トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「圧倒的じゃないか、ムゥーの軍は! はーっははは!」
ミニチュアの市街地ジオラマの中。戦車の上蓋のハッチから身を乗り出し、高笑いを響かせるノースリーブの軍服を着た男がいた。
高笑いに重なる砲撃音は鳴り止まない。まさにやりたい放題に、軍服の男はサングラス越しに見つめる、そんな己の作ったジオラマの世界を蹂躙し破壊していた。
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ビッグ・ザ・ムゥー大佐 (ise会クロキリ本部、兵器開発部:副部長)
ギフト【
空間タイプのギフト。
幻想の窓で囲った空間は彼の舞台。
戦車だって乗れちゃうし、機銃や砲だって操縦者の魔力の限り撃ち放題。
このジオラマの世界では誰も彼には逆らえない。
♢
「野郎、異世界に戦車なんて随分と風情のないもん持ち込んで来やがって。ここはお前の玩具箱かよおい?」
この大きな玩具箱の中に運悪く迷い込んでしまったのは、重厚な鎧と盾を備えた一介のナイト。彼はチープなプラスチックモデルの建物に身を潜め、当てずっぽうに遠方から撃ち放つ三台の戦車からの危険な砲撃をやり過ごしていた。
見渡す街の質感は、明らかにそれらしく塗装されただけのプラスチックの偽物。身を隠すほどのビルや住宅は存在するが、立つ人間に対しての縮尺がおかしい。まるで用意されていた玩具の戦場の中に放り込まれたようだった。
そんな時、ナイトのすぐ近くで同じく退避してきた迷彩服の女子集団が、似たようなやる気のない声を重ねて騒ぎ始めた。
「おーい前に出ろヤマダ一等兵ー」
「被害を知らせーヤマダ二等兵ー」
「こちら二等兵、私のもげた腕をさがせー。金一封を差し上げるー」
「今出たらミンチだー。私のヘッドパーツもたのむー」
「おっ、さんきゅーあったあった。ってなんだこれー『パロパロー』──ヘッドパーツが勝手にしゃべんなー」
「アレじゃんアレ、バレーボールの」
「ちがうちがう、そうじゃなーい」
「それはパンダルの宇宙用マスコットだー」
「パロパロー、通りで頭が良くなった気がしたー」
「気のせいだヤマダー、そのキュートな頭を撫でさせろー」
「それより軍曹はどこだー。あ、私だーヤマダー」
「ヤマダかーい」
「ところでその迷彩服とAK、鬼似合ってんねぇー」
「ヤマダ軍曹だからねー、全員敬礼はどうしたー関節を撃ち抜くぞー」
「「「おぉーこぇー」」」
全く戦力になるとは思えない、全員この調子である。
似たような顔をしたマネキン女が、ファッションやら途中でもげた頭や腕などの生産性のない雑談を繰り広げているだけだった。
「味方は変なのっぺらぼうの山田ばっかりだしよぉっ! ってどっから手に入れたんだよそのAKと迷彩服。しかしその様子だと相手のギフトはこっちも利用できそうだな……ナイトもついに騎士道精神を捨てなきゃいけねぇ時が来たってか? えーっと、ナイト専用の武器は、おいっ山田たち武器庫に何か取り揃えてねぇのか。確かこのシリーズ、ゲームになった外伝のグランドナイツってやつが──」
「耳元でぺちゃくちゃさわぐなー、しゃくれのナイト伍長は前に出てはたらけー」
「誰がしゃくれのだ。──あ、ほんとだ」
思わず自分の顎を確認するように撫でて、あだ名の意味を知ってしまったナイト。緊張感のない無機質な肌のヤマダたちのペースにすっかり流されていると──その直後だった。
「落ち込むなよー、豆腐でも食うかー、クッキーみたいにかてぇけど」
「ヤマダの迷彩ビキニだぞー」
『パロパロー』
「お、ちょっとこっち見──」
うるさい集団の熱源がついにキャッチされたのか。長く伸びた三台の戦車の主砲が一斉に、一軒の豆腐屋の裏に向かい射角を整えた。
「「「あ」」」
「うおお!?」
鼓膜を突き破るほどの砲撃の音が至近に鳴り響く。ナイトはなんとか間一髪、直撃コースから逃れて避難。別の建物の裏側へと鼠のように走り逃げ込んだ。
「って死んでるーーーー!? 山田ーーーー!!」
さっきまで賑やかだったヤマダ小隊は一瞬で壊滅。無惨に散ったマネキンたちの姿が、ナイトが一人物陰に隠れて覗き見たそこら中に転がっていた。
