私の知ってる超かぐや姫!がなんかおかしいんだけど質問ある? 作:天空ラスク
あれ、12000字超えてる……
それは私が最推しにして女神である月見ヤチヨとプラネット級の悪童かぐやと並んで笑顔で踊っているなんだこれ珍百景を目撃する少し前の事。
「眠って! 眠ってよぉ! 眠れ! 眠っ、寝ろ徹夜常習犯ー!」
なんとか一寸法師を部屋に引きずり込んだはいいものの、やけに激しい抵抗にあっていた。癇癪を起こして小槌を振り回しては私が光り、ガラスが割れる音と共に光が四散する。何としてでも眠らせて話を有耶無耶にしたいらしい。……誰か偉い人、何で私が無事なのか教えてくれ。
ギャーン! と泣きながら暴れる泣き虫怪獣かぐらは、もはや外聞を気にする余裕も無いらしい。
「(でも、私に当たらないんだ)」
今かぐらは私に右手を掴まれている状態だ。左手に小槌を握っているから、それを私の手に振り下ろせば衝撃で手を離してしまったかもしれない。なのにそうせず、ただ眠らせようとするだけ。本当は優しい性格なんだろうな、なのにああまで壊れるとは。一体どんな人生を送って来たのか想像もつかないや。
まぁ、それはそれとして、
「ちょっとは落ち着け!」
「ひぃん!?」
振り回される左手を受け止めて握り締める。小さく飛び上がった一寸法師の両手をほぼ完全に封印した。
てか、ひぃんって……驚き方可愛いなこいつ。脳内ヤチヨファイルを別枠で作った方が良いかも。本物とコスプレ・イラスト系二次創作的な。
「ヨヨヨ、小槌が効かないとか、そんなのチートだチーターだぁ……」
とうとう諦めて無抵抗になったのでそのまま手を引いてちゃぶ台付近に座らせる。危ないので小槌は回収した。
「あっ……」
あまりにも切ない声を出すから秒で返しそうになったけど。なんだその顔も声も反則級だろ、その顔なだけでついつい何でもしたくなるのに、かぐやと同じ声でお願いとかされたら断れる自信が一ミリも出てこない。マジで。
「今タオル用意するからちょっと待ってて」
「? はぁい、……なんでタオル〜?」
ぽつりと零れた呟きを背に部屋の電気をつけ、清潔で柔らかいタオルを水道で濡らした。それを固く絞ってレンジで程々に温めれば即席蒸しタオルの完成だ。
吐いたり泣いたりしてたし、顔を拭いてスッキリした方がいい。本当は洗面台で洗って欲しいところだけど、このアパートはトイレと洗面台と浴室が同じ部屋にある。今は匂いも酷いし嫌な思いするからこれで勘弁して。
熱すぎないか確認して、一応口直しの水を持って一寸法師の方に振り向いた。
「ぶぇぇぇ……何回飲んでも不味いぃ〜」
なんか鉛色のドロっとした粘性の高い液体飲んでた。小槌の紐を伝って流れる水銀みたいなやつをコップで一気飲み。飲み物という概念に土足で上がり込んで右ストレートを叩き込むような暴挙。
「おいおいおいおい、どう見ても毒だよね!? なんでそんなの飲んだ!?」
「地声で歌うと喉に負担がかかるの〜。そんで、これ飲まないと血が喉に絡むの」
これ血、分かる? 血。と唇の端に着いた黒い液体を指で拭って見せられる。てらてらと光を浴びて金属光沢を放つどう見ても血じゃないそれが彼女の体に流れている。この一寸法師どんな生物だ。
「ま、何でできてるのか知らないけど。人が飲んだら毒かもね?」
「……さっき言ってた異物ってそういう事?」
「部分的にそう。かぐらちゃんの化け物要素はまだこんなもんじゃないよ〜……ところで、なんでタオル持ってるの?」
「え? ああ、はい。これで顔拭いてスッキリして」
