私の知ってる超かぐや姫!がなんかおかしいんだけど質問ある?   作:天空ラスク

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Xを徘徊してると定期的に超かぐや姫!の尊いイラストがどんぶらこっこ流れてきて毎回心停止する


ヤチヨ(真)のミニライブ行くけど質問ある?

 盛大にズッコケたウサ耳金髪かぐや姫は二人の姿を見て目を丸くしたのちビシッと指さした。

 

「もしや、彩葉! ……あとヤチヨ!」

 

 完全についで扱いである。しょうがないね、パチモンヤチヨだから。

 

「ほら、手ぇ貸して」

 

 手を差し伸べながらも口角がやや上方向に痙攣している。どうやら金髪のかぐや姫が軽くツボに入ったらしい

 

「ねえねえ彩葉、なんでヤチヨと一緒いたの?」

 

 手を引かれ起き上がったかぐやは早速とばかりに何故かいる彩葉の推しに興味津々である。騙して悪いがそいつはパチヨである。

 

「それについてはヤッチョから説明するね? 実はね〜」

 

 表情に笑顔を貼り付け改めて彼女に今さっき考えたばかりの偽りまみれの説明をする。ちゃんと説明した場合、私が犯人で〜す、と名乗りを挙げる羽目になるので。

 

「なるほどなるほど〜。じゃあヤチヨ! 一緒行こ!」

 

「ちょっと! あんた流石に呼び捨ては──」

 

 綺麗な手だ。友達を誘うかのような気楽さで手が伸ばされる。断られるなんて一切考えていない顔だ。

 

「いいよー☆」

 

 それでも、その手を取らない理由にならない。海琴が姿を隠さずに正面から人と触れ合える瞬間なんて、二度と来ないだろうから。作られた世界だから肌の温もりは感じないが、心に温もりが伝わってきた。

 

「──軽っ!?」

 

 彩葉が驚いているが美少女と触れ合えるのに何を躊躇う必要があるのか、なんて事は八割くらいしか考えていない。実際の所は推しと一緒に歩けるならなんでもやったらぁ! が十三割を占めている。脳内グラフがイカれてる。

 

「よっしゃあ! 面白いもん見つけに行くぞぉ────!」

 

 彼女がヤチヨ(だったらいいのにね)の返事を聞いた瞬間、手から腕、肩から上半身と衝撃が伝達する。隣を見れば彩葉もバランスを崩していた。その片手はかぐやに握られている。

 

 待ちきれなくなった金髪の大型犬が飼い主ともう1人の手を引っ張りわふわふと駆け出す。向かうは当然サイバーパンクと古来的な和の街並みの融合世界、ツクヨミ。夜の街並みに消えゆく三人の影を四足の小さな影が追いかけて行った。

 

 

 

 

「ツクヨミ面白すぎでしょ! 無理だよこんなとこで人探しとか!」

 

 休憩スペースの一角でかぐやがパフェを片手に騒いでいる。縁側に腰かけバタつかせた足が池の水を巻き上げドット状の飛沫が舞った。

 

「こんな所で騒がないでよ……すみません、ヤチヨのお力になれなくて」

 

「大丈夫なのです! むしろヤッチョが二人の邪魔にならなくて良かったよ〜。ヨヨヨ、もしそうなったらヤチヨが悪者なのです」

 

 これまたパフェを片手にした彩葉が自分を挟むように隣りに座るヤチヨに申し訳なさげに頭を下げた。

 

「ヤチヨはね、ツクヨミを楽しんでくれる人がいればそれでいいんだ。だから気にしないで、ヤチヨのミニライブ楽しんで来てね? って自分のライブ宣伝してるみたいだ〜☆」

 

「ヤ、ヤ゛チ゛ヨ゛ぉ……」

 

 顔を上げた先に見た推しの笑顔が眩しいこと眩しいこと。彩葉の涙腺は呆気なく致命傷を負い、頬を伝って流れた涙はドットになって今も跳ね上がる水飛沫に混じって見えなくなった。

 

 ・こんなシーン原作にあったっけ……

 

 ・あったあった。尊かったよなー

 

 ・この後ヤチヨとかぐやが彩葉にあーんするんだよね

 

 ・そうそう。彩葉が口移しでカウンター決めた時は歓声が挙がったよな

 

 ・タカシー、幻覚見てないで現実見なさーい

 

 ・嫌だー!あそこにいるのはヤチヨだ!酒カスなんかじゃないんだー!

