大空の戦士ウィンディアス   作:hirosnow

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EP2:遥斗、教師になる!?
Vicious! 悪魔の同盟


 一人の老人が、苦々しい表情でモニターを見つめていた。

 

 どこからともなく現れた航空機がロボットへと変形し、カメラアイを粉砕する。

 長い年月をかけ、心血を注いできたマシン――サイクロトプスが破壊されたのだ。

 屈辱に似た感情が、胸の奥から噴き上がる。

 

 彼は、Dr.(ドクター)エンビー。サイクロトプスの開発者であった。

 もっとも、あれはあくまで試作機――初期型に過ぎない。

 実戦投入を前提とした量産モデルには、さらなる改良を施す予定だった。

 

「……ふん、人型に固執する低脳な連中め」

 低く呟く。

 現代のロボット工学は、二足歩行にこだわりすぎている。だが、人間の歩行は、極めて繊細な重心移動の上に成り立つものだ。

 その再現を、この時代の技術で実現するのは不可能に近い。

 

「だからこそ、“尾”を与えた」

 サイクロトプスの設計図を指でなぞる。

 二足歩行を維持しつつ、尻尾によって重心を制御する。

 人ではなく、“獣”の構造を取り入れることで、安定性と機動力を両立させた。

 それは、エンビーが提唱する設計思想――

 人間以外の生物機構を取り入れた兵器群、メタルキメラシリーズの一端に過ぎない。

 

「人の形に縛られるから、限界が来るのだ」

 鼻で笑う。

 

 世の中では今、ロボットが産業や医療、さらには警察の分野にまで進出し始めている。

 だが、それらはまだ黎明期――未完成な技術の寄せ集めに過ぎない。

 それでも、人々はそれを“進歩”と呼ぶ。

 

「くだらん」

 吐き捨てるように言った。

 

 本来、世に広まるべきは、自らの研究成果であるはずだった。

 それが理解されないことへの苛立ちが、彼の内側で燻り続けている。

 だからこそ、サイクロトプスを辺境の地へ出現させ、テスト運用を行った。

 結果として、二足歩行型の警察機体を半壊にまで追い込む。

 本来であれば、それだけで十分に“優位性の証明”となるはずだった。

 ――あの乱入者さえ、いなければ。

 

「随分と熱心だな」

 背後から、低い声が響いた。

 

 ここは自分の研究ラボだ。

 エンビー以外に人間はいない――はずだった。

 得体の知れない気配に、額から汗が一筋、流れ落ちる。

 ゆっくりと振り返る。

 そこにあったのは――

 

 アンドロイド。人を模して作られた人造の器。

 そのうちの一体が、確かに“動いていた”。

「馬鹿な……!」

 

 それはエネルギー供給すら行っていない。

 自律プログラムも組み込まれていない、ただの空の器――木偶のはずだ。

 

「驚くなよ。お前が作ったものだろう?」

 アンドロイドは、ぎこちなさのない動きで歩き出す。

 まるで、この場所の構造を最初から知っているかのように。

 研究室を気ままに歩き回り、棚に収められていた人工皮膚を手に取る。

 それを顔に貼り付け、次いで、金属繊維の頭髪を頭部へと装着していく。

 無機質な素体が、徐々に“人間”へと近づいていく。

 

 やがて――

 ひとりの成人男性の姿を取ったそれが、エンビーの前に立った。

「き、貴様……何者だ」

 英米の俳優がスクリーンから抜け出してきたような、整った顔立ち。

 だが、その眼光は鋭く、どこか暴力の気配を帯びている。

「ジーグリード」

 男は、あっさりと名乗った。

 

「余所から来た生命体だ」

 一拍、間を置く。

「これで、十分だろ?」

 口の端をわずかに歪め、笑みを浮かべた。 ジーグリードは、腕の関節を回し、視界を調整する。

 

 先ほどまでは、体を持たない精神体だった。

 だが、アンドロイドという器に身を宿したことで、触覚、視覚、聴覚――失われていた感覚が、順に立ち上がってくる。

 

 そして、長い脚で壁を蹴った。

 ボゴッ――

 鈍い音とともに、壁に亀裂が走り、一部が陥没する。

「お前、何をする!」

 エンビーの叫びも、彼は意に介さない。

 よくできた器だ。

 精巧で頑丈。無機質でありながら、有機的な動きすら再現している。

 発展途上と見下していた地球の技術も、評価を改める必要があるかもしれない。

 ――もっとも、それを成し得たのが、この科学者個人の資質である可能性もあるが。

「人の形は無駄だ、と言っていたな」

 ジーグリードは、周囲の素体へ視線を巡らせる。

「その割には、随分と手が込んでいる」

 

 エンビーの眉が、ぴくりと動いた。

「……実験用だ。並行して研究しているに過ぎん」

「そうかい?」

 

 よほどこの身体を気に入ったのか、ジーグリードは上機嫌だった。それ以上、詮索する気もないらしい。

 

「ジーグリード、と言ったな。貴様は何をしに――ここへ来た?」

 

 エンビーが問い返す。

 その言葉には二つの意味が込められていた。

 

 地球へ来た目的。そして、この研究所を選んだ理由。

 ジーグリードは、その意図を正確に汲み取る。

 口の端を歪め、あっさりと言い放った。

 

「この星を征服するためだ」

 

 一拍、置く。

 

「それと――お前の研究所には、面白い材料が揃っている。拠点にするには、ちょうどいい」

「……暗に、手を貸せと言っているのか?」

 

「察しがいいな」

 エンビーは、その言葉を肯定と受け取った。

 

 ――自分に拒否権はあるのか。

 そんな思考が、脳裏をよぎる。

 

「だが、これは命令じゃない」

 ジーグリードは肩をすくめる。

 

「俺とアンタに主従関係はないからな。対等な――パートナーシップだ」

「見返りは?」

 即座に返す。迷いはない。

 

「そうだな……」

 わずかに考える素振りを見せてから、軽く言った。

「どこかの土地でも、国でも。好きに治めさせてやる」

 まるで、ありふれた商品でも勧めるような口調だった。

「政治に興味がないなら――一等地でも用意してやる。金でも、資源でも、好きなだけな」

「いいだろう。その話、引き受けよう」

 即答だった。

 

「この世界に未練や愛着はないのか?」

「ないな」

 間を置かず、エンビーは続ける。

「あるのは、不満と憤り――そして、恨みだ」

「……いい答えだ」

 ジーグリードは、わずかに口元を歪めた。

 

 宇宙の犯罪者と、倫理観の欠落した地球人。

 世界にとって最悪の二人が、誰に知られることもなく、同盟を結ぶ。

 それは、この仄暗い研究所の一室で、静かに交わされた約束だった。

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