『ふぅー、高性能ヤマーダでたぁーすかったー。てへぺろっ、回収ー』
「なんかパロ頭だけ生きてるぅーーーー!?」
砲撃の爆風にやられ、ころころと転がってきた白基調で黒斑のマスコット。ナイトの足元で止まったその一つの玩具の球体は、電光表示の笑顔を点滅させながら彼へとウインクした。
「ひゅー……無事……? で良かったがどうすんだよこれ。ナイトとパロ頭の一人と一頭には、ちと荷が重いぞこのミッション」
ナイトは足元でお茶目に笑うその球体のパンダを、とりあえず拾い回収した。
『どうしようもないよー。パロパロー』
「パロパロじゃねぇよ。他のヤマダたちより高性能なら退路を探せ退路を、一旦退くぞ一旦。この接着剤の臭いのする庭が戦車オタクのひけらかすギフトの影響を受けているのなら、どっかに抜道はあるはずだ。フィールドから出れば勝ち目はあるぜ」
やはり一介のナイトと玩具のパロ頭では、ここを受け持つ強度はない。冷静に考えだしたナイトはパロ頭のヤマダへと、この迷い込んだ庭のどこかにあるであろうギフトの効力の薄い抜け道を見つけるように指示を出した。
「一旦オッケー一旦。おっ──? さっそくなんか一匹速いのが私の頭の中のレーダーにびんびんて来てんぞー。敵のバイクか? 退避か? しゃくれの?」
「ハガネのみたいに言うんじゃ……ってありゃ!?」
ぴょっこりと耳を立てたパロ。他よりも高性能の彼女が言うには、バイクのように速い機影がこの庭の中を走り出したらしい。
近くで鳴っていた爆撃音が今は遠くで鳴っている。不思議に思ったナイトが、意を決して町工場のトタン屋根の上を登り、遠くの様子を探すように見つめると、そこには──。
破砕された市街地を縦横無尽に駆けるのは、戦場に似合わぬ美しく靡く金髪、宝石のように気高く輝かしい青い双眸。見間違いはない、邪魔な兜を上げたナイトの目が大きく見開く。彼が海曜日の神技で同盟を組んでいた、あのお姫様ガーネット・フローザの姿だった。
狙い撃つ戦車の砲撃を掻い潜り疾走する鉄車の令嬢が、爆風を勇ましく切り裂いて見参したのだった。
「チクショウ、探していたお姫様が戦車三台相手に肝の据わった爆走かよ。ってこの間も見たなこの景色?」
水曜日の神技が行われた森で、ガーネットが出航した宝船を目指して数多のクランのひしめく戦場を駆けて横断したことをナイトは思い出す。
思えばその時も彼女はまだ慣れない恐れや悲哀をどこか胸の奥に抱えながらも、反面、己の中で一度固く意を決した時には大きな推進力を得たように、危険な渦中へと向かいその鉄車を走らせて突き進んでいく──そんな向こう見ずなタイプでもあった。
「よーしなら昨日のようにもう一度、腹を括って出るしかないぞナイト」
彼女が必死に戦い走る姿を見ていると、自称古参のナイトの心にも突き動かされるものがある。様子を窺っていたそこから、彼が前へと動き出す決断を固めることは容易であった。
ナイトは近くに横転していた豆腐屋の自転車を起こす。そして前カゴに騎士の盾を置き、ジオラマの市街地を猛スピードで自転車を漕ぎ走り出した。
「おーいこっちだ、そこのクソダサノースリーブの戦車オタク! この誉れある騎士様の盾を未だにまったく抜けねぇってことは、この俺、古参ナイトの方がテメェのママが投げ売り価格で買ってくれたワゴンセールの戦車部隊よりずっと強いってことだなァ? ほら見ろこの俺様の盾は砲弾の雨のなか傷ひとつ付いてねぇぞぉー!」
市街地を抜けた小高い丘の頂上付近で自転車を止めたナイトが饒舌に叫び語るのは、敵の司令官が乗り込む一等大きな戦車への挑発の言葉。
「なんだアイツどこから出てきた新型かッ! ええいっ、ちょこまかと的が小さくて当たらないッ! チィっ……。──ア、なんだと!? なにが古参ナイトだ、このなろう野郎! そんなちんけな豆腐屋の自転車に乗って現れる誉れ高いナイトがいてたまるか! ……いいだろう腐った豆腐の如き軟派なナイトがッ、私の愛機【メル・ザ・メル】の魔導カノン砲で今すぐそんな時代遅れの鉄板ごと破壊し尽くしてくれるわ!」
林の中へと走り紛れた素速い謎の鉄車を見失ったムゥー大佐は、遠くの丘から好き勝手にでたらめを叫んでいたナイトの挑発を買い、そう言った。
