トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
ペコロがスイーツを仕上げるまでの間、アキトはガーネットお嬢様が退屈をなさらぬように、奇妙な一束のカードを懐から取り出した。
そして花札なる古めかしい遊戯の遊び方を、一枚一枚、引かせた札を自然に手に取らせ説明し出した。
「────へぇー、それが花札という遊びなのですね。それでこの……どこか古風で珍しい格好をした人の札は、なんというもので?」
さらにまた一枚。
ガーネットは、アキトの手の中で扇状に差し出され裏向けにされていた札の中から、一枚、選び取った。
それは、柳の葉と赤い袴の男が映る変わった絵柄をしていた。人物の描かれた札を初めて手に取ったガーネットは、この札のことがとても気になったようだ。
「おっと、良いものを引いたね。それは光札さ」
「……ヒカリ札?」
アキトはそう答える。
耳にした「光札」その良い響きに、ガーネットがまた、札を興味深そうに覗き込んでいると──。
『絶賛スランプ中〜〜』
「すら、──!?」
正面に立っていたはずの道化師の影が、不意に頭を追い越し、金髪に覆われた彼女の耳元でそう囁いた。
それは、彼女が戸惑いの声を上げる暇も与えない一瞬の出来事だった。
車椅子に掛けていた彼女の視界は、刹那、ぶわりと白く染め上がった。
視界を覆った白い布地が、散り散りに宙を舞っていく。そして乱雑に飛び交う色とりどりの花札が、地へと落ちてゆく。
唖然とするお嬢様の前には、不敵に笑う黒髪の男が立っていた。
「何をなさるのですか!? ダメですっ!!」
静まり返ったリビング。冷たい床に散らばる布地と、花札。
そんな緊迫の場面、黙り目を合わせていたアキトとお嬢様の間に、身を挺して割って入った若いメイドが一人。
さらに、異常事態を嗅ぎつけ控えていたボディガードのメイドたちが、一斉に足音を重ねて押し寄せた。
メイドたちは袖内に隠し持っていた暗器を取り出して、鋭利な視線と刃を突きつけながら、お嬢様に危害を加えたその部外者の男のことを取り囲んだ。
「おいっ、何があった!!」
遅れて、ペコロが白いメレンゲの付いたホイッパーを手にしたまま、キッチンから階段を慌ただしく駆け降りて来た。
「何がって、──見なよ」
道化師は両手を挙げやしない。
数多の武器を突きつけられながらも悪びれた様子もなく、今現れた仲間のコックの目を見て、平然とした面でそう言った。
「なっ……これは」
階段の途中で、ペコロの動きがぴたりと凍りついた。
アキトの手によって無残に裂かれた、白いロングスカートと靴下の隙間。
そこには、車椅子に腰掛けるガーネットお嬢様の見えずにいた素足が露わになっていた。
いや、ペコロが横から目撃したそれは、もはや素足などと名付けられるモノではなかった。
長いスカートの下に隠されていた彼女の両足は、真っ白。
真っ白に、冷たく、硬く、震えもしない。そこに映るモノに柔らかさを一切感じられない。
膝下から爪先に至るまで、まるで石の如く硬直した、不恰好な彫刻のような足だった────。