 

 久しぶりに見た気がするコメント欄も賑やかだ。食感だけ再現されたパフェを飲み飲み、なんだか面白くなって小さく息が漏れた。ヤチヨの演技をしながらコメントを見るのは難しく、おざなりになってしまったのは配信者として申し訳ないとは思いつつ楽しんでしまった。

 

 最初の方こそかぐやは不審者を探そうとしてくれていたのだが、ツクヨミの多種多様なコンテンツに次々と引き寄せられ、気がついたら三人でワイワイしてるだけになってしまったのだ。

 

「(不審者(わたし)探しに戻ろうとする彩葉を違和感なくかぐやちゃん側に寄せるのは大変でした……)」

 

 ・でも楽しかったらOKです

 

 ・ただし酒カス、テメーはダメだ

 

 ・そしてオタ公、テメーはクビだ

 

 ・語呂の良さだけでクビになる悲しき忠犬

 

 そんなこんなでミニライブの時間が近くなってしまったということもあり近場の店でパフェを食べ別れることになったのだ。

 

「む〜! ヤチヨ! 不審者が見つかったらかぐやにも教えて!」

 

 かぐやが彩葉越しに海琴の顔を覗き込んだ。下に叩きつけられた足が大きく水を打ち上げ、少しの飛沫がこちらに向かって飛んできた。

 

「かぐや? 元はと言えばアンタがフラフラと、」

 

「Iroちゃん、ちょ〜っとごめんね? かぐやちゃんはどうかしたのかな〜?」

 

 推しに向けられるかぐやの言動が気に触ったのか、彩葉がイラついた顔を彼女に向けようとしたので制止させた。この世界の主人公はかぐやと彩葉だ、そこに配信者が自分勝手に混ざっただけ。それなのに自分の嘘のせいでかぐやが怒られるのは自分の良心が許さない。

 

「だって、ヤチヨはこんなスッゴイ場所を管理してるのに迷惑かけるやつがいるんでしょ! そんなんぜーったい許せない! だから代わりにかぐやがボコボコにしてやんよ!」

 

 ニッ、と少年のように歯を見せ自信満々にそう言った彼女の顔がとても眩しく見えた。見ているだけで心がポカポカする陽だまりのような少女に一瞬見惚れた。

 

「(なんか、良いな〜……こういう所が人気の秘訣なのかもね)」

 

 自分もお酒呑みながらやってみたらどうなるだろうか。お前らの悩みをぜーんぶ解決してやんよー! なんて、素面だとなかなか言えそうもない。そこが彼女との違いなのだろう。

 

「……ありがとね、二人共」

 

 純粋で、考え無しで、けれど確かな善性を持った笑顔がなんだか眩しくて、思わず目を伏せた。

 

「良いってことよ! このスーパーかぐやちゃんに任しとき!」

 

「アンタねぇ……はあ、こいつがすみません。私も何か見つけたら連絡しますので」

 

 彩葉が少年誌の主人公のような自信溢れるポーズを決めたかぐやの頭を鷲掴みにして二人で頭を下げた。

 

 自信に満ち溢れた声と微かに畏敬の念がこもった声に心がざわつく。ただの偽物が向けられるべき感情ではない、それは本物に送られるべきだ。

 

 だって、彼女はたった一人でこの時まで歩いてきたのだから。

 

「うん、その時は連絡するね……っとぉ。もうお仕事の時間だね〜」

 

 勢いをつけて立ち上がると、軽い電子音がウィンドウと共に流れた。それは彩葉がセットしていたタイマー、もうミニライブの始まる時間だ。あとは本物にバトンタッチすれば違和感なく誤魔化せるはず。

 

「あ、あのっ! えとっ、あの、ががが、頑張ってください!」

 

「ふっふっふ〜、そんな応援を貰っちゃったら、いつもよりすっごいライブできちゃいそうだよ〜」

 

 どもりながら伝えられた応援に胸を張る。本物はきっと期待を上回るライブをしてくれるだろうから。

 

