台座ごと聖剣で戦う偽勇者を、神々が実況するスレ   作:匿名

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第10話 決着

 王城の中庭は王家の庭師の手入れが行き届き、花木が息づく地上の楽園となっていた。

 

 赤、青、黄と色とりどりの美しい花々が咲き乱れ、甘い香りが陽だまりの中に漂っている。しかし今、その平和で美しい光景の中心には、濃密な殺気を放つ二人の男が対峙するという、ひどく歪な相違が生まれていた。

 

 シャラッ、と澄んだ音を立てて、カミーユが腰の短剣を抜く。

 

 神聖な銀の光を放つその切っ先が、真っ直ぐにアレスへと向けられた。

 

「安心しろ。俺は『聖剣』は使わない。素手でやってやる」

「……ふざけるな! どこまでも私をコケにする気か! 後悔させてやる!!」

 

 アレスが右肩から【五トンの神聖石(台座付き)】を無造作に地面へ下ろした瞬間。

 

 ズドォォォォォォォォォンッ!! と、中庭全体が跳ね上がるような凄まじい地響きが鳴り、カミーユの顔が引き攣ったように歪む。

 

 しかし、カミーユはすぐに頭を振り、怒りに任せて剣を強く握り直した。

 

 二人が構えを取る。

 

 突如、中庭を通り抜けた強い風が、花壇から無数の花びらを舞い上がらせた。

 

 ひらり、ひらり。

 

 二人の間に、一枚の赤い花弁が舞い落ちる。それが地面に触れた、まさにその瞬間──カミーユが踏み出した。

 

 なるほど。

 

 自らを「真の勇者」と呼ぶだけのことはある。

 

 その細く優美な身体からは到底想像も出来ないほどの、鋭く力強い踏み込み。一切の無駄を省いた、芸術的とも言える完璧な剣筋。

 

 音を置き去りにした銀の閃きが、瞬きする間もなくアレスの喉元へと迫る。凡人であれば、自分が斬られたことにすら気付けないであろう必殺の一撃。

 

 しかし、その光景を見守る三人の王女たちの顔には、欠片ほどの焦りもなかった。

 

 ただうっとりと、自分たちの逞しい夫に対する『絶対的な信頼』を浮かべて微笑んでいるだけだ。

 

 アレスは、指先一つで、その信頼に応えた。

 

 ガキンッッ!!

 

「なっ……!?」

 

 金属と金属がぶつかり合ったかのような硬質な音が響く。

 

 カミーユの顔が、今度こそ驚愕に歪んだ。

 

 渾身の力を込めた神速の刺突が、アレスの『右手の人差し指の腹』によって、文字通り完全に止められていたのだ。皮膚一枚、傷ついていない。

 

「ば、馬鹿な……っ!」

 

 カミーユはすぐさま剣を引き、嵐のような連撃を繰り出した。

 

 上段からの唐竹割り、袈裟懸け、胴薙ぎ、そして無数の刺突。銀の軌跡が中庭に幾重もの網目を描き出す。

 

 しかし、その尽くがアレスには届かない。

 

 アレスは、ただ腕力が規格外なだけの『脳筋』ではなかった。

 

 反射神経、動体視力、敏捷性。ありとあらゆる身体能力が、人間という種の限界を軽々と突破していたのだ。

 

 カミーユの放つ不可視の連撃の全てを、アレスはあくびが出そうなほど脱力した態勢のまま、右手の人差し指一本で『弾き、逸らし、受け止めて』捌き切っていく。

 

「ハァッ、ハァッ……!!」

「……まだやるのか?」

「うるさいうるさいうるさいッ!!」

 

 カミーユは血走った目で叫び、右手の甲の『勇者の紋章』に全魔力を込めた。

 

 その瞬間、紋章からどす黒い靄がどろりと溢れ出し、短剣を覆い尽くす。チリチリと不快な音を立てて空間を歪ませながら、黒い靄は禍々しい巨大な刃へと形を変えていった。

 

 それは、世界を救うべき勇者から発せられてよい気配では、断じてなかった。

 

 その異様な気配に、常に余裕の笑みを浮かべていたアレスの顔色が変わる。

 

「おい。それぐらいでやめておけ。その妙な力……もう手加減はできないぞ」

「うるさいと言っているだろうがァァァ!!」

 

 カミーユが地を蹴る。

 

 これまでで一番鋭く、そして最も凶悪な殺意を孕んだ一撃が、黒い軌跡を描いてアレスへと襲い掛かった。

 

 命の危機を感じたアレスの身体が、本能のままに動く。

 

 カミーユの剣が振り下ろされるよりも早く。アレスは一歩、深く踏み込んだ。

 

 ドゴォォォォォォォォォンッ!!

 

 重砲でも撃ち込まれたかのような鈍い炸裂音が、中庭に響き渡る。

 

 アレスがねじ込んだ右拳が、カミーユの腹部に深々とめり込んでいた。

 

「が、はッ……!?」

 

 カミーユは花壇へと投げ出され、短剣は指先から滑り落ちた。黒い靄は風に散り、庭の静けさだけが戻ってくる。

 

「手当をして、王都から離れさせろ。奴はもう、ここにいない方がいい」

「は、はいっ!」

 

 門衛たちが慌てて花壇へと駆け寄り、意識を失いかけているカミーユを抱え上げる。だらりと手足を垂らし、門衛に運ばれていくカミーユ。

 

 しかし、その瞳の奥だけは決して死んでいなかった。アレスを睨みつけるその濁った瞳には、世界を焼き尽くすほどの、底知れぬ憎悪だけが宿り続けていた。

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