トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第55話 狩られて狩って

 迷いの森を走り彷徨うのは、奇怪な鉄車に乗る金髪の女。

 

 所属していたクランが壊滅し独り場所の移動をしていたとある狩人の男は、獣でも人でもないその未知の足音と気配の接近に気づき、急ぎ矢を弓に番えた。

 

 突如聞こえた風を切る鋭い音に、金髪の女は走らせていた車椅子を急停止させた。すると次の瞬間には、彼女の足元の地に矢が突き刺さっていた。

 

 しなり振動する一本の木の矢。それが飛んできた方向に心臓の鼓動を速めながら目をやると、立ち並ぶ森の木の裏に今、人影がさっと隠れたのが見てとれた。

 

(チッ、焦って外したか。一体なんだあの場違いな馬車は……ギフトか?)

 

 男は木の陰に隠れつつも、次の矢を背の矢筒から手に取った。

 

「待ってください……! こちらは見知らぬあなたと争う気はありませんっ!」

 

 その時、老練な狩人の男の耳に、寝言にも思える女の叫ぶ声が吹き込まれた。

 

「あァ? 神技の最中に何を言ってやがる! 森の中は狩るか狩られるか! ただでさえこっちは下手くそどものせいで天災に遭ったばかりでイラついてんだッ、飼い慣らされた兎でも分かる甘っちょろいことをほざくな ヨッ!」

 

 狩人の男は甘すぎるその休戦の提案に顔を顰めながらも、指先から繊細な魔力を込めた矢を弓に番えた。

 

「森の中でもう神技が……。っ!」

 

「逃げた! 逃がすか場違いのツチノコめ!」

 

 木の陰から素早く顔を出し放たれた狩人の矢は、また寸前のところで空を切り外れた。

 

 一瞬で狙いをつけて矢を放つも外した狩人の男は、右の獣道へと躊躇なく流れ逃げていったその鉄の車に乗る金髪のターゲットを急ぎ追っていった。

 

 

 

 

 

 

 たとえどこへ逃げようとも狩人が狙った獲物を逃すことはない。いくら息を潜めあの奇怪な鉄車の走る音を止めても、地についた歪な足跡、不自然に刻まれていた車輪の跡を辿れば隠れた獲物を見つけ出すのは老練な狩人の彼には造作もない事であった。

 

「へっ……いたぞ! 金のツチノコぉぉ!!」

 

 大木の幹のその裏から僅かにも伸びて見えた鉄車の影。それは影のかかり方を考慮しない素人にありがちな隠れ方であった。

 

 叫び声と共に狩人の指先から魔法の矢が曲射し放たれた。右側へぐわりと、凄まじい変化量で曲がった矢は木の裏に潜んでいた獲物へと命中した。

 

 「確実に仕留めた」──そう思った狩人は一瞬ニヤリと笑った。だがまたも一瞬で浮かべていたその笑みは失せた。

 

 矢が届き鳴り響いたのは無機質な音、射抜いたはずの獲物の断末魔も鳴りやしない。そして狩人は驚愕の表情で目撃する。そう、木の陰から矢の威力に押され出てきたのは、なんと背もたれに矢の突き刺さった一台の無人の車椅子であった。

 

「いないっッ!?? どこに潜りやがったツチノごぎゃっ──!??」

 

 虚しく彷徨う鉄の椅子、欺き視界から消えた金髪の女。目を剥き出しに見開き焦燥の顔を浮かべた狩人が、筒から矢を手にしようとしたその時だった。

 

 背を伝う冷たい視線に振り向くも、もう遅い。

 

 木の上から高々と降り注ぐのは、柘榴色の宝石の雨。反転し矢を番えた一人の狩人の身を激しく撃ち続けた。

 

「はぁ、はぁ……足が使えなくても木登りは昔から得意なのよ! ──っ……ごめんなさい」

 

 息を潜めて樹上に乗り、後方死角から地に向け盛大に放たれた柘榴色の弾丸。地を散々に穿つのは赤い弾痕。魔力の限り吐き放ったガーネットのギフトが、老練な狩人の男を返り打ちにし、狩った。

 

 痛みを知らない彼女の白い頬を掠めたのは一本の矢。ガーネットは眼下の景色に刻まれた凄惨な光景に、思わず懺悔しながら目を背ける。

 

 迷える森の中の戦いに身を投じた女は、執拗に追いかけてきた狩人の目を欺き未熟なギフトを惜しみなく解き放ち、また一つ……皮一枚の勝利を掴んだ。

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