トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第17話 葬魔七曜血選

(あぁ。仮面のジブン宛にも送り付けられたことがあるな)

 

 側から見ていたアキトは、タイキが今手にしたその黒い封筒に何かピンときたようだ。

 

「その封筒。つまり代表は……不定期に開かれるその〝ブラックマーケット〟でお買い物がしたいということかい」

 

「なんや、知ってはるんなら話が早いわ」

 

「え、ちょっと待って!? 知らないんだけど!」

 

 リリスは思わず声を上げてしまった。あたかも知っている前提ですんなりと進められては自分が困るからだ。咄嗟に発言してしまったが、水を差したことにも気づいたリリスはすぐに口を手で閉じるジェスチャーをし慎んだ。

 

「フフ、そのままの意味だよ。魔大陸産の珍しい遺物や商品。表に出せないような品々がたくさん売られている闇市のことさ。もっとも庶民のお給金では手が届かないほど、どれもお高いらしいがね」

 

「や、闇市!? 魔大陸産……それって!?」

 

 アキトから説明を受けて余計にリリスは驚きを深めた。〝魔大陸〟まさかそのワードがここで出てくるとは思わなかったのだ。

 

「世界ガライヤ。その中でも多くの謎に包まれた人の未だに住むことのできない不浄未到の地、魔大陸。我々の今住む原大陸よりも、強力な魔物が蔓延っていると噂されています。そこの品々となると一般にはあまり流通しない希少品です」

 

 ミタライが補足する。やはり人類の主な生息圏である原大陸に住むリリスらとは無縁の淵の世界、魔大陸のことで間違いないようだ。

 

「そっ、その魔大陸よね!? じゃぁ、私たちはその商品を取り扱っているブラックマーケットで……ただのお使い……?」

 

 まさか今より世界の果てにある魔大陸までは出向かないだろう。それはリリスにも分かる。

 闇市でのお使いごとが傘下加盟への二つ目の条件ならば──。どこか引っかかったリリスは少し心配そうな表情で、周りの皆にうかがうように問うてみた。

 

「もちろんこの雰囲気、ただのお使いごとじゃないだろうさ」

 

「大方そこでは何か、我々の力やギフトが必要になる場面があるということでしょう」

 

 アキトもミタライも同様に察していた。この黒い封筒を開いた先に待ち受けているのが、ただのお使いの品や場所を示すものではないという事に。

 

「もっとお堅いのかと思いきや、ふふふ、なんやえらい賑やかやなぁ。……そんで、ご明察。期間は計七日間。そこでは知恵と勇気と絆、そのどれもが必要になる」

 

 四人の賑やかさに扇子で口元を隠し笑ったマリモ代表は、笑い細めていた目をそのまま真剣な眼差しに変えた。

 

「うちらがVIPで招かれたそのブラックマーケットで買い物する前の……ある余興を、あんたらにサイカン本部のパートナークラン(仮)としてやってもらいたいねん。ふふ、クロキリのツツミはんとこと違ってうちらはあんまり武闘派ぞろいやないから。ほんとタイミングが良かったわ? ──ナァ?」

 

 知恵、勇気、絆が重要になる七日間の余興──まだその全貌は霧に包まれている。

 

 マリモ代表はまた笑った。その狐のような笑みと黒い扇子の裏に隠されている真意は、この場の誰も読み取ることはできない。

 

「余興ですか」

「(七日間)……気になるね」

「なっ……なんなの!?」

「……!」

 

 四人が息を呑む。仰々しくも聞こえたその余興の名は──。

 

「【葬魔(そうま)七曜血選(しちようけっせん)】────それが、今フリーの身のあんたらにやってもらいたいことや」

 

「かつて王家が主催していた。今はもうない……あの伝説の」

「しちよ……なにそれ!? え、王家!?」

「決戦……?」

「フフフ。なるほど……そう来たか」

 

 二つ目の条件、それは【葬魔七曜血選】。タイキが受け取った黒い封筒の中身はその謎の催しへの招待状だった。

 

 青年の指に挟まれた黒い封筒。今、その中央に固まりある、一つ眼の模様が刻まれた赤い封蝋が、僅かに音もなくひび割れた。

 

 

 

 

 

 

⬜︎【葬魔七曜血選】

 

その昔、原大陸の開拓が盛んであった冒険者の時代。とある国の王家が主催したクランの祭典。

表向きは栄誉ある競演であったが、真の目的は国内で力をつけ増えすぎた数々のクランを淘汰、抑制し、王への義と忠誠を誓う真の強者を選別することにあった。

 

葬魔とは神の雫ソーマのことであり、七曜とは「月、竜、海、木、亀、灯、冥」からなる曜日のことを指す。

 

現在のガライヤにおける曜日の周期は、かつてこの決戦を勝ち抜いた七人の偉大なクランマスターを讃え、それぞれの名の意が冠されたものである。

 

