Re:壁内から始める異世界生活   作:stein0630

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第35話 終わったはずの場所から、別の戦いが始まる

 

 

 蒸気が、さらに噴いた。

 

 傷口から、ではない。

 

 もっと内側から、焼けた圧みたいに。

 

「下がれ!!」

 

 最初に怒鳴ったのはライナーだった。

 

 声が一段低い。さっきまでの実戦の声とも違う、反射で出た警戒の声だ。

 

 スバルは立ち上がりかけた体を、逆に地面へ叩きつけるように伏せた。

 

 次の瞬間。

 

 巨人の上半身が、内側から弾けた。

 

 肉片が飛ぶ。骨が裂ける。白い閃光が一瞬だけ視界を焼き、耳の奥で何かが割れる音がした。

 

「――っ!」

 

 誰かが叫ぶ。

 

 誰の声か、分からない。

 

 蒸気の柱の中で、何かが立ち上がる。

 

 大きい。

 

 さっきまで人間だったはずの景色を、平気で押しのける大きさだ。

 

 十五メートル級。

 

 だが、普通の巨人とは違った。

 

 顔つきがある。

 

 赤い筋肉が剥き出しで、眼窩の奥に、燃えているみたいな目がある。

 

 口元が裂ける。

 

 咆哮。

 

 それは巨人の声というより、怒りそのものが形になったみたいな音だった。

 

「……何だ、あれ」

 

 ジャンの声が、ひどく乾いていた。

 

 ベルトルトが答えない。

 

 ミーナも、フランツを抱えたまま固まっている。

 

 スバルは息を呑んだ。

 

 分からない。

 

 分からないのに、本能だけが喚く。

 

 来る、じゃない。

 

 もう来ている。

 

 何か、戦場の前提そのものが壊れた。

 

 新しく現れた巨人は、こちらを見なかった。

 

 真横。

 

 別の無垢の巨人へ、いきなり踏み込む。

 

 速い。

 

 大きさに対して、速すぎる。

 

 踏み込み一つで石畳が砕け、次の瞬間には拳が他の巨人の顔面へめり込んでいた。頭がひしゃげる。歯が散る。巨体が横倒しになる。

 

「は……?」

 

 ジャンが、理解の追いつかない声を出す。

 

 新しい巨人は止まらない。

 

 倒れた相手へ馬乗りになる。

 

 何度も殴る。

 

 殴って、殴って、殴って、顔が原形を失ってもまだやめない。

 

 無茶苦茶だ。

 

 だが、狙っているのは人間じゃない。

 

 巨人だ。

 

「おい……おい、待て」

 

 スバルの喉が、勝手に震えた。

 

 何でだ。

 

 何で、巨人が巨人を殺してる。

 

 ライナーの目が、はっきり変わっていた。

 

 驚愕を押し殺している。だが、完全には消えていない。

 

 ベルトルトも同じだ。あいつにしては珍しく、顔色が悪い。

 

 その反応が、逆にスバルの背筋を冷やした。

 

 こいつらですら知らないのか。

 

 知らないものが、今ここに出てきたのか。

 

「動け!」

 

 ライナーが最初に戻る。

 

「見てる場合じゃない! 北へ抜ける!」

 

 その一喝で空気が割れた。

 

 ジャンが舌打ちする。

 

「くそっ、んなの分かってる!」

 

「ミーナ、フランツ抱えろ! ジャン、先導! ベルトルト、後ろ!」

 

「お前は!?」

 

「俺は横を見る!」

 

 ライナーはもう走り出していた。

 

 命令が速い。

 

 速すぎて、考える隙がない。

 

 それで助かる。

 

 スバルは転がるように立ち上がり、ミーナの横へ入った。

 

「貸せ!」

 

「え」

 

「いいから脚の方持て!」

 

 フランツの体は軽くない。軽くないのに、血が抜けたみたいに頼りない。

 

 ミーナと二人で支え、路地へ入る。

 

 背後で、また咆哮。

 

