私の知ってる超かぐや姫!がなんかおかしいんだけど質問ある? 作:天空ラスク
Side:酒寄彩葉
一体何時寝てしまっていたのだろうか、私は床に仰向けに倒れていた。薄目を開けるとガラスを一枚挟んだように滲む視界の向こう側に見慣れた天井が変わらずそこにあった。
「──ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん」
キツツキの雛鳥のような柔らかい啄みが何度も何度も私の頬に触れる。何時から始まっていたのか、途切れる事無く触れるソレは硬いケラチン質でできたクチバシのソレじゃない。柔らかくてほのかに温かいソレはうら若き少女の唇のようなしっとりとした質感で……ッ!?
「んぐっ!?」
現実を認識した途端、圧倒的な情報を一気に流し込まれた脳がズキリと悲鳴を上げだした。しかし、そんなものはちらと視界に入った隣に添い寝している髪を下ろしたヤチヨの連続口付けに比べれば些細なものだ。
……ヤチヨの口付け?
……ヤチヨの口付け……?
……ふむ、ヤチヨの口付け……。
……ヤチヨの口付けかあ……。
……ヤチヨの口付け!?
「──ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん」
付けていたはずのライトが消えた部屋は薄闇に覆われ、月明かりだけが部屋を見渡す為の視界を助けている。
穏やかな月光を浴びて白髪を神々しく煌めかせたヤチヨが瞳を閉じて私の頬に何度も唇を落として……。
ツッッッ〜〜!? やややややややちよが、やちよがどうしてわたくしめなんぞに口付けをなさってございますか!?!?
おおお落ち着け私。ごめん無理私。ふざけんな私。どうしてか脳が動かない。いつもならもう既に次の行動に出ているはずなのに、何をすればいいのか選択肢が出てこない。
カフェインの取りすぎか、寝不足か、今しがた見せられた謎情報の暴力か。謎は深まるばかりである。
「──ん、ん、ん、ん。にへへ、二百回目〜。かぐや知ってるよ、何回もチューするとサンタさんが赤ちゃん持ってきてくれるって。彩葉が教えてくれたもんね〜♪」
イタズラ好きな笑顔を浮かべたヤチヨ。頬は桜のようにほんのりと色付き、その瞳にはトロリとした熱が籠っている。何、可愛、死。
ただでさえ真珠のように白い肌が月光に照らされて物理的に輝いて見える。
しかもかぐやの声で純粋無垢丸出しの発言を言われたら……言われたら……。
ちょっと待て、誰だこのヤチヨモドキ。
不味い、脳が本当に動いていない。どうして思い出せなかった。ヤチヨは電子の海の歌姫だ、こんな部屋にいる訳が無いのに。
まだ何かが何処かで引っかかっているような違和感を抱えたまま勢いよく上体を起こした。あのままキスラッシュを喰らい続けたら、トロトロになるまで愛してくれそうな恋人バージョンの月見ヤチヨによって私の精神がイカれてしまう。よって、ここは逃げの一手だ。
「あっ……」
やめてよ。そんな切ない声を出されたら戻りたくなるじゃないのよ。
「わ、彩葉の積極的さん。天国でも抱きしめられると暖かいんだ。初めて知った」
ゆっくりと起き上がったヤチヨモドキを逃がさないように力を少し強めて抱きすくめる。ヤチヨモドキは一瞬目を見開いたあと、壊れ物に触れるように優しく抱きしめ返してきた。
