私の知ってる超かぐや姫!がなんかおかしいんだけど質問ある? 作:天空ラスク
僕が放った唄に気付いてないならいつまでだって歌おう
Side:酒寄彩葉
食卓を2人で囲む。夜も更け星が窓から覗いてきそうな良い夜空が見える。少雛海琴を名乗る異次元人は『同居人にまた心配かけちゃうから、そろそろお暇するね〜』とほんのり湿気が残る長い白髪を手で梳きながら押し入れに帰って行った。
風呂に入ったのに化粧が落ちてないのも気になったけど、自分で髪を乾かしきれてないのがなんだか子供みたいで、つい乾かそうかと声をかけるところだった。まぁ、あとで九歳って聞いて面食らったけど。げに理解し難き
というか当たり前みたいな顔して押し入れに帰られるとドラえもんみたいなんですが。
「今日はねー、なんなんなんとぉ! 十本も撮影しちゃった! へへ、かぐや、ライバーの才能アリアリ〜」
スペースプリンセスは冷えたコーラを二人分持ってきていえーい、とVサイン。なんと両手でキメてドヤ顔まで着いてきた。
「なるほど? 今日ご飯少なかったのはこれが飲みたかったからか」
「うん! これはねー、かぐやが初めて稼いだお金で買ったの! 言わば、ヤチヨカップ優勝祈願の勝利の美酒!」
そうかそうか、ペットボトルをワインソムリエのように回してご機嫌らしい。ズンドコ踊りながらポテチも取ってきた宇宙人が着席したら小さなパーティの開始だ。
「カンッパァァァァイ!」
「乾杯」
グラス代わりにペットボトルを打ち合わせる。ボン、とプラスチックがたわんで間抜けな音が鳴る。肩の力の抜け切ったこの場ではこんな音も悪くない。
そう言えば、冷蔵庫の中にはコーラが三本あったはず。帰ってなければここに一寸法師も居たんだろうな。……自前の酒持ってきそうだなぁ……。
「──でも、ミコが本当に映せない目ぇしてて〜。彩葉も見たでしょ? あの暗ーいやつぅ」
おっと、考え事してたらもうかぐや姫が話し始めていた。海琴さん、いや、かぐや曰く九歳だからさん付けはいらないか。一旦思考の端に置いておこう。今は目の前の事に集中しないと。
「え? 普通にキラキラしてたけど」
私に微笑みかける彼女の目は目の前のかぐや姫みたいに星を散らして輝いてた。この宇宙人は嘘つくの下手そうだから本当の事言っているのだろうが、正直半信半疑。
「マジか!? クッソォ、彩葉の事好き過ぎんでしょ! ぬぎぎぎぎ……あ、そうだ! 彩葉と一緒に撮ればいいんだ! うん! そっちのが楽しい〜!」
「やらないってば。楽曲は提供してあげてるでしょ」
「やーだー! やってやってぇ! オタクは彩葉の魅力にメロメロになって、かぐやは彩葉が人気になってウハウハになる! そんで、彩葉はヤチヨとコラボできる! 彩葉なら〜っ、できるっ!」
ドヤ、と得意気に語られても……、私にそんな人を惹き寄せる魅力も魔力も何もないんだわ。
「キャラ的にも能力的にもあんたが適任。私みたいなモブは出ていっても打たれて潰されんの!」
かぐやの普段の配信スタイルを見ていると、本当に唐突に『いろPについて解説するっ!!』とかやりかねない。宇宙人のイノシシじみた勢いによる事故は不可抗力だと諦める訳には行かないのだ。
「あ、じゃあさじゃあさ! 明日ツクヨミで路上ライブやるのってどう! いろP、伴奏お願〜い☆」
やる訳ないだろ。私はバイトと勉強で忙しいんだよ。
「大丈夫! ちゃんと彩葉の事情もちゃんと考えてあるから!」
水戸黄門の印籠みたいに構えたスマホを見ると、狐の着ぐるみを抱えたアバターのかぐやが楽しそうに笑っていた。
「ふかふかの服! これ着れば目立ちたくなーいって彩葉のお悩みも解決ぅ!」
やらないと言ってるのにどうして私を駆り出そうとする。こればっかりは譲らない。ライブはかぐやだけにして。忙しいと言ってるのにどうして伝わらない。
「……いろはぁ。かぐや、彩葉と一緒が良い」
キュルン、と瞳に涙を浮かべて上目遣い。
「かぐや、彩葉に伴奏してほしい……」
ああ、あざとい。汚いぞ宇宙人。だが甘いな、そんな物でこの酒寄彩葉を動かせると思っているのか。
さぁ、断りの返事を聞け。
「……い、一回だけならね」