 振り向くな、と分かっているのに、振り向いてしまった。

 

 あの巨人は、さらに別の一体へ噛みついていた。

 

 肩口に食らいつき、そのまま引き千切る。巨人の腕が飛ぶ。蒸気が噴く。なのに自分の腕も半分潰れている。潰れたまま、まだ前へ出る。

 

 戦い方が、正気じゃない。

 

 勝つための綺麗な戦い方じゃない。

 

 死んでもいいやつの戦い方だ。

 

 その一瞬だけ、スバルは胸の奥を鷲掴みにされた気がした。

 

 嫌な連想だった。

 

 似ている、と思ってしまった。

 

 誰に、とは考えたくなかった。

 

「スバル!!」

 

 ジャンの怒鳴り声で我に返る。

 

 前だ。

 

 前を見ろ。

 

 路地の先に、二体。

 

 ライナーが先行していた。片脚を引きずっているのに、動きはまだ死んでいない。瓦礫を蹴り上げ、一体の視界を散らす。ベルトルトがその横を抜け、立体機動で低く旋回し、もう一体の首筋へ刃を入れる。浅い。だが十分だ。巨人がよろける。

 

「通れ!」

 

 ライナー。

 

 ミーナが泣きそうな顔で頷き、フランツを支えて走る。

 

 スバルも食らいつく。

 

 その時、背後で地面が揺れた。

 

 新しい巨人だ。

 

 あの“巨人を殴る巨人”が、通り一本向こうへ飛び込んだのだと分かった。建物がきしみ、悲鳴が連鎖する。

 

「……最悪だ」

 

 ジャンが吐き捨てる。

 

「敵同士で潰し合ってくれるならまだいい。あれがこっち向いたら終わりだぞ」

 

「だから向く前に抜ける」

 

 ライナーが返す。

 

 迷いがない。

 

 だが、その横顔にだけ、少しだけ硬さがあった。

 

 スバルはそれを見逃さなかった。

 

 こいつも怖いんだ。

 

 あれを。

 

 なら、なおさら意味が分からない。

 

 北の仮集積所が見えた頃には、息はもう喉じゃなく胸そのものを裂いていた。

 

 駐屯兵が怒鳴る。

 

「負傷者こっちだ! ガス残量確認! 戦えるやつは壁際を空けろ!」

 

 フランツが引き渡される。

 

 ミーナがその手を離せない。

 

 ジャンが壁に手をついて荒く息を吐く。

 

 ベルトルトは黙っている。

 

 ライナーだけが、まだ街の中心を見ていた。

 

 スバルも、つられてそちらを見る。

 

 蒸気。

 

 崩れる屋根。

 

 遠くで、また一体、巨人が倒れる。

 

「……まだやってる」

 

 誰かが呟いた。

 

 駐屯兵の一人が顔を青くする。

 

「何なんだよ、あの巨人……」

 

 答えられるやつは誰もいなかった。

 

 ただ一つだけ、分かることがある。

 

 あれが出てきてから、巨人の流れが変わった。

 

 街の中心にいた連中が、そっちへ引っ張られている。

 

 人間から目を逸らした。

 

 つまり。

 

「道が開く」

 

 スバルが、思わず漏らす。

 

 ライナーが振り向く。

 

「何?」

 

「中央の圧が減る。今なら補給点に近づける」

 

 言ってから、自分で気づく。

 

 そうだ。

 

 あれが何なのかは分からない。

 

 でも、使える。

 

 戦場をひっくり返した異物なら、その隙でこちらが生き残ることはできる。

 

 ライナーの目が細くなった。

 

 数秒。

 

 本当に数秒だけ考えて、それから決断する。

 

「駐屯兵!」

 

 怒鳴る。

 

「中央へ戻る部隊はいるか!」

 

「は!? 何言って――」

 

「今だ! あの巨人に喰いついてる連中が中央へ寄ってる! 補給路を通すなら今しかない!」

 