あー、だんだん脳のエンジンが温まってきた。これはヤチヨモドキなんかじゃない。そうだ、私はバグかぐやに情報の暴力を流し込まれて気絶したんだった。
「彩葉ぁ、かぐや頑張ったんだー。ずっと、ずぅっと、逢いたかったんだー」
かぐやの声で、ヤチヨの顔で、バグかぐやはほんの少し声を震わせた。互いに向かい合った状態で抱きすくめたからバグかぐやの頭が肩に乗っかってて表情は見えない。
「そう、そうなの」
「バッドエンドが嫌で嫌で、ハッピーエンドまで彩葉も一緒に連れてくって言ったのに、なのに、勝手に死んじゃってさぁ……」
声の震えが大きくなっていく。
「ほんとに、ほんとに、彩葉のバカ。宇宙人の気も知らないで、私一人置いて逝くなんて。……絶対離さないからね。天国なら、もう、死ねないでしょ?」
肩が少しづつ冷たくなっていく。バグかぐやの顎が乗っている所から濡れていく感覚がする。
顔は見えないけど恐らく泣いている。
バグかぐやの言ってる事と、半ば無理やり見させられたバッドエンド。それとかぐらが言ってた内容と今しがた目に焼き付けた顔の血色を思い出して、冷静に考えた上で私は一つの結論に至った。
──『酒呑み過ぎて妄想が斜め上にカッ飛んでる』と。
だってそうでしょ。かぐらはこの超かぐや姫!はハッピーエンドで終わる、と言ってたんだから。第一に人気になる映画なら(原作があるならともかく)あまり複雑な設定を入れないはず。やれ次元だの月の蔵だの
私とかぐやが出会って、ヤチヨカップに優勝して、海のど真ん中でみんなで踊って、かぐやが月に帰って、ささっと仕事を終わらせて戻ってくる。それから私が弁護士の資格を取る。あとは日常に戻ってめでたしめでたし。それくらいで丁度良い時間になるだろう。
それに、もしもあの情報達が本当の事だったとしてもだ。かぐやが何千年も昔に飛んだらそれはハッピーエンドじゃない。あのかぐやが、楽しい事を取り上げたらそのまま干からびそうなかぐやが生き残れるわけが無い。その時点でかぐらの言ってた事と矛盾してる。
あとかぐやが2030年に戻ってくるとヤチヨが居なくなってる理由も分からない。……どっかでヤチヨの製作者の御先祖様と出会って何かしたのか?
まさか、かぐやが何千年も生き抜いて歳をとった姿がヤチヨに────いや、そんなわけ無いか。かぐやはあんなたおやかで
何より、最大の謎が解決されていない。
「ねぇ、一個聞いていい?」
これだけは聞いておかないといけない。もしもこれに答えが用意されていたのなら、今まで考えていた反論を全部捨ててバグかぐやを信じよう。
耳にバグかぐやの白髪がさらりと上下に擦れる。
「超かぐや姫! が放映されたのはいつ?」
そう、現状バグかぐやはあくまで月輪かぐらのちょっとネジが外れた結果生まれた人格に過ぎない。
月輪かぐらは三次元の存在だ。私達の事を物語として見る上位の次元で産まれた彼女について、先の情報は何も語っていなかった。
かぐや──今もぐっすり眠っているヤツとややこしいからかぐやBとしよう──かぐやBはラストで死んでいる。打出の小槌は死者蘇生ができない。三次元は一度も
超かぐや姫!の情報はかぐらしか持っていない。かぐやBは物語について知る由も無い。
さあ、どうでる。どうやってバッドエンドから月輪かぐらの人生に、超かぐや姫! が物語として語られる世界に繋げる?
