トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第67話 炸裂モルチーズ砲

 さっきとは対峙した雰囲気が明らかに違う。遠くからでも彼女たち三姉妹の肌をひりつかせる、そんな危険な魔力を漂わせる紅蓮の刃。そしてゆらゆらと前に歩き進み始めた飴色髪のコック、彼の見据えるクリーム色の瞳はもうそこに生ぬるい優しい色を宿してはいなかった。

 

 異様──それでも果敢に敵へと肉薄した長女セイラは、エプロンの内から手にした二つに分けた小さなマカロンをギフトで【膨張】させる。そして勢いをつけ、手持つ上蓋と下蓋を左右からシンバルのように合わせ、接近した敵へと強く打ちつけた。

 

「【膨張(フクラム)白身拳(ハクシュ)】っ!!」

 

 だが敵をクリームに見立て挟み込んだマカロンは、ペコロの包丁さばきに瞬く間に切り刻まれた。焦げた焼き菓子の残骸がぼろぼろとセイラの両手から、呆気なくこぼれ落ちていく。

 

「何歳だ?」

 

「ナッ!? にじゅう……」

 

 串を左の片手に爪を生やしたように握り、目の前に平然と立つコック男。真正面に睨みながら謎の問いかけをする彼に、竦むセイラが受けて答えようとしたその時──彼女は熱く高まるただならぬ殺気を察知した。

 

「【穿つ祝祭の贈火(キャンドルブロウキック)】!」

 

 突如腹を目掛け放たれたペコロの足技が旋風を巻き起こす。

 

「シっ……きゃーっ!!」

 

 咄嗟に【膨張】させ敵の攻撃をガードする為に展開した三層の厚いビスケットの壁。その壁に向けて炸裂した目にも止まらぬ速さの四回の蹴り、そして最後にダメ押しで穿った一蹴り。

 セイラを守っていた急造のビスケットの壁は、蝋燭代わりに刺され添えられた合計五本の火を灯す鉄串と、野蛮なコックがお構いなしに放つ蹴りの威力に耐えきれず──粉々に砕けた。

 

「ぶち壊して祝ってやるよ。もう迎えらんねぇんだからな!」

 

 破壊されると同時に、セイラの身が壁を蹴破られた衝撃で後ろへと吹き飛ばされていく。

 ハッピーバースデーは言わない。ペコロは怒りや鬱憤を外へと発散するようにそう叫んだ。

 

 長女が黒いコック服の男へと立ち向かっていた間に、三女も何もしないでいたわけではなかった。

 プレッツェルの梯子をよじ登った先、巨大パフェに飾られた特大の苺を、持ち前のギフトで【成形】し直したチーズアイスの大砲から撃つための準備を急ピッチで進めるユキエ。

 

「【成形(スクラム):モルチーズ砲】──射角よし、温度よし、甘さよし! 魔力……添加ッ……発射!」

 

 魔力を充填したホイップクリームが冷えた砲口から飛び散り、真っ赤なイチゴの砲弾が今勢いよく発射された。

 

「……! 子供のっ、遊びじゃっ、ねぇんだぞッ!」

 

 避ける、切る、皮を剥く。真っ赤な果汁が辺りに飛び跳ねた。

 苺や多種多様なフルーツの砲弾が、パフェの塔の上から平地にいるペコロを襲い次々と降り注いでいく。

 

 そんなオーダーはしていない。だが、三女ユキエから絶え間なく送られてきた天からの大きな果物(ギフト)。それを一種の挑戦状と受け取ったペコロは、構えた燃えたぎる包丁一本でこの冷め切った爆撃を真っ向から迎え撃った。

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