キャタピラの駆動音が走る地を均していく。やがて目標に対しての直進をやめた機体から、折りたたんでいた大佐ご自慢のカノン砲が、その長い砲身を斜め上に突き上げるように伸ばした。
そしてメル・ザ・メルの砲口から火を吹き、よく狙い澄ました魔弾が、緑の丘に構え立つ場違いで時代遅れな一人の騎士を目指して今発射された。
「よーく狙って来い……ってやっぱ無理ぃーー!」
盾を構えていたナイトは命が惜しくなったのか、空を削るように近づく砲弾の音に情けなく慌てふためき、やがて着弾した爆風に背を押され丘を無様に転げ落ちていく。
「ははは、口ほどにもない雑兵め!」
やはり騎士ごっこの小心者の男如きが、大佐の乗りこなす魔導戦車に敵うはずがない。ナイトの掲げるトタン屋根のように薄い騎士道精神など、この傑作機メル・ザ・メルの前では虚しくも紙屑のように蹂躙されるのが必然の運命であった。
しかしナイトの行ったその挑発行為は、驕るその戦車マニアのプライドを刺激し満たし心酔させ、三台の戦車の隊列を乱すには十分であった。
ムゥー大佐の乗る派手な金色の戦車が突出し離れた今が好機。敵が隙を見せたその時を見計らい、林の中からガーネットはその姿を威勢よく現した。
疾走する小さな鉄車は、二台の銀色の戦車から遅れて放たれた砲弾の雨を置き去りにするスピードでくぐりぬけていく。
そして向けてくる煙をあげる戦車の長鼻を左右に翻弄し──
「そこっ!」
【03】という数字のデカールが貼られた銀色の戦車の横腹へと撃ち込んだ柘榴色の弾丸。そのたった一粒の煌めきの種が、途中──まるで散弾銃のように花開き分かれた。そして赤い足のような巨大な形を成し、奇怪にも銀色の装甲の側面へと強烈な横蹴りを叩き込んだ。
直撃をもらった戦車【03】がまるで指で弾き出されたおはじきのように、プラスチックの平地を空回りするキャタピラで白く削りとり、遠くへ大きくスピンしていく。
「分かったわ……やっぱりこのギフトを的に命中させるほどに、導線がなくても視える魔力の繋がりは強くなる……。この威力ならっ……こっちよ! 私のことを捕まえてみなさい!」
「調子に乗るなよッ、すばしっこいだけの祭りの金魚が! 捕まえて穴だらけにしてくれるっ!」
戦車【02】の放った機銃の乱射を華麗に車椅子をターンさせ躱す。戦車の硬い装甲への攻略の糸口を見つけたガーネットはもう一度態勢を立て直し、挫けずに再度のアタックを試みていく。
横滑りに激しくスピンしていた銀色の戦車が、野球場の近くの電信柱に衝突し、今ようやく止まった。
「被弾ッ、なんだ今のは!? まさか蹴られたぁ!? 一体どこにそんな質量の兵装が……」
「やられたッ、あの車椅子女なんなんだ一体! タンク相手に仕掛けて来るなんて敵ながらアッパ……どうかしてるぞ! ──ん?」
「なんだこのラッパ音……?」
戦車03の被弾状況を確認する三人の兵士たち。すると、どこか懐かしいシンプルなラッパ音が近くで鳴っていることに彼らは気づいた。
情けなく敗走したふりをしていたナイトが、なんと再びあの豆腐屋の自転車に乗って現れていた。そして吹き飛ばされて止まっていた戦車03にこっそりと近づいたナイトは、既に車体へと向かい小型の何かを仕掛け撒いていた。
「おいしいおいしい豆腐じゃないよ、食らえ俺の【騎士道精神】! ──へへっ。今仕掛けたそいつは時限式の爆弾だぜぇ、騎士様からのギフトとお情けだ、外すならお早めにぃー!」
片手にバット、前カゴに謎の球。そんな自転車に跨ったナイトは口から間抜けなラッパ音を吹かし、挑発するように乗組員の彼らにお知らせをする。
「ってきたねぇ!? 何が騎士道精神だ! おい、変な魔力が車体の側面と裏に幾つか張り付いている、間違いない……。大佐の大事な戦車をここで失うわけにはいかねぇ、よし解除しに行くぞ」
戦車のレーダー役の魔力を分担し扱っていた兵士の一人が、たしかに何かが車体の外側に吸着し仕掛けられていることを確認する。そして迷いなく、仕掛けられた吸着爆弾の解除に向かう指示を皆に出した。
「おい待てっ、正気かよ爆弾だぞ? 爆発するんだぞ? 普通に解除じゃなくて退避じゃ……」
「馬鹿野郎、ここまで俺たちの代わりに頑張ってくれた愛機を早々に見捨てる主人公がいるか!」
