暗い施設の一角。壁面を走る蛍光灯の白い光が、鋼鉄の巨体を照らし出していた。
床には無数のケーブル。
鼻をつく重油の匂い。
ここが“実験場”であることを、否応なく感じさせる。
その中央に鎮座しているのは――
両脚を折り畳んだ、奇怪な機体。
丸みを帯びた装甲。
異様に肥大した脚部。
そのシルエットは、巨大なカエルを思わせた。
メタルキメラシリーズ。
Dr.エンビーが生み出した異形の機械群。
製造番号AMC002――“フロッギー”。
「目覚めの時間だぜ」
低い声が、空間に落ちる。
「眠気覚ましに、熱いコーヒーでも欲しいか?」
ジーグリードが、片手を掲げた。
その瞬間。
彼の身体から放たれた禍々しい光が、機体の中枢へと流れ込む。
――侵食。
そう呼ぶべき現象だった。
機械が震えた。
沈黙していたセンサーに、赤い光が灯る。
プログラムが書き換えられていく。
人工関節が、軋むように動き出す。
操縦者は、いない。
だが――
フロッギーは、動いた。
ジーグリードの“力”によって。
「お前は俺の“
冷たい声が、機体に刻まれる。
「ただ跳び、敵を仕留めろ。それだけでいい」
そのとき。
フロッギーの口腔部が、わずかに開閉した。
機械音とも、生物の鳴き声ともつかない、不気味な音。
――ゲコ。
ジーグリードの口元が歪む。
「……クク。いい声で鳴くじゃねえか」
傍らの白衣の老人が、眉をひそめた。
「……おい、ジーグリード。私の“フロッギー”に、今、何をした?」
その声音には、明確な苛立ちが混じっている。
「あん?」
ジーグリードは、気にも留めない。
「“力”をくれてやっただけだぜ」
「力を……?」
ジーグリードは、自身の能力を淡々と語る。
精神生命体としての特性。
物質に干渉し、“構造そのものを書き換える”力。
それは、設計者の想定を軽々と踏み越える。
出力。耐久性。持続時間。
すべてを、別次元へと引き上げる。
そして――
「俺の命令に忠実な駒になる」
ジーグリードの目が、赤く光る。
「命じれば、破壊の限りを尽くす。この星を戦場に変えるためのな」
沈黙。
やがて、エンビーの口元が歪む。
「なるほど……
――静寂。
工場の空気が、一瞬、凍りついた。
ジーグリードは、無反応だった。
「どういう意味だ?」
真顔で問い返す。
完全にスベった。
エンビーは咳払いを一つして、話題を変える。
「……しかし、お前が操るのではないのか? 操縦席は空だぞ」
ジーグリードは、ゆっくりと首を振る。
「まだ、この身体に馴染んでねえんだよ。地球に来たばかりでな」
「なるほどな」
エンビーは、満足げに頷いた。
「ならば、実戦データを取るには好都合だ。自律稼働型の初陣――」
その目が、狂気に光る。
「楽しませてもらうぞ」
フロッギーの装甲が震える。
赤いセンサーが、ぎらりと光を放つ。
そして――
――ゲコ。
機械の鳴き声が、再び響いた。
それに重なるように、老人の笑い声が、暗い施設にこだました。
「作戦場所は――新築ビルの建設現場だ」
エンビーが、モニターに映る都市の一角を指差す。
「最近、話題になっているだろう。二足歩行型の建設ロボットを導入した現場だ」
ジーグリードは、無言で画面を眺める。
「そこを火の海に変える」
淡々とした口調だった。
「大半の人間は恐怖する。だがな――」
エンビーの口元が、歪む。
「逆に、関心を示す連中もいる」
軍事産業の関係者。
機械工学の権威。
「この“戦闘データ”を手土産にすれば、連中はいくらでも金を出す。資金も、設備も、好きなだけ引き出せる」
狂気と理性が、同時に宿った目だった。
「――これが、実証だ。どちらの技術が“上”かというな」