私の知ってる超かぐや姫!がなんかおかしいんだけど質問ある? 作:天空ラスク
ぶいあ〜るをダウンロードします。もう何回でも聞きたいからです。
ぶいあ〜るを聞きます。かぐやの新情報を知りたいからです。
この物語を書きます。ラジオでとんでもねぇ事言ってたからです。
この物語を投稿します。ちょっと人理を救いに行ってくるからです。
ここは平和な立川。夏の日差しがうい〜とダル絡みしてきてしつこい事この上ない町。
「ふんふんふん〜、しかのふん〜」
一人の女性が鼻歌を歌いながらコンビニへ向かって歩いている。艶やかな白髪がポニーテールにまとめられ、肌に張り付かないようにしている。髪が退けられ露出した肌は新雪と比べてなお白く、吸血鬼に血を吸われる犠牲者役があれば鮮血と輝く肌のコントラストはさぞかしホラー映えしただろう。三日月のように曲げられた青い目は陽の光を湛えた海面のように煌めいていた。
通りに建つビルのモニターにツクヨミの広告が流れだす。主演を果たすのは当然、ツクヨミの歌姫こと月見ヤチヨ。その広告を見た者たちは何故か鼻歌を歌う女性とモニターの間で視線が揺れている。
その女性の顔が現実に存在しない存在を現実に落とし込んだような、完璧な造形をしていたからだ。
さてさて、長ったらしい前口上はここまで。ここまで褒めればかの女子高生も腕組み後方師匠として下がっていくだろう。約一ヶ月ぶりの主演の帰還を祝うように自動ドアが開き女性を迎え入れた。
配信者
「おいけのまわりにぼろぼろおちてる〜」
入った瞬間に90度方向転換し飲み物コーナーへ向かう。お目当ては2030年の期間限定品、もしくは季節限定の酒。まだ見ぬ未知の味を求めるついでに、なんか面白い商品があればいいなー、と商品棚を流し見ていく。
「ふんふんふ〜ん」
流石は異次元かつ未来のコンビニと言えようか、酒以外にも見た事ない商品がチラホラと散見された。特にこのヤチヨコラボの缶飲料なんてこちらに持ってきたならメル〇リでいくらで売れるだろうかと考え、著作権法侵害しそうだから止めた。
「しかの──」
ふと、ある商品が視界を掠めた。
その商品の名前に見覚えがある。
そのラベルにプリントされたキャラクターの顔に見覚えがある。
そのキャラクターがプリントされたラベルに覆われた商品に見覚えが────ない。
「──ふん?」
てこてこ動いていた足を急停止させ、棚の前で
「あ、あわわわわわ……」
手に持っていた買い物かごにソレの柄違いのものを三本突っ込み、ついでにスーパーならぬハイパードライと書かれた缶を五本突っ込みレジへ向かった。
「あじゃじゃしたー」
「あわわわわわわわわわ……」
細腕に食い込むビニール袋を気にする余裕もなくコンビニを出た。小走りで日陰に向かい空いた手でスマホを取り出す。
検索サイトはどうやらこちらの次元と同じもののようで、コンビニのWiFiに接続したら問題なく使用できた。早速ある人物の名前を打ち込む。
「あがががが……」
瞬く間に出てきた検索結果を見て、生まれて初めて高級回転寿司を食べた美少女宇宙人のような顔を浮かべた。
何度も何度も読み込み直してもその結果は変わらない。ならばとこの世界と最悪な程にベストマッチする彼女達の名前を次々に検索していくと、ことごとくヒットする。一般的に検索してすぐに求める情報が出てくるのは喜ばしい事だが、今の海琴にとっては頼むから見つからないで欲しかった情報でしかない。
「あががががががががが……」
道路工事に使われる
「た、大変だぁ────っ!?」
くい込んで痛みを発してきたビニール袋を胸元で抱きしめ、帰路を全力で駆け出した。
全ては、バッドエンドを防ぐため。ついでに新しい酒を飲み頃まで冷やすため。
「緊急事態です」
少雛家の配信部屋、いつもより気持ちキリッとした目つきの配信者がビール瓶片手にそう言った。残念ながら買ったばかりのハイパードライは体温と夏の日差しでぬるくなってしまったので今回はお休みだ。
下ろした髪を整える余裕もなく瓶をラッパ呑みして落ち着く。火照る身体に冷たいビールを流し込む。苦味のある炭酸が喉の熱を奪って体内で膨らんでいく。麦茶もビールも麦でできてるからこれは麦茶です理論が構築された。馬鹿げてるぜ。
そうしてギリギリ整えたのが、いまさっき帰ったばかりのオフ返上お疲れモード、少雛海琴である。ヤオヨロヤオヨロ(投げやり)。
・いきなりどうした
・そんな汗だくになって、張り付いた服がちょっと江戸いぞ
・酒買いに走ったんか?
・シャンパン浴びたか?
