雨が降っていた。
細かい雨だった。
街の灯りが濡れた道路に映っている。
少女は屋上に座っていた。
足をぶらぶらさせながら、雨を眺めている。
隣にはりすくまるがいた。
丸い体に雨粒が当たる。
しかし濡れる様子はない。
少女は言う。
「今日は少ないですね」
りすくまるは答える。
「魔物発生」
「本日二件」
少女は笑う。
「平和です」
りすくまるは言う。
「はい」
少女は空を見る。
雨雲が厚い。
星は見えない。
少女は言う。
「りすくまる」
「はい」
「魔法少女」
少し間を置く。
「四百人くらいいましたよね」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は聞く。
「今は?」
りすくまるは言う。
「三百七十八」
少女は黙る。
そして言う。
「減りましたね」
「はい」
雨の音だけが聞こえる。
少女は言う。
「戦闘ですか」
りすくまるは答える。
「一部」
少女は聞く。
「じゃあ」
「他は?」
りすくまるは言う。
「消去」
少女はしばらく黙る。
雨は変わらず降り続いている。
少女は小さく言う。
「そうですか」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は聞く。
「あなたがやるんですか」
りすくまるは答える。
「管理個体任務」
少女は少し笑う。
「大変ですね」
りすくまるは言う。
「はい」
少女は雨を見る。
しばらくしてから言う。
「りすくまる」
「はい」
「痛くないんですよね」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は言う。
「よかった」
りすくまるは言う。
「はい」
雨が少し強くなる。
少女は屋上の縁に手をつく。
「りすくまる」
「はい」
「お願いがあるんです」
りすくまるは答える。
「質問」
少女は言う。
「もし」
少し間を置く。
「私が消去する時」
りすくまるは黙る。
少女は続ける。
「あなたがやってください」
雨の音が強くなる。
りすくまるは答える。
「了解」
少女は笑う。
「即答」
りすくまるは言う。
「任務」
少女は言う。
「冷たい」
りすくまるは言う。
「確認」
少女は笑う。
「冗談です」
りすくまるは言う。
「了解」
また沈黙。
雨が降り続いている。
そのとき。
りすくまるの目が光る。
「通信」
少女は振り向く。
「また魔物?」
りすくまるは言う。
「否」
少女は聞く。
「じゃあ?」
りすくまるは言う。
「消去申請」
少女は静かになる。
「……誰ですか」
りすくまるは答える。
「魔法少女個体」
「番号二八三」
少女は目を閉じる。
「知り合いです」
りすくまるは言う。
「記録確認」
「同任務区域」
少女は小さく笑う。
「よく一緒に戦いました」
少し間が空く。
少女は言う。
「行きますか」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は立ち上がる。
雨の中に飛び出す。
街の灯りが遠ざかる。
二人は静かに移動する。
建物の屋上に降りる。
そこに少女が一人立っていた。
魔法少女。
少女より少し年上だった。
濡れた髪をかきあげる。
そして言う。
「来た?」
少女は頷く。
「来ました」
魔法少女は笑う。
疲れた笑顔だった。
「早かったね」
少女は聞く。
「どうしたんですか」
魔法少女は肩をすくめる。
「ちょっとね」
少し間が空く。
「疲れた」
少女は何も言わない。
魔法少女は空を見る。
雨が降っている。
「長かった」
少女は言う。
「まだ若いじゃないですか」
魔法少女は笑う。
「三十年」
少女は驚く。
「そんなに」
魔法少女は言う。
「長いよ」
少し沈黙。
そして。
魔法少女はりすくまるを見る。
「お願い」
りすくまるは答える。
「了解」
少女は聞く。
「怖くないですか」
魔法少女は首を振る。
「全然」
そして言う。
「むしろ」
少し笑う。
「やっと」
少女は黙る。
魔法少女は少女を見る。
「頑張りすぎないで」
少女は小さく笑う。
「無理です」
魔法少女は言う。
「そうだね」
少し間が空く。
魔法少女は目を閉じる。
「お願いします」
りすくまるは答える。
「消去処理開始」
光が生まれる。
静かな光だった。
魔法少女の体が少しずつ粒子になっていく。
苦しむ様子はない。
ただ。
ゆっくり消えていく。
雨の中で。
少女はそれを見ていた。
光が消える。
そこにはもう誰もいない。
少女は小さく息を吐く。
「静かですね」
りすくまるは答える。
「はい」
雨はまだ降っている。
世界は変わらず動いている。
魔法少女はまた一人いなくなった。
制度は続いている。
戦いも続いている。
そして。
時間も続いていた。