トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第56話 ご苦労、お兄様

 一方鬱蒼とした森の奥、干上がった窪地に座礁したように佇む一隻の船の上。それぞれの得意とするギフトを用いて、息を潜めた泥臭い待ち伏せ作戦を愚直にも続けていたクラン【スーパーコットン団】は────。

 

「おにぃ、言われた通り船内を隈なく舐めて探しても、どこにも操舵輪がありませーん! この汗に誓ってありませーん!」

 

 船内の探索を終えたばかりの若い女子団員が、昇降口からひょっこりとその顔を出し、汗の染みた銀色のバンダナに誓ってそう報告をした。

 

 その情けない報告を聞いたクランマスターのコットンお兄様は、眉間に皺を深めながらついに叫んだ。

 

「ちぃ、どうなってやがァ〜る! 操舵輪がなけりゃコンパスがあっても船を出航させられやしないぜ! こちとら既にネタ切れ間近のポーズを散々必死に変えながらッ五つも宝をかき集めてんだぞぉ! それにそれにのお兄様! 俺の詰まりに詰まったスーパー頭脳の見立てじゃ余程の脳足りんじゃなきゃ全て集めなくてもいいはずだ、なのに残り二つが重要な代物だってのカァ! ガァあああああ!! これを畜生と言わずしてなんと言うか、ちんけな音の出るギターなんてよこしやがってェ〜! チクショーーっ、じゃらららんっ!!」

 

 自慢の銀髪を逆立たせ怒りながらもコットンは、手にしていた宝の琵琶をじゃらじゃらと軽快に掻き鳴らした。と同時に、まだ発散しきれず治まらないやり場のない怒りを込めて、甲板上に寝かせていた役立たずの杖を蹴り飛ばした。

 

 しかし、銀髪の男が衣についた綿を散らし動かない船の上を好きに暴れ回っていた、その時だった。

 

 コットンのしっちゃかめっちゃか奏でる愉快なその演奏に呼応するように、蹴飛ばされた杖に不思議なことが起こる。

 

 真っ直ぐだった一本の杖がぐっと内側へ、へそを曲げるように曲がり始めた。さらに、歪にも形を変化する杖はにょきにょきと芽を生やし、そこから伸びた幾多の蔓が複雑かつ精巧に何かを編むように成長していく。

 

 甲板の上にいた部下たちは揃って足元を見つめ、口をあんぐりと開けながら、愉快なBGMと一緒に一本の杖が絶え間なく変わりゆくその異常な光景を目撃した。

 

 そんな団員たちの視線にも気づかず、むしゃくしゃしたまま天を仰いで琵琶を好き勝手に弾き鳴らし続けるコットン。

 そしていつの間にやら宝とは名ばかりの一本の古い杖が、まだ鳴り止まぬ琵琶の音を栄養に立派に編まれた〝船の操舵輪〟へと姿を変えていた。

 

「ままままじかよっ、すげぇさすがお兄様!」

 

「うっわ、さすがおにぃ〜」

 

「一体、いったい……いくつ先を見てやがる……恐ろしいぜ……兄貴!」

 

「こなクソォ〜〜じゃじゃじゃら……え? ん……え、なんかその、ご、ごっつぁん的な〜……てじなぁ〜……ワハ、ワハハハハ、じゃっじゃーーーーん!!」

 

「よぉし最後のタカァーラのそうっ、ダーリン! そうそうっ、操舵輪だ! もちろんこのコットン・シルバーお兄様の……そうっ計画通り♪ ところでハニーぃ、もうここで血生臭いデッキをお掃除しながらカモの馬鹿ァ〜どもを待ち伏せる必要は……ねェ! つまりはハリアップ! 必要な宝は揃ったァ! コイツで最速一番乗りで、宴へいっくぞおおおぉお友達どもォオ! ワタタタタタタタ!」

 

 操舵輪を両手で優勝トロフィーのように高々と掲げるコットンは、そう団員たちに宣言した。この操舵輪さえあれば後はこの乾いた窪地に水を流し、宝を順番通りに当てはめて用意された流れに沿うだけ。

 

 待望の宴への道は開かれた。見事にプランを成し遂げた優秀なコットン団長のことを、慕う団員の皆が輪で囲い一緒になって盛り上がる。

 

『なるほど、そういう仕掛けか』

 

「ワハハははワタタタタた……ぁ……?」

 

 コットンの高笑いが唐突にぴたりと止む。

 今、聞こえたのは誰の声。この船の上、スーパーコットン団の手中に収めた船の上にそんな王子様を気取ったような声質の役者はいない。

 

「──フフフご苦労、お兄様」

 

 忽然と甲板上に現れたのは一人の黒髪の男。余裕げに薄笑いを浮かべ、いけすかない姿でそこに佇んでいる。いけすかない声で「お兄様」と呼んでいる、道化師ぶったキザな奴。

 

 コットン・シルバーは間抜けな表情で両手を挙げたまま、やけに軽くなった天をもう一度見上げる。しかし彼の頭上には、なにもない。なにもない。そう、操舵輪がない。

 

 すると黒髪の道化師は指をぱちんと弾き、呆然とする周囲の皆の注目を集めた。今おもむろに脱ぎ外したのは緑のマント、そして手品を披露するように変哲のない緑の布地にあいた腕を突っ込むと──出てきたのは木と蔓で精巧に編まれた一つのリング。そう、操舵輪だった。

 

「あっ、あっ、あっ、あっ……アぁ!? ぶっ、ぶっ、ぷっ、ぷっ殺せえええええ!」

 

 苦労して手に入れた最後の宝は、音もなく掠め盗られた。

 謎の部外者の侵入、最高潮の瞬間に割り込んだ空気の読めない奴が一人。

 

 操舵輪を緑の布で磨きながら微笑む道化師の存在なぞ彼の台本にはない。青筋を立てたコットン・シルバー団長は鋭い武器の針を向け、今、抹殺の号令を叫び下した。

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