終わりまでの旅路〈待機を終了します〉   作:ヒツジ(ラム肉

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第四話 消去

雨が降っていた。

 

細かい雨だった。

 

街の灯りが濡れた道路に映っている。

 

少女は屋上に座っていた。

 

足をぶらぶらさせながら、雨を眺めている。

 

隣にはりすくまるがいた。

 

丸い体に雨粒が当たる。

 

しかし濡れる様子はない。

 

少女は言う。

 

「今日は少ないですね」

 

りすくまるは答える。

 

「魔物発生」

 

「本日二件」

 

少女は笑う。

 

「平和です」

 

りすくまるは言う。

 

「はい」

 

少女は空を見る。

 

雨雲が厚い。

 

星は見えない。

 

少女は言う。

 

「りすくまる」

 

「はい」

 

「魔法少女」

 

少し間を置く。

 

「四百人くらいいましたよね」

 

りすくまるは答える。

 

「はい」

 

少女は聞く。

 

「今は?」

 

りすくまるは言う。

 

「三百七十八」

 

少女は黙る。

 

そして言う。

 

「減りましたね」

 

「はい」

 

雨の音だけが聞こえる。

 

少女は言う。

 

「戦闘ですか」

 

りすくまるは答える。

 

「一部」

 

少女は聞く。

 

「じゃあ」

 

「他は?」

 

りすくまるは言う。

 

「消去」

 

少女はしばらく黙る。

 

雨は変わらず降り続いている。

 

少女は小さく言う。

 

「そうですか」

 

りすくまるは答える。

 

「はい」

 

少女は聞く。

 

「あなたがやるんですか」

 

りすくまるは答える。

 

「管理個体任務」

 

少女は少し笑う。

 

「大変ですね」

 

りすくまるは言う。

 

「はい」

 

少女は雨を見る。

 

しばらくしてから言う。

 

「りすくまる」

 

「はい」

 

「痛くないんですよね」

 

りすくまるは答える。

 

「はい」

 

少女は言う。

 

「よかった」

 

りすくまるは言う。

 

「はい」

 

雨が少し強くなる。

 

少女は屋上の縁に手をつく。

 

「りすくまる」

 

「はい」

 

「お願いがあるんです」

 

りすくまるは答える。

 

「質問」

 

少女は言う。

 

「もし」

 

少し間を置く。

 

「私が消去する時」

 

りすくまるは黙る。

 

少女は続ける。

 

「あなたがやってください」

 

雨の音が強くなる。

 

りすくまるは答える。

 

「了解」

 

少女は笑う。

 

「即答」

 

りすくまるは言う。

 

「任務」

 

少女は言う。

 

「冷たい」

 

りすくまるは言う。

 

「確認」

 

少女は笑う。

 

「冗談です」

 

りすくまるは言う。

 

「了解」

 

また沈黙。

 

雨が降り続いている。

 

そのとき。

 

りすくまるの目が光る。

 

「通信」

 

少女は振り向く。

 

「また魔物?」

 

りすくまるは言う。

 

「否」

 

少女は聞く。

 

「じゃあ?」

 

りすくまるは言う。

 

「消去申請」

 

少女は静かになる。

 

「……誰ですか」

 

りすくまるは答える。

 

「魔法少女個体」

 

「番号二八三」

 

少女は目を閉じる。

 

「知り合いです」

 

りすくまるは言う。

 

「記録確認」

 

「同任務区域」

 

少女は小さく笑う。

 

「よく一緒に戦いました」

 

少し間が空く。

 

少女は言う。

 

「行きますか」

 

りすくまるは答える。

 

「はい」

 

少女は立ち上がる。

 

雨の中に飛び出す。

 

街の灯りが遠ざかる。

 

二人は静かに移動する。

 

建物の屋上に降りる。

 

そこに少女が一人立っていた。

 

魔法少女。

 

少女より少し年上だった。

 

濡れた髪をかきあげる。

 

そして言う。

 

「来た?」

 

少女は頷く。

 

「来ました」

 

魔法少女は笑う。

 

疲れた笑顔だった。

 

「早かったね」

 

少女は聞く。

 

「どうしたんですか」

 

魔法少女は肩をすくめる。

 

「ちょっとね」

 

少し間が空く。

 

「疲れた」

 

少女は何も言わない。

 

魔法少女は空を見る。

 

雨が降っている。

 

「長かった」

 

少女は言う。

 

「まだ若いじゃないですか」

 

魔法少女は笑う。

 

「三十年」

 

少女は驚く。

 

「そんなに」

 

魔法少女は言う。

 

「長いよ」

 

少し沈黙。

 

そして。

 

魔法少女はりすくまるを見る。

 

「お願い」

 

りすくまるは答える。

 

「了解」

 

少女は聞く。

 

「怖くないですか」

 

魔法少女は首を振る。

 

「全然」

 

そして言う。

 

「むしろ」

 

少し笑う。

 

「やっと」

 

少女は黙る。

 

魔法少女は少女を見る。

 

「頑張りすぎないで」

 

少女は小さく笑う。

 

「無理です」

 

魔法少女は言う。

 

「そうだね」

 

少し間が空く。

 

魔法少女は目を閉じる。

 

「お願いします」

 

りすくまるは答える。

 

「消去処理開始」

 

光が生まれる。

 

静かな光だった。

 

魔法少女の体が少しずつ粒子になっていく。

 

苦しむ様子はない。

 

ただ。

 

ゆっくり消えていく。

 

雨の中で。

 

少女はそれを見ていた。

 

光が消える。

 

そこにはもう誰もいない。

 

少女は小さく息を吐く。

 

「静かですね」

 

りすくまるは答える。

 

「はい」

 

雨はまだ降っている。

 

世界は変わらず動いている。

 

魔法少女はまた一人いなくなった。

 

制度は続いている。

 

戦いも続いている。

 

そして。

 

時間も続いていた。

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