ほのかに湯気が立ち上るタオルを渡した。顔に押し当て、あったか〜い、と幸せそうな声を零す。可愛い。枕につけられても困るし化粧と血(とは認めたくない何か)もこれで落としてもらう。時間も既に深夜二時、軽く質問して寝るか。
「ふぅ〜スッキリした〜。ありがとうございまっす〜」
……と、危ない。寝落ちしかけていた。まだ温もりが残るタオルを受け取る。視線を落とすと一部が黒くなっていた。しかし、化粧を落としたにしては綺麗過ぎやしないの。
「? 何ー?」
視線を前方に向けると不思議そうに小首を傾げる完璧に化粧が決まったヤチヨがいた。……全く化粧落ちて無い、だと。
「あなた化粧落とさないの?」
「まぁ、この顔で配信者やってるからー。あと落とすと身バレするし」
ちゃぶ台に肘をつけ、開いた手のひらに顎を乗せてつまらなそうに話を続ける。
「こっちだとさー、ちょっとした事で全部ネットに特定されちゃうの。雲の形と時間、電柱の住所、瞳に移った風景、写真に記録された位置情報データ。そんなので住所も個人情報も特定されるんだ。ま、晒してきた人と家に来た人全員忘れろビーム撃ったけどねー」
想像もつかないけど、さぞかし生きづらいだろうな。こっちのインターネットと比べてあまりにも民度が終わってる。かぐやがそんな所で配信者やってたら今頃このアパートにもファンを名乗る不審者が来てたよ。
そんな所でかぐやと意気投合する彼女は活動している。きっと、針の海を泳ぐような息苦しさを感じたまま。
「そんななのに配信者続けてるんだ。……辞めたくならない?」
「うん、前やってたやつより気楽だよ。流行を追いかけたり、深いメッセージ性を持たせたりしなくていいし。やたらDM送ってくる迷惑リスナーを目に入れなくて済むからね〜。こう見えてかぐら、凄腕ボカロPだったんだよ〜?」
窓の外の景色を眺めるように何処か遠くを見ながら話は続く。
「だけどホントはさ、歌ったり踊ったり、そんなのがやりたかった。でもダメダメだったの。あぁ、センスが無いって事じゃないよ? ただやりたくてもできなかったの、生まれ付き身体が悪いってだけ」
その言葉に疑問を抱く。今日見ていただけでも割と元気そうに動いてたし、歌はキツくても踊るくらいならできそうだけど。
「あー、そういうんじゃなくて。お医者さんが言うには、なんか神経がツギハギみたいにめちゃくちゃに繋がってるんだって。天然のスパゲッティコードって訳。しかも動作しない不良品」
そう尋ねたら帰ってきた返事に言葉を失った。それじゃあ、踊るどころかまともに立つ事すら不可能と言われたようなもんじゃん。
「……強いんだね、かぐらは」
「彩葉、そんな辛そうな顔しないでよ〜。ほら見て、小槌パワーで今じゃこんなに軽快なんだからさ! は〜〜うんとこしょ! どっこいしょ! すっとこどっこいしょ! あ、そーれっ!」
立ち上がってキレのあるイソギンチャクみたいな謎ダンスを踊る、その笑顔に影は無い。けど、そういう問題じゃないじゃん。治ったって言わないって事は、もし小槌が壊れたらかぐらの体はどうなるのさ。
「そうして、捨てかぐらを拾って育ててくれたお爺ちゃんとその孫の唄葉の助けを借り、東京に引っ越して一緒にY〇AS〇BI的なコンビ組んでたのだ! そう、全てはかぐらと唄葉の夢を叶えるため!!」
「夢? 小槌を使わなかったの?」
聞き逃せない単語が出たけど、いきなり口を挟んで良いものか分からない。両親の顔も見た事ない、とか言われたらどう話を戻していいか分からなくなる。だから、敢えて話題を流した。