「いいから工具を持てって、にわかさん」
「おっ、おう……? 主人公?」
どうやら玄人の二人とにわかの男の間には、機体に取り付けられた爆弾に対する意識と熱意に違いがあるようだ。すぐさま上部のハッチを開き、プラスチックモデルの制作工具を手にした彼らは戦車の外へと繰り出していく。
そして急ぎ仕掛けられた爆弾の解除に、真剣な眼差しをして向かった三人の男たちだったが──。
「なんだこれ、ただの金平糖じゃねぇか! 畜生よくも騙してくれたな」
兵士の一人が恐る恐るゴム手袋で手に取った小さな爆弾は、ただの溶けてひっついていた金平糖の粒であった。
「よし、あの騎士の風上にも置けない薄汚い愉快犯を追いかけて、ケツに砲弾を喰らわせてやれ!」
嘲笑うように手を振りまた自転車を漕ぎながら、野球場のグラウンドの方へと逃げていく珍妙な騎士の姿が、欺かれた三人の目に映る。
「おうっ、──痛てっ?」
爆弾のギフトなど大嘘、そんな物はありはしない。
急ぎ戦車の中へと戻り、最後にハッチを閉めた兵の頭を何かが打った。戦車の内部へと白黒の謎の球体が転がっていく。
『おいこらー、高性能ヤマーダになにするー。そこの新入りの二等兵も肩をぶつけたのなら、まずはあやまれー、パロパロー』
謎の球体は格納していた小さな耳をぱたぱたと動かし、床の上を蠢いて何か不遜な物言いの機械音声を発している。
「なんだこのポンコツ! 喋ったぞ!? しかも肩なんてねぇだろうがよ、黙れ生首!」
『痛いイタイっ、こらっ女子をぞんざいに叩きつけるなー、一生モテなくなる呪いをかけてやるーパロパロー』
「あぁ!? んだとッこいつ調子にッ」
マイペースに口答えしては、怒った兵士に床に投げ叩きつけられて、戦車内を跳ね回る球体。
「何ってそれはただの玩具のパロじゃねぇか。迷い込んできたのか? おい、かわいそうだろそれ以上叩きつけてやるな」
『おぉー、女心を分かるやつもいたもんだー、よぉおとこまえ歯は磨いたかー、パロッ』
「ははは、なんだこいつよく喋るな。かわい、ん? なんかこのパロ……妙に光って……」
投げて虐めていたにわかの兵士には、その白黒のマスコットが一体なんだか分からなかったようだ。見かねた別の兵士が、跳ね回っていた可哀想な球体玩具のパロを胸の中に捕まえて受け止めた。
随分と馴れ馴れしくもよく喋るパロだったが、その様子がなんだかおかしいことに玄人の兵士たちは気づいた。
『これからお前ら全員、PON!菓子だぜぇー?』
電光表示の愛らしいパロの表情が、突如、悪魔のような笑みに変わり不穏に明滅を繰り返す。真っ直ぐに立てた小さな機械の耳の裏側からこぼれてきたのは耳くそではない。色鮮やかに発光する金平糖がじゃらじゃらと、パロの腹の隙間から音を立てて流れ落ちていく。
ただの金平糖ではない。魔力を含んだ金平糖がじわりじわりと、その独特な角の形状を溶かし光量を熱く増していく。
「た、退避ぃわーっ!? ────」
内部から幾多の衝撃が弾けた。上蓋は天へと吹き飛び、銀色の塗装を塗りつぶす勢いでカラフルな魔光が戦車を呑み込み包んでいく。パロと共に送られた甘い悪戯の爆弾が、戦車03の内部で容赦なく起爆した。
「戦車の一台や二台、コインを弾くより簡単だぜ? ひゅー!」
手元に不思議と現れた銀色のコインを指で弾き、急停止させた自転車のカゴへと放り込む。
グラウンドに吹き抜ける心地よい風を浴びながら、沈黙の煙を上げる鉄の棺桶を眺める。蒸し暑い鉄兜のバイザーを上げたナイトが、不敵に歯を見せて笑った。
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ナイト(34)
ギフト【
守るべき対象が近くにいる時に発動する報酬タイプのギフト?
誰かを守る行動を取る度に、〝
そして身の回りのあらゆる小物が、魔力と手に入れた〝忠誠メダル〟を消費することで、身を守るための不思議なお役立ちアイテムと化す。
彼が信頼を置く「金平糖手榴弾(忠誠メダル5枚分)」もその一つだ。そのお手軽な甘い爆弾はナイトの振るう剣よりも威力は数段高いらしい、ひゅー!
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