トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第47話 美味しい薬膳

 不毛な野郎同士での絡みにもいい加減飽きたアキトとペコロは、食後のテーブル席に腰を落ち着けた。そして、気になっていたガーネットお嬢様の身の上話の続きを少し詳しく伺うことにした。

 

「フム……ギフトが発現してから、足が思うように動かなくなった? それでここには、その症状に効く薬か何かを求めて来たのか。見たところ腕の立つ従者たちを引き連れているとはいえ、それは随分と思い切ったね。どこか血生臭いこの祭りには、見かけたキミの姿が似つかわしくないと思ったさ」

 

 音もなく席から立ち上がったアキトが、部屋の中を徘徊し出した。そして探偵のような素振りで顎を手でさすりながら、食事中から食後にかけてガーネットの口から直接聞いた話をまとめていった。

 

「なんだって……。とすると、もしかしてそれで俺に薬膳を作ってくれと言ったのかよ?」

 

 全てのコースメニューを提供し終えてから登場したコックのペコロは、今アキトの整理した話を耳にして驚いた。

 

 お嬢様に『それならば薬膳料理を作って欲しい』と言われ、一本のナイフを代金がわりに雇われたことに、今になってペコロは深く合点がいったのだ。

 

「はい……ごめんなさいペコロ……黙っていて」

 

 ガーネットお嬢様がしおらしい態度で、ペコロに向かい謝った。

 

「はぁ……謝るのはこっちだ。そうと知っていれば、もっと本格的なものにすれば良かったぜ。そうだな……生姜ももっと増やして、血の巡りを良くして冷え性にも効くサンダーシナモンや氷ごぼう、魔人参、ベリーココアを使ったスイーツも……よし今から作り直して──」

 

 ペコロ・ココットは料理人だ。一流を豪語し自負するほどの。そんな彼が請け負ったこの一夜限りの薬膳料理の依頼は、今、彼の中で意味合いが大きく変わってしまった。

 

 彼が作ろうとしたのは、自らの魂とも呼んでいた玉ねぎを活かした〝美味しい〟薬膳料理。

 

 そう、形だけ薬膳に寄せたものであった。

 

 プロとして、料理人として、彼は客である彼女が何故その料理を望んでいたのかを全く考えていなかったのだ。

 

 ペコロは独り、俯き加減の姿勢で固まりながら、ぶつぶつと言葉を唱え始めた。

 

 そして頭の中で再構築した新たな薬膳の献立が思い立ったのか、ペコロは上階にあるキッチンへと向かおうとした。

 

「いえ、そんな! 今日はペコロの美味しい料理を、こんなにも一杯食べられてとても良かったわ。私、こんなに美味しい薬膳なんて初めてだもの!」

 

 しかし、今背を見せた飴色髪のコックを呼び止めるように投げかけられたのは、そんなガーネットからの感謝の言葉だった。

 

 耳にぶつかった思いがけぬ熱のある彼女の言葉に、階段に一歩足をかけていたペコロは振り返った。

 

「そ……そうか? まぁ、──そうか。どういたしましてだ」

 

 今貰った感謝の言葉に対して感謝をする。

 客が満足しているならば、コックとしてはそれで良しとするべきである。

 

 『料理とは味わうコミュニケーション、客と料理人、相互の理解があってこそ初めて成立するスペシャルな概念だ』──ペコロはそんな、母とは別の、自分を拾ってくれた料理の師の言葉を思い出す。

 

 そして彼は階段に掛けていた右足を下げ、独りよがりの行為を慎んだ。

 

「……だ・が、スイーツだけは用意させてくれよ。別腹を開けておいてくれ、良いレシピが浮かんだ」

 

「ええ! ふふっ。それ、頼めるかしら」

 

 ガーネットが微笑んだ。振り返っていた料理人は、その笑みの注文の承り、また木の階段へと足を掛けた。

 

 足早に階段を上る男の足音が、ログハウスに響いていく。

 

 やがてテーブルの周りでしていた無意味な徘徊行動をやめ、アキトはその場に立ち止まった。

 

 道化師の目の先に映るのは、車椅子に座りちいさく手を振るお嬢様。そして長い白のスカートに覆われた、魔力のよどむ不鮮明な足元に、彼はじっと目を凝らした────。

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