台座ごと聖剣で戦う偽勇者を、神々が実況するスレ   作:匿名

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第8話 真の勇者

 陽光に透ける金糸のような髪を風に靡かせながら、青年の乗る荷馬車は街道をゆっくりと進んでいた。

 

 青年の名は、カミーユ。

 

 清廉なる出立ちと、希望に満ちた真っ直ぐな蒼い瞳を持つその青年の右手の甲には、薄ぼんやりと光を放つ『聖なる紋章』が刻み込まれている。

 

 彼は、神より世界を救う使命を託された、正真正銘の『真の勇者』であった。

 

 右手の甲にその神聖なる紋章が浮き出たのは、つい数日前のことである。

 

 長きにわたり魔王軍の脅威に怯えていた故郷の村は、一人の青年に下った奇跡に大いに沸き立ち、三日三晩にわたる盛大な祝祭が催された。

 

「おお、神は我らを見捨ててはおられなかった!わが村に勇者が生まれたぞ!」

 

 涙を流して喜ぶ村人たち。そして村長は、カミーユの手を固く握り締め、こう告げたのだ。

 

「カミーユよ。トラキア王国の王都へ向かいなさい。あの大聖堂に眠る伝説の【聖剣】こそが、お主を真の勇者たらしめるであろう」と。

 

 村人たちの祈りと希望を背負い、カミーユを乗せた馬車の旅は、いま終わりを迎えようとしていた。彼の澄んだ瞳が、地平の彼方にそびえ立つトラキア王都の雄大な城壁を捉える。

 

「……ん?あれは……あの巨大なものは、なんですか?」

 

 カミーユは目を丸くし、御台で手綱を握る男に尋ねた。

 彼が指差す延長線上、王都の城壁の脇には、小山ほどもある『巨大な黒い肉塊』が横たわっていた。それはかつて王都を滅亡の危機に陥れた神話級の災厄、八頭邪竜ヒュドラの骸である。

 

「いや〜、わかんねーな」

 

 御者の男は首を傾げ、暢気に笑った。

 

「前に王都に来たときは、あんなバカでかいもんはなかったんだが。きっと、空からでも降ってきたんじゃねーか?」

「……空から、ですか。なるほど、そういうこともあるのですね」

 

 カミーユは頭を捻りながらも、王都周辺の神秘的な現象なのだろうと、納得することにした。

 

 やがて馬車は、王都の堅牢な正門を潜り抜けた。カミーユは御者に丁寧な感謝の言葉と銀貨を渡し、馬車を降りる。

 

 初めて訪れる巨大な王都。カミーユは少しばかり緊張した面持ちでキョロキョロと周囲を見渡しながら、大通りへと歩みを進めた。

 

 すると、行き交う人々の熱気帯びた声が、彼の耳に飛び込んできた。

 

「いやあ、流石は勇者様だ。これでトラキア王国も安泰だな」

「ええ、本当に! 王女様達もさぞかしお喜びになられているでしょうね」

 

 その言葉に、カミーユはハッと息を呑んだ。

 

(もう、私が勇者としてこの街を訪れるという情報が、民衆にまで届いていたのか……!)

 

 神の導きか、はたまた王家の情報網か。

 

 己への過分な期待と歓迎の声に、カミーユの胸は熱くなった。彼は右手の甲に刻まれた『勇者の紋章』を誇るように、そして沿道の民衆に見えるようにゆっくりと手を振りながら歩き始めた。

 

(皆の者、安心してください。貴方達が噂している勇者は、今、ここに到着しましたよ)

 

 微笑みを浮かべ、英雄としての自覚を胸に歩を進めるカミーユ。だが、続く民衆の会話が、彼の歩みをピタリと止めさせた。

 

「あぁ。しかし、王女様をまとめて三人娶るとはなぁ」

「なんと羨ましい。勇者様は、ベッドの上でもさぞかし豪胆でいらっしゃるのだろう」

 

「…………え?」

 

 カミーユは猛烈に慌てた。

 

 大聖堂で聖剣を抜いた暁には、王女との結婚が約束されているという噂は、村長の口から聞いていた。だが、まさか『三人まとめて』だとは夢にも思っていなかったのだ。

 

(わ、私からはまだ何も言っていないのに……! まさか、国の決定で、三人まとめて娶ることになっていたなんて……!!)