「もう、ロマンが無いな〜。唄葉は歌手になりたいって夢持ってたの。人を強引に動かしてもつまんないでしょ〜? そんで、かぐらは人生を賭けた探し物を見つけるって夢!」
「探し物って、それこそ小槌を使えば見つけれるでしょ」
「チッチッチ。それは無理。だって、探し物がなんなのか分かってなかったもん。でも、もう見つけたんだ〜──」
華奢な指が前方を指す。指が指す方を辿って振り返ると壁しかない。再度振り返ってかぐらを見ると指先がしっかりと……私を、捉えていた。
「──彩葉! 最初に映画の広告見た時からビビッと来た! これだ、この人に出逢うために生きてたんだって!」
「待って、本当に待って。私、というか私達そっちだと創作のキャラなの?」
「そだよー?」
何を今更言ってんだと言いたげな目で見つめられる。……私、そっちで銀幕デビューしてんのか。
「まぁ、でもすぐ超ガッカリしたけどね〜。だって、液晶の向こうには誰もいない。ただの創作、作り物なんだよ。……この前まではね」
ニッ、と今が楽しいと表情に浮かべる。
「例え自分の物にならなくても、その人が振り向いてくれなくても、好きになった人がこうやって触れるようになった。もう、それでいいんだ〜。ふふ、彩葉のほっぺふにふに〜」
ゆっくりと伸ばされた手が私の頬を化粧品を塗り込む時みたいに優しく揉む。愛おしいと緩く弧を描いた瞳が私の瞳を射抜く。
こ、これかなり恥ずかしいんだけど……。顔が、ヤチヨが私の頬揉んで笑ってるようにしか見えないっ! 脳内スクショフォルダが音を立てて積み上がっていく幻覚が見える。
「ちな、その映画のタイトルは〜〜っ、超かぐや姫! パンパカパーン!」
パンっ! と乾いた音が打ち合わされた手の中から響く。重大発表ですとばかりに口でSEを鳴らして私の様子を伺っている。
「あ〜、なるほど……。次元を超えて来たって映画と現実の事だったんだ」
「いや、アニメと現実だよー?」
なんか頭痛くなってきたんですけど。この異次元人、要はアニメキャラに運命感じたって事か。しかも私みたいなサブキャラに。
先の話を振り返る。こっちの次元に来てから楽しいと笑う顔を思い浮かべる。
人生を賭けてもいい程の運命を感じたのが、存在しない存在だった。
私はヤチヨに人生を救われた。
かぐらは私、というか“酒寄彩葉というキャラクター”に人生の意味を見出した。
私がヤチヨに載せたのと同じかそれ以上に重い思い。けれどヤチヨと違う点は“酒寄彩葉”は意志を伝えてくれないというとこ。
一目見て想って、でも触れ合う事も話す事も叶わない。絶対に自分を見てくれなくて、何度観ても同じセリフしか話さず視線はいつも主人公を向いている。そう理解した時、どれ程の寂しさを感じたんだろう。
そう考えてふと気づいた。
……それ、私がかぐやをずっと見てるって事にならんか? あの宇宙人月に帰らずにず〜っとこのアパートで二人暮らししてない?
「ね、ねぇ。その映画の主人公はかぐやで月に帰るんだよね? だって、タイトルかぐや姫なんだから」
「かぐやは一回帰るけど、一仕事終わらせたら戻ってくるよ。あと主人公はい・ろ・は♡」
ウッソだろおい。
不安になって思わず確認を取ってしまった。返ってきた結果に一瞬ほっと胸がすき、直後飛んできた爆弾に耳を疑う。
「は、ハァ!? 私ぃ!? 見てても至ってつまらない人生歩んでおりますが!」
「宇宙人拾って現在進行形で育てておいてよく言えたね〜」
ウグッ。痛いとこ突かれた。肘の側面の突き出た骨ぶつけたくらいのやつ。
「大体なんであっちが主人公じゃないの。見なよあの寝顔。顔面偏差値が主人公じゃん」
「かぐいろてぇてぇ」
なんて?