・誰も運動したとか言わない辺り信頼されてるよね、酒カスが
「おいたした人は後で職員室まで来てね……。夏のコンビニから走って帰ってきたんだよ? 汗くらいかくよ……」
いつもの失礼なコメントを咳払いで静かにさせる。今回は本当に緊急事態だと海琴は認識している。
それこそ、かぐやのヤチヨカップ優勝が揺らぐ程に。
「まずはこれを見て。わかる人はこれだけでわかるはずだよ」
ささっと本題に入る。カメラの画角に入らないちゃぶ台の下から三本のペットボトルを取りだし、パッケージが綺麗に写るように置いた。
それ自体は向こうでは普通にコンビニで売っている麦茶に過ぎない。しかしそれをコチラに持ってきた時が問題だ。それ、正確にはそれを作った人が。
それ──黒鬼コラボの〇NICHAを。
・なんだこの麦茶おもしれぇ!
・帝様が桃太郎の衣装着てるの笑うわ
・乃衣くんフリフリのボリュームすっげ
・虎柄パンツとアフロとかなんで着たんすか雷さん?
・言い値で買おう。売ってくれください
「なんとねー、QRコード読み込むと音声が再生されるらしいんだよね〜。こだわりがやばたにえん」
黒鬼達がプリントされたラベルに印刷されたQRコードにスマホをかざす。表示されたリンクに飛んでボタンを押した。海琴自身も初めて聞くからか、ウキウキした笑顔を浮かべている。すぐに酒瓶が口に突っ込まれて魅力がぶち壊れるが。
『子ウサギ共! 底無しの喉を潤してやるぜ!』
『今日も喉越し良すぎ♡でしょ♡』
『水分補給したのか、俺以外のやつと……』
・こっちでも売ってくれ
・乃依くんなんか江戸くない?
・雷だけ面白い男になっとるが??
・酒カスが焦ってる理由わかったわ。そっちにあの人いるんだな?
そのコメントに重苦しく頷く。映画本編だと影も形もなかった存在達。しかし動画界隈においては絶対に語られるクリエイター達。その中の一人にして日本において初めて動画で夢を掴んだ男。
「うん、調べてみたらいたんだよね。チャンネル登録者1980万人、2026年の現在ですら黒鬼に匹敵する日本の動画投稿者の王様が……」
────HIKAKI〇。
スーパーマリオのBGMを神がかったヒューマンビートボックスで奏でて世界中に名を馳せ、今なお有名な動画投稿者といえばいの一番に名が挙がる存在だ。
「ツクヨミは一億人を超える利用者がいる大規模プラットフォーム。四つのSNSの全てで百万人のフォロワーを獲得したあの人が、こんなブルーオーシャンを見逃すはずがないよね〜……」
「(あー頭痛くなってきた、ビールおいしい……)」
額に手を当て空を仰ぐ。無機質な白い照明が自分を慰めてくれてる気がした。というか、ラスボスレベルの敵が増えるのはダメじゃない……?? と、あまりにもあんまりな強敵に涙がこぼれそうだった。
・えーとつまり、ヤチヨカップにヨウツベの王が参戦すると?
・待て待て待て待て! こっちの世界ですら黒鬼並の登録者なんだぞ!? 向こうは何人なのか予想すらできねえよ!?
・酒カス、ヒカ〇ン以外はいないのか?
・あ、そうじゃん! ぶいあ〜るでかぐやが星街すいせいの曲聞いてるって言ってたからホロライブがいる!
また頭痛くなりそうな名前が出てきた。
見つめあっていた照明から卓上のカメラに視線を落とし、顔を手で被ったままどうしたもんかと首を横に振った。
「ホロライブねぇ〜、ホロライブかぁ〜」
向こうで調べた情報を思い出すと背筋がゾワゾワしてきた。敵はHIK〇KINだけじゃない。こちらもまた強敵なのだ。
「ホロライブ……誰も卒業してなかったよ。みんな元気に配信してたよ……ツクヨミで」
向こうの民度は頭ハッピーエンドだから、誰も精神的に参ったり病気になったり、会社と揉めたりしなかったらしい。オマケに炎上も一回も無し。……どうすんだ、これ。
・…………????
・え?誰も?どゆこと?
・いるのか!? るしあとかなたとココとあくあとぐらとめると青とクロエが!?
・卒業生そんなにいたの?
・
・来るのか!?誰も欠けてないあの頃の、止まらないホロライブが!?
