トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第41話 肉二つ

「ミソラっ、すごい戦いだった!」

 

「ありがとうございますタイキさん!」

 

 興奮気味にかけられたタイキの労いの言葉に、美楚羅は力強く返事する。

 

「相手の力を最大限に引き出しつつの勝利。これ以上ない良いものを見させてもらったよ。チケット代を払いたいぐらいだ、ありがとうね」

 

「はは、あなたという方は、また手厳しいですね」

 

「なんのことかい? フフフ」

 

 それはお褒めの言葉か、はたまた皮肉か。

 微笑を浮かべて語るアキトの感想に、美楚羅は笑った。

 

「はは。あ、それより。食材を無事、持ち帰ってきました! イチゴさんこれで野菜炒めができ──」

 

「ってぇ! できないでしょうが! 肉よ肉これどっちも! 肝心の野菜は!?」

 

「はは、ですよね……すみませんっ」

 

 美楚羅が両手を悠々と広げて見せるも、目の前のデッキ上に並べられた食材は、どちらもロープに縛られた肉塊。

 

 肝心の野菜はどうした。そう、リリスに勢いよく問い詰められた美楚羅は、誤魔化すように苦笑いをするしかなかった。

 

「って謝らなくても、全然あんたのせいじゃないけど……。どうするわけ?」

 

 もちろん、美楚羅のせいでないことはリリスにも分かっている。しかし目の前には肉しかないのは事実、これでは野菜炒めを作ることはできない。

 

「もちろん、ここにキャベツがあるだろう?」

 

 戦米丸から、大砲に乗せ飛ばされたキャベツの玉を今、アキトが胸に抱えてキャッチする。

 バスケットボールのように指の上に緑の玉を回転させながら、アキトは野菜もしっかりあることをアピールした。

 

「あのゲストからは野菜は沢山って聞いたんだけど? たくさんって一種類でいいの? って私そのこと伝えたはずよね……」

 

 実はあの野菜炒めの注文をしたゲストから、待機部屋に残されていたリリスは、さらに細かな注文を聞き出すことに成功していた。

 

 ゲストの男が言うには『トマトは入れず、野菜は沢山』。彼女が纏うこのカラフルなモザイク柄のエプロンも、その時に貸してもらったものであった。

 

 となれば野菜を三つ選択すれば良かったのではないか。何故、肉を二つも選び、あげく被り争わなければならなかったのか。

 

 そしてキャベツを沢山入れたところで、それはゲストの言い告げた『沢山』という意味で正解なのか。疑問のやまないリリスは不安げに、キャベツの玉で遊ぶ目の前の男に問うも──。

 

「あ〜。すまない忘れていた♡」

 

「わっ、わすれ……わわっ!?」

 

 長い指先から舞い上がったキャベツの玉が、リリスの方へと落ちていく。なんとか大事な食材を胸に抱え彼女がそれをキャッチすることに成功すると、アキトが親指を立てて微笑む。

 

 どうやら無駄な肉の選択を、ちっとも悪びれてはいないようだ。リリスはまたお得意の溜息を、つい、つきそうになるが──。

 

「何を言ってもこれ以上、簡単に食材を増やす術はありません。おそらくこの後あるであろう次の食材選択の機会を待つのも手ですが、隣のデッキは現在清掃中……今はこれでやるしかありませんね。時間が惜しいので、さっそく調理に取り掛かりましょう」

 

 今長々としかし分かりやすく、耳にしたミタライのお言葉はもっともだ。リリスはこれ以上の疑問や不平は口にせず頷き、皆もそれぞれミタライの打ち出したその方針に理解を示した。

 

「そ、そうね。分かった!」

 

「はいっ、僕も手伝います!」

 

「ってあんたは手伝わなくていいからっ! 一旦風呂でも入って来なさいよ、それ……私より自分の髪のコンディション、心配した方がいいわよ?」

 

「え? あぁー、確かにそうですね……失礼しました、ははは」

 

 美楚羅はつい先程リリスのぼさぼさに見えた髪のコンディションを心配していたが、今は逆。リリスの方が美楚羅の状態を心配し、苦い顔でそう言った。

 

 コンガ・リー・ダンの魔油を浴びた彼の黒髪は、とても厨房に入れるような状態ではない。手伝いはいいからゆったり風呂でも入って来るようにと、リリスは提案した。

 

「良ければ、我が船の浴場をお貸ししよう」

 

「あなたは……?」

 

「どこぞの奴のせいで派手に油の散ったあの状態だ。どうせ神技の再開までには、まだ時間がかかる。それに──極楽だぞ? ふふふ」

 

 他人に剣先を向けるのが癖なのか。赤竜船にひょいと現れた女船長カタリナ・ゴルドンは、先ほど激闘を演じた美楚羅のことを、己の船、戦米丸の中にあるご自慢の浴場へと誘った。

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