そして壁際に置かれた勉強机、そこにもたれ掛かるように倒れ伏す少女がいた。
黒髪を後ろに流し白と薄緑色のストライプ柄のパジャマに身を包んだ少女、すわ事件かと思えば静かな寝息が聞こえるのでただの寝落ちのようだ。
ただ問題はそこじゃない。
一つ。この部屋とそこに住む少女に視聴者と海琴、その両者が見覚えがあること。
一つ。そんな場所に突然繋がってしまったこと。
最後に一つ。それは────。
「生……彩葉?」
その少女が先の話題にもなった映画、超かぐや姫!のメインキャラクターが一人。酒寄彩葉に瓜二つの顔をしていたということだ。
ストックはもと光る竹に乗り込んでどっか行きました