コホンと咳き込み白々しく場を流そうと試みる一寸法師。こいつ、スルーするつもりだな。
「そんでね、今から見せるのがかぐらが目指す彩葉とかぐやのハッピーエンド! 彩葉の人生のネタバレになるから一部隠すけど──」
『楽〇カードマァァァン! いぃきなりですがぁ』
「ごめんCM入った。もうちょい待って〜」
ぺちぺちとスマホを弄る一寸法師。そっちの動画サイトいちいち広告入るんだ、面倒臭いね。
それから一分くらい待ったか、やけに長いCMが終わって一瞬かぐやがはしゃぐ声が聞こえ、画面連打によってスキップされた。サビだけ聴かせる感じね、了解。
「はい、これがヤチヨカップに優勝したら見れるハッピーエンドだよ!」
ちゃぶ台の上のタブレットスタンドにスマホがセットされた。手のひらで隠されたそれはまだ見えない。指が画面をタップした瞬間、旗を振り上げるように腕が上がって画面が顕になった。そこにはアニメの女の子達が白を基調とした服装で踊って……あ゛??
『いつまでどこまでなんて──正常か異常かなんて──考える暇も無い程──歩くのは大変だ──Ah──AhAh──』
「は、はぁ────────っ!?」
青空の下、透明な円形のステージの上。大きな赤い鳥居が背後から見下ろすその場所に立つ五人の人影に見覚えがありまくる。ってか、見覚えしかねぇ!
「ヤチヨっ、えっ、真実に芦花っ、なんでオタ公、お兄ちゃん!? えっ、はっ!? 黒鬼水着衣装!? なに、私の未来どーなってんの!?」
「ここの腰振りとリズム良く振り返るとこが可愛いんだよね」
腕組み理解者一寸法師が『分かる、分かるよぉ』と頷いている。いや、こっちはそれどころじゃないんだよ。
ヤチヨとかぐやに加えて何故かリア友の二人も一緒に踊っている衝撃的光景。集合写真に遅れたやつみたいに出てきたオタ公に空飛ぶエイに乗った水着ブラックオニキスの三人組というソシャゲのSSRみたいな豪華ゲスト。
え、もしやヤチヨカップのコラボライブってこの規模でやるって事でございましょうか。ヤチヨパワーすっげぇー……。
でも、優勝した人とコラボするって話じゃなかったっけ。同率優勝って線もあるけど、失礼だけど芦花と真実は黒鬼と戦いの土俵にすら上がれない。登録者約17万人の美容系インフルエンサーと約12万人のグルメインフルエンサー、約1800万人の登録者を持ち、歌って踊れるプロゲーマーの黒鬼と比べてしまうとどうしても話題性に欠ける。
うん、分からん。
困惑する私を置いてアニメーションは流れ続ける。神々しい光の鳥居の前にこちらに背を向けて立つヤチヨを目視した瞬間、白い何かが一瞬画面を覆い隠した。なんだ今の、と思った時は既に退いていて。教科書とうまい棒、細かいドット絵で描かれた窓越しに地球を眺めるガラスに反射したかぐやの姿、FUSHIに口付けをするヤチヨ……きぇあああああ!? 可愛い……好き……。
「(ん、今のってあの日見た流れ星?)」
都会の街の夜空を流れる一筋の光、真実と芦花がアップになって映った順番に振り返る私とかぐやとヤチヨ。あっあっヤチヨのウインク可愛い、私もここ好きになった。今なった。
『楽しい方がずっと良いよ──誤魔化して笑ってくよ──大丈夫だあの痛みは──忘れたって消えやしない──』
隣に立つヤチヨにハイタッチするかぐやツクヨミの空を疾る月夜見機関車と水面の上を歩くヤチヨが流れ、カラオケで楽しそうにはしゃぐかぐやヤチヨ私に目を見開く。おい未来の私そこ代われ。いや待て代わるな心臓が持たない。どうやって友達みたいな距離感になったんだ教えろください。
直後また白い何かが画面を覆う。先のように一瞬で通り過ぎず、今流れているシーンを見せないようにしているような。……これ何? 何処まで続いてるか辿って見ようか。
「ネタバレ区間だよー」
一寸法師の頭頂部からへの字に伸びる二本の長い髪束が重力を無視してスマホの画面を隠していた。ねぇ、物理法則って知ってる? かぐやの毛もダーツの矢にしてたり夜ランタンの代わりになったりしたけど、それも大概な動きだよ。
視線をスマホに戻すとちょうど私とかぐやに挟まれたヤチヨが私に向けて小さくジャンプして笑顔でハァイ! みたいな感じで手を挙げていた。助けて、未来の私がヤチヨを使って萌え殺そうとしてくる。
「(あ、あの時のかぐやだ。一週間くらい前のあれから全てが始まったんだよな……)」
切り替わったのはヤチヨミニライブの後、かぐやがヤチヨに向かって優勝宣言した時の場面。あの時はほんっとうに焦って……あ、あれ?
