トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第52話 二種の野菜料理

 敗者は奪われ何も得ず、勝者は食材を持ち帰り橋を渡る。アトラは赤竜が首を伸ばして待つ船へと戻り、群がる仲間たちに賛辞の言葉を送られていく。

 

 しかし、そんな賑わいの中──

 

「って何食べてんのよ!」

 

「……からっ」

 

 なんとアトラは食材のチーズを橋の途中でぱくりと食べてしまう。案の定、ひと齧りしたところをリリスに怒られてしまう。だが、彼女が少し目を離した隙に──もうひと齧り。

 

「あぁもうっ! えーと……はいこれ水よ水っ! って、こらっアトラあんた! チーズは食べないのっ!」

 

 アトラが抱えるブロック状の大きなチーズの塊に、齧り跡が増えていた事をリリスは見逃さない。それに彼の口元もなんだか、もごもごと動いている。

 

「もちゅもちゅ。……からっ」

 

「もちゅもちゅじゃない! だからチーズを食うなぁああ!!」

 

 堂々と、平然な顔でもうひと齧り。

 ぺネロ・ペッパーの振る舞った戦士のカラネロのお味は、アトラにも後引く辛さだったようだ。

 

 

 

「へくちゅん!! うぅ……そんなニオイ漂わせられたら料理に集中できないんだから。ほらほらアッチアッチ、あんたもそのままお風呂に行って来なさい。(そういえばミソラは長風呂ね? まあ、呑気なものじゃない)」

 

 カラネロの匂いでくしゃみを引き起こされたリリスは、甲板上に近寄って来たアトラに水を渡し、すぐさま橋へと追い返す。

 美楚羅と同じ様に、戦米丸の浴場を借りて一旦身についた匂いや汚れを洗い流してくるように推奨した。

 

「あのままじゃチーズ、全部齧っちゃう勢いだったわ……。──まったく……で、どうするわけ?」

 

 そしてアトラが大人しく置いていった食材を見ながら、リリスは二品目の料理の献立をどうするのかアキトらへと尋ねた。

 

 アトラが持ち帰って来たのは、齧られたチーズと肉のブロック。またしても注文の野菜ではないものだ。

 

「もちろん。今回はトマトがメインさ」

 

 もちろん、リストを事前に覗いていたリリスは、アキトが三つの選択食材の中でトマトを選んでいたことを知っている。

 

 アキトが今、戦米丸の船員に運ばれて来たトマトの箱を指差してそう言う。

 

「あのだから……トマトは入れるなって聞いたんだけど。なんで選んじゃうわけ、野菜炒めなんだけど……」

 

 リリスはゲストの痩せ男から『野菜炒めにトマトは入れるな』と伺っている。その情報はとっくの昔に共有しているはずだが、何故かこの男は不要なトマトしかり、天邪鬼にも野菜ではなく肉などの注文外の食材を二回続けて優先し選んだのだ。

 

 つまり手に入れたトマトは今回オーダーの野菜炒めを作るには、全く適さない食材なのである。他の二つの食材も同様だ。

 

「ジブン、好きなんだ」

「俺も! 今度は何を食べさせてくれるんだリリス?」

「だから、あんたたちの料理を作るんじゃないのよ!」

 

 アキトに続きタイキまでトマト好きをアピールするが、料理を提供するのはゲストの痩せ男。何故かおこぼれを食べる気満々の二人に、リリスは思わず声を上げてツッコんだ。

 

「そうですね……今回はこれにしましょう」

 

「わわっ、え……これってぇ……炭? わわわわわ!!」

 

 ミタライ支部長がリリスへと投げ渡したのは一本の炭。リリスが首を傾げながら見つめていると、次から次へと彼女の両腕と胸元へ炭が投げられ積まれていく。

 

「炙りと鮮度、二種の野菜料理、これで実力を測りましょう」

 

「なるほど。いいね、お手並み拝見といこうか」

 

「お手並み……?」

 

 二品目は二種の野菜料理で勝負を。

 タイキはトマトの箱を、リリスは抱える炭を、アキトは齧られたチーズを、それぞれ調理場へと持ち運んでいった。

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