私の知ってる超かぐや姫!がなんかおかしいんだけど質問ある? 作:天空ラスク
「かぐやっほー! 月からやってきたかぐやだよー! 今回は激辛の大食いにチャレンジ! 全部食べきったら、高評価にチャンネル登録してくれよなっ☆」
私の構えるカメラに向かってかぐやが元気な挨拶をする。
恥ずかしげもなくウインクを決められるのもある意味才能だと思う。
最後の撮影はかぐやが作った大盛り激辛料理を自分で食べるというシンプルな内容だ。唐辛子にハラペーニョと辛いものを次々と放り込んだソースに塗れたパスタが真っ赤に主張している。さすがに加減したのか重さにして一キロ程だが、激辛が一キロは普通に舌が死ぬ事をあの宇宙人は理解しているのだろうか。……そもそも激辛が何か理解しているのか?
オープニングもそこそこに終わらせて、過酷な企画が始まった。
「いっただっきま〜す! あ〜〜、んっ」
映像映えするように大きく巻かれたパスタの塊を全部口の中に一口で放り込む。口の周りに赤々としたソースが付着して口紅に失敗したような見た目になったが痛くないのだろうか。
「おん? 意外といけ、な゚っ〜〜〜〜!?!?」
うん、予想通り。
拍子抜けしたとかぐやが目を瞬かせた次の瞬間、顔全体が一気に赤く染まる。しっぽを踏まれた猫のような悲鳴が挙がった。辛さが後から遅れてやってくるタイプだったらしい。
ソースが手に付着するのも構わず口元を押さえる。流れ星が飛び込んだような瞳は限界まで見開かれ、じわじわと雫が浮かび上がってはちゃぶ台に落ちていく。
チラと涙に濡れて煌めく一対のルビーと目が合った。
『ミコ、コレ全部食える?』と言っている視線が気に入らなかったので『無理♡』とウインクで返す。これはお前が始めた物語だろ。まだ10
一瞬青ざめたトマトかぐやだったが、その瞳が鋭さを増す。その濡れたナイフのように鋭い闘志をパスタに向け、フォークを突き刺した。はらはらと涙を零しながらも一口、また一口とパスタを口に運んでいき皿から激毒が消えていく。
かぐや、あんた男だよ……。感心を超えて敬意すら感じてしまいそうだ。頑張って欲しいと祈りを込めて
「くっそぉぉぉぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
やる気が出てくれたようでなによりだ。笑顔は幸せのお
それからかぐやは黙々とモグモグし続ける事、実に二十分。その努力の甲斐もありもうすぐで半分を切るところだ。
その勇姿をかぐやの登録者三十二万人に届けるために逃さず捉える。このままのペースで投稿を続ければ原作通りの百万人超えも夢じゃなさそうだ。私のチャンネル概要欄にかぐやいろPチャンネルへ誘導するURLを貼りつけておいたから、原作よりもチャンネル登録者の増加ペースは早くなるだろう。それくらいしないと勝ちの目が見えない。
それでも、約一週間で三十万人越えの登録者を捕まえるのは並大抵の才能では不可能。無邪気に全てを楽しむその姿勢と何もかも楽しんでみせると輝く瞳が初見の人を捕まえて離さないのかもしれない。
「はっ、……はっ、……まだ、やる」
制止の意味を込め視線を送ると声を震わせながらもやり遂げてみせると伝えられた。
そう、かぐやは諦めない。かのブラックオニキスにも啖呵を切ってみせたかぐや姫だからこそ、八千年の旅路を超えても精神が崩壊する事なく再会を果たすことができたのだ。
だけど、もう止め時だ。元から赤みがかっていた目が更に真っ赤に充血している。これ以上食べ進めれば明日の撮影に支障が出るだろう。
私のスマホを操作して、ブー! とチープな電子音を鳴らす。これは先に話し合って決めた本当にダメな時の合図だ。
「っ、くっそぉぉ、あと゛半分だった゛のに……」
ピタリとフォークを止め、悔しそうに顔を歪めた配信者の姿から目を背けたくなる。
「お疲れ様。あとは私に任せて休んで」
「あ゛り゛がっ、がっ……」
ここからは編集でミュートにするから喋り放題だ。痛覚を和らげるために湧き出たヨダレを飲み込みながらのお礼の言葉を受け取る。激辛料理を食べたあとの唾液はそれ自体が辛味を帯びているから、牛乳を飲んだりして口の中を洗わないといつまで経ってもかぐやは地獄から帰ってこられないだろう。
冷蔵庫から牛乳を取り出してがぶ飲みするかぐやを尻目に、残されたパスタ皿を手に取った。
「大丈夫だよかぐや。仇は取っておくから!」
ご飯を残す配信者は美少女であっても叩かれるのが世の定め。【※このあとアシスタントが美味しくいただきました】のテロップと空っぽの皿を後で編集で入れるために、私はこの地獄に立ち向かう。
宇宙人の汗と涙が染み込んだフォークを手に、かぐやいろPチャンネル用のカメラに写りこまない位置に腰を落ち着ける。
行くぞ冷蔵庫────牛乳の貯蔵は十分か?
