トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第46話 車椅子のお嬢様①

 異色の玉ねぎ料理人と車椅子のお嬢様。

 本来出会うことのないそんな男女二人を雇い雇われの関係で繋げたのは、1000万ニーゼで落札された、たった三本の黒曜石のナイフだった。

 

 ここは島内の南西にひっそりと佇む、大きなログハウスの中。

 

 メイド服を纏う従者たちが次から次へと手際良く出来上がる料理の皿を、飴色髪のコックの指示で雇い主のお嬢様の元へと運んでいった。

 

「どうでしたか、一流コックの作る【絶品玉ねぎ薬膳コース】のお味は?」

 

「ええ、とても美味しかったわ、ペコロ」

 

 運ばれて来たすべての料理を綺麗に完食したガーネットお嬢様は、掛ける車椅子の上で嬉しそうに微笑んだ。

 そして急遽雇われた身でありながら、ここまでの薬膳料理を深夜にも関わらず用意してくれた料理人ペコロへと、心より賛辞の礼を述べた。

 

 職人気質のペコロも、そんな身なり清楚なお嬢様のつくる笑顔を見て、思わず釣られて笑みをこぼした。

 

「うん、今回はなかなかヘルシーで良かったよ。ただ最後の〆のスープは、生姜をもう少し入れてもいいけどね」

 

「それは良かっ──って、なんでてめぇがいやがる、薄笑い!」

 

 広々としたディナーテーブルの端には、部外者の黒髪の男──アキトが平然と誘われてもいないその食事の席に腰掛けていた。

 しかも、ちゃっかりと料理を勝手につまみ食いしている。やがてアキトは近寄って来た若いメイドに礼を言い、一滴残さずいただいた最後の皿を下げてもらった。

 

 お味の感想を伺うためにお嬢様の方を覗いていた料理人ペコロは、そんな平然と居座る異物の気配と声に振り向き、浮かべていたその笑みを崩し叫んでいた。

 

「やぁ、ナンパだろ? 手伝うよ」

 

「ハァ……アホなことをぬかしてんじゃねぇよ。手伝うもなにもあるか、飯代を払え野良猫」

 

 全く見当違いのことを言い、指を軽妙に弾き鳴らすアキト。対してペコロは真に受けず、呆れた様子でその戯言を言う部外者のことを軽くあしらった。

 

「猫が好きなのかい? 実は自分も別荘に灰色の猫を飼っていてね、普段はツンツンとしているけど、じゃれると可愛いんだ」

 

「誰が飼い猫の話をしろと言った……相変わらず会話のできねぇ野郎だな?」

 

 猫の話など微塵も聞いていない。

 マイペースという概念しか存在しないかのように自分の好きなことを語り出した黒髪の男に、ペコロは顔を顰めてきつい言葉を返した。

 

「それはすまない飽き性でね、フフ。でも、玉ねぎをベースにしたキミの料理は、不思議とまた食べたいと思わせる魅力があるものだ」

 

「あぁ? 当然だろ、一流コックの振る舞った料理だ。そして玉ねぎこそ、俺の魂と等価! 『飽きた』なんて言ってみろ、その時は即刻微塵切りコースだ」

 

 お褒めの言葉をもらうも、一流コックは照れない動じない。飽きたなんて口が裂けてほっぺたが落ちても言わせはしない、ペコロ・ココットの料理には目の前の道化師の舌すら唸らせる確かな自信があった。

 

「いいね、ヤるかい?」

 

「けっ、昨日の今日でやらねぇよ。食ったならさっさと巣に帰れ」

 

 その道化師に対して、包丁を突きつける気はない。

 昨日の竜曜の神技にて、目の前の男と船上で切り結んだばかりのペコロは、その下手な誘いを吐き捨てるように受け流し断った。

 

「あいにく、あそこのホテルのベッドはなんだか寝心地が悪くてね。良い枕、知らないかい」

 

「知るかっ! 鮫のヒレでも敷いて寝てろ!」

 

「それは良い夢が見れそうだ、明日は中華、フカヒレを使ったコースかな? 夢がひろがるね」

 

「ジョークって知らねぇのか? 献立はプロの俺が決める、口を出すな異世界人」

 

「ジョーズだろ? 知ってるさ。給食の献立表か……ジブンは断然揚げパン推しだね! 余ったきな粉をさっと牛乳に入れるのはナイスアイデアだと思わないか? フフ」

 

「また何をフリーダムに言ってやがるか知らねぇが癪に障る奴だな……おい次、でたらめを一言でもしゃべりやがれ、顎を砕くぞ!」

 

「ふふっ。ふふふふふっ──あ、わたし、ごめんなさい。……ふふふ」

 

 長々と子供のような冗談や皮肉の掛け合いを続け、果ては怒声まで飛ばしていたそんな二人の男たちのやり取りを見て──、思わずといった風に、ガーネットお嬢様が声を上げて笑った。

 

 互いに唾を飛ばし合い作り上げた、そんな喧騒の中で向き合っていた男たち。彼らの鼓膜へと突如震え流れ出したのは、とても上品で、それでいて純朴な鈴の鳴るような笑い声だった。

 

 細く白いその手を口元に覆うように寄せて、まだくすくすと、長い金髪を揺らしてガーネットは笑っている。

 

 ペコロとアキトは見飽きた互いのその面を睨む行為をピタリと止め、同時に、車椅子に掛ける彼女の方へと静かに視線を向けた。

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