地球に近づくと、多くの人工衛星が視界に入った。通信や気象観測、科学研究――様々な目的で地球人が打ち上げた機械だ。
ウィンディアスはあらかじめ地球の事情を学習していたため、その存在は知っていた。本星でも同様の試みは行われている。
今も目的を果たすために機能している衛星もあれば、すでに役目を終え、
そのときだった。
宇宙船のレーダーが異常な反応を捉えた。人工衛星ではない。
「なんだ、精神生命体か?」
精神生命体――ウィンディアス自身も属する種族だ。
だが、肉体やアンドロイド体を離れて活動するのは、極めて例外的な状況だった。地球で言えば、極寒の地に裸で放り出されるようなものだ。
それゆえ、レーダーに反応した精神生命体は、救護を求める同胞か――あるいは、別の目的で肉体を持たずに行動している存在か。
いずれにせよ、放置することはできない。
「私はウィンディアス。宇宙保安機構の者だ。応答を願いたい」
音のない宇宙空間で、惑星間輸送機から精神生命体用の通信帯域に信号を発し、呼びかける。
「宇宙保安機構?」
反応があった。
その信号の強さから、救援が必要なほど衰弱しているわけではないと判断する。
「ああ。まず、名前と状況を教えてもらおうか」
相手はすぐには答えなかった。
「俺の名は……ジーグリード。それで十分だろ?」
ジーグリード。
――その名には、聞き覚えがある。名だたる犯罪者の名だ。
「なん……だと……」
普段は物怖じしない彼だが、このときばかりは予想外の事態に、間の抜けた声が漏れた。
「宇宙保安機構か。なら、やることは一つだな」
相手の方が一枚上手だと感じた。宇宙保安機構と遭遇しても、まるで動じる気配がない。
わずかに判断が遅れた。
即座に攻撃できたはずだった。
だが――体を持たない、丸腰の相手だ。
危害を加えることに、ためらいがあった。
たとえ犯罪者であっても、命を奪うかもしれない行為には、躊躇いが残る。
ウィンディアスの迷いを、ジーグリードは見逃さなかった。最寄りの人工衛星から、稼働中の一機を捉えると、融合を開始する。
外殻が歪み、蛇のようなコードが空間を這い、やがて異形の巨影が姿を現した。
「人工衛星と同化した……?」
それは手足や頭部を備え、遠目には人型にも見える。
「テメエは排除する――!」
異形はビームを放った。
輸送機は必死に回避する――だが、一閃が機体を直撃する。
地球圏外縁、通信衛星群の彼方。
人知れぬ宙域で、戦いが幕を開けた。
「……っ、推進系統損傷。姿勢制御不能!」
コクピットで、ウィンディアスは即座に判断を迫られる。
「このままでは危険だ――非常用ミサイル、使用するしかない!」
船体後部からミサイルが放たれた。
黒い軌道を描き、衛星へ直撃する。
「ぐ……!」
痛み分けだった。双方ともにダメージを負い、宇宙船と巨影は、地球の引力圏へ引きずり込まれる。抗う間もなく、加速は増していく。
「ここは、退くか」
ジーグリードは衛星から分離し、精神生命体へ戻った。影のようなそれは、地表の一点を定めると、闇に溶けるように消える。
一方、宇宙船は制御を失った。
警告が赤く点滅し、警報がコクピットを震わせる。
ウィンディアスは必死に操縦桿を握る。
だが軌道は、すでに地球の重力に捕らわれていた。
――墜落は避けられない。
宇宙船は制御不能のまま、大気圏へ突入する。
墜落軌道の先に浮かぶ、青い惑星――地球。
残されたエネルギーをすべて推力制御へ回す。
機体は大気圏を突き破り、火の尾を引いて落下していった。
サテライトナー:
ジーグリードが稼働中の人工衛星と融合し、即席で構築した戦闘形態。
人工衛星の外殻・機構を取り込み、人型に近いシルエットへと変形する。
本来、人工衛星は戦闘用途を想定した構造ではないが、ジーグリードの精神干渉能力により、推進系や通信機能を強制的に転用。簡易的ながらビーム攻撃を可能とする。
即応性に優れる反面、耐久性や出力は限定的であり、長時間の戦闘には適さない。
あくまで「その場にある資源を利用した応急戦闘体」である。