「ち゛うち゛うち゛うち゛う」
「いや、あのね? かぐやも全部飲み干すつもりはなかったんよ? でもさぁ、パックの半分しか入ってなかったらそりゃ飲むじゃん」
撮影が終わり、私は畳まれた布団に背を預けてミルクを飲んでいた。
────────哺乳瓶で。
「ち゛うち゛うち゛うち゛うち゛うち゛う」
「本当に、くっ、すみませんでし、たクフっ」
これはかぐやが赤ちゃんだった頃の残りだ。あの悪童が私の分の牛乳も飲み干したせいでこの世に闇落ちメガネヤチヨベイビーが爆誕したのである。
あまりにも絵面が酷すぎる光景を前にして、さすがのかぐや姫も腹筋に来たようだ。床に膝を着き頭を下げながらもポップコーンのように小さな笑いが漏れ出している。こんなコラ画像みたいな光景目の当たりにして素面でいられるヤツおる?
「ち゛ーうち゛ーうち゛うぅぅぅぅぅ」
なので、報復も兼ねてジト目で見つめながらこれ見よがしに哺乳瓶の乳首に吸い付いている。そのまま笑いすぎて腹筋がバキバキになればいい。
「ぶはっ! 悪かったって〜! それやめっ、あっははははは!」
お腹を抱えて転がるかぐやを死んだ目で眺めていると、外からカンカンと金属質な音が断続的に鳴る。どうやらここの家主がバイトから帰ってきたようだ。ぐぐがが。
……ん? このままだと私は推しに哺乳瓶に吸い付いているところを目撃されるのでは?
そうなった場合どうなってしまうのか彩葉視点をイメージする。
迫り来る金属音が死のタイムリミットのように聞こえてくる、そんななか脳内に浮かび上がったのはツクヨミ管理人にして最高の歌姫。女神にして至高の推し、月見ヤチヨがドブみたいな目で哺乳瓶に吸い付いている地獄絵図。
これはダメだ。彩葉の目にそんな光景が焼き付いてしまったら、今後ヤチヨを見た時に彩葉の脳内に地獄絵図がリフレインしてしまう。
「ごめん!」
「はははははぬぶっ!?」
床の上で笑い転がっていたかぐやの口に哺乳瓶をシュート。これでゼロ歳時がミルクを飲んでいるだけの在り来りな光景に上書きされた。この素晴らしい仕事には現場猫も泣きながら拍手喝采を送ってくれるはずだ。
この少雛海琴に恥ずべきところなど、あんまりない!
・帰ってきたら推しがスケスケになってる所を目撃する羽目になる彩葉さんよ
・黙っとけ、酒カス気づいてないんだから
・《¥1500・username・フランスの鈍器》エッッッな絵の参考に……しちゃダメか
・⬆通報するところだったぞ
「た、ただいまー……」
「あっ、おっかえり〜☆」
何かコメントが不穏だけど、そんな事よりも彩葉が帰ってきた事の方が重要だ。チラと見ればバイト疲れで足取りが覚束無い様子。
一度横になってリラックスしてもらおう……床汚ったないなぁ!?