 現場の兵が言い返しかけて、止まる。

 

 中央を見る。

 

 蒸気。

 

 倒れる巨人。

 

 悲鳴。

 

 そして、確かに生まれている空白。

 

「……クソ」

 

 年嵩の兵が毒づく。

 

「賭けるしかねぇのか」

 

「賭ける」

 

 ライナーが即答した。

 

「今はそれが一番生き残る」

 

 その返し方が、あまりにも迷いがなかった。

 

 スバルは横で息を呑む。

 

 こいつ、やっぱりおかしい。

 

 こういう局面で強すぎる。

 

 だが今は、それがありがたかった。

 

 ジャンが顔をしかめる。

 

「また行くのかよ……」

 

「嫌ならここで座ってろ」

 

「座って生き残れるならそうしてる」

 

「なら来い」

 

「うるせぇ」

 

 いつもの悪態。

 

 なのに、少しだけ安心する。

 

 まだ、こいつらは生きている。

 

 まだ動ける。

 

 スバルは中央の蒸気を見る。

 

 あの巨人は、まだ戦っている。

 

 何本も腕を振り抜き、何体も地面に叩き伏せ、傷だらけのまま前へ出ている。

 

 終わったはずの場所から、まだ戦いが続いている。

 

 その景色が、どうしようもなく目に焼きついた。

 

 嫌な予感がする。

 

 でも、それだけじゃない。

 

 あれが出てきた瞬間から、さっきまでの「エレンが食われて終わり」の景色は、確かに壊れた。

 

 だったら。

 

 まだ何かある。

 

 そんな気がしてしまった。

 

 その時、中央のほうから、今までで一番大きな咆哮が上がった。

 

 新しい巨人が、両腕を振り上げる。

 

 そのまま、最後の一体の頭を石畳へ叩きつけた。

 

 潰れる。

 

 蒸気が上がる。

 

 そして――

 

 そいつ自身も、膝をついた。

 

「……おい」

 

 スバルの喉が鳴る。

 

 巨体が、ゆっくりと前へ崩れた。

 

 戦いが、終わる。

 

 終わった瞬間、今度は人間側の空気が変わった。

 

「いまだ!」

「中央路、押し返すぞ!」

「動けるやつは出ろ!」

 

 戦場が、また別の意味で動き出す。

 

 スバルは崩れた巨体を見つめたまま、嫌なほどはっきり思った。

 

 終わってない。

 

 あれの中に、まだ何か残ってる。

 

 そんな気がしてならなかった。

 

第36話 生きていたことより、その生き方のほうが問題になる

 

 中央路へ戻る流れは、さっきよりずっと速かった。

 

 理由は単純だ。

 

 みんな怖いからだ。

 

 巨人が減ったこと自体は助かる。だが、その原因が「こっちの知らない巨人が暴れて片づけた」では、安心なんかできるわけがない。

 

 駐屯兵が先行する。

 

 ライナー、ジャン、ベルトルト、スバルもその後ろへ入る。

 

 ミーナはフランツのそばに残された。泣きそうな顔で、それでも行くなとは言わなかった。

 

 中央へ近づくほど、壊れ方がひどくなる。

 

 石畳が抉れている。

 

 建物の壁が内側から削れている。

 

 巨人の死体が何体も転がっている。

 

 その真ん中に、あの巨体があった。

 

 うつ伏せに倒れ、蒸気を噴いている。

 

「近寄るな!」

 

 前の駐屯兵が叫ぶ。

 

「まだ生きてるかもしれねぇ!」

 

 誰もすぐには寄れない。

 

 寄れるはずがない。

 

 あれだけ暴れたものが、急にただの死体みたいに転がっている。

 

 逆に怖い。

 

 スバルは喉を鳴らした。

 

 視線が、首の後ろに吸われる。

 

 蒸気が濃い。

 

 傷口、というより――

 

 裂け目だ。

 

 何かを包んでいた肉が、そこだけ開きかけているように見える。

 

「……スバル?」

 

