トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第69話 青きヒーロー、異形のヒーロー

 激しい雷鳴がミラールーム内の研究施設全体を震わせる。

 真っ白な四角い戦闘部屋の中で、タイキが繰り出した雷剣の魔力が景色を青白く染め上げていく。

 

 その雷を浴びたのは、顔に子供が落書きしたような大きなシールを貼り付けた謎の化物【エモート】。暴れた末に倒れた化物は今は満足そうな表情に変わり、すやすやと部屋の中央に尻尾を丸めて眠っている。

 

 ハイスコア更新の機械音声のアナウンスと電光掲示の表示が明滅するのと同時に、化物を無力化し倒したタイキは戦闘部屋の床を蹴った。そして高い位置にあった強化ガラスの監視窓をすり抜けて、雷光のステップと共に室内の研究エリアへと飛び込んだ。

 

「ツツミって人は!」

 

「そっ、その扉を左に進むといい……!」

 

 奇妙にもガラス片は一切飛び散っていない、彼の穿いたスーパースニーカーの焦げた足跡が床に残っている。タイキは今驚きのあまり腰を抜かして倒れた女研究者に尋ねた。すると女研究者は、あっさりとそう言い漏らし左の鉄ドアを指で示した。

 

 ここで飼っている魔物のことや、最後に戦ったあの丸顔のシールの化物のこと、色々問い詰めたいことがあるもののそのタイミングは今じゃない。女研究者の震える指がさす方向に、タイキは即座に身を翻した。

 

「あはっ……あはっ、ははは、これはすごい魔力スコアと今までにない感情スコアだ! あぁ……研究だ! 今すぐに研究だ! さぁ、本当の姿を見せて頂戴ッッ、エモートおおおお」

 

 濡れた床から立ち上がり、研究者は今取れたばかりのデータを使い、危うく放電する機器を操作しいじり始めた。狂喜乱舞する汚れた白衣姿の彼女の背からは、不思議と敵意は感じない。逃げることよりも大事な使命が果たしてそこにあるのか、タイキはそれ以上は振り返らずに研究所内の細い通路を駆け抜けた。

 

 そして突き当たりを左に進んだ先にあった扉を迷いなく押し開ける。テレビのチャンネルが切り替わったように、一瞬光が視界を埋め尽くすと、そこには研究所とは全く様相の異なる別のミラールームの景色が広がっていた。

 

「いたぞっ、リストにあった敵の青髪だーーっ!」

「蜂の巣にして出迎えてやるわ!」

「斉射!」

 

 クロキリ本部所属の第一弓部隊【ホーネッツ】は、一斉に弓を引く。上空に設置された蜂の巣を模したブロック構造の城から、矢狭間に突き出した矢を放った。

 

 ターゲットは一人。隔離された小さな緑のブロックの地の上に、縄張りの戸を開けまんまと現れた青髪。上空から厚く斉射された無数の魔法矢が、タイキのことを歓迎した。

 

「【ELF(エルフ)】……発動っ」

 

 凝らした赤い瞳に映るのは、虫の羽音を立てながら殺到する必死の蜂矢。海丁レモラ戦でも見せた新技能【ELF】を発動したタイキは、補助し研ぎ澄ませた感覚のままに流水の如く剣を振り抜いた。

 タイキの身から外へと継続的に放たれた微弱な雷の魔力の波動が、宙に浮かんだ無数の矢の軌道をレーダーのように捉え、マントを踊らせ乱舞する剣が次々と迫る矢を叩き折った。

 

 巣から顔を出し眼下を覗いたホーネッツ部隊は、地上を覆った激しい火花とフラッシュが明けたと同時に、有り得ない光景を目の当たりにすることになる。

 なんと青い髪を靡かせた剣士は、その緑のマントに穴ひとつも空けずに完全な状態のまま、天に聳える巣を赤い双眸で睨んでいた。

 

「っぁ……!?」

「なんで当たって……!?」

「ばっ、ばけもの……」

 

 弓師の彼らが思い描いていた蜂の巣の出来には程遠い。折れて消し炭になった蜂の魔法矢の残骸だけが、青髪の敵の足元に一矢も残さず平らげられて無惨に落ちていた。

 

 

 

 

 

「【投雷(とらい)】──!」

 

 ホーネッツのリーダー格の男の頬を掠めて隣の巣の壁に、下方の地から投げられた剣が突き刺さった。どうやら敵はろくな反撃の手段を持ち合わせていない。恐るるに足らないと踏んだ弓部隊の彼らが、驚愕し固まっていた表情を解き、また攻勢へと息を吹き返しかけたその時だった。

 

