トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第54話 一時休戦中

「バークローズ王国内で道場を開かれる前は、イダイヤ、ハートフィリア、ディスペリアの四大国をはじめ各地を転々と旅していたと聞きます。そんな羅黄師範ならば、魔大陸についても何かご存知と思うんですけどね? まあ、どちらかというと魔物との戦いより人と人との戦いに師範は重きを置いていますから……魔大陸のことを僕が聞き出そうとしても叱られるのがオチかもしれません。ははは」

 

「……」

 

 大きな湯船に浸かりながら、魔大陸についての話をアトラと美楚羅がしていると──。

 

 突然、湯船に大きな波が立ち、二人の髪をざぶんと濡らした。

 

「魔大陸? ブハハハハ、そんな所に行ってもその程度の腕じゃ、あっさり死ぬのがオチだぞ素人どもめ」

 

 今聞こえてきたその下卑た太い声、そして波が過ぎ見えたずんぐりと肥えた腹。

 

「コンガ・リー・ダン……!」

 

「……こんがり? ……肉……」

 

 いきなり豪快無礼にも波を立たせ、湯船に浸かり現れた巨漢の男。まさにその姿は肉丁コンガ・リー・ダン。美楚羅が戦ったコックの男であった。

 

「悪いことは言わん、英雄気取りで旅行したいのならやめておけ、この素人どもめ! ブハッハはははは」

 

 大浴場に大きな笑い声が響き渡る。敵同士が奇しくも今同じ、湯船に浸かってしまったようだ。

 

「ブハッハはは……ブヘェ!? ごへっゴホッ!? な、なにしやがる!!」

 

「ふふふ」

 

「……ぅっさ」

 

 アトラが湯の中で指を弾くと、鋭い波が一直線に、高笑いを浮かべるふくよかな面にぶつかった。

 

 湯を飲んでしまったコンガは即座に怒るが、アトラは知らぬ振りをし、美楚羅は思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「冒険王オーズの手記によると、なんでもその特上の肉質を持つという黄金の牛は、恐ろしい蛇人が棲む孤島に飼っているらしいが。一度どうにかそれを盗み出し、天才コックの俺様の手で調理したいものさ。ブハッハ」

 

「私は黒い魔辛子を探している。辛さは一番上の特辣のさらに上、絶辣に分類され、常人そして私でさえそれをまともに食せば、舌を溶かしながら死に至ると言われている。がしかし……なんでもその魔辛子から噴き出る魔力炎で鍛え焼いた特別な鍋は、なんとも絶妙な辛さと風味を鍋肌に宿し、その鍋の中で調理する素材にも最高の辛みを与える効果を永久に保つという。うむ……そして我が村に伝わる戦士のカラネロも、そのルーツをたどれば魔大陸が原産だと聞いたのだ。もしかするとその幻の黒い唐辛子を交配させた末の物なのかも知れぬ」

 

 肉丁コンガ・リー・ダン、そして途中から湯船に現れた激丁ぺネロ・ペッパー。二人の料理人はそれぞれ、魔大陸にあると言われている自分の追い求める幻の食材のことを美楚羅とアトラへ話し明かした。

 

「黄金の牛に黒い魔辛子……食材探しか……へぇー、それもまた面白そうですね」

 

「……ぅす」

 

 美楚羅は興味ありげに頷き、アトラも黙って湯に浸かり話を聞いていた。

 

「ま、素人が手に出す段階じゃないことは確かだぜ。それは地元でやることがなくなってからだ。なんてな、ブハッハ」

 

 自称玄人で天才コック、そんなコンガのいつまでもする素人煽りはさておき──。

 

「あの、次の調査船の予定は」

 

 美楚羅は、魔大陸へと向かう次の調査船の出航日について、何か知っていることはないかと尋ねた。

 

「さぁな。実力者だって命の保障はない。誰も見返りもなしに軽々しくそんな所に行きやしない。こうしてブラックマーケットで、間接的に手に入れるチャンスを待つ方がよほど安全と言えるかもしれん。その分、大金が必要になるがな」

 

「ブハッハ、命知らずどもめ。しかし今は時期が悪いぜ。バークローズはまだいいが四大国も以前より仲が悪くなってきたからな。どこも慎重になり、自国の戦力をわざわざ削ってまで見返りがあるかどうか不透明な泥船を出そうなんて思わないのさ。特に犬猿の仲のディスペリアとイダイヤは今も小競り合いが続いていると、現地で働くコック仲間たちから聞くゾォ。危ないぜありゃ?」

 

「この世界ガライヤの情勢も踏まえる必要があると……確かに調査船を出すぐらいなら、自国の魔物を狩ってミラーを集めていた方が良いですもんねぇ? おまけに人間同士の争いも、残念ながら絶えない訳ですし」

 

 聞く話によると、近く魔大陸へ出航予定の船はどうやら無い。今が冒険するに相応しいその時期ではないことは、美楚羅にもなんとなく分かったようだ。

 

「だがそれだけ料理人にとって魔大陸とは、未知の食材が手に入る、いわば食の楽園なのだ。腕のいいコックならば喉から手が出るほど欲しいものさ」

 

「もちろん国が豪華な調査船を用意することもあるが、今でも裏では、不定期だが魔大陸に行っている連中もいるらしいぞ?」

 

「「裏?」」

 

 美楚羅とアトラは、コンガがさらりと言ってのけた「裏」という意味深なワードに、思わず声を揃えて反応した。

 

「暇を持て余した金持ち連中の考えることだ。魔大陸を開拓・制覇、珍品や遺物を一度持ち帰り生還すれば、それだけで己の権力の誇示にもなるからな。金に目が眩んだ冒険者どもがこぞって高い片道切符をその手に、用意された愛着のない船の中に乗り込むんだそうだ。まあ金の使い道としては、死んでも人類の役に立つ。そう悪くはない、カッカッカ」

 

「ここで活躍をし良いスポンサーがついたら、お前たち素人にも可能性はあるかもしれないな? ま、行きたいって言うのならばその時の運次第だが……俺たちはお前たちと違い料理人っ! そういった勧誘は引っ切りなし、比較的いつでも行ける立場だぜ? そうそう、機会が来たら天才コックの伝手で紹介してやったっていい。──ただ、金が欲しいだけのしょぼい連中と一緒に行ってもたいした成果が得られるとは、俺様は思わないがな? という訳だ! せいぜい、大波を待てよブハッハははは」

 

 魔大陸へ向かう裏のルートは確かに存在すると、料理人の二人は同じように言う。しかし命の保障はない。

 

 ぺネロは腕を組み渋く頷き、コンガはまた高笑いをする。

 

「……確かに。今目に見えている面子じゃ、しょぼいしな」

 

「ブハは……ごほっ……んだと!?」

 

「ぬぅ……! っ……」

 

「ははは! 手厳しい」

 

 寡黙なアトラがそう皮肉な言葉を呟くと、湯を飲まされたコンガは顔を顰め、ぺネロは額に汗をかきながら何も言い返せず、美楚羅も笑うしかなかった。

 

 血を流し争い合った敵であれ、今は一時休戦中。

 同じ湯船に浸かりながら、四人は魔大陸について語り合ったのであった。

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