トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第6話 吊るされた冒険者

 陽光の淡く差し込む、白いモヤに包まれた偽りの森。さっそく、この異空間の出口のドアと迷子の冒険者を探し始めた第二パーティーであったが、その探索は難航していた。

 

「しかしドアらしきものが見当たらないなぁ? こりゃなかなか手強い部屋だな? その分、宝の価値は高そうだが」

 

 アジバが少し苛立たしげに斧の柄で地を叩く。

 

「いっそ、手分けして探してみるのはどうだい?」

 

 アキトが提案するが、アジバは即座に首を振った。

 

「おいおい、ギルド職員としてそれは推奨できないぞアキト氏。宝に目が眩んで足元をすくわれてしまえば、本末転倒っ! ってな」

 

「ふふっ。おっしゃる通りだ」

 

「おぃ、まさか試したのかぁー? 人の悪いお方だなぁー、はは。にしても──天然のミラールーム故、手入れはしていないだろうと言ったが、魔物まで出てこいとは言ってないぞアジバ職員は?」

 

 一行が、霧のように薄っすらと視界に広がるモヤの先を進むにつれ、森の密度は増し、おまけに魔物まで飛び出してきた。

 

「ミラーボアか。とても鼻がいい魔物だ」

 

「うむ、先に入った冒険者も不意打ちで突進して来たこれに襲われたのではないか?」

 

 顎に手を当て考えるアキトの隣で、ソメイが足元に転がる新鮮な猪魔物の死骸を指さすが、アジバは鋭い視線でそれを否定した。

 

「いや、魔物に争ったような切り傷の類いは見受けなかった。視界不鮮明な中の強襲とは言え、ただでミラーボアにやられるほど、ウチのギルドの冒険者はヤワじゃないと思いたいが……」

 

 一行が一旦冷静になり足を止めていたその時──。

 

 頭上の木の葉がガサリと音を立て揺れた。一同が顔を上げると、そこには目を疑う光景があった。

 

 ぐっと目を凝らした先──遥か高みの枝に、一人の冒険者らしき者が、蔓のようなものに体や口、足首までをぐるぐると巻きつけられ、無残に吊るし上げられていたのだ。

 

「アレは!? 縛られて動けないのか……助けてきます!」

 

 縛られている、だが僅かな力で体を揺らし、それが必死に助けを求めているように見えた。タイキが迷わず木を駆け上がる。

 

「タイキ、高いぞ! 気をつけるんだぞーっ!」

 

「ああ、大丈夫だ、ソメイさん!」

 

 タイキは俊敏な動きで木を登り、逆さに吊るされた冒険者の元へと急いだ。その冒険者はまだ意識こそあるものの、もう体が麻痺しているのか、ろくに喋ったり体を動かすことができないようであった。

 

 タイキはすっと剣を鞘から取り出し、吊るされた冒険者に巻かれた、その複雑な蔦の除去を慎重に始めた。

 

「どこを探してもいないわけよ……。あんな高いところに吊るされてるなんて? って、どうしてそうなってるわけ??」

 

 リリスが救助に向かったタイキのことを見上げながら、気味悪そうにそう問うた。

 

「森の悪ガキ、ミラーエイプの仕業にしてもそんな気配はねぇな。発動せずに残っていた古いトラップ魔法か何かにやられたか……?」

 

 アジバも一緒に考えるが、冒険者が高所の木に吊るされていた謎は明確には解けない。

 

「さあ、どうだろうね。──!」

 

 そう静かに呟いたアキトの声が響くと同時に、低い地面からいきなり、植物の蔓が蛇のような速さで無防備な人間たちの足元へと食いついた。

 

「ひゃっ!?」

「うおっ!?」

 

 呑気にもミステリーを解こうと、同じ姿勢で考え事をしていたリリスとアジバの足首を、強靭な蔓が瞬時に締め上げ巻き取る。そのまま森の奥へと引きずり込もうとする力に対し、アキトの抜き出したレイピアが瞬時に閃いた。

 

 目にも止まらぬ剣捌きで迷いなく足首に絡まっていた蔓が切り裂かれ、二人は転けながらも引っ張られていた力から解放された。

 

