All aboard! 蒼き星への航路
地球――広大な宇宙、銀河系に存在する、生命の宿る一つの惑星。
宇宙に
「積極的に支配したくない惑星」。
堂々の第一位である。
「あそこ、銀河の外れじゃないですか?支配者を名乗っても、カッコよくないし……」
「交通が整備されてないんですよね。
「せっかく支配しても、帰郷するときとか、一年は不在にしないといけないし」
彼ら(と呼んでいいのかは怪しいが)の意見はさておき、宇宙の平和と安全を守る宇宙保安機構にとっても、地球への干渉は最低限にとどめられているのが実情だった。
対照的に、外敵の脅威に常に晒される星々、あるいは小規模文明で自衛手段に乏しい惑星には、常駐部隊が配置されていた。
宇宙保安機構の隊員たちは、精神生命体である。精神生命体とは、肉体から精神を切り離しても活動できる生物の総称だ。
戦闘を伴う危険な任務や遠距離航行など、肉体の損傷や喪失のリスクが想定される場合、精神体をアンドロイドという仮初めの肉体に宿し、任務に就くのが常である。
そんな中、生身の肉体のまま、一人の青年が地球へ向かっていた。
名前はウィンディアス。
肉体年齢は、地球人に換算して二十四、五歳ほど。
親しい者は彼をウィンディと呼ぶ。
彼が地球へ向かう理由は、防衛でも戦闘でもない。
異文化交流。
異星に降り立ち、その文化や生活を学び、母星との架け橋となること。
「観光大使」や「留学生」と言ったところだろうか。 彼が操縦するのは、地球の輸送用ジェット機によく似たフォルムの宇宙船――惑星間輸送機だった。
そのとき、母星から通信が入る。
「やあ。ウィンディ。無事に着きそうかな?」
上司からの連絡だった。落ち着いた、艶のあるバリトンの声が操縦席に響く。
「ええ、フリット司令官。あと数分で到着します」
丁寧な口調で答える。
「私の想定では五、六人で任務に就くはずだったが、志願者が君一人だったとはね」
「そうですか?俺にとっては想定通りですよ」
笑いながら返す。
「むしろ、その方が気楽でいいです」
地球は彼らの本星から遠く離れた辺境にある。
それに――
宇宙保安機構、とりわけフリットが指揮する隊は志の高い者が多い。植民地となった惑星の解放や、名だたる犯罪者の討伐のような華々しい任務でもない限り、志願者は集まりにくかった。
良い言い方をすれば、崇高な思想を持つ者の集まり。
悪く言えば――口には出さないが――エリート意識の塊だった。
「私の部隊で、君のような隊員は珍しい」
「変わり者ですからね。自覚してますよ」
そうでなければ、辺鄙な星への赴任など希望しないだろう。
「そうではなく……」
フリットは言葉を濁した。
「生身の肉体で任務に就くとはね。通常ならアンドロイド体の支給を拒む者はいない」
そのことか。
ほんの少し逡巡したあと、上官には本当のことを告げることにした。
「地球には美味しいものがたくさんあって、俺はちゃんと自分の味覚で楽しみたいんです」
通信の向こうで、わずかな沈黙があった。
そして――フフ――と、フリットの笑い声が聞こえた。
「そうか。まあ、長い休暇だと思って地球の生活を楽しんで欲しい」
「ええ。お言葉に甘えて」
上官と会話を続けていると、蒼い惑星が視界に広がった。
地球。
これからウィンディアスが赴任する星だ。
「それから」
フリットの声が一段低くなったのを、ウィンディアスは聞き逃さなかった。
「もし、この星で数多の生命が危機に瀕したら」
「心得てます。任務を切り替え、防衛に徹すること」
宇宙保安機構の本来の使命――安全と平和を守ること。時には戦うことを躊躇ってはならない。
「その通りだ。では、そろそろ時間だ。レポートを期待している」
「了解です」
通信が途切れた。
宇宙保安機構の通信網がいかに広大であるかを、改めて実感する。
「さあ、行くぞ。セラフィム。地球は目の前だ」
密かに名付けた惑星間輸送機の名を呼び、ウィンディアスは操縦桿を握り、機首を蒼の惑星へ向けた。