トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第61話 契約と従属

 武闘派があまりいないサイカン本部の代わりに、パートナークラン(仮)として葬魔七曜血選に参加することを認め、そのシロツメ支部のバックにつき資金や物資などの援助をしていたマリモ代表。

 

 ここに来てその密約と協力関係を解消するような彼女の裏切りは、シロツメ支部にとって青天の霹靂たる衝撃と言わざるを得なかった。

 

「……つまり、売ったというわけですか。魂を」

 

 ミタライの冷徹な視線がマリモ代表を射抜く。クロキリ本部の権力や圧力に屈し乗り換えたのか、あるいは、最初からシロツメ支部を彼らに引き渡すことがこの女狐の本当の狙いだったのかもしれない。

 

「あっは、人聞きの悪い。あんたらがこのお祭りを勝ち進んで一緒にお買い物して盛り上がるよりも、ここで抜き身のあんたらを元の鞘に引き渡す方が値打ちがあるって踏んだだけ。売り時にきっちり売るのが商売人、その魂を失った時こそ──マリモ商会の終わりやろ?」

 

 怖い目で睨みつけてくるミタライのことを一笑に付し、マリモは自身のもう一つの顔である商売人の矜持を振り翳し、自分の取ったその選択と行為を正当化してみせた。

 

 味方であるはずのサイカン本部からの裏切り。アキトは冷ややかな眼差しで、のうのうとこの場に現れたその銀髪の女のことを見つめた。

 

「──信じるべきじゃなかったね」

 

「信じてたん? そりゃ、嬉しいわ。ふふふ。まさかそんな甘っちょろいこと言う男やとは思わんかったけど? あながち売り時は間違ってなかったみたいやな?」

 

 マリモは扇子を悠々とあおぎながら、アキトのかける言葉を何食わぬ顔で受け流す。この程度のことで焦りの本性を覗かせたその男には、思っていたほどの価値はないのかもしれない。今までが期待の買い被りだったと言いたげに、勝ち誇ったように冷たく笑った。

 

「おい待て待て待て待て! アングリーはどんぐりぃで深呼吸! すぅ〜……ここはひとまず、その魅力的でお得な話ってヤァ〜ツのつづきを聞こうじゃないか? はぁ〜」

 

 アキト、ミタライ、そしてマリモ代表、三人の間に流れた一触即発のピリついた不穏な空気。感じ取ったその空気にたまらなくなったコットンは、体と声を割り込ませ、宥めるような両手の仕草で大声を張り上げた。

 

 悩める彼の頭脳が弾き出したタイミングは〝ここ〟。

 どちらの陣営の旗色にもまだ完全に染まっていないコットン・シルバーとしては、この場での武力行使による諍いは何としても避けたかった。話術と頭脳とギフトを駆使し上手く立ち回れば、まだどちらにも乗り換えられるチャンスが彼にはあった。派手な身なりの銀髪の男はおどけながらも冷静に、この場に集ったクラン同士のパワーバランスを窺っていた。

 

「……ああ、いいだろう。だが、ここは隠れん坊をしていたお前らをおびき出し見つけてくれた部下の顔を立ててやりたい。よって、完全なお咎めなしとはいかん。クラン、シロツメ支部は当然お取り壊し。そのかわり家を失ったお前ら全員、クロキリ本部がごっそり手厚く預かることにした」

 

 ツツミが出したお許しの条件。それは、ise会シロツメ支部の強制解散、およびクロキリ本部への解体した支部からの人員の吸い上げであった。

 

「ま、落とし所としては当然っちゃ当然。殺伐とするより合理的でええんやない? それでも寛容な方やで、ツツミはんは。自分らで出した損害分は補填して働いてもらえば許してくれるって言ってるんやから。そうそう、あんたら中々使えるって分かったから、何人かは今してるようにウチの商会でも貸し出しの扱いで働いてもらうで。な? 悪ぅ話やないやろ? 信頼にも価値はある、だからこそっ信じてくれててよかったなぁ? ウチのこと、ふふふっ」

 

 マリモ代表もまたツツミの提案に同意する。まるで裏でクロキリとサイカンの話が既にまとまっていたかのように、ツツミが口にしていないことまでを、彼女は饒舌に語り付け加えた。

 

「大体は、そういうことや。有能な部下は然るべき場所、然るべきシステムの中で使ってやらんと風通りが悪くてすぅぐ腐ってまう。それこそ損や」

 

 次の瞬間、部下から受け取った書類の束を、ツツミはその場で豪快に撒き散らした。そしてアキト、ミタライ、アトラ、コットン四人それぞれの足元の地へと、部下たちから投じられたナイフが突き刺さった。

 

「──これに血判を押せ。今回の件は、それでさっぱり済ませてやる。ハハハハ……」

 

 盛大に舞い散る荒い紙吹雪の中、支配者は低く重く笑う。

 望むのは自らの血と魔力を以て誓う従属の契約のみ、例外はない。

 多勢に無勢。包囲されたシロツメ支部の四人へと、ツツミは最後にして唯一の重い選択肢を突きつけたのだった。

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