 ジャンが訝しむ。

 

 だがスバルは答えない。

 

 答えられない。

 

 嫌な予感が、形を変えた。

 

 直感じゃない。

 

 もっと生々しい。

 

 “あそこに人がいる”と思ってしまった。

 

「待て」

 

 ライナーが低く言う。

 

 スバルが一歩出たのを見たのだろう。

 

「今行くな」

 

「何でだよ」

 

「何が出るか分からん」

 

「分かんねぇから行くんだろうが!」

 

 自分でも、声が荒いのが分かる。

 

 ジャンが眉をひそめる。

 

「お前、まさか――」

 

 その時だった。

 

 別方向から、立体機動の音。

 

 屋根を蹴る音が重なり、二つの影が下りてくる。

 

 ミカサ。

 

 アルミン。

 

 二人とも息が荒い。中央の異変を見て駆けてきたのだろう。

 

 アルミンが、倒れた巨体を見て立ち止まる。

 

「これ……」

 

 声が震える。

 

「こいつが、他の巨人を……?」

 

「そうだ」

 

 ジャンが吐き捨てる。

 

「訳わかんねぇだろ」

 

 ミカサの視線は、倒れた巨体をなぞり、そのまま首筋へ止まった。

 

 止まった瞬間、目が変わる。

 

 スバルと同じものを見た。

 

「……あそこ」

 

 小さく言う。

 

 スバルはもう走っていた。

 

「おい!」

 

 誰かが止める。

 

 知らない。

 

 止まれない。

 

 巨体の背を登る。熱い。蒸気で皮膚が焼ける。滑る。手が肉に沈む。気持ち悪い。だが離せない。

 

 首の後ろ。

 

 裂け目。

 

 近づくほど、確信が固まる。

 

 これ、だ。

 

 何かを守るみたいに、ここだけ肉の付き方が違う。

 

「スバル!」

 

 アルミンの声。

 

 気づけば、あいつも来ていた。

 

 ミカサもだ。

 

 ライナーたちは下から見上げている。

 

「下がれ!」

 

 駐屯兵がなお叫ぶ。

 

「爆ぜるぞ!」

 

 爆ぜるかもしれない。

 

 でも、違う。

 

 違うとしか思えない。

 

 スバルは裂け目へ手を突っ込んだ。

 

 熱い。

 

 肉が剥がれる。

 

 蒸気で前が見えない。

 

 それでも掴んだ。

 

 布。

 

 人間の服だ。

 

 心臓が、ひっくり返る。

 

「引け!!」

 

 叫ぶ。

 

 自分でも何を叫んでるのか分からない。

 

 ただ、そこから先はアルミンのほうが速かった。

 

 一瞬で顔色を変え、蒸気の中へ腕を突っ込む。

 

「人だ!!」

 

 その声で、下の空気が凍った。

 

「は?」

 

 ジャン。

 

「何――」

 

 ベルトルト。

 

 ミカサが、蒸気を裂くみたいに前へ出る。

 

 三人で肉を剥がす。

 

 裂け目が広がる。

 

 肩。

 

 髪。

 

 顔。

 

 見えた瞬間、アルミンの喉が潰れたような音を出した。

 

「――エレン」

 

 その名前で、時間が止まった。

 

 スバルの手から力が抜けかける。

 

 いる。

 

 本当にいる。

 

 死んだはずの場所に。

 

 食われたはずの先に。

 

 巨人の首の後ろに。

 

 エレンが。

 

 顔色は悪い。

 

 目は閉じている。

 

 呼吸も、すぐには分からない。

 

 でも、千切れていない。

 

 消えていない。

 

 ここにいる。

 

「引きずり出す!」

 

 ミカサが言う。

 

 声が鋭い。

 

「アルミン、腕! スバル、肩!」

 

「お、おう!」

 

 返事が遅れる。

 

 遅れながらも、掴む。

 

 肉が絡みついている。まるでこの巨体そのものが、エレンを離したくないみたいに。

 