照明に照らされたようにパッと光った笑顔を見て、やっぱりこの宇宙人の巻き起こす出来事は不可抗力だと思った。
時刻は午後十時。いつも布団に入る時間にも関わらず、今日は珍しくかぐやが付いてこなかった。
あれ、今日は一緒に寝よーとか言わないんだ。と聞いてみたら、
「へへへ、ネタ探しとかウケそうなゲーム探しとかやってっと時間足んなくってー。だから、彩葉先寝ててー」
ということらしい。なら久しぶりに一人で眠る時間だ。
電気を消して瞳を閉じる。カチカチとマウスを操作する音を背景に睡魔に身を委ねる。
いつも感じる重みがないせいか、いつもより寝付きが悪かった。
あれから何時間経っただろうか。ぼんやりとした意識の中、水底から登る泡のように歌声が微かに聞こえてきた。
『物心がつく頃──すでに此処にあった──僕じゃない誰かの記憶は──夕陽とともに蘇る──』
「(……かぐや? ったく、こちとら疲れてんだっての)」
眠気と疲労感が重く全身にのしかかる。貴重な睡眠時間を削った悪童を成敗するべく、筋肉を総動員して立ち上がる。
『自分の価値に目を疑って──どこまでだって堕ちて行けるの──どこか遠くに消えてしまいたい──こんな世界じゃ僕はいらない──』
数秒前まで眠りに沈んでいた頭と月光の薄明かりでは、この部屋のどこに何があるか理解しがたい上に見づらい。その上ごちゃごちゃとした置物やおもちゃが床に散乱していて、踏んだ瞬間にマキビシのように激痛が走るか情けなくすっ転ぶかの二択を迫られるときた。
どこかに閉じこもって歌っているのか、壁越しに聴くようにくぐもった歌声を頼りにゆっくりと歩みを進める。
歩みを進めるにつれて歌声の発生源が分かった。トイレだ。恐らくだけど此処にこもればあんまり響かないとか考えたんじゃないだろうか。甘いな、ここのアパートがそんな防音性能高いと思ったか。
……まさかこんな時間にまで配信して登録者を増やそうとしてないだろうな。もしそうだとしたら注意しよう。無理やり住み着いた様なものとはいえ、体調を崩して風邪を引かれたら私にも感染するかもしれないし。
足元を注意深く見ながら歩いていたおかげか、障害物を踏む事なく足を運べた。トーテムポールもダルマもマトリョシカも、
天の川のような金髪も。
「──は?」
暗闇の中それを視線でなぞると気持ちよさそうに寝息を立てるかぐやの寝顔があった。
「ねぇ起きて、今はあんたの宇宙人パワーも借りたいんだよ」
近所迷惑にならない程度の声量で声をかけ覚醒を試みる。しかしコイツときたら、すぴょすぴょと鼻ちょうちんまで膨らませだした。
じゃあ、この歌声の主は誰? ……いや、それは後でいい。
侵入者が誰にせよ、私一人で完璧に対処できるとは思えない。スヤスヤプリンセスを揺らして睡眠をキャンセルさせてもらう。二人がかりなら取り押さえられるだろう。
警察を呼んだ方がいいかもしれないけど、今のところ歌声の主はトイレから出てくる様子はない。
しかし、いくら揺さぶっても眠り姫が目覚める事はなかった。
「(なんだ? いつも私より早起きするくらい寝起きは良いのに、どうして起きないの?)」
トイレに閉じこもった誰かにバレないよう警戒しながら人を起こす。文章にすれば簡単な行動だけど、実際やってみると緊張して汗をかいてしまう。こめかみから頬を通って顎から垂れた雫が床に落ちる。
「(……)」
仕方がない、こっそりと覗いてどんなヤツが居るのかだけ確認しよう。
護身用として念の為木製バット(かぐやが買った)片手にドアノブに手がかけられる位置まで進む。
『一等賞で駆け抜ける君──くっついてただけの僕でも──君の前を歩けるかな?──こんな頼りない僕でも──』
宇宙人を起こそうと試みている時に気が付いた事がある。歌い方が上手に歌おうとしているソレではない。何か嫌な事があって、ヤケになったような声と抑揚だ。それがなんになるかと言われると困るが、少なくとも精神状態が悪い事は想像できる。
『宝箱はホコリを──被ったまま無くした──鍵はずっと君の──ポケットの中にあった──ゲホッ、ヴッ────っはぁ、はぁ』