 興奮した彩葉越しに覗いたかぐやは目を細め唇が小さく主張していた。いつか彼女の心の中のもやもやにその感情を表すラベルが貼られた時、この二人の仲は確実なものになる。そうなれば無事にハッピーエンドまで辿り着く、絶対に。

 

「二人共、今日はありがとう! それじゃ、さらば〜い!」

 

 ご機嫌に地面を蹴りリズミカルに跳ねる。人混みが多く比例して視線も多い。大人気配信者の月見ヤチヨがこんな所でスキップしてどこかに移動していればそうなるだろう。もしやライブ会場まで徒歩で向かうのでは、なんて思われているかもしれない。注目を集めすぎないよう人の目の届かなそうな路地へ向かった。路地へ入った瞬間足を早め、ヤチヨとしてのイメージを崩さないギリギリの早足で人気のない場所までやって来た。

 

「…………ふぃ〜、ヤチヨガチ勢の前でやるヤッチョの演技、すっごい気を使うね〜」

 

 ここまで偽物バレしないように気を張り詰めていたのが解除されたことにより、噴き出した汗が頬を伝い流れ落ちた。指で額を撫でると少しベタつく感覚を覚えた。

 

 ・おつカレーライス

 

 ・つ【枝豆】

 

 ・つ【ジョッキ】

 

 ・つ【麦茶】

 

 ・アルコール抜かれとるがな

 

「麦茶だこれ! ってやつでしょ〜。いつかヤチヨに会えたらやってみたいね〜」

 

 愉快なコメントにケラケラと楽しく返答しながらその姿が一瞬消える。次に現れた時には当然のようにグラスが左手に収まっていた。ニコニコ笑顔のヤチヨニウムを補給していた視聴者のみんな、お待たせ。酒カスタイムだよ。

 

「あ・と・は〜☆ 本家本元、ヤチヨのライブを残すのみ。のでのでこれは勝利の美酒なのです! かんぱーい!」

 

 丸氷がカラコロと朱色の液体の中で揺れる。ひとたび口をつけると唇から熱を奪い、流れ込んだ液体が一気に熱を持ったような感覚が喉に流れ込む。オーク樽由来の風味がそよ風のように鼻から抜け、紳士のように堂々としたブランデーの味わいが舌のストリートを悠々と闊歩する。

 

 それと同時に本物と言っても……百歩譲ってそっくりだった雰囲気も頬を赤らめヘロヘロな笑顔の前に霧散した。

 

「ライブ見る前に呑んで〜、ライブ見ながら呑んで〜、ライブ見終わったら呑む〜! ライブさいっこ〜だ〜☆」

 

 それはライブじゃなくて酒が最高なだけだ。

 無駄にテクニカルなステップを刻みながら配信者は路地から表通りへ足を踏み出していくのだった。推しとたっぷり話せてご機嫌の極みである。

 

 ・なんだかんだでこの酒カス状態がイッチャン落ち着くのムカつくわー

 

 ・完璧人間より見た目のいいダメ人間の方が好意湧かない?

 

 ・つまりお前は彩葉が嫌い、と

 

 ・ヤチヨ「さあ……どこを切り落とそうか!」

 

 ・イロハチャンカワイイヤッター

 

 ・あの、そういえばメモリ切りかえてないような……

 

 ・……(゜Д゜)

 

 ザワザワと騒々しい人混みの中にいったいどんなふにゃけた笑顔の一般通過酒カスAIライバーがいるのか。それを知るのはこの場にいた幸運──不運かもしれない──な人々だけである。

 アルコールは適量を守りましょう。酒カスとの約束だよ。

 

「ら〜らら〜ら〜らったった〜、ら〜らら〜ら〜るんたった〜♪」

 

 結露を纏ったグラスを片手に、踵打ち鳴らしリズムを刻む。いざいざ参らんミニライブ、酒カス配信者をご覧あれ。

 

 月見ヤチヨ様及びツクヨミ関係者各位、ごめんなさい。

 

 

 

 

『キタキタキタァァァ!これがないとツクヨミの夜は始まらない。今夜も完全生中継をツクヨミ各地でお届け中でーす!!』

 

 各所に映し出されたウィンドウから生き生きとした声がツクヨミ中に響き渡る。アッシュグレーの長髪と犬耳、抱き枕に出来そうなボリューミーな尻尾。暗色系の和装に身を包む彼女はツクヨミのトピックを配信するライバー、人呼んで“忠犬オタ公”。

 

 ・出たわね超かぐや姫!で唯一江戸同人に出られそうなスタイルの持ち主

 

 ・やだよ浮世絵みたいに描かれたオタ公

 

 ・《¥765・username・レッツゴー隣の晩御飯》お前らオッパイオタ公の事江戸いオッパイ眼でしか見れオッパイないんだな、可哀想にオッパイオッパイ

 

 ・その前にこの状況に突っ込まんか?

