ようこそ!キヴォトス連邦議会へ!   作:ほくほく亭ともを

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走れ!テミス!!

連邦生徒会長の唐突な失踪はキヴォトス中に激震をもたらした。あるものは混乱し、あるものは脱獄し、あるものはその不幸を喜んだ。

その激震の余波・・・・というよりかは、震源地に近いD・U・シラトリ(連邦生徒会)では天地をひっくり返したような大騒ぎであった。

「主席行政官!連邦生徒会長はどこに行ったんですか!?」

「何週間も見ないと思ったら失踪!?説明がつきませんよ!どうするのですか!」

サンクトゥムタワーに殺到する暇人・・・ではなく、あちらこちらの名だたる生徒会の役員、その他綺羅星が如く輝く役職をもつ生徒たちで連邦生徒会は紛糾していた。

ブルーアーカイブをプレイされたことのある聡明な諸君はこの先行きを大いに知っていることであろう。そのため、このおとぎ話で言及するのは避けよう。

では、これはどうだろう?もし、連邦生徒会長が議会を作ろうとしていたら?圧倒的なカリスマ、そして圧倒的な力でキヴォトス中を支配したあの連邦生徒会長が、「自分がいなくなった後」を考えない訳がない。

 

このお話は、「キヴォトス連邦議会を作ろう!」という唐突な無茶振りに振り回される羽目になったある一柱の可哀想な生徒の物語である!!!

 

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法条テミスはある気がかりな夢から目覚めると、いっそ目覚めなければよかったと後悔した。

 

テミスには政治はわからぬ。テミスは、連邦生徒会の法務局に在籍する法務官である。法務官と言ってもやることがないから、キヴォトス全体が仲良くなるためのプランを妄想しては過ごしてきた。けれども、そのプランがどこの誰に読まれるのかということに関しては人一倍鈍感であった。

彼女にとっていちばんの不幸であり、ある意味幸福であったことはそのプランを連邦生徒会長に読まれたことであろう。そのために、今日テミスは連邦生徒会長との面会を取り決められたのであった。

 

D・U・シラトリから走って20分ほど。寂れたアパートの四畳半の一室に陽の光がさした。

こんもりと膨れた布団に、天秤のヘイローが瞬き出す。

 

「連邦生徒会長が私になんのようなんだよ・・・」

 

テミスは頭を掻くと、のそのそとベッドから這い出る。時刻はすでに9時を回っている。

 

「まずい!遅刻じゃん!!」

 

胸元に銀の装飾を施された法服を羽織り、大学の卒業式にかぶっていそうなモルタルボードを目深にかぶると一目散にドアを蹴飛ばして行った。

 

テミスは太陽の沈む速度の10倍の速さで走った。読者の諸君が心配するように、周囲には衝撃波が走った。しかし、どうもキヴォトスの建物はひとに似て強靭らしく、速度さえ目を瞑ればただの女子学生が走っているだけに過ぎなかった。

 

連邦生徒会長との面接は9時15分からのはず・・・この調子なら間に合わない・・・っ!

 

テミスは遅れることを危惧した。

 

あの連邦生徒会長である。私のようなしがないただの法務官など、吹けば飛ぶような輩を許すわけがない。もしかしたら失職・・・っ!?やっとの思いで連邦生徒会に来たのにそれはやだよぉ・・・

 

脳裏に浮かぶのは快く送り出してくれた百鬼夜行連合学院のみんな。連邦生徒会に入れるのは基本、3大学園の生徒だけ。そんな私の夢を応援してくれたみんなを、裏切るわけにはいかない!

 

テミスのヘイローが黄金に輝き、回転する。回転速度が早まるたびに走る速度はいよいよ増し、建物や木々はざわざわと揺れ出した。

 

時刻は9時10分である。頭の中のもう一人のテミスが囁く。

 

「もうおやめください、もう間に合いません。連邦生徒会長は5分前行動ができないあなた様を先ほど解雇しました。もうおしまいです、行っても解雇されるだけです。もうやめましょう!」

 

「何をいうか、もう一人の私!ここまで来たのだ!まだ時刻になっていないではないか!」

 

「ああ、あなたは気が狂ったか。では走るがいい、うんと走るがいい。もしかしたら刻限には間に合うかもしれない」

 

テミスは自らに眠る神秘を全て使い切るほどの力で走った。

 