 

 真っ直ぐに生きてきた純朴な青年であるカミーユは、これから訪れるであろう三人の王女との『初夜』を想像し、ボンッと音が出るほど頬を真っ赤に染めた。

 

「三人同時だなんて……う、うまくやれるかなぁ……」

 

 まだ見ぬ美しい三人の妻との甘い結婚生活にまで想像を膨らませ、カミーユは鼓動を早鐘のように打たせる。

 

 やがて、そんなバラ色の妄想に包まれた真の勇者は、伝説の聖剣が眠る『大聖堂』の重厚な扉の前に、ついに辿り着いたのであった。

 

 

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【天界ちゃんねる】人間界監視・実況板

スレッド:【悲報】真の勇者(遅刻)、大聖堂に到着してしまうPart.50

 

1:名無しの太陽神

やべえええええええええ!!

真の勇者キチャああああああああああ!!

 

2:名無しの戦神

神殿騎士とめろ!!真の勇者を聖剣の間に入れるな!!

なんとか理由つけて追い返せ!!アイツの純粋な心を壊すな!!

 

3:名無しの知恵神

カミーユが大聖堂の入り口で神殿騎士に止められました!

 

4:名無しの豊穣神

神殿騎士「お前は誰だ?ここは立ち入り禁止だぞ」

カミーユ「私はカミーユ。神より選ばれし、勇者の紋章を持つ者です」ビシッ!(※右手の甲を突き出す)

 

5:名無しの創造神

見てられねええええええwwwwwwww

もうそのイベント全部終わってるんよwwww

 

6:名無しの運命神

神殿騎士「……は?いや、勇者様なら既に現れているが」

カミーユ「いいえ、私が勇者です(キリッ)」

 

7:名無しの太陽神

神殿騎士「そんなことを言われても……勇者様はつい先日、邪竜を討ち果たして王城へ凱旋されたばかりで……」

カミーユ「イラッ」

 

8:名無しの戦神

おいwwww

カミーユの奴、意外と短気だな!!www

 

9:名無しの知恵神

「自分が真の勇者だ」という絶対的な自信(神託)がありますからね。

偽物が自分の手柄を騙っていると勘違いして、正義感から腹を立てているのでしょう。

 

10:名無しの豊穣神

カミーユ「ならば、聖剣の間を見せてください!私が伝説の聖剣を抜いて、真の勇者であることを証明してみせます!!」

 

11:名無しの鍛冶神

やめろおおおおおお!!俺の聖剣(持ち手)はもうそこには無いんだあああああ!!!

 

12:名無しの運命神

神殿騎士「……いいですけど」ギィィィィィ……(※重厚な扉を開く)

 

13:名無しの創造神

あっ。

 

14:名無しの太陽神

カミーユ「さあ、見なさい!これが伝説の……」

 

15:名無しの戦神

カミーユ「……………………え?」

 

16:名無しの知恵神

台座ごと無くなった【床の四角い大穴】を見て、完全に唖然としていますね。

 

17:名無しの豊穣神

そりゃそうだろwwww

剣が刺さってるはずの神聖な祭壇の床が、ごっそり1メートル四方も抉り取られて穴空いてるんだからwwww

 

18:名無しの太陽神

カミーユ「い、一体、これはどういうことですか!?聖剣は!?そもそもこの床の大穴は!?」

神殿騎士「だから、勇者様が引き抜きましたって」

 

19:名無しの戦神

神殿騎士の「引き抜きました(※床ごと)」って表現、間違ってないけどカミーユには絶対伝わんねえよwww

 

20:名無しの創造神

カミーユ「嘘だ!!剣を抜くのに床にこんな大穴が開くわけがないでしょう!!ふざけないでください!!」

 

21:名無しの知恵神

カミーユが神殿騎士に詰め寄りました!

真面目な彼にとって、この光景は到底「物理的」に受け入れられるものではありません!

 

22:名無しの運命神

神殿騎士「痛っ!離せ!……そんなに疑うなら、王城に行って直接見てこいよ!!今頃、王女様たちとよろしくやってるはずだから!!」

 

23:名無しの太陽神

いくなー!!wwwww

 

24:名無しの戦神

カミーユ、行くんじゃない!!

お前の純粋な脳が破壊されるぞ!!wwwwww

 

25:名無しの豊穣神

今アイツが王城に行ったら、『全裸で5トンの台座担いで、自分が娶るはずだった3人の王女を肩に乗せてる異常者』を目の当たりにすることになるわよ!!www

 

26:名無しの鍛冶神

逃げろカミーユ……。お前は何も見ず、そのまま故郷の村に帰るんだ……。

お前の物語は、始まる前に「全裸の質量」に全てを破壊されたんだ……。

 

27:名無しの知恵神

大聖堂の【四角い大穴】の前で、完全にフリーズしてしまったカミーユ……。

可哀想ですが、面白すぎて腹が千切れそうです。

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