 

 ・《¥250・username・いーある算数》まあまあ落ち着けよ。ケチャップ飲むか?

 

 ・すまんマヨネーズ派なんだ

 

 人々のどよめきが配信画面越しに伝わってくる。ふらふらと揺られる画面はカメラの持ち主が半ば配信中だということを忘れているのかもしれない。

 

 月見ヤチヨのミニライブが間もなく始まるカウントダウンが響き渡っても群衆の一角からどよめきが絶えない。

 

 それも仕方の無いことだ。件の月見ヤチヨご本人が頬を赤らめたにっこにこ笑顔でスキップしていたらそれはもう見ない人はほぼいないだろう。

 

「やおよろぉ〜☆ 今回のライブ楽しみだねぇ。私もずっとずっと生で見たいと思ってたんだ〜あはははは!」

 

 演出者当人だと言うのにまるで一介のファンだと言うような態度、なのに手を振り返したり握手したりとファンサの大盤振る舞いをしている不思議な状況。

 その状況を視聴者の皆にわかりやすく言うならこれしかないだろう。

 

 【悲報】配信者少雛海琴パーフェクト月見ヤチヨフォーム、暴走【推し成分過剰補給による悪酔い】

 

 ヤチヨ当人にとって惨事とも言える出来事が起こっていようとライブのプログラムは問題なく進行する。そう、たった今鳴り響いた荘厳な鐘の音と共に現れた巨大鳥居の上に少女が現れたように。

 

「ヤオヨロー! 神々のみんなー、今日も最高だった〜?」

 

 地を埋め尽くす人々の心に慈愛に満ちた声が染み込んでいく。返答は興奮と歓声で返された。

 

「見てみてアレ! 生ヤッチョだよ生ヤッチョ! 生らっきょじゃないんだよ!?」

 

 一方パチモンは隣にいた男性と興奮を分かちあっていた。手を両手で包むように握られ高く高く喜びのままに跳躍する推し(……?)に男性の目は釘付けだ。ガチ恋勢が本人の知らないところで一人増えた。

 

「よ〜し、今宵もみんなを誘っちゃうよ〜! Let'go on a trip!」

 

「れっつご〜おん……なんとかー!」

 

「(よく聞き取れなかったな〜)」

 

 もうコイツ追い出せ。

 ふらふらと徘徊する海琴は両目にらんらんと光を湛えている。ヤチヨと間違えたファンににぱっと笑いかけ対応しながらも視線はただ一点、鳥居の上に立つ演者を見つめていた。

 

 初めましてはただネットで流れて来た一枚の画像。どこか似ている容姿に惹かれアニメの存在を知った。

 そこで出会ったのがツクヨミ管理人AIライバー、月見ヤチヨ。後にその姿を真似ることになった張本人。彼女と出会えたことで彩葉の存在を知れた。

 

 彼女は言わば、推しとの出会いをくれたキューピットなのだ。

 

 そんな本人が液晶画面を超えて目の前にいる。酒でふわふわした思考回路がゆったりと回り結論をあっさり出した。

 

「(言わなきゃ、ありがとうって)」

 

 原作の流れも次元の違いもそもそも自分の容姿が周りにどう取られているかも思考のどこかに流された。全ては 推しに会わせてくれた感謝を伝えるため、原作崩壊の擬人化の足は止まらない。

 

「幾千の──時を巡って今──ボクら出逢えたの──ほら、見失わないように──手を離さないで──」

 

 鳥居の上のヤチヨと頬の赤いヤチヨが同時に存在する事に驚きの声が上がる中、人の海を掻き分けるように歩き続ける。

 

 その歩みは例え日に焼かれようと水に沈もうとも止まることは……水?

