トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第62話 援軍?

 槍の柄にくるりと巻き付く長い尻尾、せわしなく振られ揺らめく東の旗。旗にあるお日様のように大きな肉球のマークからは、ざらざらとした舌が一本お茶目に垂れている──。

 

「狩っていいのかな、アキト?」

「狩っていいんだろ、アキト!」

 

 見晴らしのいい木々の上で、耳をピクピクと動かしながら二人は声を上げる。獲物を見据え好戦的な姿勢を見せていたのは【ネコジタクラブ】の獣人兄妹、タキとナキだった。

 

「違うわよ! 今動いたらアキトが逆に困るでしょ! 私たちはここで恐い顔して睨んでるだけでいいのっ! そうすれば後は、相手が勝手にゴロンして腹を見せて終わりよ」

 

 落ち着きなく木の幹に爪を研いでいたそんな兄妹を一喝したのは、ララ・リンクス。灰耳の獣人であり、このネコジタクラブを統率するクランマスターである。

 

 ネコジタクラブは以前アキトが団員として所属していたクランだ。今は訳あってそんな元団員の彼の要請に従い、シロツメ支部の応援に駆けつけていたのだった。

 

「こないだの誰かさんみたいじゃん、それ」

「まだスネるかもしれないね、要注意それ」

 

「うっ、うるさいわねっ! っ、さぁ集中集中! 仕事なんだからこれは! 獣人は遊んでばかりだなんて言われたくないんだからっ」

 

 背後から聞こえてきたクラン仲間のハナとコアの揶揄いに一瞬取り乱すも、リンクスは両手を叩き鳴らしクランマスターらしい振る舞いで奔放な獣人たち皆の気を引き締めた。

 

 

 一方、北に掲げられた燃え盛る旗の数々。金色に刺繍されたiseの文字、風に靡くその緑の旗は、もはや見慣れたクランカラー。

 

「へへっ、こいつはすげぇな、まるで壮観じゃねぇか!」

「へへん、旗作りに徹夜した甲斐があったわね!」

 

 古参団員のハヤトとチエミたちが率いる【ise会シロツメ支部】の旗印であった。

 

 ハヤトは周囲に余すことなく堂々と掲げられた、そのバリエーション豊かな旗の数々を見て驚嘆し。チエミは愚痴をこぼしながらも自分たちが徹夜でしてきた旗作りの内職の成果を、今になって誇らしげに言い放った。

 

 見渡す限りに見えている旗のほとんどが、二人が白い切り株のミラールームに籠り、針を通し裁縫した覚えのあるクラン章を揺らめかせていた。

 

「あぁ、でもこれ一応確認するが……全部がぜんぶ仲間なんだよなチエミ?」

 

「そうでしょっ! きっと支部長やアキトの根回しが上手くいったんだわ! あれもこれも名のあるクランばかり! それが今この一つの作戦に協力してくれてるのよ!」

 

 隣のハヤトが少し不安げに問うも、チエミはミタライ支部長とアキトがやってくれたのだと、これだけの仲間を短期間に集めた二人の根回しの良さをアピールした。

 

「あぁっ、やりくり上手で伊達じゃないあの二人ならやりかねねぇな!」

 

 ハヤトも大きく頷いた。彼らが作った大量の旗は、すべてがこの電撃包囲作戦のためにあったのだと、今になって深く理解した。

 

 そんなシロツメ支部の旗が並ぶ場所から少し離れた北西のエリア。【cosmos】という名の青い旗が掲げられた辺りから、何やらざわつく女性たちの声が聞こえてきた。

 

「もしもしこちらヤマダ。ずっと旗もってんのさすがにきついんだけどー、だれか代われー」

「もしもしこちらもヤマダ。可動域狭いから無理ー」

「てかヤマダのメイク崩れるー」

「日焼け止めもしてねぇー」

「おたくのバケツハット似合ってんねー」

「さんきゅ、ヤマダだからねー」

「てかヤマダしかいねー」

「くっ、ヤマダだったか」

「神に感謝」

「てかこのギフトはファッション用ー」

「どんだけー」

 

 気の抜ける同じようなギャル口調で、おしゃべりを止めずに騒いでいる一団がいる。

 遠目に映るそれらは様々な衣装を着こなした冒険者の一団らしく見えるが、チエミとハヤトのいる距離からは、彼女らの肌の質感や帽子の影に隠れた目元が、どことなく嘘めいていて安っぽいマネキンのようにも見えた。

 

「ねぇねぇハヤトさん……何あれ……」

「山田の……群れだろ……ただの」

「なんだ、ただの山田の群れか……」

 

 一瞬あらぬ考えが二人の頭によぎったが、これも支部長とアキトの立てた作戦の一部に過ぎないと納得する。ハヤトとチエミはただ静かに頷き合い、やがて包囲網の中にいる敵と味方の動向を注視した。

 

 

 そして、南にももう一本──同じシロツメの緑の旗が煌々と光を放ち燃えていた。

 

「この感じっ……ハヤトさんにチエミさん、シロツメ支部の皆がここに!」

 

 まだ森を覆う薄く霞む霧のせいで視界は不鮮明だったものの、タイキはよく知る味方の気配を感じ取ったようだ。

 

「おい待てっ、タイキ。この包囲作戦のレシピぐらい聞かされてねぇのかよ?」

 

 ペコロは驚いた先ほどのタイキの反応に、そう即座に鋭いツッコミを入れた。

 

「合図があった時なんとなくとまでは……。でも、やることは分かってるんで大丈夫ですペコロさん!」

 

「なんだそりゃ、出たとこ勝負とは驚いたな……実質クラン内のナンバースリーにまで情報統制かよ?」

 

 タイキはやはり、旗に火を灯す合図と共に決行されたこの作戦の詳細までは知りはしなかった。だが、ペコロ目に映るその青髪の剣士の赤い眼差しは、動揺の色を宿しているようには見えなかった。

 

「敵を欺くにはまず味方からと言いますからっ。これもお二人の作戦の内なのでしょう! 便利な伝言役にも断片レベルの情報だったわけですね」

 

「誰が便利な伝言役だ。まあこうなった以上、そいつは否定しねぇが……」

 

 美楚羅の言っていることもあながち否定はできない。人面樹の森で待機していた料理人のペコロが、戦闘員のタイキらの動きをコントロールするための(てい)のいい伝言役扱いだったのは事実だ。

 

(一体どうしやがる……この数……ここで戦争でも始める気か? だとしたら少し話がちげぇぞ薄笑い)

 

 燃え盛る旗を松明代わりに暗いトンネルを抜けた先に待ち受けていた光景は、アキトから授かった伝言の内容よりも遥かに大袈裟なものであった。

 

 森を囲い埋め尽くす緑に燃える旗の数々。果たしてどれほどの獲物が、その大がかりな網にかかったのか。

 料理人ペコロ・ココットは薄霧の向こうにぼんやりと浮かび上がる、白いスーツを纏った妖しげなシルエットに、鋭く目を凝らした────。

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