咳き込みからの吐瀉音。吐くくらいなら無理して歌うなっての! 声色も最初の方と比べるとがさついてるし、かぐやモドキ(仮)の歌い方は喉に負担がかかっているようだ。
ドアノブを捻れば錆び付いた部品がギィィ──、と耳障りな音を鳴らす。開いた隙間が広がるごとに蝶番も異音を奏でて演奏に加わった。
『散らばってた全てが──今一つに重なる──手を取り始めよう──僕達の物語──』
────そして、床に座り込む白髪の少女を見つけた。便器の方を向いているうえ、長い白髪が遮って表情は分からない。
照明に照らされたその背中は酷く小さく見えた。
「海琴!? 帰ったんじゃなかっ──」
思わず大声を挙げたがそれを中断せざるを得ないほどの異様な光景を目の当たりにした。
缶が床一面に散乱している。少なくとも十本はあるそれらは全て開封されており、飲み干されたのが見て取れる。今の季節は夏、冷えた缶なんて出せば直ぐに結露するはずなのに一つも水に濡れていない。何かしらの影響か……常温で呑んだか。
更に加えれば換気扇が回っているにもかかわらず酒気が蔓延している。転がっている。それに酸味のある匂いまでしている。まさか、呑んで吐いてを繰り返した?
『一度はいらないと思った──今なら胸を張れる──気がしたんだ──……んぁ? だれぇ? ────あ〜、いろはだ〜♡』
声に反応したのか歌を中断して海琴が振り向く。その目は焦点が合っておらず、だいたいこの辺〜とばかりに空を
その口の端から垂れるてらてらと金属光沢を放つ黒い液体が、彼女が本当に異次元の存在なのだと自覚させられた。
「あれれ〜? おかしいぞ〜? みんな起きないよーにしてたのにな〜」
可愛らしく頬に人差し指で触れ、壊れた人形のようにカクリと首を傾げる。形のいい口からはヤチヨに寄せた口調のかぐやの声が流れてくる。それなのに顔はヤチヨのもので、だけど口元から垂れる異様な黒に目が吸い寄せられる。まるでホラーゲームのような状態の彼女から目が離せなかった。……なんだ、これは。
「んもう、しょうがないにゃ〜────────ありり、どこかな〜?」
首から下げられたメンダコの中に腕が突っ込まれ、ゴソゴソと掻き回す。腕が大きく動く度にメンダコの中から缶にお菓子がこぼれ落ちてくる。普段から貴重な小槌をそんなところに入れるか、とは思っていたけど、あのメンダコ自体も現代の理屈じゃ測れない代物のようだ。
「海琴、帰ったんじゃなかったの? それにこの惨状もちゃんと説明して貰わないと──」
「帰れなかったんだ〜♪ きっとかぐらが向こうで異物だから、帰ってきちゃだめだよって神さまが言ってるんだね〜☆」
海藻のようにゆらゆらと揺れながらそんな事を話す海琴の目は夜の海のように暗い。
「かぐら? 異物? 訳分かんない情報増やさないで、全部説明して!」
「大丈夫だよ〜、私は最っ強の完璧配信者少雛海琴だから! だめだめかぐらはハッピーエンドまでお休み、だからぬるくても呑まないと、もう素面じゃむりむりなんだよね〜。ゔっ、……っん」
えづいて吐きそうになった口を空いた手で抑えるその姿を見て、何だか他人事に思えなかった。
──どうせ目指すなら一番やないとあかん。はなから二番三番を狙うんやったら、なんの努力もいらん平地を素通りで通った方がマシや。
いつだったか、母に怒られた時の言葉を思い出した。
確か、ピアノの発表会で銀賞を取った時の事だったような気がする。満面の笑みで母に駆け寄る私に、
──何わろてはるの。
真顔でそう言った母の言葉に、それまでの努力を全て否定されたような気がして、キラキラと輝いて見えた銀メダルが酷く恥ずかしい物のように思えた。
私はそれから何事も一番を取るために努力を続けた。
けど海琴は、いや、仮称かぐらとしておこう。かぐらは私と違うアプローチを取ったんだ。何もかも完璧にできる
それは、痛々しい現実逃避の姿。彼女にとって月見ヤチヨこそが理想に近かった、だからヤチヨのそっくりさんとして
そんな彼女が私達をハッピーエンドにする? あぁ、実にふざけてる。B級映画でもこんなストーリーは作らない。そういえば、あの宇宙人が前に言っていた言葉を思い出した。
──だって、全部終わったらミコ消えちゃいそうなんだもん!