 

「溺れっ!? ……ありり?」

 

 流石の酔いも溺死という生物的な恐怖の前に屈し、一時的に正気を取り戻した。水の中なのに呼吸ができるしなんでこんな人混みの中にいるのか、不思議に思い辺りを見回す。

 

 ・今なら間に合う、メモリ切り替えろ主

 

 ・ヤッチョのミニライブもう始まってるよ!ヾ(・ω・`;)ノ

 

 視界の隅を流れるコメントがようやく目に入った。

 

「(ありゃま、メモリ切り替えなかったっけぇ……ん〜〜?)」

 

 完全に浮上しきっていた意識がゆっくりと制御できる高さに降りてくる。

 

「(そうだ、自分は確か彩葉と別れて、メモリを切り替えてからライブ鑑賞に……)」

 

 記憶を漁りながらコメントの流れを追う。

 

 ふと、文字列の隙間を縫って少女の姿が視界に飛び込んできた。狐耳の少女が胸の前で手を組みヤチヨを見上げている。見蕩れたように固まる彼女を兎耳の少女が気を引こうと強めに揺さぶっている姿はどこか見覚えがある光景だ。

 

 ・落ち着いたな?ならメモリを切り替えるんだ

 

 ・ようやくミニライブを落ち着いて見れる……

 

 ・《¥1000・username・フランスの鈍器》どうせなら小槌パワーで時戻さん?多分できるっしょ( ◜ω◝ )

 

「……うん、そうだよね」

 

 穏やかな表情を浮かべ細腕が首から下げられたメンダコ──の中に潜り込む。

 ゆっくりと引き出された手には古ぼけた小槌が握られていた。

 

 ・どこに入れとんねん!?

 

 ・何かあった時さっと取り出せるから割とありかも……いやねえな

 

 ・財布をポッケに入れるよりヤバい事しとる

 

 ・ままえやろ。姿も隠せる、ライブも観れる、このざわつきも無かったことになる。一石三鳥や

 

 ・本当にできるならいよいよ何でもありだなこの小槌

 

 視聴者が安堵する中、所有者の意思を受け取ったのか打出の小槌が薄ぼんやりと光を放つ。

 

「ねえ、耳をすませて──星の降る音が聞こえるでしょ──もっと近くに来て──誰も知らない世界が待ってるの──」

 

 巨大なホウライエソが上空から見守る中、分身したヤチヨ達が人々の元へ飛んでいく。この一時の出会いを楽しむように語らう姿はまさに最高のエンターテイナーでありディーヴァと言ったところか。

 かぐや・彩葉ペアの所にも三人のヤチヨが集まり戯れているのが遠目に確認できた。

 

 ヤチヨが、集まり、戯れている……?

 

「ならば、一人増えたって問題ナス! ヤッチョ、行きまーす!!」

 

 一瞬で自認がヤチヨに切り替わった酔っ払いの手により小槌が振られてしまった。健気な小槌は所有者の浅はかな願望を叶えるためその力を発揮する。

 

「手を取って踊りましょう──始まりの合図鳴らせば──」

 

 視聴者達の原作への影響を嘆く悲鳴がコメントを加速させる中、アルコールにまた呑まれた配信者の姿がコマ撮りアニメのように転移した。

 

 瞬く間に目の前の景色が切り替わる。ヤチヨ×3とかぐやに挟まれ推しへの熱量が臨界しそうになった彩葉(ツクヨミスタイル)が正面に立っていた。

 

 跳躍。

 

 推しを認識した瞬間、その足は思考より先に駆け出していた。決してこのチャンスを逃がさないように両腕を広げ飛びついた。

 

「え、えっ、は、マッテマッテファンサガスゴスギルカオガチカイスゴイチカイナンカイイニオイスルキガスルシアッタカイシナンダコレテンゴクカワタシハテンゴクニキタノカツマリツクヨミハテンゴクッテコトカオトウサンウチモソッチニキテモウタミタイヤカラウチノオシヲツレテイクネ……」

 

「彩葉がバグった!?」

 

 気がつけば視界が青一色に染まっていた。自分はどうやら何かにうつ伏せの状態で乗っかってるようだ。顔をあげると顔色が塾したトマトのようになった彩葉が呪文のように高速で何かを呟いていた。

 