「うん? ちょーかぐやひめー? そんな番組出た事無いけど」
本当に不思議そうに言い切ったその言葉を聞いて、確信を抱いた。映画の話では無く何らかのテレビ番組だと思ってるな。
やっぱり、バグかぐやは本当にバグってる。
かぐらであるはずなのにかぐらとしての記憶も無ければ
本当なら信じてあげたいよ。この小さな体の震えも、その頬を伝う涙も本物なんだって受け取ってあげたい。
でも、それは無理な話なの。私は天国に行ってないし、あなたはバグかぐやじゃなくて月輪かぐら。どれだけ取り繕っても現実は変えられない。
……というか、私がハッピーエンドに向かう努力してるのに、何故かかぐらが私の平穏を妨げるこの状況。いい加減何とかしたいのよ。早く正気に戻れ本当に頼みますから。
かぐや、と呼ぶと、何? と返事が返ってくる。完全に自認がかぐやになっているかぐらを完全に元に戻さないと、またバグかぐやが出てくるだろう。
打出の小槌を使えば消す事は簡単だと思う。でも、それは私がバグかぐやを殺す事になる。それだけは絶対にしちゃダメだ。
だったら……分けるか。
「かぐや、ごめん」
有無を言わせず腕をかぐらのメンダコの中に突っ込んだ。
「ヒャッ!? い、彩葉何やってるの!? ってアレー!? なんか胸平たくなっとる!? なんでどして!?」
そこで頭まで布団被って寝てるかぐやくらいあるよ。あんまり騒がないで、また壁ドン来ちゃうでしょ。
お、あったあった。打出の小槌が。
「い、彩葉? なんでチホ持ったの? ねぇ、チホも何とか言ってよ……」
不安げに瞳を揺らすバグかぐや。生憎、打出の小槌の所有者はチホなんて名前で呼んだ事なかったよ。
そろそろ事実を言うべきだろうか。私は、貴女の逢いたかった『酒寄彩葉』じゃないと。
一拍の間思考して、後腐れの無いようにするために言うべきだろ、と覚悟を決めた。
「私は、貴女の探している酒寄彩葉じゃない。……ごめん」
「────え」
ああ、言ってしまった。
「打出の小槌、お願い」
目のハイライトが消えていくバグかぐや。罪悪感から小槌を握る力が少し強くなる。ぼう、と白く光る小槌をゆっくりと頭上まで持ち上げた。
『疑問。対象名・酒寄彩葉。何をするつもりですか?』
先程まで見ていた情報の物と違う、男性のようにも女性のようにも聞こえる電子音声を耳に、
「バグかぐやとかぐらを完全に分ける。できるよね」
──願い事を告げた。
何も反論が返ってこないからできるらしい。何でも有りだなこの万能小槌。三次元すごいな。
この願いの結果がどうなるか分からない。あの情報の姿のバグかぐやがいきなり出現するかもしれないし、ぬいぐるみに魂が入って動き出すみたいなやつかも知れない。
でも、バグかぐやとかぐらのどちらかを選ぶなんてできない。最低でもスイッチを入れるように自由に切り替えられるようにしないと。今みたいに突然出てこられたら対応に困るの。
もう既に宇宙人も異次元人もいるんだ。一人増えたところでもう気にならない。……嘘、ちょっとだけ気にはなるが、まぁ、かぐやだしな。ご飯のバリエーションが増える分には大助かりです。
私はあなたの“
だから、
それが私の、
「細かい調整は任す。お願い。──かぐやと神楽を別々に分けて」
振り下ろす。
瞬間、朝日が現れたような光を小槌が放った。強烈な光に飲まれていく中、走馬灯のようにかぐやとかぐらの言葉が脳裏をよぎった。
『決めた! 自分でハッピーエンドにする! そんで、ハッピーエンドまで彩葉も連れてく! 一緒に!』
『……! うん! ハッピーエンドまで彩葉を連れてく! 一緒に! 』
……なんだ、かぐらも最初からかぐやそっくりだったんだ。なら、今の私はこう答えよう。
──違うよ、私がかぐや達をハッピーエンドに連れていくの。
きっと神楽の視聴者も、私達の物語を見てくれた三次元の人もこう思ってる。
……なぁんて、私のキャラじゃないですかね。
光に視界が完全に飲まれて、疲労もあったのだろう、私は意識を失った。
Side:かぐや
ハトの鳴き声と新聞配達の人が新聞を投函する音で目を覚ますと、視界が布団の白一色に染まっていた。
気温の下がる朝とはいえ、布団の中なのに妙に寒い。
──[静かに。ゆっくり視界を確保して]。
何となく直感が囁くままにゆっくりと布団を下ろして目を露出させる。
天井、見慣れた部屋、眠る彩葉と視線を少しずつ下に下ろしていくと、打出の小槌が何かの上に浮かんでいた。
一本のタケノコから更に四本のタケノコが伸びている、漢字の“出”みたいな変なオブジェだ。
き、気になるなぁ〜〜!
