トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「ほな、またしばらくお別れや。二日目、竜曜の神技も大いに頼んだで? この調子でウィンウィンの、お互い最高のパートナークランでいような? そうそう、今度はお小遣いの渡し方もちょっと考えとくわ、意地悪な親や思われたくないからな。ふふふふ」
「こちらとしても、そうしたいさ。フフ」
「ええ、竜曜の神技でも必ず、最良の結果を持って帰って参ります。──では、そろそろ降りましょうか」
竜曜日、午前5時58分。
シロツメ支部の一行は、船内から表の甲板へと遅れて出てきたパジャマ姿のマリモ代表に、それぞれしばしの別れを告げた。
別れの挨拶と激励を終え、欠伸をしたマリモが髪を解いてくれていた従者を連れて、また船内へと引き返していく。
サイカン本部のパートナークラン(仮)として、そして葬魔七曜血選の二日目に、一人も脱落することなく挑むことになったシロツメ支部の五人。
今ゆるやかに減速し、接岸し止まった黒い帆の大船から、五人はさっそく久々の地へと降りていく。
「んーーーー! ──って、なんかここ……シロツメやサイカンの港じゃなさそうだけど? 一体どこなわけ……?」
慣れない船から降り、リリスは一度気分のリセットをするように、腕を上に大きな伸びをした。だが、踵をつけたその場から見渡した──あまり見覚えのない景色に彼女は首を傾げていた。
「記憶違いでなければ、サイカンの港の様相ではないですね。航海時間からしてまだバークローズ王国内、どこか辺境の港でしょうか」
ミタライは隣にいたリリスが何気なく投じた疑問に同調し、顎に手を当てた。
やはりそこは五人の誰も見覚えのない、そんな湿っぽい雰囲気の港だ。現在地がどこであるかは定かには分からないが、まだバークローズ王国内の地であるとミタライは推測する。
マリモ代表に裏のオリンピックとも冗談混じりに称された、【葬魔七曜血選】。開催場所の特定を防ぐために、あえてこのようなどことも知れない街の港に船を停めたのかもしれない。
皆が降り立った見慣れぬ港の周囲を訝しげに探る中──。
一人、遠方へと歩き動き出したアキトは、ちょうど港にいた新聞売りの子供から駄賃を渡し新聞を2部、購入した。
さっそく手にした一部を、両手に開いていく。
⬜︎世界新聞
「激写! トランプメン、ついに捉えたその素顔と正体!」
まさかのバークローズ王国の騎士団員!?
彼がレイピアから繰り出すその華麗なる剣技、花札という異世界の遊戯で巧妙に隠蔽しているが……その技はあの四属性のギフトを誇った聖騎士、シデン・レイラと瓜二つである。
特例で聖騎士の称号を得た彼女は、デモンズソースの事件を最後に死亡を確認されたはずだが……?
真相はいかに、詳しい続報が待たれる。
世間を賑わすD級殺人鬼、その正体が暴かれる時は近い!
(タイムレポーター カレン)
⬜︎
そして、もう一部。
⬜︎世界新聞
「D級賞金首、怪人トランプメン御用達と噂のポン酢&豆店が世間で流行の兆しか? 店名は【豆・PON!】」
彼の好物であるポン酢と豆が、世間でも支持と人気を得つつある!?
豆・PON!が売り出す自家製のポン酢は、こだわり抜いた柑橘系の果物の風味がガツンと来る、そんな女性にも受けそうなフルーティーな味わいに仕上がっている。
メイン展開する二種のポン酢の商品名は【黒い虎ぽん!】と、【白い虎ぽん!】。
黒は鍋などに合うスタンダードタイプであり、白は黒よりも一段、酸味と果汁感のある仕上がりだ。白はサラダなどにかけると、とても美味しいのでおすすめだ。
そして忘れてはならないのは、この店のもう一つの看板・コンセプトである豆。
中でも売れ筋は、甘く炊いた金時豆と黒豆のハーフ&ハーフ。
大人も子供も食べられる、そんなスイーツより罪悪感のない栄養価の高い甘い豆は、健康志向の富豪たちにも人気を博しているのだとか?
店内には等身大のトランプメンのパネルが置かれていたり、商品の購入者を対象とした限定カードをイベントで配っている時もある。
本人直筆、激レアサイン入りカードをゲットするチャンスか!?
この記事を読み興味を持った方は、是非是非とにかく一度足を運ぶ価値がある。ポン酢&豆専門店【豆・PON!】は、そんなホットなスポットに違いないだろう。
(漫遊アナザーグルメ ジマシー)
⬜︎
いずれの新聞もアキトが最初に無作為に広げたページに、トランプメンに関する真偽不確かな記事が載っていた。
「フッフ……なるほどね」
購入した同じ世界新聞、二つの新聞の違いは何なのか。単なる日付違いか、それとも──。
アキトは今歩み寄って来たミタライに、謎の解けた新聞を一部、渡す。
手渡した際にアキトに何かをぼそりと、耳打ちされたミタライ。彼女は彼に言われた通りに、先に目を閉じつつ思考をし、それから受け取った新聞をめくっていく。
「これは……」
「どうやら既に、そういうことらしい」
アキトは束ねられたもう一部の新聞を、瞬く間に抜き出したレイピアで一気に貫いた。
すると、そこにはユラユラと──何も書かれていない無地の紙面が、港に吹いた潮風に紙の擦れる音を立て騒いでいた。
不可解な耳打ち、そして今目撃した奇妙な新聞の有様に、ミタライはアキトと目を合わせ、黙って深く頷いた。
港で子供から購入した2部の新聞。その得体の知れない違和感を見抜き秘密裏に共有した、アキトとミタライ。
そうこう謎の港での時間が経つにつれ、やがて出航し去っていく黒船。そしてまた入れ替えるように、港へと新たに現れた中型船が一隻。
赤い竜を模った威厳と勢いのある船首が、港で待つシロツメ支部の五人のことを、鋭い眼で真っ直ぐに睨んでいた。
竜曜の神技、次の舞台へと向けた出航の時は近い。アキトたちは波の上に漂う竜の首の元へと、足並みをそろえて歩き出した。