トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
一品目の審査を終えて、ゲストの待機部屋から調理場に戻ったシロツメ支部の皆。
しかし結果は散々。10点満点中の2点とは、お世辞にも高い評価を得られたとは言えない。滑り出しに失敗したのは明白であるように、リリスには思えた。
「どどどうすんの、2点なんて!」
「しかし沢山食べてはもらえたさ。問題はない」
リリスの心配の言葉をよそに、指を軽快に弾きアキトは笑う。
何故、2点という低評価で彼はそこまで余裕げに笑っていられるのであろうか。リリスはその笑みに釣られずに、溜息混じりにも落胆の言葉を続けて吐いていく。
「確かに案外食べてはいるみたいだけど……それも評価が2点じゃ意味ないでしょ……しっかり食べたうえでこの点数なんだから、うぅ……もっと望み薄ってことじゃない? それっ!」
今厨房に持ち帰られた大皿をリリスは見つめる。その半分ほど余った食べかけの様子を見ると、ゲストの痩せ男が全く出された料理に手をつけずにいた訳ではない事が窺える。しかし、そこまでして下された評価が2点である事には変わりない。
「確かにそうとも言えるね。では、そんな厳しく採点してくれた彼の舌が本当に正しいかどうか……この際、一つジブンたちも試食してみるかい?」
そう言うとアキトは大皿のキャベツを手で千切り、包んだものをよく喋るリリスの口の中へと押し込んだ。
「え、いいの! ってぅむグッッ!? ──ふぇ……お、おいしい!」
評価は「おいしい!」。リリスは押し込まれたキャベツ料理をぱくぱくと咀嚼し、思わずそう叫んでしまった。
「じゃじゃなくて! うーーんと……あ、そうよ! 聞きたかったんだけど、いつの間にこんなにもタレを用意したわけ?」
アキトの不意打ちを受けたリリスは誤魔化すように、今キッチン台の上に並ぶ色とりどりのタレについて問うた。
「調味料に使えるものだけは沢山あったので、とにかく事前にこうなることを見越して数を揃えたまでです。シロツメ支部が売りにする〝ぽてっち〟や他の製菓の新フレーバーなどを開発する際には、これ以上に入念に用意をしますよ」
「す、すごい……あの短時間で。支部長って一体どこまで完璧なの……」
リリスは返ってきたミタライ支部長の用意の良い答えに感嘆する。これだけの種類の味を一瞬にして用意してみせるのだから、工場で製菓の商品開発を自らも手掛けてきた彼女の腕前が窺い知れる。
もしかすると、ゲストの痩せ男にあれだけの料理を食べてもらえたのも彼女のこういった準備が良かったからかもしれない。
「完璧などあまり軽々しく口にしてはいけませんよリリス・アルモンド。あなたも気を抜かずに。完璧とは心掛けるものです」
「わ、分かったわ支部長……! 心掛けるもの……なんかそれ深いかも?」
思わぬ金言をいただいた。リリスはすぐに、先ほどの自分の迂闊な発言を訂正するよう頷いた。
「良い言葉だね、でもそんなに謙遜することもないさ。向こうがいかに精鋭のコック揃いでも、ミタライ支部長がいれば随分と頼もしいものだ。あ、ちなみにそのポン酢はジブンが作ったさ」
「はむっ──ぅげ!?」
「なんだいそのリアクションは、美味しいのだろう? どれどれ」
リリスが口に入れた味はアキトが作ったポン酢を付けたもの。それを聞いた途端に苦い顔をした彼女を見て、アキトは笑った。
「9!」
「……6」
「5でしょうか」
ポン酢の評価か、料理の評価か。周りにいたタイキとアトラ、ミタライもそれぞれにキャベツで鶏肉を包み試食をする。
「ま、点数がどうであれ食べられればそれでいいのさ。ははは、うーん。おや──これは確かにまだ2点だね?」
「ええっ? あんたまでなんで低く言ってんのよ……? そこまで厳しくなくても……おっ、おいしい……のに?」
アキトの下した評価は、奇しくもあの痩せ男と同じく2点。
やはりこのような船上で備蓄されていた野菜の方がダメなのか。それとも鶏、タレ。
彼は一体何が気になり、何についてそのように低く評価をしたのか。その時のリリスは気づかなかった。
「貴様らまた揃いも揃って何をやっている。神技が再開され、ぅぐっ──ふぁやくしろ!」
勢いよく調理場の戸を開けた案内人のラカン。相変わらず高圧的なその強面の開いた口へと、通りかかったアキトがキャベツ巻きを押し詰める。
「フフ分かったよ、どれどれ──」
かわりに見覚えのあるような大きさの一枚の紙を案内人から受け取り、アキトはそこに載っていたリストに目を凝らした。
第二回目の食材選択の時間が巡って来た。
竜曜の神技はつづく。腹を空かせ海上を漂う二隻の船と共に──。