「っと、悪い……助かったアキト氏! まさか本当に足元をすくわれてしまうとは……しかし、今のもトラップか何かか……?」

 

「あいたた……もう、なんなのよ! 再三転ばされて、一体どうなってるわけ!?」

 

 泥を払いながら憤るリリスの横で、先ほど二人が蔓に捕まっていたその始終を目撃したソメイが、何かおかしな挙動に気づいたのか、硬い表情でアキトの方を見つめた。

 

「アキト、これ、ひょっとして……」

 

「……うん。状況から察するに、アレだね。ここはただの森じゃない」

 

 アキトが足元の地面をおもむろに踏みしめる。そして──

 

「まるで誰かの胃袋の中だ、フフ」

 

 再びレイピアが煌めいた。その切先は木の幹を射抜くように鋭く突き刺した。

 

 やがて、硬い木の肌から浮き出した目玉が、正確に抉られた銀の刃により緑の鮮血を吹き出した。

 

 そしてパリンと、鏡が砕けるような音が鳴ると、みるみると一本の木が枯れていく。

 

 すると同時に、木の葉を揺らし蔓をうねらせる、そんな周囲の木々のする異様なざわめきと気配に──。

 

「ハッ!? ……冗談でしょっ!」

「冗談なら笑えるが……!」

「笑っても構わない、フフ」

「向かって来るぞっ!」

 

 冒険者たちはそれぞれの武器を構えた。一つ目の木の化物たちが、木の葉を揺らし続け笑い立ち並ぶ。静かに擬態していた森の魔物たちが、次々と隠していたその目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 木の葉が散りざわめく。

 左右上下に激しくしなり動いた枝は狂乱の模様。しかし、そこに突風など吹いてはいない。それはまるで木にぶら下がる異物を振り払おうと、その木自らが意思を持って暴れているようであった。

 

「そこかっ!」

 

 暴れる枝が横から上から鞭やハンマーのように襲い掛かってくる。タイキは今、樹皮に現れた一つ目へと剣を突き刺したが、そこには既に何もいない。誘われたのか遊ばれたのか──逆にその刃を、蠢き成長を続ける太い木の幹の中で締め上げられ抜けなくなった。

 

「──ッ【電酎斬(でんちゅうざん)】!!」

 

 剣は二本ある──タイキは突き刺さったままのその剣に雷の魔力を込めた。それは切り込みから幹の中を通じ、みるみると樹木全体を真っ青に染め上げた。

 

 タイキは剣を突き刺したまま残し、樹上に吊られて囚われていた一人の冒険者を奪うように抱え去り、地上へと飛び降りた。

 

 青い雷撃の剣をその身に直接受けた大木は、根本、枝葉まで焦げつき灰になっていた。

 

「おう。タイキくん派手な木登りだったね」

 

「アキトさんっ! これは一体?」

 

 冒険者の救助のため木に登っていたタイキは、降り立ちすぐにアキトへと状況を確認する。

 

「おそらく【ドライアド】だね。死に絶えた魔物のミラーを栄養にし成長してしまった木などが、稀に化けるものの総称をそう言うらしい。そしてまさに今彼らは、得意の隠れん坊がバレて怒っているようだ」

 

「ドライアドぉ!? そいつは厄介極まりないっ! 確か脅威度はそれぞれのサイズや生い立ちに異なるがっ気を抜けない魔物だ、気をつけろっ!」

 

 ギルド職員であるアジバもドライアドという魔物に少しだけ聞き覚えがあったようだ。

 

「あぁっ。その様子……おまけに痺れ蔓の木に寄生しているようだね。それにこれほどの群生、──拝んだことはない。この数このケース、総計した脅威度は、ざっとBBB級以上……ってところかな!」

 

 アキトは持ち前のレイピアの腕で、忍び寄った蔓を素速く切った。荷物を抱えたまま窮屈そうに片手で剣を振るっていたタイキを、さりげなくカバーした。

 

「それを抱えたままでは危ないよ」

 