そのシーンが過ぎた後、ヤチヨが思いがけない衝撃を受けたように白く染まる。これは実際のシーン、いや、何かを表現しているのか。ヤチヨも黒鬼が優勝すると思ってそうだし、そんな時に遠慮も配慮も恥じらいも何も無いかぐやを見たら、凄いヤツ出てきたな、くらいの事感じてたのかも。
三度一寸法師のロングアホ毛が画面を遮り、退くと暗闇の中で私が右から左に走る映像、夜の水辺でかぐやを抱き絞め……私? ねぇ私? どうしてそんなシチュエーションでヒロインにやるみたいな事やったよ、主人公かよ。主人公だったわ。
走る私のシーンの続きが流れる。アレは、かぐやを見つけたゲーミング電柱か。次いで私が、いやもうアレ私じゃないよ。“酒寄彩葉”がかぐやを抱き絞めるシーンに戻る。
あーあ、かぐや泣いちゃってんじゃん。でもまぁ、安心したって感じの泣き方だし多分優勝確定した時の場面だ。起承転結の転結の間くらい。アイツ、あんな泣き方するんだね。
電柱がアップになって、開かれた扉からツクヨミかぐやが膝を抱えて前方に回転しながら飛び出して満面の笑みをドアップで見せた。この距離感で主人公じゃないのバグだろ。
また場面が転換して、ライブのシーンに……おい私振り付け間違えてんじゃん!? 何やっとるんや私、そんな肝心なところで失敗せんといてよ……。
『大丈夫だこの光の──始まりには────君がいる──』
四度、アホ毛が画面を遮る。もう終わりそうだし、ちょっとくらい見ても良いんじゃない? こんな終盤にドネタバレぶち込まないでしょ。
「あっ、ちょ、ダメだよ彩葉!?」
アホ毛の間に指を差し込んで開くと、地面から掘り出したばかりだろうタケノコが見えた。二人の人物がいるのが分かるけど靴しか見えないから誰がいるのか分からない。何だこのシーン、かぐやと一緒にいつまでも幸せに暮らしましたとさ、みたいな……あいついつお迎え来るの。タケノコは美味しく頂くからこっちに下さい。
シークバー的にももう終わるな。いやー、衝撃的なシーンがてんこ盛りでございました。……ん?
