トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第44話 煙る舞台裏

 盛況のオークションも終わりを迎えたブラックマーケット。今宵も取り揃えられた珍しげな品の数々は、それらを欲する然るべき者たちの手元へと無事に送り届けられた。

 

 籠っていた熱気が冷めていき、重なる人影も徐々に少なくなっていく。そんなひっそりと、終わりへと向かい閉じゆく地下会場の裏では──。

 

 

 

 会場裏に用意された小さな私室へと戻ったオールバックの黒服の男は、おもむろに乾いたその口に煙草を咥えた。

 すると、彼の帰りを待ち構えていたようにドアにノックの音が響き渡る。ライターを手にした若い黒服の部下が部屋へと入り、子犬のように今、オールバックの上司の男の元へと小走りで駆け寄ってきた。

 

「ヤジマさん、いつにも増して今回のオークションは大盛況でしたね! ──アレ、煙草変えました?」

 

「そうかね? いつも通りにこなしただけだが。──あぁ、少しな」

 

 軽々しい賛辞の言葉を送るシュゲという名の部下に対して、上司のヤジマは対照的な泰然とした態度でそう答えた。

 

「いやいや、ただの設計図の紙切れやジャンク品やびっくり箱まで、あんな風に売り捌いてみせるなんて、そんな器用な芸当ができるのは俺の知る限りヤジマさんだけっすよ! さすが我らがブラックグループの若き幹部です!」

 

 期待通りのクールな態度を見せるそんな尊敬する上司のことを、部下のシュゲは続けて明るい口調で褒めちぎった。

 

 そして、ゆるりと前へ寄せられた上司の口元。そこに咥えられた一本の煙草の先端に向けて、部下のシュゲは借り物の骨董品のライターで火をつけた。

 

「若いと言っても四十だぞ? とすると最上の座に腰掛ける頃には、五十か? はは、冗談だろ? それは遅すぎる」

 

 煙る奥の男の表情が不敵に笑った。

 

「そこまで見えているんすか!? 遅いなんていやいやいや! すげぇ……もう俺、なんか! そんな野望の尽きないヤジマさんに……一生ついて行きますよ!!」

 

 シュゲは、立ち上る煙草の煙と共に静かに吐かれた、上司のヤジマの言葉にいたく感嘆する。

 

「一生──?」

 

「ッ……!? い、いっしょう……ハイッ……!」

 

 するとヤジマは煙草を口元から外し、今シュゲが軽薄にも宣ったその言葉を切り取りリピートする。

 

 声色を急にどんよりと暗く変えた上司が、口から外した煙草の先端に宿る赤い火を、部下の目へと刺すように近づけた。

 

 眼前で一層に赤熱する煙草。さらに、甘くて苦いそんな混沌とした煙のニオイが、狼狽えながらも返事をしたシュゲの鼻を打つ。

 

「なら君に一つ頼みがある。キミにしかできない──頼みがね」

 

 長く伸びきり灰色に項垂れる煙草の先が、ぽとりと力なく地に落ちた。

 

 その場で息を呑み硬直し突っ立っていたシュゲは、目で追うように足元を覗いた。

 綺麗な黒い革靴の裏で踏んづけ消されたその残骸はもう、すっかり平らに擦り潰され、赤く燃え上がることはない。

 

 一筋、二筋──汗を頬に垂れ流す。

 冷や汗を流しながらも今、シュゲはいつも見慣れたとんがった上司の黒靴と灰色のゴミが置かれてある足元の地から正面に向き直る。

 

 そして、深く一度頷いてみせた。

 

 恐怖を生唾と共に飲み込んだ──そんな物分かりの良い部下に対して、上司はそっと、まだ赤い火の残るその吸いかけの煙草を預けた。

 

 そして、すれ違う部下の右ポッケをなぞったヤジマは、やがて煙たいその私室を去って行った。

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