 視線を下に向けると少し膨らんだ小山が見える。仮想現実ゆえに再現されていないが現実であれば凄まじい鼓動がドラムの乱打のように刻まれているだろう。

 

「(いろパイだこれ!)」

 

 夢中になって飛び込んだはいいものの、どうやら自分は推しを押し倒して(上手くない)、彩葉のいろPに顔をうずめた状態で乗っかっていたようだ。

 

 再び見上げると未だ混乱冷めやらない推しがどう対応したらいいものかと腕を忙しなく動かしている。周囲のかぐや姫も頬を膨らませているしヤチヨ×3もやらかした分身(No!)にジト目を向けている。

 

 Q.こういう時どんな顔すればいいか分からないの。

 A.笑えばいいと思うよ。

 

 ニコパッ!

 

「アッ! エ-ウ!」

 

「彩葉ぁ────っ!?」

 

 ダメみたいですね。

 いよいよ推しのオーバードーズで痙攣しだした彩葉の上からそっと降りると入れ替わるようにかぐやが彼女の上に寝転がった。

 

「ダメー! 彩葉はかぐやのだから! ヤチヨでもあげないんだからなあああああ!」

 

「アババババ……わぁ、すっごいタレ目の可愛い子だぁ」

 

 お気に入りの寝床を取られたかぐや猫が海琴に威嚇する。禁断症状が出た彩葉も新しいお薬に目が止まった様子。目がラリってるけど。

 

「おいた?」

 

「おいたかな?」

 

「おいたはだめだねー」

 

 ヤチヨ×3が少し離れたところでひそひそと内緒話をしている。視線がチラチラこちらを見ているのが気になるが一体どうしたことだろうか。

 

 ・せんせー不審者がいまーす

 

 ・逃げろ酒バカス

 

 ・ほんとにもうこの人は(呆れ)

 

 ・もう一回ワープだワープ

 

 話がまとまったのか、彼女達が腕を伸ばしじわじわとこちらに迫ってきた。わぁ、可愛い。

 

「歌おうna──na──na──、響けna──na──na──、暗がりの道も月明かりが照らすの──」

 

 ヤチヨ達を見つめていると先程まで明るかった視界が、上映寸前の映画館のように薄暗くなった。

 

「(鳥居の方がキラキラしてる。お魚のフライも美味しいよね。でもチビヤチヨだから食べられないのが惜しいな〜)」

 

 それに劇中でもこの後の演出は凄かったはずだ。ネオン街のような色とりどりの海洋生物が流星雨のように空を泳ぎ回り、その中をヤチヨが飛んでいくのだ。

 

「(特にサビのとこが良かった良かった。あの「集めて紡いで」の辺りが特に好き〜)」

 

 気付けばヤチヨ達が手の届きそうなところまで迫ってきていた。遊園地に出た不審者をバックヤードに連れていくスタッフのような雰囲気が不穏だけどヤチヨだし大丈夫っしょ〜。

 

 あのシーンで一番好きなのはヤチヨの目に魚が泳ぐ演出なのだが、風の噂であの演出は彩葉を見つけた瞬間を表しているらしい。つまりもうそろそろこっちを見て微笑んでくれるのだ!

 

 ……こっちを、見て?

 

 この、トリップ状態の彩葉と威嚇猫かぐや姫と自分そっくりな何かを見て微笑む?

 

おいたは、ダメだよ〜(お前はもう、死んでいる)

 

 大人気配信者の笑顔を被ったままブチギレるヤチヨの姿を幻視し、原作崩壊の危機と彼女の青筋のたった笑顔に恐怖を感じて今度こそ正気に戻った。

 

「げ、原作崩壊はご遠慮しま〜す!」

 

 彼女達の小さな手が服を掴もうとした瞬間、慌てて振られた小槌が『え、そんな急に仕事頼まれても困るんスけど!?』と一瞬光を放った。

 

 そして盛大に跡を濁したまま、不審者は現場を後にするのだった。




天戸 蒼香さん、幻燈河貴さん誤字報告ありがとうございます!

次回、酒カス死す。KASSENスタンバイ!

楽曲コード
N01701830 星降る海

JASRACで調べてたら急に使用禁止になってたんだけど、今までのやつどうなるのこれ……NexToneならセーフだったけど(´・ω・`)
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