「ん? んがっ、ちょちょちょ待て待て待て! 本当に何があった!?」
草原の上に寝転がる揃いの白いワンピースを着た二人の少女。顔は分からないけどこの金髪、そしてもう片方がつけているこのブレスレットの持ち主。物語のテンプレ的に考えるとこれは主人公とヒロインが結ばれる展開。最後にしっかりと離れないように繋がれた恋人繋ぎ。
「───────私、かぐやとそういう仲になんのぉ!?!?」
「ま、まだ監督が明言してないから……」
【悲報】酒寄家の運命、お兄ちゃん頼り【彼女見つけてくれ】と掲示板に建てられそうな馬鹿な想像が脳裏に過ぎったところで動画が終了した。
「い、彩葉ぁ。落ち着いてよぉ〜」
「もうあたしゃ疲れたよ。……一、二ヶ月でどんな物語展開しようってのよ。何なのよ、気になるじゃないのよ超かぐや姫」
あー……なんかどっと疲れた。数年分の感情出したかもしれない。魂抜けそう。そうだ、これだけは確認しないと。
「ねぇ。知ってるか分かんないけどさ、私って東大受かった?」
「モッチモチ! それだけじゃないよ、自分の夢も見つけたし、このエンドも彩葉がすっごく頑張ったから行けたんだよ! 誇って〜」
そっか……。私、やりゃできんじゃん。ふと、肩の荷がおりた様な感覚を覚える。お母さんの背中を追って頑張って来たかいがあったんだ。ヤチヨカップ優勝して、東大受かって弁護士になって、その、かぐやとそういう仲に……ないないないない! なんで私が、別にアイツなんて可愛いし一緒にいると騒がしいしご飯美味しいし真っ直ぐで目を惹かれるし彩葉彩葉ってくっついてくるし一緒に寝ると気持ちよく眠れるし。
あれ、もう私落ちかけてない? ………み、認めん。あいつが結婚してーとか言ってこない限り私は認めんぞ。早く出てけ。お迎えの人早く来い。
「ただねー、ちょっと映画に無い展開が起きててさ。ハッピーエンド行けるか怪しいんだよ〜、ヨヨヨ……」
「──良いよ」
「……えっ?」
この
だったら、その異常だけを取り除いて貰えば私は自力でこのハッピーエンドに行けるんだ。……かぐやと一緒に。
「ハッピーエンド、行ってあげるって言ってる」
「え、ほ、本当に? だって、ハッピーエンド要らないって」
そうは言ったけど、受験も受かって東大に入って、ヤチヨカップ優勝してかぐやも仕事を終わらせた。人の助けを借りずに私の手で掴んだ“めでたしめでたし”。何も文句言う所無しだ。
「このエンドだったら一緒に目指してあげるよ。その代わり、かぐやの事私より先に泣かさないでよー?」
それは主人公の役割だからね。とは恥ずかしくて言えなかった。
「い────ぃいやったぁ───────!!」
泣く程喜ぶか、うさぎみたいにぴょんぴょん跳んじゃって、そんなに面白かったんだろうな。超かぐや姫って映画。コラボライブ終わったら見せて貰おう。
「ちょっと、喜ぶのは優勝してからにしてよー」
「だってだって! 彩葉が、彩葉がハッピーエンド目指すなんて言うと思わなかったんだもん!」
「だからって喜び過ぎ。まぁ、私もそれなりに頑張るからさ──」
この後の発言は、将来的に見れば大正解で、
「──
「……っ! うん!
今の私からしてみれば、大失敗だった。
「────────あ、れ」
かぐらが急に力が抜けたように体勢を崩し、膝から床に崩れ落ちて衝撃を殺す事無くちゃぶ台に額を叩きつけた。
「かぐら? ……ちょっと大丈夫?」
「────────」
反応無し。頭を勢いよく叩きつけたままピクリとも動かない。なんで急に倒れた。まさか、体質的な発作が?
『警告。未観測の状態を検知。崩壊の可能性が疑われます。観察状態に移行します』
あっ、小槌が。小槌が私の手から離れてかぐらの元へ飛んでいく。警告、未観測、崩壊。これ、もしかして初めての症状って事だよね。
このまま突っ伏したままよりも楽な体制にした方が良い筈だ。小槌が衛星のようにかぐらの周囲を飛び回る中、確認を取ってから伏せたままになっていたかぐらの頭を持ち上げた。
持ち上げてみると、さっきまで喜色に満ちていたかぐらの瞳が切れかけの蛍光灯のように断続的に点滅していた。青い瞳が赤に染まり、また青に戻ったと思った瞬間赤になる、別々の色が交互に入れ替わり点滅して、
「…………………………………………あ、」
「あ、良かった無事か!? 焦った……。もう、本当にビビったじゃん」
無事に目を覚ました
「彩葉だぁ──────っ!! 彩葉彩葉彩葉! い〜〜ろ〜〜は〜〜だ〜〜っ!!」
瞳が潤んだかと思いきや、弾丸のように私に向かって抱き着いて来た。そのまま頬と頬を合わせてマーキングのようにスリスリと……ヤチヨ顔が、ヤチヨ顔がすっっげぇ近いっ!?
