台座ごと聖剣で戦う偽勇者を、神々が実況するスレ   作:匿名

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第6話 邪竜との戦い

 トラキア王都の北側を固める重厚な城壁。その上に立つ兵士たちの顔は、恐怖で白く引きつっていた。

 

 湖から這い出た『八頭邪竜ヒュドラ』が、静かに、しかし確実に王都へと迫っていた。

 

 城壁に備え付けられた巨大な篝火や魔導ランプの光が、接近する災厄の姿を露わにする。それは、彼らの想像を遥かに絶する悍ましさだった。

 

 月を遮るほどに巨大な山のような体躯。濡れた黒スズの鱗が篝火を浴びて鈍く光り、八本の首がそれぞれ意志を持つかのようにうねりながら、十六の紅蓮の瞳で王都を見下ろしている。

 

 その口からは、触れるもの全てを腐らせる紫色の瘴気が絶えず漏れ出し、周囲の空気を歪めていた。

 

「……嘘だろ」

 

 一人の兵士が、ガチガチと歯を鳴らしながら呟いた。槍を握る手は粟立ち、膝はガクガクと震えて力が入らない。

 

「あんなもの……人の手で倒せるわけがない。終わりだ……トラキアは終わるんだ……」

 

 誰かが絶望の声を上げ、涙を流して崩れ落ちた。その連鎖は一瞬にして城壁全体に広がり、兵士たちは武器を捨て、神に祈る気力さえ失って、ただ迫りくる死を待つのみとなった。

 

 王都陥落。その言葉が誰もが脳裏をよぎった、その時である。

 

 シュァァァァァァァァンッ!!

 

 絶望に包まれた城壁の上空を、何かが凄まじい速度で切り裂いた。

 

 それは、城壁から邪竜へと向かって放たれた、一発の『弾丸』のようだった。

 

 光源と邪竜の間に割って入ったその影は、たった一人。王都を背にし、八本の首を持つ巨大な災厄と、真正面から対峙したのだ。

 

 城壁の明かりが、その勇敢なる者の姿を映し出す。

 

 ──全裸。

 

 月光と篝火に照らされたのは、一糸纏わぬ、しかし神像のように逞しく隆起した背中。

 

 そしてその右肩には、長さ二メートルほどの柄の先に、一メートル四方はある巨大な岩塊──すなわち、床の石畳ごと引き抜かれた『神聖石の台座』がついた、悍ましい鈍器が担がれていた。

 

「……あ、あれは」

「勇者様だ! 勇者アレス様だ!!」

 

 その異様な、しかし見紛うことのない背中に、兵士たちの間に一瞬、爆発的な歓声が沸き起こった。

 

──グォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!

 

 だが、その歓声を掻き消すように、ヒュドラが天を裂く咆哮を上げた。大地が震え、城壁がきしむ。

 

 邪竜の咆哮は、兵士たちの微かな希望を冷酷に打ち砕いた。

 

 アレスとて、所詮は人の身。あのような神話級の怪物に、たった一人で対抗することなど、できるはずがない。

 

 ヒュドラは、十六の瞳を全裸の男に集中させ、あざけるように細めた。

 

 その八本の首のうち、中央の一本が大きく口を開ける。喉の奥がドクドクと不気味に脈動し、周囲の魔力が急激に収束し始めた。城壁を瞬時に溶かし尽くすであろう、超高熱の『ブレス』の予備動作だ。

 

 死の光が邪竜の口内に満ちた、その瞬間。

 

 アレスが動いた。

 

 自らの影を置き去りにするほどの、強烈な初速。

 

 疾風のごとく大地を駆け抜けたアレスは、ブレスが放たれる刹那、邪竜の眼前で地面を爆砕するほどの力で踏みつけた。

 

 ダンッ!!

 

 砲弾のように、全裸の体が空へと舞う。重力に逆らい、一瞬にしてヒュドラの頭上の高さを取ったアレスは、空中で身を翻した。

 

「ショヤァアアアアア……!!」

 

 全裸の咆哮と共に、右肩に担いだ【聖剣(台座付き)】が、完璧な遠心力を伴って振り下ろされる。

 

 ターゲットは、まさにブレスを吐き出そうとしていた、中央の首の顎下。

 

 ゴシャァァァァァァァァァァァァンッッ!!!!

 

 斬撃ではない。五トンの神聖石による、純粋な質量の暴力。ブレスのエネルギーが爆発するよりも早く、アレスの放った台座ハンマーがヒュドラの首に直撃した。

 

 神話級の肉体が、まるで腐った果実のように容易く粉砕される。轟音と共に、ヒュドラの中央の首が、肉片と鱗、そして神聖な魔力の残滓となって、夜空に四散した。

 

「……お」

 

 城壁の上で、誰かが声を上げた。それは恐怖ではなく、驚愕と、そして。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

 絶望の底にいた兵士たちに、爆発的な歓声が戻ってきた。

 

 

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【魔界ディープウェブ】人間界侵略・実況板

スレッド:【速報】数百年分のリソースで作った最高傑作、全裸にワンパンされるPart.10

 

1:名無しの邪神

 

2:名無しの破壊神

えっ?