 【瞬雷(しゅんらい)】──壁に刺さっていた剣がバチバチと青く帯電する。剣を引き抜きそこに現れたのは青いシルエット、そして、もぬけの地上へと向かい矢を番えていた彼らが振り返る間もなく、とてつもない雷光が彼らの巣を支配した。

 

 投げた剣を起点に敵の巣へと瞬間移動した人間離れのマジックと猛る雷に、天にぶら下がっていたブロック構造の蜂の巣が、地へと真っ逆様に焼け堕ちていく。

 

「敵も相当本気だ、油断したらやられる……! それにミタライさん……アキトさんなら、きっとまた一人でもツツミって人を討ちに行ってるはずだ!」

 

 危うい剣山のステージへと半壊した蜂の巣が沈んでいく。攻撃と同時に巣を脱出したタイキは、眼下に見えていた赤いブロックを連ねた足場へと降下していく。

 

 だが、タイキの両足が赤いブロックの地に着地を決めようとした寸前、突如彼の前に現れた新手の敵がそれを邪魔せんと阻んだ。

 

「分かっていたさ、貴様がこそこそと邪魔をしに来ることくらいはなっ! 青いのっ!」

 

 現れたカレン・アズマ。赤黒が混沌とまじる髪色をした戦士。奇襲するように上から勢いをつけた強烈な蹴りのご挨拶を、青髪の剣士へとお見舞いした。

 

 タイキは咄嗟に蹴りを腕でガードするが、受けた衝撃までは殺せない。赤いブロックの着地寸前を狩られてしまい、このままでは弾かれて後ろの鋭い剣山へと落下のコースは免れない。

 姿勢を崩されながらもタイキは握っていた剣を下に向けた。今下へと突き刺すように向けた握る剣と、無数の剣山のうちの一つが先端と先端を合わせた。そして雷の魔力の弾ける音と共に、一本の剣で一ミリ未満の足場に逆立ちを決めたタイキの身が反発する力を得て再浮上する。

 結果、後ろにあった青いブロックの足場へと上手く逃れて着地した。

 

「さっきの森の……!」

 

「そうだ地獄に落ちるには早いぞ、これからたっぷり味わうことになるんだからな。そして貴様の進撃はここまでだ! このカレンダーマンがいる限りっ!」

 

 発する強烈な魔力の波動と共に、赤と黒ツートンカラーのヒーロースーツを身に纏い、勇ましい白いマントが翻る。そして過去と未来を見通す四つの神眼が、ぎろりと鋭く開かれた。

 怒りを噴火させるように爆発的に高めた魔力でカレン・アズマは変身する、異形のヒーロー【カレンダーマン】へと。

 

 再び相まみえる両者。タイキの前に立ちはだかったのは、カレン・アズマが変身した真のヒーローの姿。

 今、逃げることの許されない二人のヒーローの戦いが、魔力を走らせた剣を向け合い始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 剣を向け合い睨み合う二人の勝負は意外にも、深い静寂の呼吸から始まった。互いが静かに構え、高め合った魔力を一撃に込め合う。これからぶつけ合うであろう最初の一撃の予感に、すべてが集約された。

 

 やがて、赤と青のブロックの地から同時に飛び立った二人。魔力を存分に高めた必殺の剣と剣が、宙で剣音激しく合わさった時。

 

 ブロックの地の下の危うい剣山の上空。轟き響いたタイキのぶつけた雷剣の威力が、カレンより勝ったように見えた。亀裂が走りひびわれていくカレンの剣の刃。だが、タイキがそのまま勢いに任せ、刃を前に押し切ろうとしたその瞬間だった。

 

 刃と刃が衝突した接点から生じた複雑な魔力が、異様なスピードで膨れ上がっていく。そして冷たい魔力の波動が、二人を中心にミラールームの全域にぶわりと広がっていった。

 

「なんだ……!」

 

 今、全身に吹いた凍てつく魔力そしてなおも膨らみ続けるこの謎の予感が、タイキは何だか分からずにいた。

 

「ふはははは、見せてもらうぞ! 貴様の化けの皮の内にある、その悪しき混沌をなっ!」

 

 ニヤリと嗤う異形のヒーローは二つの眼を閉じた、そして残ったもう二つの眼が妖しい青の魔力に色濃く染まりゆく。さらにカレンの纏うマントから、カレンダーの紙のような白い紙片が次々とめくれ上がり、吹雪のように飛び散っていく。

 多大な魔力を込めてぶつけ合った剣と剣の間に生じた凍てつく魔力の渦と、やがてそこから爆ぜるように広がった一瞬の眩き閃光ともに、刃を交えたままでいた二人の姿がどこかへと消え去っていった。

 

 一面、剣山、天までも、白く凍ったもぬけのミラールームだけを残して────。

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