トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第52話 柘榴石の間欠泉

 されど、もがき伸ばした手は車椅子には届かない。

 

 戦いとは非常に残酷だ。いくら足掻いても届かないこともある。これまでのラッキーの積み重ねも、ギフトの成長する実感も、膨らんだ希望の全てが甘い綿菓子が水に溶けるように溶けていく。

 

 しかし、ガーネットはまだ諦めない。まだわずかばかりの希望がその魔力を灯した指先に残されていることに気づいた。

 

 デコピンするように指先から弾き出した。血のように赤い小さな結晶が、車椅子の手すりに取り付けられた操作レバーを狙い撃った。

 

 するとレバーを倒して自立走行を始めた無人の車椅子は、スピードを上げ、ガーネットの後方にいる水色のメイド服を一直線に目掛けて突っ込んで行った。

 

「何っが!?」

 

 そして車椅子は不意打ち気味にソウアに衝突した。

 

 真正面からぶつかった車椅子が草地に横転し物々しい音を立てる。弾けた衝突音の後に車輪がカラカラと空を切り回り続ける虚しい音が、静寂に鳴り響いていく。

 

「──チィっ……こしゃくな! このおてんばクソ小娘が!」

 

 ソウアは思いもよらぬ方法でダメージを負ったものの、背をぶつけた木の幹をもたれながら立ち上がった。顔に露わにした怒りを滲ませながら。

 

「げほっげほっ……っぅ……」

 

 ガーネットは首を締め付けていた荊の拘束なら機転を用いてなんとか抜け出したものの、呼吸がおぼつかない。やられた首を苦悶の表情でおさえながら荒げる息を整えるのに必死だった。

 

 そんな見るからに隙だらけの姿勢でいるお嬢様のことを、傭兵ソウアは見逃さない。いや、もはやこのままみすみすと見逃す気は失せた。

 

「いけっ【アイソーン】!! 死ぬまで躾ける! 制御の利かない石の人形は、体だけ綺麗に残ればもはや可愛げのないその中身なぞ壊れてもいい!」 

 

 これ以上のおてんばも抵抗も許さない。許容範囲を超えて歯向かうガーネットに対して、傭兵ソウアは魔力を上げた黒い荊の鞭を勢いよくしならせた。

 

 一切の慈悲も手加減もない。依頼人へとそ引き渡し報酬を貰えれば傭兵はそれでいい。

 

 そして哀れな金髪のターゲットへと向かい、荊は再び華奢なその身を両腕ごと巻きつき完全に拘束した。

 

 やがて、巻き付いた胴から向かった首筋をずけずけと這う黒い荊。だが、その上に据えられた彼女の面は焦りの色を見せない。とても冷静で、冷徹に見据えた彼女の青い双眸にソウアは思わず一瞬、うねる荊の動きを止めたじろいだ。

 

「今、私を縛るこれが魔力の道筋……だというのならっ!!」

 

「今になって自分の運命でも悟ったか! だがここから先、貴様の食らう甘い夢はもうない! 私のギフトで悪夢と共に朽ち果て──はっ!?」

 

 敵の気づけずにいた逆転への布石は、無人の車椅子をぶつけた際に密かにも散りばめられていた。

 

 ソウアの足元、丸く取り囲むように並べ置かれたのは柘榴色の石粒。そして今お嬢様と傭兵、二人のことを太く繋ぎ上げた黒い直線が、次の攻撃を放つ魔力の道筋をはっきりと描いているのをガーネットは深く悟った。

 

 赤い魔法陣と黒い導線、そこから導かれるギフトは【柘榴色の間欠泉】────。

 

 地から、真っ赤な足の形のように吹き上がった鮮烈な一撃。天を衝く煌びやかな宝石の集合体が、足元から飛び出し、傭兵ソウアのことを高々と蹴飛ばした。

 

「バナナ味のりんご、できちゃった……はぁ、はぁ……」

 

 逆境を逆手に取り、未熟ながらも煌めくその荒削りなギフトをまた一つ、ガーネット・フローザはしぶとい勝利と共に深化させたのだった。

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