──[ダメ。まだ静かにして]。
ひっじょおおおおおおに気になるけど、今起きたらダメな気がしたから動かずに布団の中で待つ。……まだかな?
『“もと光る竹・パッチワーク”、安定化を確認。再度最深部へ収納します。……不可解。残り四つの魂は何処へ……』
バレないように薄目を開けて見ていたら、タケノコみたいなやつがいつの間にか消えていた。何時見落としたんだろう。不思議な事もあるんだなぁ。
──[うーん、そこじゃなくねってかぐやは思うんだけど]
そうなの。直感によると何か違うらしい。今日のかぐや冴えてんな!
──[ねぇねぇ、次どーしよー?]
──[取り敢えず今見た事は打出の小槌に聞かない事ね。危な過ぎ]
──[だよな! クッソ〜、ゲームならぶっ飛ばせんのに〜〜!]
──[………………いろは]
直感やけにビンビンしてんな。頭の中で私が四人喋ってるみたい。あと今見た事は聞かない方がいいらしい。そのうち分かるといいなー。
さ、ちゃちゃっと朝ごはん作って彩葉起こそ!
バフォッ! と跳ね上がるように布団を吹き飛ばしてのダイナミック起床。
「おん? 彩葉こんなの持ってたっけ?」
眠る彩葉を見ると首にネックレスがぶら下がっていた。月光みたいな色の丸い宝石に三日月と兎が彫られている。すっごい綺麗! かぐやも欲しい!
──[ちょっと、疲れてんだから寝かせてあげてよ]
──[コレ五人目だから取っちゃだめー!]
──[起きたらずっと装備しててって彩葉に言っといて!]
むむむ、直感が取っちゃダメって言ってるぅ……。
仕方なく諦めてご飯を作ろう。朝起きたてだと言うのに妙に重い肩を回しながら厨房に立とうとして、ソレに気づいた。
鍋の中に黄金色の液体が溜まっている。見ると種付き梅干しを割ったものと鰹節が浮いていた。漂ってくる匂いはかぐらがよく呑んでいるお酒に似た匂いが混ざっている。なんだろこれ*1。
てか、そういえばかぐら居なくね?
部屋を見渡すと何処にも眠る白髪の姿が見えなかった。何時も一番最後に起きるのに、だ。
耳を澄ますと浴室の方からシャワー音が聞こえてくる。朝から料理? して朝風呂とはかぐらにしては珍しい。撮影してたら鏡が水垢まみれになって写らなくなっちゃって彩葉に怒られる、なんて事もあったな。ちなみに、どうせなら掃除も撮影しようとネタに取ってあるからまだ写らない。
朝ごはんを作っている最中、ガチャリ、とドアノブが回って扉が開く音がした。
「お、かぐら良い所に出た。ねぇねぇこの出汁みたいなやつ何か教え……て……?」
振り返って風呂上がりホコホコヤチヨモードのアシスタントを見ようとして、思わず背中に宇宙を背負った。
「『ふっふっふ。それはね、古くは醤油の代わりに室町時代から使われた歴史のある調味料なのです。名をば、煎り酒なん言いけり」
わさわさと頭をタオルで拭きながら出てきたのは、ヤチヨの声と、ヤチヨと同じ髪色と目の色の、私よりも7センチ身長が低い──。
「さ、私もお料理手伝うよ。何か朝から生まれ変わったみたいに調子良いんだ〜☆」
──私だった。
月見餅さん、太陽のガリ茶さん、誤字報告ありがとうございます! まだこんなに誤字があったのかと驚いております。
……彩葉誕生日スペシャルという名の設定が固まる前のやつ、消そうか迷ってます。どうしよ。
大規模コラボってあり?
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アリ
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ナシ