終わりまでの旅路〈待機を終了します〉   作:ヒツジ(ラム肉

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第二話 契約

空は、あの日も静かだった。

 

ただ――

 

世界は静かではなかった。

 

瓦礫が崩れる音が響く。

ガラスが割れ、遠くで何かが倒れる。

 

そして。

 

それは、そこにいた。

 

形は定まっていない。

 

黒い霧のようでもあり、

溶けた影のようでもあり、

時折、人の腕のようなものが伸びる。

 

魔物。

 

人の理解の外にある存在。

 

少女は走っていた。

 

息が苦しい。

足がもつれそうになる。

 

後ろを見る。

 

魔物はゆっくりと近づいてくる。

 

急いでいる様子はない。

 

逃げ場はないと分かっているように。

 

少女は角を曲がった。

 

崩れた建物の陰に入り、壁に背中をつける。

 

胸が激しく上下している。

 

「はぁ……はぁ……」

 

手が震える。

 

さっきまであったはずの通りは、もうない。

 

瓦礫で塞がれている。

 

少女は震える声で言う。

 

「……誰か」

 

返事はない。

 

風だけが通り過ぎる。

 

少女は目を閉じた。

 

遠くで、何かが壊れる音がする。

 

魔物が近づいている。

 

そのとき。

 

声がした。

 

「確認」

 

少女は目を開けた。

 

そこに――

 

丸いものが立っていた。

 

少女は固まる。

 

着ぐるみのような姿。

 

丸い耳。

丸い体。

 

小さな手足。

 

まるで遊園地のマスコットのような存在。

 

少女は呟く。

 

「……え?」

 

丸い存在は少女を見ていた。

 

じっと。

 

そして言う。

 

「個体確認」

 

「生命反応、安定」

 

少女は呆然としている。

 

「……え?」

 

丸い存在は続けた。

 

「適性確認」

 

「魔法少女適性、検出」

 

少女は瞬きをする。

 

「……何?」

 

そのとき。

 

影が動いた。

 

魔物が角を曲がる。

 

黒い霧が広がる。

 

少女は息を呑む。

 

「……!」

 

丸い存在はそちらを見る。

 

「魔物個体」

 

「確認」

 

少女は言う。

 

「逃げないと――」

 

丸い存在は首をかしげた。

 

「逃走」

 

「推奨」

 

少女は思わず叫ぶ。

 

「じゃあ早く!」

 

丸い存在は少女を見る。

 

「質問」

 

少女は戸惑う。

 

「え?」

 

丸い存在は言う。

 

「魔法少女契約」

 

「希望しますか」

 

少女は言葉を失う。

 

後ろでは魔物が近づいている。

 

影が壁を這う。

 

少女は言う。

 

「……何それ」

 

丸い存在は答える。

 

「魔物と戦う存在」

 

「高い生存率」

 

少女は呆然とする。

 

「今言うことそれ?」

 

丸い存在は答える。

 

「はい」

 

少女は振り返る。

 

魔物がもうすぐそこにいる。

 

黒い霧がゆっくり広がる。

 

少女は言う。

 

「……戦えるの?」

 

丸い存在は答える。

 

「はい」

 

少女はもう一度聞く。

 

「助かる?」

 

丸い存在は少し考える。

 

「確率」

 

「上昇」

 

少女はため息をつく。

 

「……曖昧」

 

丸い存在は答える。

 

「はい」

 

少女は笑ってしまった。

 

こんな状況なのに。

 

なぜか少し可笑しい。

 

少女は言う。

 

「名前は?」

 

丸い存在は答える。

 

「管理個体」

 

「識別名」

 

「りすくまる」

 

少女は小さく笑う。

 

「……変な名前」

 

りすくまるは答える。

 

「確認」

 

「よく言われます」

 

魔物がさらに近づく。

 

黒い霧が地面を覆う。

 

少女は深く息を吸う。

 

そして言う。

 

「じゃあ」

 

少し間を置く。

 

「やります」

 

りすくまるは言う。

 

「契約確認」

 

「了承」

 

少女は言う。

 

「でも」

 

「ひとつだけ」

 

りすくまるは首を傾ける。

 

「質問」

 

少女は言う。

 

「あとで説明してください」

 

りすくまるは答える。

 

「了解」

 

その瞬間。

 

光が生まれた。

 

少女の体を包む光。

 

魔物が止まる。

 

影が揺れる。

 

少女は目を見開く。

 

「……!」

 

りすくまるは言う。

 

「契約成立」

 

光が収束する。

 

少女は立っていた。

 

さっきまでと同じ場所に。

 

ただ。

 

体の中に何かがある。

 

力。

 

少女は前を見る。

 

魔物がいる。

 

少女は言う。

 

「りすくまる」

 

「はい」

 

少女は少し笑う。

 

「これ」

 

「どう使うの?」

 

りすくまるは答える。

 

「戦闘開始」

 

少女はため息をつく。

 

「説明短い」

 

りすくまるは言う。

 

「戦闘後」

 

「詳細説明」

 

少女は言う。

 

「……先に言って」

 

魔物が動く。

 

影が広がる。

 

少女は前を見る。

 

深く息を吸う。

 

そして。

 

一歩踏み出した。

 

それが――

 

長い時間の始まりだった。

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