 鋭い視線を配り振り返るアキトが、タイキへと少し冷たい声色で忠告をする。

 

「すみませんっ! でも、放ってはおけません!」

 

「ふふっ。なら自分でなんとかすることだ。あいにくジブンも、それほど余裕ではないからね!」

 

「はいっ!!」

 

 予想通りの答案と、はっきりとこの耳を通る返事が返って来た。アキトはそれ以上の野暮なお節介をやめ、タイキの好きなようにやらせることにした。ただし、その痺れた荷物を守るための手助けはしない。それが条件。タイキは迷わず「はいっ!!」と威勢よく叫んだ。

 

 

 

「はぁっ! おいおいこいつらどれだけいやがるっ! きりがないぞっ」

 

 アジバは武器とする斧で、うねうねと寄ってくる蔦や枝を力強く切りながら愚痴をこぼす。

 

「なんなのよほんと、これじゃ魔法も落ち着いて──って、わわっ!?」

 

 同じくお得意の愚痴を同調するようにこぼそうとしたリリスであったが、突如蛇の大群のように殺到した蔓に面を食らった。

 

「ならそこを動かず私に任せろリリスっ! 【墨色魔法(ぼくしょくまほう)(おか)】っ!」

 

 魔法を練り上げる行為を中断し、慌ててその場を避けようとした赤髪の彼女のことを、彼女の前へと急に割り込んだソメイが助けた。

 

 ソメイは魔力の染みた特殊な墨をつけた筆槍で、自身とリリスの立つ地の周囲に、力強い筆致で丸を描いた。

 

 その黒の円陣にいる赤髪の魔術師へと、執拗にうねりながら殺到し近づいた蔓。だが、何やら様子がおかしい。蔓は蠢きながらもやがて──その悍ましい揺れ方と前進をぴたりとやめ、宙で静止してしまった。

 

「な、なにっ? うねうねしてたのが……止まった?」

 

 見ればソメイの敷いた円陣を通り過ぎたその蔓や根の先は、艶めいた漆黒に染め上がっていた。そして、リリスのことを指していたその黒い根の先は、今くるりと背を向けるように後ろへと回った。

 

「うむっ、【心正しければ則ち筆正し】──ギフトというよりはスタンスっ! 私の続けてきたものだ」

 

 荒ぶりを鎮め、黒く濡れたその蔓の一本一本が、まるで彼女が手に取るためにある筆のようだ。

 

 【心正則筆正】それはフミ・ソメイのギフトでありスタンス。

 彼女の描いた、魔力と五彩の宿る漆黒の墨の円陣が、そこに侵入しようとした魔物ドライアドの攻撃を逆手に取り止めてみせた。

 

 

 

 ソメイはさっそく、筆となった蔓を従え操り向かわせる。そして魔物ドライアドが寄生した木の幹に、素速く一筆字をしたためた。

 

「【運筆(うんぴつ)】! 相手が木ならば、きっとこれで十分っ!」

 

 すると【古】──と樹皮を紙代わりに、墨で書かれた木が突然しおれ枯れていく。

 

 

⬜︎

【運筆】──それは持ち前の筆捌きと魔力の溶けた墨を用い、対象に理と願を吹き込む秘術。フミ・ソメイの筆致と想像力次第でいかなる願いも叶うが、考慮せねばならない注意点がある。

画数の多い字を選んだり組み合わせたり、対象の性質と大きく乖離した命令を記してしまったり、また、はっきりとした願いを記すほどに、使用する魔力の負担が増加してしまうのだ。

そして己の魔力で賄いきれぬ分は、したためた術者本人の肉体への強烈なしっぺ返しとなって返ってくる。そのため、悪意を持った呪詛めいた字を綴る際には繊細な注意とリスクの管理が必要である。

⬜︎

 

 

 だが、木の生命力は人智では計り知れない。ドライアドは枯れながらも狂い暴れ、ソメイとリリスのいる円陣を侵そうと襲い出した。

 

「蔓を筆にし操るとはっ、奇怪だが機転! やるじゃないかフミ・ソメイ! AAA級じゃもったいない! はははならその爺さんっ、切り倒す役はこの職員に任せろ!」

 

