トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第50話 そんなまさかのオーダー

 ログハウスを歩いていた足音が遠のき今止んだ。

 逃げ道を塞ぐように周囲を取り囲んでいたメイドたちを下がらせ、これでお望み通りに人払いは済んだ。

 アキトとガーネットお嬢様とペコロ、三人だけが食卓のあるそのリビングに残っていた。

 

「おい、で、お前の言うあの青髪の支部長さんなら本当にそんなことができるのか? なら寝ちまう前に俺が呼びに──」

 

「あぁー、たぶんそれは無理だ」

 

 さっそく本題に移ろうと、発端の人物アキトへとペコロは無駄を削いで話しかけた。

 

 だが、アキトから短く返って来た言葉は先ほど自らが豪語していた事と、全くの正反対であった。

 

「なんだとお前? 話が違うぞ薄笑いッ、そうやって人様を舐めてかかるのも!」

 

「ちなみに君も他人事じゃない」

 

「俺が? だと……」

 

 ペコロは怒った様相でふざけた事を言ったアキトへと突っかかった。だが、その途中──何かを看破するような鋭い視線を添えて、思いがけない一言を返された。

 

「ジブンには見える。彼女は悪魔に足首を掴まれている」

 

「悪魔……だと!?」

 

 アキトは車椅子に掛けるお嬢様の石の足を見つめて、そう言った。

 

 確かにそれは悪魔の仕業だとも言い張れる。

 麗しい金髪の娘が患った、決して美しいとは言えないその石色の足元は、奇病や怪奇現象だけでは片付けられない。

 

 そして、ペコロも、自身のギフトにも思い当たる節がない訳ではなかった。料理人の彼は、ギフトが恩恵だけではなくデメリットが存在することを知っている。魔術師のリリスと比べて、自分の放つ火が、厄介な火力と性質を持っていることを──。

 

 ガーネットもまた、アキトが「悪魔」と発したその一言を呑み込んだ。自身を足裏の底から蝕むこの現象を悪魔の仕業呼ばわりされても不思議はなく、仕方がないことだった。

 彼女は狼狽えずに、ただアキトの目を見てその先の話を真剣に傾聴していく。

 

「このまま支部長に頼んでも、彼女の魂までノーダメージとはいかないだろう。お嬢様とそのギフトを完全に切り離すことはもう難しい。その石化した足の具合を見れば分かるだろう?」

 

 結局、「無理」と言った最初の言葉に帰結する。

 人間の魂とギフトその密接さを、研究好きのアキトはよく知っていた。そして、やはりその石の足を覗けば、ギフトが彼女の制御下を離れ、お嬢様の体を勝手に支配しつつあるのは一目瞭然であった。

 

 つまり、ミタライ支部長の魂を焼く光火、ウィルオウィスプを持ってしても、ギフトとお嬢様の身・魂までを別個に分けて切り離すのは〝難しい〟という結論に至った。

 

 向けられた矢印はギフト側からの一方的なものながらも、それほどまでに、ガーネットお嬢様の本来持つ魂と後から芽生えたギフトが複雑に絡み合っているように、観察したアキトの目には見えていたのだ。

 

「っ……じゃあどうしろってんだ?」

 

 悪材料ばかりをだらだらと羅列されても、事態は何も改善せず前へと話が動かない。

 

 結局この薄笑いの冒険者は何を言いたいのか。まさか、ただのもったいぶった冷やかしな訳はない。

 疑いながらもそう思ったペコロは、結論を急かすように両手を広げてその男に問い返した。

 

「あぁコック。すまないがその前に、バナナを一本ここに持ってきてくれないか? 小腹が空いたようだ」

 

 返された鋭い視線、黒い眼光から放たれたまさかのおどけた注文に、ペコロ・ココットは片眉を引き攣り上げた。

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