しかし祭典とは名ばかりのその内容の過酷さと凄惨さから、現在は表舞台で開催されることはなくなった。

⬜︎

 

 

 

「つまり、集まった腕に自信のあるクラン同士が、それぞれの曜日で執り行われる〝七種の神技〟それらの結果を競い合う。言ってみれば裏のオリンピックみたいなもんや」

 

 大雑把な説明を終えたマリモは扇子を得意げに揺らした。だが、リリスは眉をひそめて首を傾げる。

 

「おりんぴっぐ……? ごめんそれ、ちょっとわかんないんだけど私……?」

 

「ふふ、まあそう難しく捉えず長い長いトライアスロンのようなものだと思えばいいだろうさ。これが分かりやすいか」

 

「そっ、そう……ってだからそれも分からないんだけどっ! ちっ、ちなみにそれって断るとどうなるのか……なんて聞いてみたり?」

 

 知らない言葉の例えにリリスは余計に混乱した。そして、マリモ代表へと恐れ知らずにもリリスは質問を投げかけた。

 

「別にええよ。そこの四人でじっくり相談しながら、なんぼでもお好きになさったらええわ」

 

 マリモ代表は怒った様子もなく、あっけらかんと言い放つ。しかし扇子の隙間から細め覗く狐眼は、既に事が起こったことに気づいていた。

 

「あら、でも……フフフ。やっぱそれは困るわ。だって」

 

 その言葉と同時だった。タイキが手にしていた黒い封筒の中央に押された封蝋、赤い一つ目の紋章がパキリと音を立てて砕け散った。

 

 すると、勝手に破れた黒い封筒の中から妖しげな黒い魔力が涙のように流れ、タイキの右手を濡らした。

 

「なっ、何これ!? タイキ、大丈夫!?」

 

「っ……!? ……あぁ、特段攻撃された気配はないみたいだ?」

 

 驚き心配するリリスの前で、タイキは自身の掌を見つめた。小指にシンプルな黒い線が一本、指輪のようにかかっていた。彼の体への変化はそれだけであった。

 

 黒い封筒に押された赤い封蝋、実はそれは手に取った者の魔力に干渉し一定量の力が加わると、ひび割れて中身の魔法が作動する──そんな仕掛けが施されていた物であった。

 

 それを見ていたアキトもミタライも、タイキの右手の小指に今刻まれた黒い線模様が、何か特別な(まじな)いと契約の類いであることを悟った。

 

 微笑を浮かべるアキト、静かに青い目を凝らすミタライ、そして口元を扇子で覆い続けるマリモ代表。

 タイキも今、それぞれに覗き見た彼らのしているその表情から──分かった。

 

 もう一度、小刻みに震えていた右手を確認し、彼はゆっくりと顔を上げる。青い髪の内側にギラつかせた赤い瞳には、恐怖ではなく静かな闘志が宿っていた。

 

「行こう。その決戦へ」

 

 厳かな気を纏い、今言い放たれたタイキの真っ直ぐな言葉。ぐっと右手を握りしめる彼の姿は、まるでどこかの勇者のような風格を漂わせている。

 

 だが、リリスがそんな神妙な雰囲気にも構わずに横から叫んだ。

 

「って『行こう』じゃないわよーっ! なんで皆に相談もなしに先に開けちゃったのよーっ!」

 

「っ! ……ごめんリリス。その……うっかり!」

 

「うっ、うっかりって……!? もう、信じられない、はぁーぁ……」

 

 能天気にも人差し指を弾ませたタイキの態度に頭を抱えるリリス。そんな二人のじゃれあいを余所に、マリモは堪えきれずか満足げに高笑いした。

 

「ふふふふふ! まるでガーネットの宝石のようなええ目ぇしてるわぁ。ふふふ……思った通りや。やる気に満ちたまっすぐなその目ぇ。ほんと──たまらんわ?」

 

 ミタライはじっと観察するように見ていたタイキから目を離した。そして直り、まだ笑いの止まらない銀髪の女に向かいこう言った。

 

「……どのみち、我々に退路はありませんでしたから。問題ありません。では改めて、その【葬魔七曜血選】、我々シロツメ支部が引き受けさせていただきます」

 

「ジブンは一介の戦闘員、上の決定に従おう。フフフ」

 

 アキトが帽子の縁を指でなぞりつつ、また笑みを浮かべた。支部長のミタライの決定に余計な口を出す気は毛頭ないようだ。

 

「ふふふふ。ほな、交渉成立や」

 

 マリモが扇子を勢いよく閉じると、賓客室の空気が一変した。室内は突然黄金に輝き、後ろの屏風に描かれた神獣の絵が生き生きと動き出した。

 

 これにて交渉は成立。ise会シロツメ支部の四人は、マリモ代表率いるサイカン本部のパートナークランとして、ブラックマーケットの余興──葬魔七曜血選に挑むこととなった。

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