 意外性を魅せたソメイの機転と知略に、アジバもテンションを高め呼応し、斧を振るう。彼女らに寄って来ていた枯れかけのドライアドの幹へと飛び込み、まるで脆くなった腰を折るように、それを両断し切り倒した。

 

「おぉーなんという剛毅剛腕っ、見直したぞっ! ハハハ、アジバ殿もギルド職員とは思えないものを持っているじゃないかっ!」

 

 大木が斧の一刀に伐採され無惨な横倒れになった。やがて木の葉が腐り土へと還り、森の噂屋ドライアドが一体絶命した。

 

 その勇猛で力のある男の様を見ていたソメイが、剛毅かつ剛腕とアジバ職員のことを目を輝かせ賞賛した。意外性を魅せたのは彼女の筆捌きだけではなかったようだ。

 

「これぐらいっ! 冒険者の面倒を見れなきゃギルド職員は務まらないからなっ! ははは──っ。よし! さぁ存分にやれ、大魔術師リリス・アルモンド!」

 

「──うむっ! この調子ならばしばらく、落ち着いてやってくれて大丈夫だ! リリスっ!」

 

 後ろを振り向き言葉を投げかけるアジバとソメイ。リリスよりも年上の大人組の二人が奮闘し、魔術師である彼女のことを手厚く守る陣を敷く。

 

「大魔術師は余計だけど……あ、あんがと!」

 

 そんなに手厚く守られるとは思わなかった。だが、とても有難いこと──リリスはかけられた二人の言葉を受け入れ先ずは礼を返した。

 

 今は戦闘中、BB級の実力者タイキやアキトが前で剣を振るい踊り続ける中。後方にいたソメイもアジバも自分の役割を見つけ、それに専念することにした。

 

 煌めく斧と走る筆と祈る杖。三人立つそこに、なんら不足はない──。守りを大人二人に任せたリリスは、今ようやく一つ深く息を吐いた。

 

 そして、大胆にも目を閉じて赤髪の魔術師は集中する──。

 

 握る古杖の底からくるりと曲がった杖の先にまで、マグマのように熱く熱く昂る彼女の魔力が、着々と練られていく。

 

 

 

 

 

 

 

 赤髪の魔術師が、ついにその瞳を見開いた。古杖の先に凝縮された熱量は、やがて頭上宙に浮かび──。

 祈り念じる時間(とき)と共にみるみると膨れ上がった小太陽の如き火の塊が、丸々と形を成し、丁寧に圧縮した魔力で燃え盛り続けていた。

 

 既に練成した魔法の規模は、十分。解き放つ時は今だと、彼女は自ら号令をかけた。

 

「さぁ、行きなさい──焼き喰らい尽くせっ、【ヒノタマ】!!」

 

 放たれたのは、火球というにはあまりに暴力的で巨大な熱き厚き魔力の塊。

 

 魔術師の古杖に尻を叩かれ森を飛び始めたそれは、対象を単に焼くだけにはとどまらない。その圧倒的な圧力で衝突した木々の太き幹ごと、さながら獣が喰らうように粉砕していた。

 

 爆風が巻き起こる。たった一粒の赤き火球が森に群れなすドライアドたちを次々と焦がし薙ぎ倒し、蹂躙する。

 

 やがて森を走り抜けた火球が、幽霊のようにそっと静かに煙るモヤの中に消え入った。

 

 赤い髪を靡かせ続けていた熱風が通り過ぎる。気づけば辺り一面がまっさらな焦土と化していた。

 

「おいおい……能ある鷹は爪を隠すと言うが……あの数を根絶やしかっ、こりゃすごいっ! まるでもう大魔術師の風格じゃないか。これはもうルーキーなんておいそれと呼べないな、なぁっリリス・アルモンド女史? ちょっと前までAA級なんて冗談でも演じてたのかぁー? ははは、爽快壮観っ! よくやってくれたァ!」

 

「はいはい、おちゃらけの方はいいから……。(てか長いし)はぁ……。あいつに散々いじくり回されてから、こんな芸当ができるようになっただけだし。はぁ……演じてたなんてそれこそ冗談でも言わな……」