力無く哺乳瓶をしゃぶるかぐやをモップ代わりにおもちゃ達を部屋の脇に寄せ、配信用の小道具という名の謎の置物達の中にかぐやを沈める。物が増えすぎてまともに寝るスペースの確保も手間取るのはどうかと思うよ、かぐや。
窒息されても困るので頭の上に乗っている物だけ退かすと、死んだ魚みたいな目のかぐや姫と目が合った。生存確認完了したので口周りだけ残して埋め戻そう。おもちゃの山から突き出た哺乳瓶が水遁の術をやる忍者の呼吸用の竹筒みたいでウケる。
『ち゛う〜』
「あのー、海琴さんは何をやっていられるので?」
埋まりながらミルクを飲むかぐやに肯定するように頷いていると、背後から彩葉が声を掛けてきた。その声色には疑問と困惑がごちゃ混ぜになって乗せられている。
何をするかなんて野暮な事。ヤチヨ本人が十年後やるだろう事を先んじてやるのだ。そうだね、肘枕だね。
ヤチヨがやるようにコロコロした笑い声をあげ、
「おやおやぁ? 彩葉さんや、すっごくお疲れだね〜。ここはいっちょ、ヤッチョの膝枕なんていかがかな☆」
ふっ……決まった! このヤチヨスマイルと共に放たれた甘々なお誘いは対彩葉特攻兵器、全画面攻撃並の当たり判定だよ!
「や、ヤチヨ────────────────うん????」
……あれ? 何か変だったかな。
疲れに疲れた彩葉が私の顔を見てその目に涙を浮かべたかと思いきや、何故か視線を下げた途端に顔がいちごみたいに色づいた。
「ああああああの、服がですねっ、ちょっと見ておいた方がいいかとっ」
「なんだいなんだい? 服が何か──」
どうしてか吃る彩葉の言う通り今着てる服を見る。
先程食べきった激辛パスタの影響だろうか、どうにも辛いものを食べると人は汗をかくようにできているらしく、汗で白いシャツが透けて所々で薄く肌色が顕になっていた。薄手の服を選んだのが仇になったか。
「──あっ。……
ヤッバ、ちょー恥ずい〜〜っ!!
この展開は私がやるべきじゃない! 彩葉とかぐやとヤチヨが平和に日常を送ってる時にちょっとしたイベントみたいになるやつだ。
自分を抱き締めて透けている所を隠すように身を縮める。彩葉の目に映るヤチヨの顔は恥ずかしそうに頬を上気させていた。
そんな時、不意を着くようにダン! と背後から床を力強く踏み締める音がした。
「えっ?」
「ミ〜〜コ〜〜?」
地の底から響くような、今にも噴火寸前の火山のような怒りを内に秘めた声が私の耳のすぐ近くから発される。視界の端にさらりとした金髪が映り込む。
腹回りに白い腕が回され、抱きしめる体勢に入る。へその辺りまで伸びてきた両腕の片方には先程宇宙人の口にゴールインしたはずの哺乳瓶が握られていて、まだ半分以上残ったミルクが反動でチャプリと水音を奏でた。
「それ! 私の! 返して〜〜!!」
「ちょっ!? 彩葉取る気はないよ!?」
私いつからかぐやのになったの? と呟く彩葉が離れていく、いや、私の事を後ろから抱きしめてるかぐやによって離されている。
力が込められた腕が服の生地を引き伸ばして肌の透け感がより強調されていく。肌に食いこんだシャツがぴっちりと張り付き胸の形やサイズ感が丸わかりだ。
やだやだやだ! 彩葉が私の事見てる! こんな恥ずかしいシーン見ないで、かぐらみたいな贋作のサービスショットなんて誰も得しないじゃん!?
「は、離して〜!」
「い〜や〜だ〜! 彩葉はかぐやのだよ〜〜!!」
彩葉がずっと私とかぐやの争いを見てる。一瞬かぐやに視線を逸らして、また私に戻ると顔色がまた赤くなる。見てはいけないと思いつつも、ついつい見てしまうと言いたげな表情だ。
だから! こういうのは本人がやるべきだろー!?
「ふぬぬぬぬぬっ! ────えいっ!」
腕、腰、足と全身を使って宇宙人の拘束を揺さぶり、とうとう抑えきれなくなったかぐやがバランスを崩して倒れた。
さすがにゼロ歳児には負けないよ。何はともあれ、このまま汗だく状態で膝枕するのも恥ずかしいし恐れ多い。彩葉の予定表を見るにお風呂のお湯は張られてないし、サラッとシャワーだけお借りしよ────、
そんな思考をしながら倒れたかぐやを見ると、その手に哺乳瓶は握られていなかった.
