空は静かだった。
星がゆっくり巡っている。
海は遠くで揺れていた。
岩場に二つの影がある。
少女と、りすくまる。
少女は空を見上げていた。
長い沈黙が続いている。
風が草を揺らした。
少女が言う。
「りすくまる」
「はい」
少女は聞く。
「納得しましたか」
少しだけ間が空く。
そして。
「……はい」
少女は微笑む。
「そうですか」
また沈黙が落ちる。
海が揺れる音だけが聞こえる。
少女は遠くを見る。
地平の向こう。
小さな光があった。
文明だった。
また新しい文明。
少女は言う。
「また生まれましたね」
りすくまるは答える。
「確認」
少女は言う。
「頑張ってます」
「はい」
少女は空を見る。
星は変わらない。
少女は言う。
「世界」
少し間を置く。
「不思議ですね」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は続ける。
「意味があるのか」
「分からない」
「でも」
少し笑う。
「続いていく」
りすくまるは言う。
「はい」
沈黙。
長い時間の沈黙だった。
少女は言う。
「りすくまる」
「はい」
少女は少し考える。
そして言う。
「長かったですね」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は言う。
「数千万年」
「はい」
少女は笑う。
「よく付き合ってくれました」
りすくまるは答える。
「任務」
少女は言う。
「それでも」
少し間を置く。
「ありがとう」
りすくまるは黙る。
風が吹く。
海が揺れる。
そして。
りすくまるは言う。
「……ありがとうございました」
少女は少し驚く。
それから笑う。
「今の」
「人っぽい」
りすくまるは答える。
「確認不能」
少女は笑う。
「そうですか」
また沈黙。
少女は立ち上がる。
空を見上げる。
星が多い。
そして。
りすくまるを見る。
穏やかな笑顔だった。
十四歳の姿。
契約した日のままの姿。
少女は言う。
「では」
りすくまるは答える。
「はい」
少女は静かに言う。
「終わりにしましょう」
りすくまるは頷く。
「了解」
少し間が空く。
少女は空を見る。
そして。
もう一度笑う。
何も言わない。
りすくまるは言う。
「待機を終了します」
光が生まれる。
静かな光だった。
少女の体がゆっくり粒子になっていく。
りすくまるの体も同じように崩れていく。
苦しみはない。
ただ形がほどけていく。
粒子が風に流れる。
光が揺れる。
そして。
消える。
岩場には誰もいない。
風だけが吹いている。
海が揺れている。
遠くでは文明の灯りが増えていた。
岩場の上には、もう誰もいない。
ただ風だけが通り過ぎていく。
海は変わらず揺れていた。
星はゆっくり巡り続けている。
二人が見続けていた世界は、そこにある。
遠い地平の向こうでは、文明の灯りが少しずつ増えていく。
人々は生まれ、歩き、語り、何かを作り、そして消えていく。
それでもまた、新しい誰かが生まれる。
誰も知らないまま、世界は続いていく。
空は変わらず静かであった。
それでも世界は続いていく。