トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第59話 道化師のハッタリ

 ショーでも始めるかのように指を弾き鳴らした向こうの地。開けた森の中で堂々と熱き魔力を発練する赤髪、それは魔術師リリス・アルモンドの得意とする魔法【ヒノタマ】だ。

 

 いつの間にか密かに連携していた船外の魔術師の仲間が育て上げたその魔法を、冒険者アキトはこの船にぶつけるつもりなのだという。

 

「でぇえ!? 正気か三枚目ぇ!? このお兄様とのティータイムは!?」

 

 コットンは目玉が飛び出すかにも思えるほどに驚愕した。

 それもそのはずだ。あそこまで丸々と育った火の魔法をこちらに向けて放たれでもしたら、この船もただでは済まないと予想ができた。

 

「あぁ、もちろん。船ならまた別のものをお借りすればいい。その頃には、午後のティータイムにもきっと間に合うさ。アハはは」

 

 アキトはそう言い切り、肩をすくめて笑った。

 

「いっ、イカれてやがる……」

 

 コットンは目の前の三枚目の道化師が言い放った狂った考えに、思わず唖然としその顔を顰めた。

 

(チィっ……だが待て、ここが分水嶺、冷静になれ悪しき冒険者コットン・シルバー。ブラフに決まっている。冒険王オーズともやり合った演技派の俺には分かるぞ。こいつがなにかの道化師の役の皮を引きずり被って遊んでやがることが……。その安っぽいメッキの匂いが、さっきからぷんぷんと鼻をつきやがるのさ……!)

 

 石のコンパスが針を指し示したこの宝船を、みすみす燃やす馬鹿はいない。海曜日の神技【海宴七宝】のクリアに必要なのは、まさに今自分たちが足をつけているこの船だ。そしてこの船を動かすために必要な宝も既にここには揃っている。

 

 いくら高笑いを浮かべる奴が三枚目の狂人のふりをしてもコットンの目には分かる。それが演技・まやかし・ハッタリであることなど。

 

「フンっ……あぁそうかい、ならこちらにもスーパーなかんがえってェェ!? 本当にパなしたぁーーーー!? たっ、退避、緊急退避ぃい! お友達ども、逃っっげろーーーー!」

 

 相手のハッタリ嘘を看破し両手を腰に当て大物ぶった余裕を見せ始めたコットンだったが、今背から前方へと色濃く形を変えた影とただならぬ熱気と光に、近く危機が差し迫るのを肌で目で感じてしまった。

 

 銀髪の彼が背方を振り返るとやはり近づくヒノタマが一つ。まるで大砲を打ち込むように盛大に曲射されていた。

 

 そして大慌てで声を張り上げ出した団長の緊急退避の号令に、散り散りに逃げるスーパーコットン団の団員たち。もう間もなくこちらの甲板に目掛けて着弾する火球を回避するために、船から急ぎ飛び降りた。

 

 そんな敵の慌て様にも動じず甲板の上に依然立つ男が一人。アキトは放物線を描き放たれたシンプルかつ派手なそのヒノタマを、どこかしみじみとした表情で見つめたまま──。

 

「遠慮は要らないと言ったが、恨みでもあるのかい? ふっ、愚直も極めれば中々やるじゃないか、未来の大魔術師──ハッ!」

 

 一枚一枚袖下から取り出した花札を今扇子のように広げて、燃え盛りながら至近までやって来たそのヒノタマの荒い曲面の下側を、アキトは勢いよく切るように扇いだ。

 

「なぁんてね! アハははは」

 

 刹那──干渉し合った同質の魔の光。手元に束ねていた花札は燃え尽き、熱帯びたアキトの手元から散っていく。

 

 花札の扇子に扇がれて方向を変え、弾かれレシーブされたように上昇していったヒノタマは、囲む木々の葉を焦がしながら森の中を出て、真上に高々と飾られた熱き太陽を目指し飛んでいった。

 

「ナ……な!? っぅぅ畜生めぇぇえ!」

 

 ハッタリでも何でもなかった。

 身の危険を顧みない実と実力を伴うあり得ない嘘と力技に、窪地の水溜まりの中へと滑稽にも身を投げ出していたコットンは、たまらず畜生とその悔しさを台詞にし吐き捨てた。

 

「っしぼぼぼぼ……ワタァシの綿ぁが濡れてェ、しぼぼぼぼ……」

 

 被弾を恐れ逃げ出した船の下、水の中に浸り浮かんでいたずぶ濡れの銀髪の男は特異なその綿の身が溶けるように萎んでいき、すっかり骨と皮だけの哀れな姿になっていた。

 

 してやられたコットン・シルバーはそんな痩せた溺れそうな姿で、真っ赤な陽光の射す中に船のへりで「バイバイ」と手を振る道化師のことを、必死に浮かびながらも恨めしく睨みつけるのだった。

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