 気持ち悪い。

 

 でも、それ以上に怖い。

 

 こんな形で生きてるやつを、見たことがない。

 

「せー、の!!」

 

 三人で引く。

 

 ずるり、と音がした。

 

 エレンの上半身が外へ抜ける。

 

 その瞬間、下から叫び。

 

「離れろォ!!」

 

 駐屯兵だ。

 

 銃口が上がる。

 

 刃も上がる。

 

 当然だ。

 

 巨人の中から人間が出てきた。

 

 化け物の証明にしか見えない。

 

 ミカサがすぐさまエレンを抱え、アルミンがその前へ出る。

 

 スバルも反射で一歩前に立った。

 

「撃つな!!」

 

 喉が裂ける。

 

「そいつはエレンだ!!」

 

「ふざけるな!」

 

 兵の一人が怒鳴り返す。

 

「巨人の中から出てきたんだぞ!」

 

「だから何だよ!」

 

「だから何だじゃねぇ!」

 

 正しい。

 

 正しいに決まってる。

 

 目の前の現象だけ見れば、撃つ以外に何がある。

 

 でも、ここで撃たせたら全部終わる。

 

 やっと戻ってきたやつを、意味の分からないまま死なせることになる。

 

 スバルの頭が、ものすごい速さで回る。

 

 言葉。

 

 言葉を探せ。

 

 納得じゃなくていい。今は止めるための言葉だ。

 

 その時。

 

 下で、ライナーが一歩出た。

 

「待て」

 

 低い声だった。

 

 兵たちがそちらを見る。

 

 ライナーは上を見上げたまま、はっきり言う。

 

「こいつが敵なら、さっき俺たちは全員死んでる」

 

 沈黙。

 

 それは、ものすごく強い一言だった。

 

 事実だからだ。

 

 誰も否定できない。

 

 ベルトルトも、珍しくすぐ続いた。

 

「……人を狙わず、巨人だけを攻撃していました」

 

 兵たちの目が揺れる。

 

 撃ちたい。

 

 でも、理屈が一つ崩れる。

 

 スバルはその隙を逃さなかった。

 

「試せばいい!」

 

 怒鳴る。

 

「縛れ! 囲め! それでいいだろ! 今ここで殺す理由はない!」

 

 駐屯兵たちが迷う。

 

 完全に止まってはいない。

 

 だが、引き金が少し遠のく。

 

 ミカサが、エレンを抱えたまま低く言った。

 

「……落ち着いて。まだ息がある」

 

 その声で、今度はアルミンが本当に泣きそうな顔になった。

 

「生きてる……?」

 

「たぶん」

 

 たぶん、で十分だった。

 

 スバルの膝から力が抜ける。

 

 生きてる。

 

 意味は分からない。

 

 どうしてこんなことが起きたのかも分からない。

 

 でも、生きてる。

 

 さっきまで確かに終わったはずのやつが、わけの分からない形で戻ってきた。

 

 それは希望だ。

 

 希望のはずなのに、周りを見れば、誰の顔にも安心なんかない。

 

 ジャンは呆然としている。

 

 駐屯兵たちは半歩も気を抜いていない。

 

 ベルトルトは無言。

 

 ライナーの目だけが、ひどく深い。

 

 スバルはそこでようやく理解した。

 

 助かった、で終わらない。

 

 ここからだ。

 

 エレンが生きていたこと自体が、新しい地獄の始まりになる。

 

 その時、エレンの指が、ほんのわずかに動いた。

 

 ミカサが息を呑む。

 

 アルミンが名前を呼ぶ。

 

 スバルも顔を上げる。

 

 閉じていたまぶたが、かすかに震えた。

 

 目覚める。

 

 その気配だけで、周囲の兵たちが一斉に身構える。

 

 誰もが、次に何が起きるのか分からない顔をしていた。

 

 スバルも同じだった。

 

 ただ一つだけ、今はっきりしている。

 

 もう、元の流れには戻らない。

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