「うおっ!? 何、何事!? ちょ、距離感どうなってんの!?」
「距離感〜? もー、そんなのとっくの前に無いじゃん」
どうなっている。目が赤くなったかぐらは、恋人に向けるような熱の篭った瞳で私に微笑みかける。
『観測。常の対象名・月輪神楽が対象名・酒寄彩葉へ対応する際の行動予測から大幅に外れています』
困惑している間に小槌が観測した情報を伝えてくれた。月輪神楽、それが、かぐらの本名……。瞬間、豹変したかぐらが小槌を抱き抱える。
「あ! チホも約束守ってくれてありがとー! うぉおおおおおおおおおっ、ぃよいしょおおおおおおおおおっっ!!」
腕を伸ばしたままその場でグルグル回り出す。興奮したままジャンプ。着地と同時に両手足をヒトデみたいに伸ばしてシメ。……明らかに様子がおかしい。というか、テンションがバカ高い。あとチホって誰だよ。それは打出の小槌でしょ。
「彩葉! うわぉめっちゃ若い〜! シワもないし腰も真っ直ぐだ〜!」
「八十年後でも見えてんのかなぁ!? ってか、どうしたテンション違い過ぎるじゃん!」
瞳から流れ星が零れんばかりに輝いているヤチヨがエゲツなく距離を詰めてくる。あっという間に壁まで後退してしまった。待て待て、そんな大スターに会った時の興奮を私にぶつけないでくれ死んでしまいます。
『報告。記憶回路、及び自己認識データに障害を確認しました。致命性はありません。ですが、発言は全て妄言の類であると認識してください』
記憶と認識に異常? それはつまり、今のかぐらは頭がバグってるって事なんじゃ、どうしてそんな事に。
「ぶぇ〜〜!? チホなんでそんな酷い事ゆうの!? かぐや、彩葉に会うの八十年頑張ったのに!」
八十年。それは今私が言った事。それに今自分をかぐやって……。
『報告続行。普段からの過度なアルコール摂取に加え、孤独感によるストレス。肉体的、精神的損傷による心身の摩耗を抱えていた所に個体名・酒寄彩葉からの宣言による過剰なドーパミン生成が精神に高負荷を掛け、精神に一時的な変質をもたらしたと診断しました』
え、それって、限界ギリギリに幸せをぶち込まれてパーになったって事?
『最終報告。スキャン結果、現在精神データが二つに別れた状態です。崩壊の心配はありません。ですが片方──仮名称【バグかぐや】は非常に不安定であるため、なるべく要求を満たしてあげると早期に復旧する可能性があります』
「何で、かぐやは、かぐやだよ……? 変な事ばっか言わないでよ」
透明な雫が赤い瞳から零れ落ちる。理解されない孤独感からか、声が震えている。八十年後か。きっとその時の事は映画になってない。けど、私とかぐやは仲良く暮らしてるんだろうな。
だから、それがありえない妄言だったとしても、
「ふぇっ!? い、いろはぁ?」
「大丈夫、大丈夫だよ。
──夢を見ている間くらい、叶ったっていいだろ。戸惑う
「かぐやは、今夢を見てるの」
「夢……? 違うよ。かぐや、
モガモガと話続けようとするお姫様の頭を胸に当てて抱きしめていると、やがて、止まった。そのまま背中を軽く、何度も叩く。かぐやがまだ赤ちゃんだった頃、ミルクを飲ませた後ゲップさせないといけなくて。背中を叩いてゲップさせてあげたら穏やかに眠ってくれた。それの再現。
「いろはぁ……」
ヤチヨの顔で、かぐやの声で、かぐやだと思い込んだ一寸法師が恋人を想って泣いている。
「一回眠ろう。起きたらきっと、現実で私と逢えるから、ね?」
「……うん、分かった。ねぇ、彩葉。ちょっとだけ顔貸して?」
眠くなってきたのだろう、トロリとした目の少女が私の……!?