あれはきっとこの事を言っていたのかもしれない。宇宙人的な第六感か、はたまた単純な直感か。一寸法師は私達をハッピーエンドに連れて行った時に理想の皮をまだ被れているのか。
そんな事はもうどうでもいい、大事なのはこれからの事。私はもう宇宙とか異次元とか受験とかバイトとかヤチヨカップとか手一杯なんだよ。
だから、その皮に隠れた
……まぁ、全部宇宙人任せというのもアレだし、後ろからついて行くくらいはしてあげるよ。
「……かぐら、ちょっと話を」
「──あ、あった〜〜♡ い〜ろはっ、もうお休みの時間だよ〜? ぐっすり眠って、今見聞きした事は忘れてね〜」
話は小槌を取り出した一寸法師の暴挙によって遮られる。流れるように振り下ろされた小槌がぼんやりと白い光を放つ。
「ちょっ、なんでいきなり願いをっ……!」
私の体が小槌と同じ光に包まれる。せっかく一寸法師の事が分かったかもしれないのに、何の抵抗もできずに眠らされてしまう。そう思っていたけど、
ガラスが割れるような音と共に光が四散した。
「──っ、助かった……?」
「むむっ? 小槌が失敗した? すごいねいろは、そんなのはじめてだよ〜! 眠気に強いとこ解釈一致だね!」
彼女はケラケラとお腹を抱えて楽しそうに笑う。
わ、笑い事じゃない。かぐらは何の遠慮もなく小槌を振った。何故か私を好んでいる彼女らしくない。オマケに今、『みんな起きないようにしたのに』と言った。つまりかぐやが起きなかったのも隣の人が壁ドンしてこなかったのもかぐらが願ったせいか。
どうして小槌が発動しなかったのか分からないけど、自分で納得しているようだった。問い詰めるためにはこうするしかない。どうなるか分からないけど許してよね。忘れさせようとするくらい見られたくない姿見ちゃったからには、責任は取るよ。
「小槌、かぐらからアルコールを抜いて」
かぐや曰く、小槌は自分が触れていなくても反応するらしい。それが本当ならこれで終わりだ。
「やっちゃ?」
握られていた小槌が光ると同時、不思議そうに見つめていたかぐらは唖然とした表情を浮かべた。
瞳が小槌と同じぼんやりとした白い光を宿す。数秒後、光が消えると彼女は私を見るやいなや顔色をトマト並に赤くした。
「…………や、やおよろぉ〜〜」
「いや、もう無理無理。隠してる事全部吐いてもらうから、よろしく」
耳に優しいヤチヨ声を出したところで先の記憶が消える訳もなく、家無し一寸法師を部屋の中に引きずり込んだ。
……手を握っただけで『はうっ……!』って声挙げられるとなんか、ヤチヨと私の立場が逆転したみたいで反応に困るんですけど。
ちゃぶ台の上に置かれたスマホの液晶にアニメーションが流れる。白を基調とした衣装を着た少女たちが海に浮かぶ透明なステージの上で歌い踊っている。
ここまではいい。うん、ここまではいいんだよ……。
『いつまでどこまでなんて──正常か異常かなんて──考える暇も無い程──歩くのは大変だ──ah──ahah──』
どうして私がヤチヨとかぐやと一緒に踊ってるんですか????
にゃはっふーさん、誤字報告ありがとうございます!
かぐや、とうとうホロライブの配信に出たね……(宝鐘マリン七周年記念ライブ)
初めてVチューバーのライブちゃんと見たんですけど、みんな可愛いしめっちゃ動くんですね。
特にかぐやの動きがかぐや過ぎて、本作のかぐやのエミュ力ひっくっ……って自分で思っちゃいました。お前はそのまま無邪気に楽しめ……楽しめ……
推しの子ともコラボしてたし、もう配信してるなら誰でもいけるのでは?
楽曲コード
173-5308-4 セントエルモの火
N00602994 かくれんぼ
198-8433-8 Rey
大規模コラボってあり?
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ナシ