スーパーチャット累計ランキングVチューバー部門世界一位。世界で最も愛を呟かれたネクロマンサー、
同じく、世界三位。元世界一にして元祖三億の女会長、
同じく、世界六位。圧倒的なゲームセンスが光る陰キャメイド、
同じく、世界九位。ゴリゴリに才に溢れた天の歌姫、
そして、チャンネル登録者数Vチューバー部門世界一位。
かつて世界を取った五人の女が今も尚ツクヨミで活動しているという事実。それ以外のメンバーも世界を相手に戦った女傑、皆が強敵だ。しかもこちらの世界で卒業していないメンバーも当然いる上、その中に世界ランカーがゾロゾロといる。なんだこれ地獄かね? はい。
・今調べたけどVチューバーって世界一でも約400万人でしょ?黒鬼より格下じゃん
だいぶふざけた事が書き込まれていた。まず他所の人を見下げるなと文句を言いたいところ、それを飲み込んで事実を告げる。
「黒鬼も実写を写してないから定義的にはVチューバーだよ……」
現代日本において顔出ししないのはとてつもないデバフ……初見での悪印象が浮き上がる。
人は顔を見てその人がどんな人か印象付ける性質があり、顔が見えなければ印象付けようがないのだ。どんな顔をして話しているのか、楽しそうな声で話しているだけで顔は笑ってないんじゃないか。そんな事を思う人間はゼロではない。
結果的に顔出し配信をしない人は顔出し配信をする人より再生数が伸びない事を余儀なくされてしまう。それはVチューバーにも当てはまる。
実写の顔では無いが目があり、口がある。表情を表す最低限のパーツを動かせる。
だが、気にする人からすれば彼ら彼女らはあくまで平坦な絵に過ぎない。どれだけ感情豊かに見えようと人としての本質を映す鏡にはなれないのだ。
──と、ここまでがこちらの世界の都合。
「問題です。月見ヤチヨの中の人が彩葉に自分を見てもらいたい時に手に入れられる身体はどんなものでしょーか! はい! Live2Dと3Dモデルです!」
そう、ヤチヨが彩葉と会おうにもその体には肉がない。平面の絵か立体の絵しかない。
ならどうするか、8000年前から人の暮らしを学んできた存在がインターネット文化の発展に介入したらどうなるか。
そうだね。平面の女の子を日常的に見慣れたものにしてしまえばいいね。
「あ〜もう! なんなのなんなのず〜っと問題ばっかり! なんか恨みでもあんのかこんにゃろ! ちくしょう! だあああああ許せねええええええ!」
激ヤバ鬼難易度にヤチヨロールプレイもボロボロだ。元からハゲてる? それはそう。
回って飛び跳ねその辺バンバン叩いて踊って、アル中にそんな全力で暴れ続けられる体力があるはずもなく、カメラが見ている前でちゃぶ台に突っ伏した。オフの日に大変ですね。
・見た目ヤチヨなのに言動がかぐやなんよ
・これはこれでありか?
・お前の素そんなんだったの?
・あの二人なら何とかなんべ
・いやかなり厳しくないか?絶対ほかにも大物いるぞ
・なんか手伝えたら良かったけどな……
「おやおや〜? 今もの凄〜く都合いい事言ってくれたね〜?」
ギラリ、と目に凶暴な光を灯した海琴がボロいヤチヨの皮を被り直した。
「うん、それじゃみんなもツクヨミに来てもらおっかな。人手はあっても損しないからね〜」
・目が怖いっピ……
・こんなのヤチヨじゃないわ!ヤチヨの皮被ったプレデターよ!
・ツクヨミに行けると聞いて!
「えへへ〜、そんな怖がらなくていいのに〜。ひどぉ〜い」
不気味な笑顔を浮かべたヤチヨ()がジリジリとちゃぶ台に置かれたカメラに這い寄る。このバケモンを時放ったやつは誰だ。
・カメラの傍に近寄るなあああああああああ!!
・わあ、おはだきれい
・待ちなさ〜い!この酒カス、このまま俺たちにキッスするつもりよ!
・そんなの許されるわ!
「神々のオタクはいつもちゅー好きだね〜。……あい、チュッ」
普通に座り直してカメラに呆れ顔を向ける。これで協力してくれるんなら、とカメラの向こうの視聴者たちに向けてヤチヨ難民特効兵器とかした顔面で投げキッスを飛ばした。この投げキッス、麦の香りがする……。
コメントは止まった。仕方ねぇなー、と放たれた投げキッスが心臓を撃ち抜いたせいである。
やれやれとなんだかんだ素直になれないコメント共に肩をすくめ、
「概要欄にキャラクリ用のアプリのURL貼っといたから、ツクヨミ来たい人は作っといてね。時期が来たらスマコンを贈るよ〜。それじゃ私はお着替えするから、一旦さらば〜い。……ホントに止まってんなコメント」
配信を一旦切り外着からいつものダル着に着替える。その途中、
「(バイザー付ける前にスマコン付けたらどうなんだろ)」
ふと思いついたのでやってみる事にした。支度はすぐに終わったので配信を再度付け、もう一度向こうの次元へと旅立った。
とりあえず目先の問題は今のところ無い。大物が相手だろうが、かぐやと彩葉のポテンシャルを信じよう。もし危なかったら手を出すが、元々自分たちはこの世界に存在しないので出しすぎも危ない。
「まぁ、なるようになるか〜」
ストリート風十二単に身を包み、絶妙に気力の抜けた酒カスが彩葉家に降り立った。
衣装変わっとる! と驚くまであと────三十分。
次回から本編でもノベライズでも二次小説でもダイジェストになるヤチヨカップ編、イクゾー!(デッデッデデデデ!カ-ン!デデデデ!)