トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第51話 おかしなバナナ

 青い瞳が目を凝らしじっと見つめる先、机上のエッグスタンドに置かれた一つの卵が、今、『チッ──』と小さな音を立てた。

 

 すると、天に向けていた頂点からひびがついた卵を、ペコロは手に取り観察していく。

 

「こいつは確かにすごいが……。まさかその卵にひびをつける超能力で、ギフトだって自覚したわけか?」

 

 青い瞳を数度瞬かせ汗を拭ったガーネットお嬢様は、訝しむペコロの目を見て申し訳なさそうな声で答えた。

 

「はい、ごめんなさい……。これぐらいしかできなくて」

 

 そう、今披露されたのはお嬢様のギフト、その力。机上にセットされた卵の一つに、離れて車椅子に座るお嬢様は手を触れず、その眼力だけで卵の殻にひびを付けたようにペコロには見えていた。

 

 確かに常人にはできない芸当ながらも、お世辞にもそのギフトの能力は、石の足の対価としては、脈絡のない微弱と言わざるを得ない程度のものだった。

 

「別に謝ることではねぇけどよ。それにこれ以上する必要性もとくに──ってなに呑気に、りんごを剥いてやがる!」

 

 別に彼女の得たギフトの強さをペコロは聞いていない。

 少し気落ちした様子のお嬢様に、そう言おうとした料理人であったが──隣にいつまでも鳴っていた空気の読めない包丁の音に向かい、思わず叫んでいた。

 

「あぁ、見てくれコック。兎さんだよ? フフ、なかなかのものだろ?」

 

 楽しげにそう言い、アキトが皿に並べ見せてきたのは、兎の形を模した剥いたりんごであった。

 

「知るか! それぐらいの細工で笑ってんじゃねぇ異世界人! ──おい、てめぇまさか……アレだけもったいぶっておいて肝心の答案(レシピ)を知らねぇ訳じゃねぇよな? これはなんの時間稼ぎだ?」

 

 そのような包丁細工、ガライヤ人ができないとでも思っているのだろうか。

 馬鹿にしたように見えた黒髪の男の態度を、ペコロは怒声を浴びせあしらった。そして、赤い耳のりんごを一つ手に取りながら、目を細めてアキトのことを睨んだ。

 

 もったいぶるにも、揶揄うにも限度というものがある。これ以上の誤魔化しを許さないペコロは、そのふざけ出した男から視線を逸らさない。

 

「なんて冗談さ。レシピならこれだ」

 

 アキトはそう言うと、熱心に見つめてくるコックの男から視線を外し、食卓に置かれていたバナナを一本もぎ取り、それを突然にもお嬢様へと渡した。

 

「これが……?」

 

 受け取った一本のバナナに戸惑う車椅子のお嬢様に対して、どうぞと言わんばかりのジェスチャーでアキトは両手を広げた。

 

 しかし、何をすればいいのやら。無言で勧められるもお嬢様は分からずにいた。

 

 だが、もう一度視線を落とし手元にあるバナナをよく見ると──何故かざらざらした手触りの違和感が彼女の手に伝った。

 

 

 恐る恐る皮を剥いていく──。

 そして、金髪をかきあげその中の果実を口に運んだ時──。

 

 お嬢様は、目を大きく見開いた。

 

「……うそっ!?」

 

 何が嘘なのか。ただのバナナを食しただけで、高貴な彼女からそんな驚きの表情を引き出すことが可能なのだろうか。

 

「ちょっと貸してくれ! ……!?」

 

 いや、そんなはずはない。

 その不可思議な反応を目撃した一流コックは、まだ驚いた表情のままいたお嬢様の元に足早に近づいた。

 

 そして、ペコロがお嬢様からその問題のバナナを受け取ると、睨みながらニオイを嗅ぎ──千切った一欠片を口の中に含んだ。

 

 すると、同じように目を見開き、何かに衝撃を受けたような仰々しい顔をするコックがそこには立っていた。

 

「おい薄笑い……お前一体何を」

 

 まだコックの口の中に残っているのは、紛れもないバナナの食感。そして、鼻を抜けるチグハグな香り。舌の上の味蕾を嘲笑うように支配する、強烈な違和感。

 

「──りんご味のバナナ。それがその足に対する答案だ。先ずはこれを目指していただく」

 

 再度、睨むコックに道化師は答えた。

 齧られたその正体、一流コックの舌を欺いたそのお味は──「りんご味のバナナ」。

 

 車椅子に浮かぶ、彼女の石の足に対する謎めいた答案であった。

 

 説かれたのは奇策それとも愚策、はたまた周囲を翻弄する無意味な嘲笑か。提示された謎の答案と、コックが手に握り睨む一本のおかしなバナナ、依然呪われたように固まるお嬢様の石の両足。

 

 誰も予期できないアキトの狙いとは一体──。

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