終わりまでの旅路〈待機を終了します〉   作:ヒツジ(ラム肉

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第三話 制度

空はまだ暗かった。

 

夜明け前の空気は冷たく、街は静まり返っている。

 

屋上に二つの影があった。

 

少女と、丸い管理個体。

 

少女は手すりに寄りかかって空を見ていた。

 

「眠いです」

 

りすくまるは答える。

 

「睡眠不足」

 

少女は頷く。

 

「昨日三回戦いました」

 

「多いです」

 

りすくまるは言う。

 

「魔物発生率」

 

「上昇傾向」

 

少女はため息をつく。

 

「そういうの、先に言ってほしいです」

 

「準備したい」

 

りすくまるは答える。

 

「予測困難」

 

少女は言う。

 

「便利そうで不便ですね」

 

「はい」

 

少女は空を見る。

 

東の空が少し明るくなっている。

 

夜が終わる。

 

少女は言う。

 

「りすくまる」

 

「はい」

 

「魔法少女って」

 

少し間を置く。

 

「何人いるんですか?」

 

りすくまるは答える。

 

「現在活動個体」

 

「四百三十二」

 

少女は目を丸くする。

 

「そんなに」

 

「はい」

 

少女は少し安心した顔をする。

 

「じゃあ」

 

「結構いますね」

 

りすくまるは言う。

 

「はい」

 

少女は続ける。

 

「みんな強いんですか?」

 

りすくまるは答える。

 

「個体差あり」

 

少女は笑う。

 

「そりゃそうですよね」

 

少女は腕を伸ばす。

 

夜通しの戦闘で体が少し重い。

 

「私はどうですか」

 

りすくまるは言う。

 

「戦闘能力」

 

「中程度」

 

少女は肩をすくめる。

 

「普通ですね」

 

「はい」

 

少女は言う。

 

「ちょっと残念」

 

りすくまるは言う。

 

「補助能力」

 

「高評価」

 

少女は首を傾げる。

 

「補助?」

 

「はい」

 

「観測能力」

 

「状況判断」

 

「長期活動適性」

 

少女は言う。

 

「最後のは嬉しくない」

 

りすくまるは答える。

 

「魔法少女活動」

 

「長期前提」

 

少女は少し黙る。

 

そして聞く。

 

「どのくらい」

 

りすくまるは答える。

 

「平均」

 

「二十年」

 

少女は驚く。

 

「そんなに」

 

「はい」

 

少女は空を見上げる。

 

少し考える。

 

「……学校どうしよう」

 

りすくまるは答える。

 

「制度支援」

 

少女は振り向く。

 

「制度?」

 

りすくまるは説明する。

 

「魔法少女制度」

 

「生活補助」

 

「家族説明」

 

「金銭支援」

 

少女は少し安心した顔をする。

 

「ちゃんとしてる」

 

りすくまるは言う。

 

「はい」

 

少女は聞く。

 

「家族にも言うんですか」

 

「はい」

 

少女は少し困った顔をする。

 

「信じてもらえますかね」

 

りすくまるは答える。

 

「信頼性」

 

「高い」

 

少女は笑う。

 

「説得係ですか」

 

「はい」

 

空がさらに明るくなる。

 

太陽が上がる。

 

街がゆっくり目を覚ます。

 

少女は言う。

 

「りすくまる」

 

「はい」

 

「魔法少女」

 

少し間を置く。

 

「辞めることできますか?」

 

りすくまるは答える。

 

「可能」

 

少女は少し安心する。

 

「良かった」

 

りすくまるは続ける。

 

「消去」

 

少女は首を傾げる。

 

「消去?」

 

りすくまるは説明する。

 

「魔法少女機能停止処置」

 

少女は黙る。

 

「……それ」

 

「死ぬんですか」

 

りすくまるは答える。

 

「苦痛なし」

 

少女は言う。

 

「質問と答えが違う」

 

りすくまるは少し考える。

 

「定義」

 

「人としての死とは異なる」

 

少女は聞く。

 

「どう違うんですか」

 

りすくまるは答える。

 

「粒子分解」

 

少女は静かになる。

 

風が屋上を通り抜ける。

 

少しして。

 

少女は言う。

 

「みんな」

 

「それを選ぶんですか?」

 

りすくまるは答える。

 

「多数」

 

少女は小さく息を吐く。

 

「……そっか」

 

しばらく沈黙が続く。

 

街の音が少しずつ増えていく。

 

少女は言う。

 

「りすくまる」

 

「はい」

 

「あなた」

 

「長く生きるんですか」

 

りすくまるは答える。

 

「管理個体」

 

「長期稼働」

 

少女は笑う。

 

「じゃあ」

 

「ずっと見てるんですね」

 

りすくまるは言う。

 

「はい」

 

少女は空を見る。

 

太陽が昇っている。

 

「じゃあ」

 

少女は少し笑う。

 

「最後まで見てください」

 

りすくまるは答える。

 

「了解」

 

少女は言う。

 

「約束です」

 

りすくまるは言う。

 

「了解」

 

そのとき。

 

りすくまるの目がわずかに光る。

 

「魔物発生」

 

少女はため息をつく。

 

「ですよね」

 

少女は立ち上がる。

 

「場所は?」

 

りすくまるは答える。

 

「北西」

 

「距離三キロ」

 

少女は言う。

 

「行きますか」

 

りすくまるは答える。

 

「はい」

 

少女は屋上の端に立つ。

 

街が広がっている。

 

そして。

 

少女は飛び降りた。

 

光が走る。

 

魔法少女が空を切る。

 

りすくまるはその後ろを見ていた。

 

観測を続けていた。

 

制度はまだ動いている。

 

魔法少女は戦っている。

 

世界はまだ、壊れていない。

 

その時代の話だった。

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