空はまだ暗かった。
夜明け前の空気は冷たく、街は静まり返っている。
屋上に二つの影があった。
少女と、丸い管理個体。
少女は手すりに寄りかかって空を見ていた。
「眠いです」
りすくまるは答える。
「睡眠不足」
少女は頷く。
「昨日三回戦いました」
「多いです」
りすくまるは言う。
「魔物発生率」
「上昇傾向」
少女はため息をつく。
「そういうの、先に言ってほしいです」
「準備したい」
りすくまるは答える。
「予測困難」
少女は言う。
「便利そうで不便ですね」
「はい」
少女は空を見る。
東の空が少し明るくなっている。
夜が終わる。
少女は言う。
「りすくまる」
「はい」
「魔法少女って」
少し間を置く。
「何人いるんですか?」
りすくまるは答える。
「現在活動個体」
「四百三十二」
少女は目を丸くする。
「そんなに」
「はい」
少女は少し安心した顔をする。
「じゃあ」
「結構いますね」
りすくまるは言う。
「はい」
少女は続ける。
「みんな強いんですか?」
りすくまるは答える。
「個体差あり」
少女は笑う。
「そりゃそうですよね」
少女は腕を伸ばす。
夜通しの戦闘で体が少し重い。
「私はどうですか」
りすくまるは言う。
「戦闘能力」
「中程度」
少女は肩をすくめる。
「普通ですね」
「はい」
少女は言う。
「ちょっと残念」
りすくまるは言う。
「補助能力」
「高評価」
少女は首を傾げる。
「補助?」
「はい」
「観測能力」
「状況判断」
「長期活動適性」
少女は言う。
「最後のは嬉しくない」
りすくまるは答える。
「魔法少女活動」
「長期前提」
少女は少し黙る。
そして聞く。
「どのくらい」
りすくまるは答える。
「平均」
「二十年」
少女は驚く。
「そんなに」
「はい」
少女は空を見上げる。
少し考える。
「……学校どうしよう」
りすくまるは答える。
「制度支援」
少女は振り向く。
「制度?」
りすくまるは説明する。
「魔法少女制度」
「生活補助」
「家族説明」
「金銭支援」
少女は少し安心した顔をする。
「ちゃんとしてる」
りすくまるは言う。
「はい」
少女は聞く。
「家族にも言うんですか」
「はい」
少女は少し困った顔をする。
「信じてもらえますかね」
りすくまるは答える。
「信頼性」
「高い」
少女は笑う。
「説得係ですか」
「はい」
空がさらに明るくなる。
太陽が上がる。
街がゆっくり目を覚ます。
少女は言う。
「りすくまる」
「はい」
「魔法少女」
少し間を置く。
「辞めることできますか?」
りすくまるは答える。
「可能」
少女は少し安心する。
「良かった」
りすくまるは続ける。
「消去」
少女は首を傾げる。
「消去?」
りすくまるは説明する。
「魔法少女機能停止処置」
少女は黙る。
「……それ」
「死ぬんですか」
りすくまるは答える。
「苦痛なし」
少女は言う。
「質問と答えが違う」
りすくまるは少し考える。
「定義」
「人としての死とは異なる」
少女は聞く。
「どう違うんですか」
りすくまるは答える。
「粒子分解」
少女は静かになる。
風が屋上を通り抜ける。
少しして。
少女は言う。
「みんな」
「それを選ぶんですか?」
りすくまるは答える。
「多数」
少女は小さく息を吐く。
「……そっか」
しばらく沈黙が続く。
街の音が少しずつ増えていく。
少女は言う。
「りすくまる」
「はい」
「あなた」
「長く生きるんですか」
りすくまるは答える。
「管理個体」
「長期稼働」
少女は笑う。
「じゃあ」
「ずっと見てるんですね」
りすくまるは言う。
「はい」
少女は空を見る。
太陽が昇っている。
「じゃあ」
少女は少し笑う。
「最後まで見てください」
りすくまるは答える。
「了解」
少女は言う。
「約束です」
りすくまるは言う。
「了解」
そのとき。
りすくまるの目がわずかに光る。
「魔物発生」
少女はため息をつく。
「ですよね」
少女は立ち上がる。
「場所は?」
りすくまるは答える。
「北西」
「距離三キロ」
少女は言う。
「行きますか」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は屋上の端に立つ。
街が広がっている。
そして。
少女は飛び降りた。
光が走る。
魔法少女が空を切る。
りすくまるはその後ろを見ていた。
観測を続けていた。
制度はまだ動いている。
魔法少女は戦っている。
世界はまだ、壊れていない。
その時代の話だった。