 

3:名無しの絶望神

……中央の首、消し飛んだぞ?

 

4:名無しの謀略神

嘘だろ。神話級の肉体だぞ!?

オリハルコンすら溶かす超高熱ブレスの発射直前だったんだぞ!?

 

5:名無しの疫病神

いや、それよりアイツ……全裸じゃねえか!!

なんで王都の危機にスッポンポンで飛んでくるんだよ!!

 

6:名無しの破壊神

>>5

おい、お前らアイツの咆哮聞いたか!?

『ショヤァァアア!!(初夜)』って叫びながら殴ったぞ!!

 

7:名無しの絶望神

ふざけんな!!

俺たちが1200%のリソース(魔力)を全ツッパして生み出した最凶の災厄が、初夜を邪魔されてキレた全裸のゴリラにワンパンされたって言うのか!?

 

8:名無しの邪神

俺たちの数百年の努力、ゴリラの性欲に負けた……。

 

9:名無しの疫病神

俺の左腕えええええええええ!!!

初夜の恨みを晴らすためのサンドバッグにされたああああ!!!

 

10:名無しの破壊神

あっ、ヤバい!

アイツ空中で足場(※蹴り砕かれたヒュドラの牙)を蹴って、二本目の首に向かって飛んだぞ!!

 

11:名無しの謀略神

終わった。残り7本の首も、完全に『全裸のモグラ叩き』の的だ。

もう見てられない。

 

12:名無しの絶望神

……なあ、これ、『原初の混沌』様に何て報告すればいい?

 

13:名無しの邪神

『魔力1200%を注いだヒュドラが、性欲を持て余した全裸の村人に5トンの岩で叩き潰されました』

 

14:名無しの破壊神

間違いなく俺たち全員、虚無空間(リストラ)行きだわ。

 

 

 

 

【天界ちゃんねる】人間界監視・実況板

スレッド:【祝】偽勇者、神話級の災厄を全裸で粉砕wwwPart.48

 

1:名無しの太陽神

うおおおおおおおおおおお!!!

ワンパン!!ヒュドラの首がワンパンで弾け飛んだぞ!!www

 

2:名無しの豊穣神

やったあああああ!!

って、やっぱりアイツ全裸じゃん!!www

 

3:名無しの知恵神

しかも皆さん、彼が飛びかかるときの咆哮を聞きましたか?

「ショヤァアアアアア……!!(初夜)」でしたよ。

 

4:名無しの運命神

初夜への執念だけで神話級の災厄ワンパンしたぞアイツwwww

どんだけ王女様たちとヤりたかったんだよwwww

 

5:名無しの創造神

性欲で世界を救う男www

最高すぎるだろこのエンタメwwww

 

6:名無しの戦神

やめろおおおおおおおおおお!!!

城壁の兵士たち、全裸のアイツ見て「勇者アレス様万歳!!」って泣きながら拝んでるじゃねえか!!

 

7:名無しの知恵神

>>6

おめでとう、戦神。

これで完全に『戦神アレス=全裸で四角い岩を振り回す狂戦士』という概念が、人間界に固定化されましたね。

 

8:名無しの太陽神

今後の歴史書にはこう記されるだろうな。

『伝説の勇者アレスは、己の初夜を守るため、一糸纏わぬ神々しい姿で邪竜を討ち果たした』と。

 

9:名無しの戦神

もうやだあああああああ!!!

数百年後の人間界、俺の神像が絶対『全裸+四角い岩』で作られる!!

信者の前でどんな顔して神託下せばいいんだよ!!!(号泣)

 

10:名無しの鍛冶神

俺の……俺が数百年かけて打った最強の聖剣が……。

全裸のゴリラの、モグラ叩きの『持ち手(グリップ)』にされてる……(血涙)

 

11:名無しの豊穣神

戦神と鍛冶神が同時に限界迎えてて草wwww

 

12:名無しの創造神

おっ、アレスの奴、空中からそのまま二本目の首に【聖剣(台座)】を振り下ろしたぞ!

「二本目ェェ!!」

 

13:名無しの太陽神

ゴシャァァァン!!(二本目粉砕)

テンポ良すぎて腹痛いwwwww

邪竜(ヒュドラ)が完全にボーナスステージの的扱いwwww

 

14:名無しの運命神

頑張れアレス!早く倒して初夜に戻るんだ!!www

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