大空の戦士ウィンディアス   作:hirosnow

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プロローグから半年前。副担任だった美織。


What a mess! 高梨美織は憂鬱

「僕たち」

「私たち」

「「結婚します!」」

 

 目の前で突然告げられた結婚報告。

 美織の思考はあっさり停止した。

 

「どゆこと?」

 

 男を仮にモブ男とする。

 女はモブ美。

 

 モブ男は、美織が副担任をしている学級の担任だった。モブ美は――なんと教育実習生。つまり大学生である。

 

「要するにこういうことですか?教師という神聖な職業にありながら、大学生に手を出してしまったと?」

「そして、私のお腹には新しい命が」

 

 いわゆる、できちゃった婚(ショットガンマリッジ)ってやつかな?美織の頭に “shotgun marriage” の文字が浮かぶ。

 

 しかし、ふと冷静になる。

 たかだか1ヶ月の教育実習で、そこまで至るのは無理な話だ。

 

 教育実習の最終日だ。生徒の笑いを取るためのジョークだろう――そう考えた矢先。

 

「新しい命を、これから授かる予定です」

 ジョークではなかった。本気だった。

 

「実習生と恋仲になったんですか?」

「そうそう。僕のショットガンが暴発しちゃって」

「止めろ。言うな。ここは教室。神聖な学び舎。生徒がいるでしょ。下ネタは禁止ね」

 

 そんな爆弾発言に対する、生徒たちの反応は――

 

「へえ!干支が一周するくらい年下に手を出すなんて、かなりのやり手だよな」

 ある男子生徒は言う。

 それ、褒めてるの?

 ちなみにモブ男は三十代半ば。年齢相応に常識はあるはず――だったらよかったのに。

 

「教育実習にかこつけて婚活?教育の現場を学びに来ているはずなのに?ちょっと、社会を舐めているわよね」

 ある女子生徒は言う。

 まさにその通り!ぐうの音も出ない正論。

 でも、もうちょっとオブラートに包もうか?

 

 そして、この場に同席しているのが我が中学校の校長先生。どんな心境かは推して知るべし。

「先生は、奥さんの家業を継ぐそうで、1ヶ月後に退職するそうです」

 言葉は穏やかだが……まあ、怒っているのだろうと思った。

 

「これからは高梨先生が担任となります。明日から――いえ、今日から」

 

 寝耳に水だ。

 今でも十分大変なのに、いきなり担任?

 

「異存はないですよね、高梨先生?」

 

 校長先生が人事権を振りかざしてきた。

 さて、何と答えるべきか。

 「はい」か、「イエスマム」か、それとも「はい、喜んで!」か。

 実質一択だけど。

 

「今日の出来事を反面教師にして、頑張りたいと思います」

 これが美織の精一杯だった。

 

 

 その晩、美織は荒れた。

 冷蔵庫を開け、ビールや焼酎をありったけかき集め、自室で晩酌を始めた。

 

 ありとあらゆる怒りが湧いてきた。

 モブ男のちゃらんぽらんな行動。美織が夜遅くまで仕事をしている間に、しっかりモブ美とお楽しみ?

 モブ美の言動。実習期間、必死にサポートしたのに、水泡に帰すようなことをしやがって。

 

 校長先生個人には恨みはない。副担任を探すと言ってくれた。だが、教職員の人手不足が叫ばれる昨今、その言葉が実現する日が来るのかは怪しいところだ。

 

 酔いが回ってくると、ふとした光景が脳裏に浮かんだ。

 強面の初老の男――モブ美の父親を前に、正座で萎縮するモブ男。結婚報告に来たはいいが、延々と詰問されている。

 額からは冷や汗が流れ、正座で足は痺れ、やがて感覚がなくなっていく。

 

 ざまあみろ。

 そんな言葉が浮かび、その日、美織は気持ちよく眠りについた。

 

 なお、副担任が見つかったのは、それからおよそ半年後のことだった。

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