大空の戦士ウィンディアス   作:hirosnow

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遥斗と美織との出会いよりも、およそ1ヶ月前の出来事


EP1:ウィンディアス、起動!!
All aboard! 蒼き星への航路


 地球――広大な宇宙、銀河系に存在する、生命の宿る一つの惑星。

 

 宇宙に跋扈(ばっこ)する無法者たちからは、このように称されていた。

 

 「積極的に支配したくない惑星」。

 

 堂々の第一位である。

 

「あそこ、銀河の外れじゃないですか?支配者を名乗っても、カッコよくないし……」

「交通が整備されてないんですよね。移動航路(ワープロード)とか、使いづらいし」

「せっかく支配しても、帰郷するときとか、一年は不在にしないといけないし」

 

 彼ら(と呼んでいいのかは怪しいが)の意見はさておき、宇宙の平和と安全を守る宇宙保安機構にとっても、地球への干渉は最低限にとどめられているのが実情だった。

 

 対照的に、外敵の脅威に常に晒される星々、あるいは小規模文明で自衛手段に乏しい惑星には、常駐部隊が配置されていた。

 

 宇宙保安機構の隊員たちは、精神生命体である。精神生命体とは、肉体から精神を切り離しても活動できる生物の総称だ。

 戦闘を伴う危険な任務や遠距離航行など、肉体の損傷や喪失のリスクが想定される場合、精神体をアンドロイドという仮初めの肉体に宿し、任務に就くのが常である。

 

 そんな中、生身の肉体のまま、一人の青年が地球へ向かっていた。

 名前はウィンディアス。

 肉体年齢は、地球人に換算して二十四、五歳ほど。

 親しい者は彼をウィンディと呼ぶ。

 彼が地球へ向かう理由は、防衛でも戦闘でもない。

 

 異文化交流。

 異星に降り立ち、その文化や生活を学び、母星との架け橋となること。

 「観光大使」や「留学生」と言ったところだろうか。 彼が操縦するのは、地球の輸送用ジェット機によく似たフォルムの宇宙船――惑星間輸送機だった。

 

 そのとき、母星から通信が入る。

 

「やあ。ウィンディ。無事に着きそうかな?」

 

 上司からの連絡だった。落ち着いた、艶のあるバリトンの声が操縦席に響く。

「ええ、フリット司令官。あと数分で到着します」

 丁寧な口調で答える。

「私の想定では五、六人で任務に就くはずだったが、志願者が君一人だったとはね」

「そうですか?俺にとっては想定通りですよ」

 笑いながら返す。

「むしろ、その方が気楽でいいです」

 

 地球は彼らの本星から遠く離れた辺境にある。

 それに――

 宇宙保安機構、とりわけフリットが指揮する隊は志の高い者が多い。植民地となった惑星の解放や、名だたる犯罪者の討伐のような華々しい任務でもない限り、志願者は集まりにくかった。

 

 良い言い方をすれば、崇高な思想を持つ者の集まり。

 悪く言えば――口には出さないが――エリート意識の塊だった。

 

「私の部隊で、君のような隊員は珍しい」

「変わり者ですからね。自覚してますよ」

 

 そうでなければ、辺鄙な星への赴任など希望しないだろう。

 

「そうではなく……」

 フリットは言葉を濁した。

 

「生身の肉体で任務に就くとはね。通常ならアンドロイド体の支給を拒む者はいない」

 

 そのことか。

 ほんの少し逡巡したあと、上官には本当のことを告げることにした。

 

「地球には美味しいものがたくさんあって、俺はちゃんと自分の味覚で楽しみたいんです」

 

 通信の向こうで、わずかな沈黙があった。

 そして――フフ――と、フリットの笑い声が聞こえた。

 

「そうか。まあ、長い休暇だと思って地球の生活を楽しんで欲しい」

「ええ。お言葉に甘えて」

 

 上官と会話を続けていると、蒼い惑星が視界に広がった。

 

 地球。

 これからウィンディアスが赴任する星だ。

 

 「それから」

 フリットの声が一段低くなったのを、ウィンディアスは聞き逃さなかった。

 

「もし、この星で数多の生命が危機に瀕したら」

「心得てます。任務を切り替え、防衛に徹すること」

 

 宇宙保安機構の本来の使命――安全と平和を守ること。時には戦うことを躊躇ってはならない。

 

「その通りだ。では、そろそろ時間だ。レポートを期待している」

「了解です」

通信が途切れた。

 

 宇宙保安機構の通信網がいかに広大であるかを、改めて実感する。

 

「さあ、行くぞ。セラフィム。地球は目の前だ」

 

 密かに名付けた惑星間輸送機の名を呼び、ウィンディアスは操縦桿を握り、機首を蒼の惑星へ向けた。

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