突如、頭頂部に衝撃が加わる。想定外の痛みに驚き思わず声を上げた。上から落ちてきた何かがその中身を頭にぶちまけ、全身が白濁した液体にまみれていく。軽いプラスチックの落ちる音を聞き反射的に床を見たら、視界がミルク色に染まり何も見えなくなった。
「うわっ!? 目ぇ痛っ──」
異物が目に入った事で痛みが生じる。悪化を防ごうと上を向き、一歩後ろに下がった。
一瞬の感覚、足の裏で円筒型の何かを踏みつけた。そう理解した時は既に遅く、私の体は後ろに倒れていた。
「──えっ」
大きな反応を出すよりも早く、後頭部が床に散らばっていた置物に強く叩きつけられた。ハンマーで頭を殴られたような痛みと共にバキ、と硬いものが割れた破砕音が小さく鳴る。割れたのは何か確認をしたいが、一瞬の間に起きた事が未だ飲み込めていなかった。
「あっ……たま痛い〜〜っ、助けて〜〜!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「うわっ、ミコごめん!?」
ミルクで濁った視界が涙で流れていく。痛みを抑えようと後頭部を押さえると、ミルクでベタベタした髪の中に硬質な物体があった。それを手に取り目の周りを拭ってから見ると、ヤチヨの頭にあるドーナツのような二つの輪っかを再現する髪留めが粉々に砕けていた。
家に帰ればまだ替えがあるけど、これの為だけにわざわざ帰る事を小槌は許してくれるだろうか。
……と、それは今は一旦置いておこう。思いっきり頭をぶつけたから彩葉もかぐやも心配してくれてる……かな? まだ目がちゃんと見えないから二人が目の前に立っていることは理解できてるけど、どんな顔しているかぼやけて見えない。
何度か瞬きを繰り返してミルクを流していく。ようやっと晴れた視界の中、普段より明るく見える照明の下で二人は何故か顔を真っ赤にして私をじっと見ていた。
「……? ねぇ、ヤチヨの顔になにか着いてる?」
「いや、着いてるっていうかですねー、その〜〜……」
「ミコが、……色っぽい、……だと……」
要領を得ない二人の言葉が理解できない。だけど私の外見が何かおかしな事になっているのだろう。
綺麗に整えられていたヤチヨのヘアスタイルは髪留めが壊れた事でストレートになっている。ミルクでベタベタになってしまって立ち上がるとぽたぽたと白い雫が床に垂れていく。……でも、そんな顔を真っ赤にするような事でもないような。
二人の視線を辿って私の体を見下ろすと、
「あ」
元々汗で張り付き透けかけていたシャツが完全に透けて、肌の色も体型も完全にあらわになっていた。
「あ、あわわ……」
へなへなと足の力が抜けていき、ミルクにまみれた床に座り込む。また先程の繰り返しのように私を抱き締めて隠そうとしたが完全に張り付いているせいでもはや裸にビニール袋の服を着ているような状態だった。
「み、見ないでぇ〜……」
ボロボロと止まらない涙を目元に浮かべながら彩葉を見上げると、何故か心臓の辺りを握り締めるようにして床に崩れ落ちた。
「え、エロ同人で見た事あるっ……!」
小さく何かを呟いて、それっきり彩葉は動かなくなった。その横顔は悟りを開いた賢者のようだった。
「ミコ、恐ろしい子っ……!」
ねぇ、かぐや。なんでそれ今言ったの?
私は愕然としたまま、白目を向いて劇画みたいな顔で固まったかぐやと安らかな微笑を浮かべて倒れる彩葉というカオスに乗り遅れた。
なお、この後意識を取り戻したかぐやと一緒に彩葉を介抱しようとしたら何故か拒否られた。
彩葉には刺激が強すぎるよぉ!! とは一体何なのか、その謎を探るため我々超かぐや姫! 探検隊はお風呂場へと旅立った。
あーもう、髪も胸もお腹も全身ミルクでベタベタだよぉ……。
酒カスマメ知識
ヤチヨの髪型を再現するために使っている髪留めは、かぐやのアホ毛以上に自由に動かせる二本の長〜いアホ毛を封印するための留め具である。そのアホ毛の長さたるや、実に140cm、身長とほぼ同じである。
決してゴキブリと言ってはいけないのである。
決してゴキブリと言ってはいけないのである。
決してゴキブリと言ってはいけないのである。
え? 留め具壊れたって?
……。
ゴキブリ、解放──────!!
大規模コラボってあり?
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アリ
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ナシ