時刻は9時13分である。

 

サンクトゥムタワーが見えてきた。通学中の生徒たちは凄まじい速度で走る法務官を見て畏れを抱いた。

 

坂を駆け上がる。心臓はバクバクと助けを求めて悲鳴を上げている。

 

とうとう、テミスはサンクトゥムタワーに突入した。階段を三つ飛ばしで駆け上がる。後ろからは警備で詰めていたヴァルキューレの生徒が悍ましいものでも見たような顔で追いかけてくる。

 

そして____

 

扉が開いた。9時15分。サンクトゥムタワーに始業の鐘がなった。テミスにはそれが、勝利のゴングのように聞こえた。

 

キヴォトスの全てが見渡せるほどに巨大な窓が広がるその部屋にへたり込むと、テミスは荒い息を吐いた。

 

「ま、間に合った・・・」

 

「待て!怪しいやつ!連邦生徒会長のお部屋に突入するとは何者だ・・・っ!」

 

いつの間にか大所帯となっていたヴァルキューレ生数名に肩を掴まれる。

 

「時間通りです。結構結構 」

 

ふと前を見ると、デスクがポツンと置かれていた。その両側には連邦生徒会の旗が揚々と掲げられ、そのデスクの奥に美しい朝が見えた。

 

「閣下・・・っ!」

 

最敬礼。

 

「その方は私が呼びました、だから大丈夫ですよ?怖い人じゃありません」

 

チェアがゆっくりとこちらを向いた。と思うと、すでに「彼女」はヴァルキューレ生の後ろで、落としたはずのテミスの帽子をくるくると回していた。

 

蒼く、長い髪が揺れる。

 

「だから、ね?」

 

知らぬが仏。聞かぬが花、世間知らずの高枕。

 

なんだか嫌な予感がしたヴァルキューレの面々はもう一度最敬礼の義務を果たすと、脱兎の如くその部屋を後にした。

 

「あんなに怖がらなくてもいいのに・・・私だって普通の女の子なんだよ?」

 

そういうと未だ荒い息をつくテミスのそばにしゃがむんだ。

 

「おはよう、私の運命の人」

 

そういうと連邦生徒会長は屈託のない笑顔を見せた。

 

 

 

だだっ広い連邦生徒会長室には、この二人しかいない。どこからか出てきたレモン水を一息に飲み干すと、テミスは立ちあがろうとした。

 

「だーめ、神秘を使いすぎですよ?こんなに珍しい神秘なんかないでしょうに・・・」

 

そういうと会長は、テミスの長い銀髪にオオカミのような耳をふわりと撫でると、半ば抱き抱えるようにしてデスクへと戻った。

 

テミスが正気を取り戻したのは10分もした後であった。気付けばデスクの前のソファに座っていた。

 

喉が水を求めてゴクリと動く。 ヘイローはやや輝きを取り戻した。

 

「あ、起きた?ディレクター、じゃあ時間もないから説明するね」

 

「ま、待ってください会長、何がなんだか・・・それにディレクターって・・・」

 

テミスは混乱した。今の彼女には全てがわからぬ。

 

「だから、ディレクターでしょ?あなた自分で書いたじゃない」

 

「ああ、ディレクター・・・」

 

テミスの脳裏にここ一週間の自分の行動が浮かんだ。暇つぶしに書いていた「キヴォトス連邦議会構想」。知らない間にどこかに行ったからどこに行ったとは思ってたけど・・・まさか会長にまで届くとは思っていなかった。

 

「キヴォトス連邦議会・・・この連邦生徒会ではなく、学園都市のみんなで話し合って決める場所・・・私、すごくいいと思う!」

 

会長は目を輝かせてテミスの手を握った。

 

「え、まあ、ありがとう?ございます」

 

「本当だったら私がやってあげたいんだけどねぇ・・・もう時間がないんだ、もう行かなくちゃいけないんだ」

 

会長はやや遠い目をした。

 

「行くって・・・どこに?」

 

「どこでも!とにかく、私はいなくなるの、だから一緒にはできないけど頑張ってね!グランド・ディレクター!!」

 

そういうと連邦生徒会長は紙切れをテミスに突きつけた。

 

その紙には、連邦生徒会長、そして全ての局長のサインと共に「連邦生徒会長直属・連邦議会創設全権代行」と繊細そうな文字で書かれていた。

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