 

 肩で息をしながらも毒づくリリス。だが、愚痴る途中に出て来たワードに大人組の二人が一斉に振り向いた。

 

「「あいつ……?」」

 

 アジバとソメイの声が重なる。

 

「うぎっ!? なっ、なんでもないわよ!」

 

 リリスが耳を赤くしてうっかりこぼれた失言を取り繕おうとした、その時だった──。

 

「……ッ、これは……?」

 

 ソメイがふと足元を凝視する。彼女がリリスを守るために敷いたはずのかすれた墨の円陣が、地面へと吸い込まれ、溶けて消えていく。

 

 それだけでは魔力が尽きたのかと思ったが、ソメイは次に、筆槍を振るうためそこらの木にかけていたクラン章の入った旗に目を配った。

 

 その旗を供物にし灯る緑の火の光が、ソメイには輝きを増し落ち着かずにいるように見えた。

 

 そして、そんな妙に察しの良い彼女と同時に、彼も何かに気づいたのか。

 

「お疲れのところ悪いね。こっちだ」

 

「わわっ!? ちょっと、急に何してんのよぉ!?」

 

 さすがにあの規模の火の魔法を放った後は、魔力を消費し肉体もどっと疲れてしまう。頭にこもる熱量も中々のものだ。

 

 おデコを押さえ杖をついてだらけていたリリスの身を、突然──現れたアキトが横から颯爽と抱え上げ、リリスが呑気に立ち止まっていたその場を離脱した。

 

「地中に何かいるぞ! タイキ、アジバ殿! こっちだ!」

 

 突然その身を掻っ攫われたリリスは驚きわめくが、すぐにソメイの叫びが響く。一行がアキトとソメイの案内と忠告に続きその場を飛び退いた直後、大地が猛烈な勢いで隆起した。

 

 地響きと共に現れたのは、これまでの緑の木々とは一線を画す悍ましいまでの〝白〟。

 

「おいおい……冗談がすぎるぞ、なんだこりゃあ……!」

 

 アジバが翳る顔を顰めて天を見上げる。現れたそれに斧を握り直すが、その手は僅かに震えていた。

 

 地中から這い出してきたのは、巨大な蛇のようであり、同時に天を衝く古木のようでもある異形の存在。骨のように白いその樹皮は、陽を浴びずに眠っていた化石のようでもあった。

 

「こんなものが眠っていたのか。地下に……?」

「地の中の……白い、巨木……」

 

 タイキとソメイが呆然と見上げる。彼らの視界からはみ出すほどの大きさで、堂々とそそり立つ白木が一本。

 それは眠る地獄の底から突如立ち上がり、今、天を貫くほどに高く芽吹いたとでも言うのか。この世のものとは思えない、妖しい白い木の正体など分かるはずもない。

 しかし真っ白なそれは虚像ではない。目の当たりにした冒険者たちが、決して一言では言い表せないそんな圧倒的な威容を誇って立っていた。

 

「は、はぁっ!? なんっ……!」

 

 アキトは、目を見開き驚愕する魔術師のリリスを安全な場所へ降ろす。

 そして一本のレイピアをおもむろに腰元のホルダーから抜き出し、その切先を向け少し構えてみる。

 

「……さて。この難題の出口はどこかな」

 

 BB級の冒険者アキト。今、一介の剣士である彼の握るちっぽけな剣先が、不遜にも測ってみせるのは、ミラールームに突如現れた大きな大きなその白き古木の正体。

 

 しかし、彼はただの道化師。主人公でも師でもない。対峙する相手は人間でも剣士でもない。自分よりも大きいその魔の滾る存在のことを、それだけではとても測れやしない。

 

 聳え立つ白き大物の実力は未知数。

 

 『やってみなければ分からない──』ひっそりとそう呟いてみせ、それでも彼の切先はぶれない。

 

 そして、隣で今同じく剣を構えた──青髪の剣士の精悍たる横顔を見ながら、アキトはじわり、不敵にその口角を上げた。

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