「おい!助手2号。お前、ワシのジェット機に何をしたんじゃ?」
食事中のことだった。
デリバリーピザを頬張りながら、遥斗は答えようとするが――
「むむむ、むむむむ……!」
口いっぱいに詰め込んだせいで、まったく言葉にならない。
「……なんじゃ、その量は」
テーブルには、マルゲリータ、マリナーラ、ペスカトーレ。
「宅配ピザです。美味いですよ」
「見りゃわかるわ!」
遥斗は、それを一人で平らげようとしていた。痩せの大食いとはこのことだ。
博士はため息をつき、話を戻す。
「今まで、基地でジェット機を調べていたんじゃがな」
先日の戦闘で生じたわずかな損傷を修繕するついでに、内部構造も確認していた。
「ワシの開発した機体に、妙な改造の痕跡はなかった……なのに、なぜ人型に変形した?」
「ああ。あれは、俺の能力です」
あっさりと答える。
本来あの機体は、大気圏内輸送用の航空機だ。
戦闘も、ましてや変形も想定していない。
だが――
「俺は、物質に干渉できる。構造ごと“書き換える”ことができるんです」
遥斗は、ピザをもう一切れ取りながら続けた。
「形状だけじゃない。推進系も、制御も、通信も……必要なら武装だって」
あのとき使用したバルカン砲も、その場で生成したものだ。
「こりゃ科学じゃなく、超能力――オカルトの領域じゃな」
黒幕博士は、改めて遥斗――ウィンディアスが宇宙人であることを噛み締める。
外見は日本人の青年と変わらないだけに、つい失念しそうになる。
「ただ、この能力、めちゃくちゃエネルギーを食うんです」
遥斗は、デザートのティラミスを匙ですくいながら言った。
まるで、その消費を補うかのように。
ピザにはモッツァレラ。
ティラミスにはマスカルポーネ。
高カロリーな食品が、淡々と消えていく。
「ワシの分はないのか?」
「ありますよ」
遥斗が指さした先には――
素焼きのピザ生地。
「おい!!」
それは、もはやピザですらない。
「昨日のサラダの残り、乗せると美味いですよ」
ロメインレタスとルッコラ。生ハム。
ドレッシングは、裏ごしした豆腐にオリーブオイルとビネガー。
遥斗が手際よく盛り付ける。
「ふん。こんなもの……」
一口。
――旨い。
だが。
「よかった。博士はメタボですから、こっちの方がいいですよ」
「余計なお世話じゃ!!」
宇宙人に体型を指摘される筋合いはない。
何より――チーズのない生地は、ピザを食った気がせん。
しかし――遥斗の能力には、俄然として興味が湧いていた。
超能力と呼ぶべきか、オーバーテクノロジーと呼ぶべきか。
「面白いのう。お前の種族は、皆できるのか?」
「いえ。訓練が必要です。宇宙保安機構でも、ごく一部だけですね」
「便利な能力に思えるが」
「“使いたがらない”の方が正しいですかね」
遥斗は肩をすくめる。
「特にエリートは。最新式で高性能な機体の支給を求めます」
自分の命を預ける機体を、自ら“構築する”という発想がない。
――あるいは、最初から他人に委ねているのか。
「なるほどのう」
博士は、顎に手を当てる。
「楽をする連中ほど、装備に頼ると」
「身も蓋もない言い方をすれば、そうなります」
遥斗はあっさり肯定した。
「まあ、万年金欠の貧乏隊員には、支給品をねだる余裕もありませんし」
ケロッとした顔で、結論づける。 ただ――気に入らないことがある。
ジーグリードも、同じ能力を使えるという点だ。
人工衛星に融合し、異形へと変貌したあの姿。そこから放たれた、無数のビーム。
あの光景が、脳裏に焼き付いて離れない。
「その能力は、フリットから教わったのか?」
「ええ。隊長から士官学校のときに。……なぜ分かったんですか?」
「そりゃ、やつとはズッ友じゃからのう」
フリット隊長。あなたは地球で、この胡散臭い科学者と何をしていたのですか?
「居酒屋をハシゴしたり、カラオケでオールしたり……キャバクラにも行ったりしたのう」
遥斗は頭を抱えた。
――そのときの金、まさか隊の経費じゃないでしょうね。
今度、聞いてみるか。銀河系通信回線で。
「そんなわけで、あいつの思考や行動は、ある程度お見通しというわけじゃ」
それはそれで、なんだか嫌だ。
とはいえ――身寄りのなかった自分に道を示し、士官学校へ導いてくれた恩はある。そこは素直に感謝している。
「博士。一つ、聞いてもいいですか?」
「ワシのスリーサイズか?それとも好みの女性のタイプか?」
「どっちも違います」
「ワシはな、アニメ声でメガネっ娘で、あと巨乳が――」
「だから聞いてませんって」
会話が成立しない。暴投どころか、もはや別競技だ。
「地球のことです」
「ワシも地球の一部じゃぞ」
「そういう意味じゃなくて……日本の学校について、聞きたいんです」
「女子高生か!ワシも大好物じゃが、最近は規制が厳しくてのう。牛の生レバーみたいなもんじゃ」
「例えが最悪です」
もういい。
回り道はやめる。
「俺、学校の先生になりたいです」
一拍。
空気が、わずかに変わった。
「この任務の間だけでいい。この星の人間と――ちゃんと関わってみたいんです」