トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第26話 月曜の勝者

 明け方の海の上をゆったりと彷徨うように船は進んだ。

 およそ1時間半の航海で、五人を乗せたラカンの小舟がたどり着いたのは、海の只中に浮かぶ黒い帆を張った大船の近くであった。

 

 威圧感のあるその大船の姿形には、五人もよく見覚えがある。サイカンの港から出る時に、タイキが間違えて乗船しようとしたあの大きな船だ。

 

「あんたさんら。おかえり〜〜〜」

 

「ぶはっってぇ!?」

 

 リリスは小舟で飲んでいた紅茶を思わず口から吹き出す。

 

 銀髪に着物姿。大船の甲板の上で、黒い扇子を優雅に扇ぎながらいるのは──iseサイカン本部の本部長、兼マリモ商会の代表でもあるマリモ、その女本人だ。

 

「なんや風邪かぁ〜〜〜、病人は海にぽいすんでぇ〜〜〜、なんて冗談よ〜〜〜ふふふふふ────何してはんの、はよ上がり」

 

「でゅべっ!?」

 

 リリスは一人、小舟の上でずっこける。甲板から出迎えるマリモ代表のおかしなテンションの落差に、むしろ風邪を引きそうであった。

 

 そうこう雇い主とパートナークランの面々が楽しい掛け合いをしている間にも、船体の下近くに寄ったラカンの小舟が下ろされたロープに吊るされて、大船の甲板の上へと回収されていった。

 

 

「うちの見込み通り、全員無事やったみたいやな」

 

 マリモはシロツメ支部の四人と、貸し出していたサイカン本部の団員であるアトラのことをそれぞれ眺め、満足そうな仕草で皆の無事を祝った。 

 

 しかし、マリモは扇子を手のひらの上にしばしば叩きながら、どこか落ち着かない様子にも見える。

 

「ほな、いこか」

 

 引き連れていた部下たちが食事のテーブルや準備を組み上げていた中、マリモはしびれを切らすようにそう宣った。

 

「ふぇ? 行くって……どこへ?」

 

 やっと一息をつけたリリスは、していた背伸びを途中でやめる。きょとんとした表情で口を半開きにしたまま、マリモのことを凝視した。

 

 既に食事のテーブルについていたタイキとアトラも振り向き、マリモ代表の方を覗く。

 

 すると、閉じた扇子がすっと動き指したのは、甲板下の船内へと続く暗い昇降口であった。

 

「もちろんっ、たのしいたのしいお待ちかねのショッピングっ」

 

 上機嫌かつ豪快に扇子を開く。

 マリモ代表は彼女の目的である〝買い物〟へと、五人のことを誘った。

 

 

 

 

 

 

 先導するスーツを着た船員に案内され、一行は幾つもの不気味な黒いタラップを下っていく。

 

 そしてようやく辿り着いた、閉じた一つ目の模様が描かれた黒い扉を開く。

 すると、閉じていた一つ目の内に潜んでいたミラーがぎらりと発光した。今眩く反射したミラー光に誘われ、一行が目にしたものは──。

 

 

 大船の規模からは考えられない、それ以上に広大なスペース。おそらくそこは、船内に備えられたミラールームの中であった。

 

「そうここが、待望のブラックマーケットや」

 

 訪れた客たちを、グラスを拭きながらバーテンダーが横目に睨む。

 

 黒くシックな内装に、散りばめられた見たことのない商品、宝の数々。内装、飾り、絵画、絨毯、シャンデリアに酒まで、ここに置いてある全てが売り物であるという。

 

 そうここが【ブラックマーケット】。

 着物の裾を整えて、銀髪の淑女が運ばれて来たカクテルを細い指先に挟み受け取る。

 

 マリモ代表は優雅に両手を広げアピールする。そこかしこに飾られた目移りするほどの未知宝、許されざる者しか入ることのできないアングラな雰囲気の店内、薄明かりの照らす秘密の場所。

 

 舞踏円月を生き抜いた、月曜の勝者へと送られる最高の闇市。グラスも酒も、宝も心も、望めば全てを手に入れることができる。ブラックマーケットでの買い物の時間が、始まろうとしていた。

 

 空のグラスをウエイトレスへと預け、パッと咲かせた黒い扇子の裏側で、銀髪の女が潤った唇をゆっくりと舐めずった。

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