トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第49話 企業秘密

 ロングスカートを無惨にも裂かれ、剥き出しになった奇怪な石の足。

 だが、お嬢様は冷静な面持ちで静かに手を挙げ、アキトに向けられていたメイドたちの武器を下げさせる。

 

 メイドたちは不承不承ながらも、悠々として隙のないその謎の男から、ゆっくりと暗器を元の袖の内へと収めていく。

 

 そして、皆が見つめる張り詰めた緊張の走る静けさの中、彼女は語り始めた。

 

「あれは、私がまだバークローズの王立学校に通っていた十六歳の時でした。異変が起こった最初の頃は、小石か何かにでも躓いただけと思いました。ですが徐々に……違和感はほんの小指の先から始まり、やがて無視できぬほどに私の目に見えて染まっていき──。今となっては……この足が石のように、いえ石の足となり動かなくなっていったのです」

 

 健康だった彼女の両足が石の足になるまでの経緯が、冷静にそして漠然と語られた。

 

「なんだと……! おい……それじゃあ、言っていたギフトってのは? まさか?」

 

 その話を受けて考えるペコロは、また眉間に皺を深めた。

 

「はい、その事については、自分でもまだ多くは調べられておらず分かりません……。ですが私はこれが、今まで発現せずにいた、己の身に宿ったギフト。その副作用なのだと、もう思わざるを得ないのです……」

 

 ガーネットは問うペコロの目を真っ直ぐに見つめ返し、そう答えた。

 

 そして、そんな彼女の横顔を覗いていたアキトは、「やはり」と言った様子で首を縦に頷いてみせた。

 

「うん、やはりさっきの発言もその場限りに吐いた嘘ではなかったということだね。症状の進行はご覧の通り──なおも止まらないと。だからキミは奇妙なそれを身体的というよりは超常的な何か、つまりギフトの仕業だと断定し結びつけたのだね」

 

「おいおい本当に本当か……奇病か何かじゃねぇのかよ? そうだ! 一流の料理人もいるんだ、優れた医者もこの祭りのどっかに隠れているんだろ? ソイツを探して再診してもらえば」

 

 超常的なものよりも身体的な要因を探し、料理人はまだ疑りかかる。そして、この葬魔七曜血選にも紛れて参加しているであろう、もっと良い医者に、その足のことを再診してもらうように彼女に提案しようとしたが──。

 

「足が石のように固まる──そのような症例は見たことがないと、これまで紹介を重ね診てもらった多くの医者の先生方も、皆、口を揃えてそう言いました」

 

 しかしガーネットは既に、バークローズを代表するような名高い医者たちに、自身の石の足を診てもらっていた。

 

「まじかよ……ヤブ医者じゃねぇのか?」

 

「……ありがとうペコロ。ですから私はここに──」

 

 ガーネットお嬢様は熱心に食い下がったペコロに対して、首を静かに横に振った。

 

 もはや表の世界では解決しない、だから裏の世界へと彼女は飛び込んだ。

 そんな尋常でない覚悟と、どこか寂しさが同居したような表情を彼女が浮かべていると──。

 

「一つ、方法がないことはない」

 

「え?」

 

 重苦しい空気にも構わず、道化師は、そうつぶやいた。

 

 思わずガーネットは浮かべていた真剣なその表情を崩し、今、呆気に取られたように驚いてしまった。

 

「おい、なんだそれは薄笑い! もったいぶらずに言いやがれ!」

 

 階段の段差に腰をかけていたペコロは立ち上がり、アキトの方へと詰め寄り銀のホイッパーを向けた。

 

「そのギフトを放棄することだ」

 

 向けられたホイッパーをマイク代わりにするかのように、また道化師が何食わぬ顔で爆弾発言を放った。

 

「放棄? ……ですか?」

 

「放棄だと……そんなのどうやって?」

 

 ギフトを放棄するなど聞いたことがない。ガライヤの世界で生きてきたお嬢様も料理人も、そのような方法を耳にし共有したことなど一度もないのだ。

 

「魂に干渉できるうちの支部長のギフトなら、それが可能だろう」

 

「魂に干渉……そんなギフトが、あの青髪の女に……ならっ!」

 

 ペコロは、それが水色髪のミタライのことを指していることに気づいた。調味料の分量を、しつこく聞いてきていたあの女だ。

 

「その前に、ここから先は企業秘密、できればあまりネタバレはしたくない」

 

「──この方と話があります。皆、下がっていてください」

 

「ですがお嬢様! このような素性の知れない胡散臭い男の言うことなどッ」

 

「ハリエ、下がりなさい」

 

「はっ、はい……!」

 

 メイドの一人ハリエが食い下がる。だが向けられたお嬢様の鋭い視線と冷徹な声に、狼狽えるような返事をし、前に出過ぎていた足を後ろに下げた。

 

 耳を貫いた厳格なるお嬢様の一声で、メイドたちはぞろぞろとログハウスの中を去っていく。

 

 飼い主の見せた素晴らしき威厳に、道化師は小さく拍手を送る。

 そして、やんちゃな料理人の向けたホイッパーから口元に飛んだ白いメレンゲを、ゆっくりと伸ばした舌に舐めずりながら──。

 帽子の影に潜む怪しい黒い眼を、車椅子に掛けた金髪のターゲットへと光らせた。

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