トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第38話 肉質vs髪質

「なっ、なななななんなのアレ!? 太ったヤツがまるまるボールみたいに跳ねてる!? ちょっとこれ、あいつ……ミソラは大丈夫なのっ!? ってかなんで戦いになってるわけぇ!?」

 

 黒い服を纏った肉がデッキの上を跳ね続けている。その目を疑う異様な光景に、リリスはまだ理解が追いつかない。

 だが、一人戦米丸へと食材を受け取りに向かった美楚羅の勝ち目は一体どれ程なのか、慌てながらも一緒に見守る皆へとその事を尋ねた。

 

「……どうだろうね。思ったより相性がよろしくない。ギフトでの戦い方も、最上級の肉質と自分で豪語するだけある。フフフ、へぇー。いいね彼、益々気になるギフトだねアレは。もう少しその研究の成果とやらをじっくり見せてもらえないだろうか」

 

「はぁ!? あんたどっちの!?」

 

「それだけ相手が強みを押し付ける良い戦い方が出来ているということです。あの柔軟な肉の鎧を、単純な打撃で正面突破するのは困難。拳が効かないのならばやはり力比べは不利。ミソラさん側がこの流れを変える為には、弱点と脆さを突く何かが必要になるでしょう。あの攻防機動力と高く備わった強力なギフトの圧力に、さっそく対策を強いられているのです」

 

「あの太いのが……そんなに強い……まじ……」

 

 呑気に笑い観戦するアキトと、ミタライの冷静な戦力分析。リリスは心配そうな面持ちで、美楚羅の戦いを遠く見守るしかなかった。

 

 

 

 肉は打てば打つほどに弾み、高々と舞い、その勢いを増す。

 

 巨体全身を武器にしたコンガが、徐々にターゲットを追い詰めていく。

 すると、狩られる獲物側もこのままではジリ貧と悟ったのか、覚悟を決めた表情と構えで、天を覆う黒い影を睨みつけた。

 

「ブハッハはは、いくらハートを奮い立たせようと、拭えぬ恐怖の鳥肌が俺様のギフトには透けて見えるぞぉおお!!」

 

 後ろに溜めて構える右の拳。道着姿が繰り出そうとする拳の味を、コンガ・リー・ダンは恐れない。

 むしろ恐怖に染まりゆく地の敵の面から目を離さない。

 天を睨み返しても、やがて肉は降り注ぐ。いくら気合いを込めようとその細腕から放つ威力では、この重厚かつ柔軟な最上の肉質は貫けない。

 

 だが、地から天を見据え続ける赤い瞳は逸らさない。黒い威容を射抜き続ける赤き眼光は、今勇ましく、拳を天へと突き上げた。

 

 届かない。焦燥のあまりタイミングを外した。いや、──届く。

 

 拳ではない。道着の袖から這い出した黒い蛇の如き勢いが、天を支配する巨体へと真っ直ぐに伸び迫った。

 

 「この攻撃は一体何だ」──刹那に迫る判断を下すよりも先に、纏う肉の鎧が一斉に、皮肌にさざ波を流したように警告する。

 すると、コンガは身軽にも空中でぐるりと身を捻り横回転をした。間一髪にも、襲い走った黒い蛇の軌道を逸らし避けることに成功する。

 

「おっと! ……ナンだ? 蝮か?」

 

 コンガは焼けるように熱帯びた腹を撫でながら、着地する。そして、訝しむ表情で道着の男の姿を睨みつけた。

 

「そちらが肉質で来るならば、こちらは髪質。僕のギフトは、【髪芝居(かみしばい)】。コンガリーダン──戦い慣れたあなたを倒すのに、必要とお見受けしました」

 

 円を描くように手元に舞い戻った、毛先に装着した銀の顎を今、キャッチする。

 

 長い黒髪の尾、銀の髪飾りを武器にした空を泳いだ一撃は、美楚羅の披露したギフト。

 

 【髪芝居】──蛇の如く操った己の髪を片手に掴み、銀の顎を巨漢の敵へと差し向ける。

 

 魔力を滾らせた美しき黒の艶髪が、波打つようにうねり始めた。

 

 肉質には髪質を。厄介な強者を討つ為に今、ミソラは隠し持っていた己のギフトを惜しみなく解放した。

 

「髪質だと……ブハッハはは。骨と皮ばかりか、食材を前に醜く不衛生なやつめ! ……良かろう! 叩き潰した末にその長髪ごと引きずり回し、海の底へとつまみ出してくれる!」

 

 ここは戦場お昼時、食材を扱う者として、不衛生な長髪野郎なぞ言語道断。

 ご自慢の大腹を撫で上げ、手のひらにこびりついた赤い味を、ゆっくりとその舌に舐めずる。

 

 覚えた未知の味に、料理人のコンガ・リー・ダンは不敵に笑った──。

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