強く、話さないように抱き絞める。引き寄せられるままに私の唇が
「っ、なな、いきなり何を!?」
「へへ。彩葉の初めて。かぐやが、かぐやより先に取っちゃった」
あ、気付いていたのか。視線の先には小物に潰され埋もれかけたまま眠るかぐや。
船を漕ぎ始めるかぐや姫。もう、眠る時間だ。
照明を消した部屋を月光が優しく照らす。ふらつく姫様を布団に横たわらせ、隣に寄り添って横たわる。
「おやすみ、
「おや、すみ、……いろ…………は」
昔のテレビの砂嵐のように赤と青を繰り返す瞳に瞼が降りて、いつの間にか、穏やかな寝息を立て始めた。
零れた涙が一雫、指先で優しく拭って眠り姫の後を追った。
八月二十九日。
キジバトの鳴き声、優しい朝日、郵便バイトが仕事をしている音、そして、
「あああああああああああああああっ!?!?」
くそうるさいかぐやの絶叫。今何時だ……まだ六時じゃねーかよ……眠っ。
「なに、うるさいよ宇宙人」
「だって、彩葉が、彩葉があああああ!」
金髪赤目のギャルかぐや姫が私ともう一人が同じ布団で寝ているところを勢いよく指差す。
「かぐやが寝てる間に、彩葉がミコに浮気したー!」
「は、ハァ!? してないし、私はヤチヨ一筋だって言ってんの!!」
「じゃあ何で一緒に寝たの! かーぐーやーもーいーっーしーょーにーねーたーいー!」
いつも寝てるだろ。暑いし重いて言ってんのにさ。
「ん、んう……うん?」
あ、起きた。瞳を開いたヤチヨ顔の目の色は青。良かった、無事に元に戻ってくれた。
「おはよ、かぐら」
「…………………………………………わ、」
わ、すごい勢いで顔が赤くなってる。分かるよ、私もヤチヨと一緒に寝たら興奮で爆死しそうだもん。だからさ、
「私が! 彩葉と一緒に寝てるのは! 解釈不一致ィィィィィイイイイッ!!」
「ミコの裏切り者ー!」
布団に潜ってカタツムリになるのも理解できるよ。頑張れかぐら、悪童が今潜り込んでカタツムリの二世帯住宅になろうとしてるから。
「さ、もうちっとだけハッピーにするかぁ」
「わあああああ!! 彩葉と一緒に寝るのはかぐヤチ以外ありえないのにいいいいい!! 無いよ! 昨日の記憶無いよおおおおお!!」
「オルァ往生際が悪いぞミコぉ! 大人しくお縄につけぇ!!」
朝から壁ドンが鳴り響くボロアパート、ここから私の、私達の超かぐや姫が始まるのだ。
かぐや、かぐら。これからは程々に頼るからさ、無理せず着いてきてよね。
「今日のセトリ何にしよっかなぁ」
「にゃああああああ!? かぐらはっ!! 彩葉を寝とった罪深いオタクですぅぅぅ!!」
「ネト……? 良くわからんけど悪い事したなミコおおおおおお!!」
お父さん、お母さん、あとお兄ちゃん。私、頑張ってハッピーエンド行ってみるよ。東大合格・ヤチヨカップ優勝者のライバー兼現役弁護士、アルティメット彩葉を目指してね。
君といたあの部屋も電子の海も胸の中詰め込んで宝箱にしまおう
⬇
宝箱は埃を被ったまま無くした
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