トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「10、20──ン?」
アトラが橋上の敵を睨みつつ、またゆっくりと数をかぞえていると、突然橋が落ちていく。
東西南北、全ての石舞台に架かっていた橋が一様に、暗い海の中へと沈み消えていったのだ。
終わりを悟ったアトラは、持て余してしまった拳を軽く前に突き出す。すると向こうの壇上で、あっかんべの仕草をしていた男が、腰を抜かしたように後ろに倒れた。
「チキン──」
アトラは捲れ上がっていた黒いスーツの袖を正し、つまらなそうに拳を下ろし、向かいの三下どもから背を向けた。
それはアトラが悟った通り、舞踏円月の終わりを告げる合図。全ての橋が落とされ、残された戦士たちにこれ以上の争いをやめるよう示唆している。
「そちらも難なく、きちんと片付いたようだね」
アキトがまた軽やかな身のこなしで、タイキたちクランの大勢が集っていた石舞台へと飛び戻って来た。
今やって来た黒髪の仲間に、リリスは力なく杖を掲げ、タイキは元気に欠けた剣を掲げる。アトラは静かに欠伸をし、ミタライは己のギフトで緑の火玉の明かりを辺りに漂わせた。
シロツメ支部の五人は、全員無事であった。
「はぁ、これ、やっと終わったってこと……」
「ええ、そのようです。あちらを──」
明かりをつけながらミタライは、東の方向を指差す。
すると一隻の船が見えた。それはどこか五人の見覚えのある小さな船。船首で両腕を組み突っ立つ強面の顔が、石舞台に首を揃えた五人のことを真っ直ぐに睨んでいた。
舞踏円月の舞台へと、シロツメ支部の彼らを送ってくれた船頭のラカンだ。迎えの船が来たということに、すぐに五人は気づいた。ミタライの灯した緑の火は、その船を誘う灯台の明かりの代わりだったのだろう。
「タイキ殿!」
五人が相変わらず窮屈そうなラカンの船を眺めていると、突然、同じ壇上に居合わせていた門下生の将羅がタイキを呼びかけ、何かを投げ渡した。
「ショウラさん、これは?」
括られた黒い帯を解くと、それはここで皆が奪い合っていた半月の石を纏めた風呂敷だった。
「今の我らには必要ない。成すべき事のために持って行ってくれ。師範もお目覚めになればきっとそうおっしゃる!」
「黒獅子の
「それとこれも、薬壺に入れた【道摩法師の万能酔い止め】なり! 船旅では足場に気をつけなされ!」
骨兎羅、和亀羅もそれぞれ役立つであろう物を青髪の剣士へと託した。
「……うん。ありがとう! ショウラ、コツトラ、ワカメラさん!」
三人の門下生は、礼を言うタイキと同じように頷く。
結果的には不思議にも、一度は敵対していたはずの現剣流道場、彼らの分の半月を受け取り託されたクランise会シロツメ支部。
「あまりこういう言葉は使わないのですが。気持ちのいい方々、と言ったところなのでしょうか」
敗北を潔くも認め、認めた次の者へと託す──そんな道場の彼らの行為に、ミタライは少ししみじみと共感を覚えた。
「悪意も善意も表裏一体。一見どうしようもない世の中も、こうして影では案外、上手く回っているのかもね?」
頂いた善意はありがたく使わせてもらう。
アキトは被っていた野球帽子を、そっと道着を着た背丈の高い男の頭へと、駄賃代わりに預けた。
「ってコレ……ほ、本当に死んでないのよね……?」
「フフ。さぁね」
ラカンの船に乗り込んだリリスの目には、不似合いな野球帽子を黙り被せられた大男が一人。
現剣流道場の師範、羅黄が腰に手を当てたままのポーズで、舞台の中央に仁王立ちで聳えている。
遠くなっていく道場の皆が見届ける中、緑の火玉を明かりに引き連れた小船が、夜の海を漕ぎ進んでいく。
水上に浮かぶ広大な石の舞台を照らしていた満月が、浮雲に途切れた。
落ちる者、去る者、託す者。戦士たちの争った壮大な戦跡を太古の石に刻み、月曜第一の神技、舞踏円月はその終わりを迎える。
ise会シロツメ支部の五人を乗せた船が、次の舞台を目指し、囲う森の中を抜けて行った────。
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