台座ごと聖剣で戦う偽勇者を、神々が実況するスレ   作:匿名

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第9話 偽勇者 VS 真の勇者

 神殿騎士に冷たくあしらわれたカミーユは、足早に王城へと向かっていた。

 

 その端正な顔立ちは、もはや困惑ではなく、明確な『怒り』によって歪に支配されていた。

 

(ふざけるな……。ふざけるな!!)

 

 本来ならば、自分が手にするはずだった伝説の聖剣。本来ならば、自分が娶るはずだった三人の美しい王女。そして、自分が一身に浴びるはずだった民衆からの称賛と栄誉。

 

 それを、どこぞの馬の骨とも知れない偽物がそっくりそのまま掠め取ったというのだ。

 

 許せない。神に選ばれた特別な存在である自分の運命を、泥棒のように奪い去った卑劣な簒奪者。その怒りと嫉妬が、カミーユの心をどす黒く染め上げていく。

 

 本来、純粋な神聖力が宿るはずの『勇者の紋章』。

 

 しかしカミーユの右手の甲に刻まれたそれは今、彼のどろどろとした負の感情と同期するように、微かに『どす黒い靄』を纏って明滅していた。

 

 やがて王城の正門に辿り着いたカミーユは、ずかずかと歩み寄るが、二人の屈強な門衛によってその行く手を遮られた。

 

「止まれ。入城証を出せ」

「退け。俺は神に選ばれた真の勇者だぞ? なぜ、そのような紙切れを出さねばならない? すぐに王に会わせてくれ」

 

 カミーユの横柄な態度に、門衛たちは呆れたように顔を険しくした。

 

「あぁー……最近多いんだよな、そういう自称・勇者くん。御伽話に憧れてるんだろうけどよ、本物の勇者様ってのは、君みたいにヒョロヒョロと線の細い優男じゃないんだよ」

「なんだと……? この紋章が目に入らないのか!」

 

 カミーユはギリッと奥歯を噛み締め、右手を硬く握ってその甲を門衛の目の前に突きつけた。

 

「なにそれ? 絵の具か何かで描いたのか?」

「……ふざけるなッ!!」

 

 神聖なる証を愚弄されたカミーユは激昂し、力任せに門衛を押し退けて無理矢理中に入ろうとする。だが、鍛え抜かれた門衛たちに両腕をあっさりと拘束されてしまった。

 

 そこへ、奥から地を這うような野太く逞しい声が響いた。

 

「おいおい。正門で何を騒いでいるんだ?」

 

 現れたその姿に、カミーユは息を呑んだ。

 

 常人離れした筋骨隆々の巨体。右肩には、一メートル四方はある常軌を逸した巨大な岩塊──【台座付きの聖剣】を軽々と担ぎ、そしてその両脇には、信じられないほど美しい三人の王女たちを侍らせた男、アレスであった。

 

「おぉ、アレス様! お寛ぎのところお騒がせして申し訳ございません。実はこの男が『自分は勇者だ。王に会わせろ』と喚いておりまして……」

 

 門衛たちが最敬礼で謝罪する中、カミーユは血走った目でアレスをキッと睨みつけた。

 

「お前か……! お前が私の聖剣を盗んだ、卑劣な偽勇者は!!」

「……ん? なんだお前」

「その聖剣は私のものだ! そして、そこにいる三人の王女達も、本来は私と結婚するはずだったのだ! 私の所有物を、全て返せ!!」

 

 カミーユのあまりにも傲慢で身勝手な言い分に、アレスは「はぁ?」と困ったような顔で眉をひそめた。

 

「いや、私の所有物って……。女性をまるでモノのように言う男に、指一本触れさせない」

 

 アレスは隣に立つ三人の王女たちへと視線を向ける。

 

 すると三人は、カミーユには見向きもせず、アレスに向けて熱を帯びた情熱的な視線を返し……あろうことか、三人が三人とも、愛おしそうに自分たちの『お腹を摩った』のだ。

 

 それはまるで、「私たちはもう、このお方の子宝に恵まれたのよ」とでもアピールするかのような、あまりにも残酷で艶かしい仕草だった。

 

「なっ……!?」

 

 その光景に、カミーユの中で何かがブチッと音を立てて弾け飛んだ。

 

「ふ、ふざけるなよ!! この泥棒の偽勇者め!! お前のような下品なゴリラが勇者なわけないだろうが!! 俺と決闘しろ!!」

 

 錯乱し、唾を飛ばして喚き散らすカミーユを、門衛が慌てて制止に入る。

 

「君! 悪いことは言わない、やめておけ! 相手にならない! アレス様はあの神話級の巨大な邪竜すら一人で倒された御方なのだぞ!? 君も王都の外に横たわる小山のような屍を見ただろう!?」

「うるさい!! 今すぐ決闘だ!!」

 

 周囲の静止など、もはや完全に正気を失ったカミーユの耳には届かない。

 

 彼は腰の剣を抜く代わりに、自らの革手袋を乱暴に脱ぎ捨てると、それをアレスに向かって力一杯投げつけた。

 

 バシッ、と手袋がアレスの分厚い胸板に当たって地に落ちる。

 

 その瞬間。

 

 アレスの人の良さそうな顔色から、スッと感情が消え去った。

 

「……覚悟は、出来ているんだろうな?」

「当たり前だ!! 私こそが真の勇者だということを、その身に刻み込んでやる!!」

「……分かった。なら、ついてこい。王城の中庭でやろう」

 

 重い足音が、石畳を叩く。

 

 身の程を知らぬ哀れな真の勇者と、規格外の質量を誇る偽勇者の決闘が、今まさに始まろうとしていた。

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